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22 マクドガル館へ
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ベケットが渡した星の形の薬草でサリンジャー伯爵の容態も改善した。
それにヨーク伯爵の寄子の集会も終わりになる。
シラス王国に忍び寄る脅威は未だ知らされていない。
「これから春になるから、農作業に忙しいだろうが、住民達の兵役訓練も疎かにしないように!」とだけ伝えてられた。
王都サリヴァンからの指示に従いたいとヨーク伯爵は考えたのだ。寄子の子爵や男爵達は、何かを感じとっている者もいた。
その中でもマクドガル卿は難しい顔をしている。
ヨーク伯爵からアシュレイを譲る事ができるかベケットに聞くように頼まれたからだ。
本来は騎士爵に過ぎない自分には、ベケットは釣り合わない程の立派な魔法使いなのだ。
前に仕えていた伯爵が亡くなり、老いを感じたベケットと騎士爵になったタイミングが合って仕えてくれているののだ。
そのベケットに、弟子を譲れなんて言えないとマクドガル卿は困惑する。
領地に帰る貴族達がごった返しているヨークドシャー城で、ベケットは浮かない顔をしているマクドガル卿が何を悩んでいるのか気づいた。
アシュレイの件だ。もっと注意深く魔法を使うように指導していなかったのは自分の失策だ。
「マクドガル卿、ヨーク伯爵に無理を言われましたか?」
何と切り出そうかと悩んでいたマクドガル卿は、相手から話しかけてくれてホッとする。
「ベケット、お前はアシュレイをどう見ているのだ?」
ヨーク伯爵に譲れとは言えず、遠いところから話を始める。
「アシュレイはいずれは上級魔法使いとなり、シラス王国を守護していくでしょう。もう少し礼儀作法や常識を教えたら、サリヴァンの私の師匠マリオン様に修行を付けて貰うつもりでした。それがカスパル様になろうと、ヒューゴ様になろうと私は良いと思っています」
ベケットがアシュレイを手放しても良いと言ったので、マクドガル卿はホッとする。
「ですがアシュレイは頑固です。マディソン村の祖父母と離れて他所に行く気はありません。それで私も困っているのです。あれほどの魔力をこのままにはしてはいけないのは確かなのですが……」
マクドガル卿は子供なんて強く言えば良いのだと簡単に考えた。
「よし、私からアシュレイに話してやろう!」
ベケットは嫌な予感しかしなかった。
自信満々でアシュレイに「ヨーク伯爵の所へ行け!」と命じたマクドガル卿は「嫌です!」とキッパリと断られてしまう。
「俺がいないとお祖母ちゃんとお祖父ちゃんが病気になって死んじゃうかもしれない!」
そう叫んで走り去ってしまった。やはりな、とベケットは思ったが、そうも言っておれない。
「申し訳ありません。未だ子供ですから……」と言い訳をして、走り去ったアシュレイの後を追う。
アシュレイは城の庭の片隅に座り込んでいた。
ベケットはアシュレイのいる場所が何とはなく分かるから探し出せたが、他の者では見つけられなかっただろう。
「師匠、俺は……竜の卵なんか貰わなければ良かった。そうしたらいつまでもマディソン村で暮らしていられたんだ」
泣きべそをかいているアシュレイの手を持って立たせ、ハンカチで涙と鼻水を拭いてやる。
「お前もいつかはサリヴァンに行かなくてはいけないのは分かっているだろう。それに空を飛べるなら、マクドガル館だろうが、ヨークドシャー城からだろうがさほど変わらないだろう」
アシュレイにとっては全然違う。
空を飛ぶのは風を捕まえられた時だけだ。歩いて行き来できる距離が大事なのだ。
