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9 イルマの弟子
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アシュレイは無事に崖から降りると、最初の目的である薬草を探しに、イルマが教えてくれた山へ向かった。
「前より、目がよく見えるみたいだ。薬草がある場所がわかるよ」
冬なので、薬草は枯れてしまっていたが、アシュレイが地面に手を置いて、生えろ! と念じると、雪の間から薬草は緑の星形の葉っぱを茂らせる。
「これだけあったら、お祖母ちゃんもなおるよね」
竜の卵の上にどっさりと薬草を摘んで載せると、アシュレイは急いで山を降りる。
途中で振り返ると、リュリューがいた崖のある切り立った山を見つめる。
祖母が編んでくれた毛糸の帽子を脱ぐと、自分に卵を託し、膨大な魔力を与えてくれた竜に、ぺこり頭を下げた。
『リュリュー! 卵をどうにかして、孵すからね!』
と叫んだものの、アシュレイはどうやって孵したら良いのかさっぱりわからなかった。
家に帰ると、急いでイルマに薬草を渡す。
「ああ、これだよ! 冬なのに、よくこれだけあったねぇ」
寒い中、山に薬草を探しに行ったアシュレイは、鼻も手も寒さで真っ赤だった。
薬草の代わりに、温かいショウガ湯を祖母に飲ませていたイルマは、アシュレイに身体が暖まるよとカップに入れて与える。
アシュレイはイルマが薬草を煎じるのを眺めながら、冷え切った手で温かいカップを持って、ハチミツ入りのショウガ湯をすすると、お腹の中からぽかぽかしてきた。
「こんなに、生えていたのかい?」
イルマは薬草を煎じながら、アシュレイに質問する。
「ちょこっと魔力を使ったんだ」
アシュレイが疲れて見えるのは、寒い山に薬草を採りに行っただけじゃなさそうだとイルマは心配になった。
「アシュレイは、魔法使いの修行をきちんとした方が良いね。魔力を使い過ぎたら、身体に負担がかかるんだよ」
年寄りのもぐりの治療師だが、イルマは心が優しかった。
アシュレイはリュリューとの約束を果たす為には、誰か魔法使いについて修行しなくてはいけないと考えたが、年老いた祖父母を置いては行けないと首を横に振る。
「イルマの弟子にしてよ。この村にも、隣村にも、治療師は必要だもの」
イルマは煎じ薬を冷ましながら、アシュレイを見つめなおした。
『この子は、きっと偉大な魔法使いになる。私みたいな田舎の治療師の弟子には、もったいないよ』
魔力で育てられた薬草は香りも高く、効能も高かった。
イルマは薬草を一さじ飲むごとに、祖母の頬に赤みがさしていくのを見て安堵の溜め息をついた。
「これを、1日に三度飲めばなおるよ」
すっかり元気になった祖母を、ベッドで寝ているように説得するのはイルマにも無理だった。
祖母がいれた温かいお茶を飲みながら、祖父もアシュレイを弟子にして下さいとイルマに頼む。
「アシュレイは私の弟子になるより、首都サリヴァンで王様に仕えている魔法使いの弟子になるべきだよ」
祖父もそうかもしれないと感じていたが、アシュレイは拒否する。
「俺はサリヴァンなんかに行きたくないよ! イルマの弟子にして下さい」
イルマも自分が死んだ後は、治療師がいなくなるのを心配していたので、いずれはアシュレイの魔力の強さは首都にも広まるだろうとは思ったが、弟子にしてみようとうなずいた。
それからはアシュレイは畑仕事や学校の合間にイルマの家で、治療や薬草のことを学んだ。
「お前さんがいてくれて、助かるよ」
年をとったイルマは薬草集めがしんどくなっていたので、楽になったのはありがたいとは思ったが、問題はアシュレイの魔力の強さだ。
「ううん、この病人はアシュレイに任せようかね。やってごらん」
治療に出向いた先で、若い頃なら簡単に治せた病人だけど年をとってしんどくなっていたのだ。
「えっ、こんな小さな子に治療なんかさせるのか?」
治療を頼んだ人にはアシュレイはあまりに小さく見えた。
「私の弟子だけど、ちゃんと治療はできるよ。それに私が見ているからね。実践させなきゃ、治療師になれないんだよ。私も年だし、若い治療師を育てなきゃね」
「そりゃまぁそうだけど……家じゃなく、他でやって欲しいよ」
病が重そうな病人なんだからと、依頼人は渋ったが、そんな治療をするには魔力がたくさんいる。だからこそアシュレイに治療を任せてたいのだ。
「ほら、アシュレイやってごらん。できなかったら、私が治療するからね」
アシュレイは病人を覆う黒い影に魔力を送る。
「師匠、これで良いの?」
イルマはアシュレイの魔力の凄さに舌を巻く。
「ああ、良いよ。後は、この薬草を毎日飲めば良くなるさ」
病人が出たと呼ばれたら基本はイルマが治療するのだが、病が重い場合はアシュレイの方が上手くできるので任せてしまう。その方が簡単だし、イルマにとって楽だからだ。
アシュレイが優れた治療師だという噂が近隣の村に広がる頃には、はじめからイルマではなく弟子の往診を頼むことが多くなった。
「アシュレイ、これじゃあ商売はあがったりだね。悪いけど、あんたを弟子にしておけない」
気のよいイルマだが、年老いて畑仕事もできないので、治療師としての収入がないと困るのだ。
アシュレイも、冬の間ずっと竜の卵を温めてみたが、孵るようすもないので悩んでいた。
「首都サリヴァンまで行かなくても、近くに魔法使いはいないのかな?」
イルマは自分の失敗でこりごりしていた。
「近くにも魔法使いはいるけど、同じことの繰り返しになるよ。お前さんの師匠に相応しい魔法使いは、サリヴァンにしかいないよ」
イルマの言葉はもっともなのだが、アシュレイはどうしても家を離れる決心がつかなかった。
イルマは祖父母のことを思いやるアシュレイの優しさには惚れ惚れしたが、治療師の弟子はキッパリとクビにした。
「お世話になりました」
アシュレイの治療師の修行は中止になった。
「前より、目がよく見えるみたいだ。薬草がある場所がわかるよ」
冬なので、薬草は枯れてしまっていたが、アシュレイが地面に手を置いて、生えろ! と念じると、雪の間から薬草は緑の星形の葉っぱを茂らせる。
「これだけあったら、お祖母ちゃんもなおるよね」
竜の卵の上にどっさりと薬草を摘んで載せると、アシュレイは急いで山を降りる。
途中で振り返ると、リュリューがいた崖のある切り立った山を見つめる。
祖母が編んでくれた毛糸の帽子を脱ぐと、自分に卵を託し、膨大な魔力を与えてくれた竜に、ぺこり頭を下げた。
『リュリュー! 卵をどうにかして、孵すからね!』
と叫んだものの、アシュレイはどうやって孵したら良いのかさっぱりわからなかった。
家に帰ると、急いでイルマに薬草を渡す。
「ああ、これだよ! 冬なのに、よくこれだけあったねぇ」
寒い中、山に薬草を探しに行ったアシュレイは、鼻も手も寒さで真っ赤だった。
薬草の代わりに、温かいショウガ湯を祖母に飲ませていたイルマは、アシュレイに身体が暖まるよとカップに入れて与える。
アシュレイはイルマが薬草を煎じるのを眺めながら、冷え切った手で温かいカップを持って、ハチミツ入りのショウガ湯をすすると、お腹の中からぽかぽかしてきた。
「こんなに、生えていたのかい?」
イルマは薬草を煎じながら、アシュレイに質問する。
「ちょこっと魔力を使ったんだ」
アシュレイが疲れて見えるのは、寒い山に薬草を採りに行っただけじゃなさそうだとイルマは心配になった。
「アシュレイは、魔法使いの修行をきちんとした方が良いね。魔力を使い過ぎたら、身体に負担がかかるんだよ」
年寄りのもぐりの治療師だが、イルマは心が優しかった。