「サリヴァンには行かない。師匠が良い!」
師匠冥利に尽きるような言葉だが、何も分かっていないアシュレイにベケットは困惑する。
「マクドガル卿は、お前がヨーク伯爵に仕えた方が良いと考えておられる。だが、少しの猶予は貰ってやるよ。このままヨークドシャー城にお前を置くのは不安だからな」
アシュレイは少しの猶予とはどのくらいの年月なのかと期待に満ちた目で尋ねる。
「ねぇ、5年ぐらいは大丈夫なの?」
「いや、それは無いだろう。せいぜい半年だな」
半年、つまり秋には行かなくてはいけないのだ。
「収穫を手伝わないといけないから無理だよ。それに冬はお祖母ちゃんが冬の病に罹ったら大変だもん」
「多分、ヨーク伯爵はお前の祖父母の面倒も見てくれると思うから、心配しなくても良い」
アシュレイ程の魔法使いを仕えさせる為なら、老人2人を養うぐらい安いものだ。
「本当に?」とアシュレイは疑い深い目を向ける。
「ああ、そのくらいの交渉は任せておきなさい。それとアシュレイはヨークドシャー城で暮らすには言葉使いもなおさなくてはいけないぞ。カスパル様は若いが私より優れた魔法使いだから、しっかりと修行しなさい」
「師匠より優れているの? なら竜の卵の孵し方もしっているかな?」
過剰な期待は持たさない方が良いとベケットは焦る。カスパルに悪い。
「いや、それは流石に知らないのでは無いかな。私もカスパル様もサリヴァンの上級魔法使いの弟子だが、そんな事は習っていないと思う。だが、私も調べるし、カスパル様も調べてくれるだろう」
アシュレイはこれで竜の卵が孵せると一瞬喜んだが、師匠の言葉にガッカリする。
「私はマクドガル卿とヨーク伯爵と話し合わなくてはいけないから、お前は荷物を馬車に積んでおきなさい。お土産を忘れるのでは無いぞ」
アシュレイはお祖母ちゃんやお祖父ちゃんへのお土産を忘れたりしないと笑う。
やっと弟子が元気になってベケットはホッとした。これからカスパルは苦労するだろうが、それも魔法使いの義務の一つだと他人事のように考えていた。
「マクドガル卿、アシュレイの件でヨーク伯爵と話し合う必要があります」
走り去ったアシュレイを説得してくれたのだと、マクドガル卿はホッと胸を撫で下ろす。
二人でヨーク伯爵の書斎へ向かう。そこにはカスパルも控えていた。
「ベケット、この度は無理を言って済まない。だが、シラス王国に未曾有の危機が迫っているのだ」
ベケットはやはりサリンジャー伯爵は何か緊急な要件で急いで嵐の中をサリヴァンへ向かっていたのだと嫌な予感が当たって憂鬱になる。
そんな最中にアシュレイを手放しても良いものかと逡巡する。
「本来なら魔法使いの師匠と弟子の関係に他者が口出しするのは駄目なのも分かっているが、アシュレイは田舎に置いておくには勿体ない。それにシラス王国にはそんな余裕は無くなるだろう」
ベケットはアシュレイが巨大な渦の中に巻き込まれようとしているように感じた。
老いた自分の手で少しでも守ってやりたい。
「私もアシュレイはいずれはサリヴァンのマリオン様の所で修行するべきだと考えていました。それがヒューゴ様になろうと構いません。ただ、あの子はあまりにも行儀作法も常識も無い。せめて恥をかかないようにマナーを身につけるまで私が指導したいのです。それとあの子は流行病で両親を亡くしていますから、祖父母を心配して側をはなれたがりません。アシュレイを手元に置きたいとお思いなら、祖父母の保護が必要です」
ヨーク伯爵にとって農民の老夫婦を世話するぐらい簡単だ。その点は問題ないと頷いた。
「なるべく早くアシュレイを来させるように」とヨーク伯爵との面会は終わった。
「ベケット様、宜しいのですか?」