アシュレイはリュリューとの約束を果たす為には、誰か魔法使いについて修行しなくてはいけないと考えたが、年老いた祖父母を置いては行けないと首を横に振る。
「イルマの弟子にしてよ。この村にも、隣村にも、治療師は必要だもの」
イルマは煎じ薬を冷ましながら、アシュレイを見つめなおした。
『この子は、きっと偉大な魔法使いになる。私みたいな田舎の治療師の弟子には、もったいないよ』
魔力で育てられた薬草は香りも高く、効能も高かった。
イルマは薬草を一さじ飲むごとに、祖母の頬に赤みがさしていくのを見て安堵の溜め息をついた。
「これを、1日に三度飲めばなおるよ」
すっかり元気になった祖母を、ベッドで寝ているように説得するのはイルマにも無理だった。
祖母がいれた温かいお茶を飲みながら、祖父もアシュレイを弟子にして下さいとイルマに頼む。
「アシュレイは私の弟子になるより、首都サリヴァンで王様に仕えている魔法使いの弟子になるべきだよ」
祖父もそうかもしれないと感じていたが、アシュレイは拒否する。
「俺はサリヴァンなんかに行きたくないよ! イルマの弟子にして下さい」
イルマも自分が死んだ後は、治療師がいなくなるのを心配していたので、いずれはアシュレイの魔力の強さは首都にも広まるだろうとは思ったが、弟子にしてみようとうなずいた。
それからはアシュレイは畑仕事や学校の合間にイルマの家で、治療や薬草のことを学んだ。
「お前さんがいてくれて、助かるよ」
年をとったイルマは薬草集めがしんどくなっていたので、楽になったのはありがたいとは思ったが、問題はアシュレイの魔力の強さだ。
「ううん、この病人はアシュレイに任せようかね。やってごらん」
治療に出向いた先で、若い頃なら簡単に治せた病人だけど年をとってしんどくなっていたのだ。
「えっ、こんな小さな子に治療なんかさせるのか?」
治療を頼んだ人にはアシュレイはあまりに小さく見えた。
「私の弟子だけど、ちゃんと治療はできるよ。それに私が見ているからね。実践させなきゃ、治療師になれないんだよ。私も年だし、若い治療師を育てなきゃね」
「そりゃまぁそうだけど……家じゃなく、他でやって欲しいよ」
病が重そうな病人なんだからと、依頼人は渋ったが、そんな治療をするには魔力がたくさんいる。だからこそアシュレイに治療を任せてたいのだ。
「ほら、アシュレイやってごらん。できなかったら、私が治療するからね」
アシュレイは病人を覆う黒い影に魔力を送る。
「師匠、これで良いの?」
イルマはアシュレイの魔力の凄さに舌を巻く。
「ああ、良いよ。後は、この薬草を毎日飲めば良くなるさ」
病人が出たと呼ばれたら基本はイルマが治療するのだが、病が重い場合はアシュレイの方が上手くできるので任せてしまう。その方が簡単だし、イルマにとって楽だからだ。
アシュレイが優れた治療師だという噂が近隣の村に広がる頃には、はじめからイルマではなく弟子の往診を頼むことが多くなった。
「アシュレイ、これじゃあ商売はあがったりだね。悪いけど、あんたを弟子にしておけない」
気のよいイルマだが、年老いて畑仕事もできないので、治療師としての収入がないと困るのだ。
アシュレイも、冬の間ずっと竜の卵を温めてみたが、孵るようすもないので悩んでいた。
「首都サリヴァンまで行かなくても、近くに魔法使いはいないのかな?」
イルマは自分の失敗でこりごりしていた。
「近くにも魔法使いはいるけど、同じことの繰り返しになるよ。お前さんの師匠に相応しい魔法使いは、サリヴァンにしかいないよ」
イルマの言葉はもっともなのだが、アシュレイはどうしても家を離れる決心がつかなかった。
イルマは祖父母のことを思いやるアシュレイの優しさには惚れ惚れしたが、治療師の弟子はキッパリとクビにした。
「お世話になりました」
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