ヨーク伯爵の書斎を出た途端、カスパルが弟子を譲っても良いのかと心配する。
「アシュレイは私の手に余ります。だからカスパル様にもご苦労を掛けると思うのですが、しっかりと指導してやって下さい」
やはりサリンジャー伯爵を救出したのはアシュレイだったのだとカスパルは納得する。
それにサミュエルから「空を飛ぶ」とか信じられないような事も聞いていた。
なる程、年老いたベケットには手に余るだろうし、自分の手にも余る事になるだろう。
いずれはサリヴァンへ行かさなくて駄目だ。
「あの子は優しい子です。なるべくなら戦闘に加わらせたく無いのですが、そうも言っておられない状況なのでしょう」
今はマクドガル卿に仕えて、穏やかな暮らしをしているベケットだが、前の伯爵と共に戦場にも何度も出た事がある。
それはカスパルも同じで、二人はシラス王国を取り巻く敵国が手を結ぶ危機に顔を引き締めた。
「私もアシュレイをしっかりと指導します。それでいつ頃ヨークドシャー城に来るのでしょうか? 受け入れる準備もありますから教えて頂きたい」
「半年とアシュレイには言いました。あの子は祖父母から離れませんから、農作物の収穫が終わってからの方がスムーズに引っ越しができるでしょう」
呑気な話に聞こえたが、それまでもベケットの指導を受けるなら良いだろうとカスパルも了承した。
マクドガル卿は峠の崖崩れの工事もしなくてはいけないので気が急ぐ。
「さぁ、マクドガルへ帰るぞ!」
アシュレイは御者席でボブの横に座り、祖父母へお土産を渡したら、どんなに喜ぶだろうと考えていた。
それにヨーク伯爵の寄子の集会も終わりになる。
シラス王国に忍び寄る脅威は未だ知らされていない。
「これから春になるから、農作業に忙しいだろうが、住民達の兵役訓練も疎かにしないように!」とだけ伝えてられた。
王都サリヴァンからの指示に従いたいとヨーク伯爵は考えたのだ。寄子の子爵や男爵達は、何かを感じとっている者もいた。
その中でもマクドガル卿は難しい顔をしている。
ヨーク伯爵からアシュレイを譲る事ができるかベケットに聞くように頼まれたからだ。
本来は騎士爵に過ぎない自分には、ベケットは釣り合わない程の立派な魔法使いなのだ。
前に仕えていた伯爵が亡くなり、老いを感じたベケットと騎士爵になったタイミングが合って仕えてくれているののだ。
そのベケットに、弟子を譲れなんて言えないとマクドガル卿は困惑する。
領地に帰る貴族達がごった返しているヨークドシャー城で、ベケットは浮かない顔をしているマクドガル卿が何を悩んでいるのか気づいた。
アシュレイの件だ。もっと注意深く魔法を使うように指導していなかったのは自分の失策だ。
「マクドガル卿、ヨーク伯爵に無理を言われましたか?」
何と切り出そうかと悩んでいたマクドガル卿は、相手から話しかけてくれてホッとする。
「ベケット、お前はアシュレイをどう見ているのだ?」
ヨーク伯爵に譲れとは言えず、遠いところから話を始める。
「アシュレイはいずれは上級魔法使いとなり、シラス王国を守護していくでしょう。もう少し礼儀作法や常識を教えたら、サリヴァンの私の師匠マリオン様に修行を付けて貰うつもりでした。それがカスパル様になろうと、ヒューゴ様になろうと私は良いと思っています」
ベケットがアシュレイを手放しても良いと言ったので、マクドガル卿はホッとする。
「ですがアシュレイは頑固です。マディソン村の祖父母と離れて他所に行く気はありません。それで私も困っているのです。あれほどの魔力をこのままにはしてはいけないのは確かなのですが……」
マクドガル卿は子供なんて強く言えば良いのだと簡単に考えた。
「よし、私からアシュレイに話してやろう!」
ベケットは嫌な予感しかしなかった。
自信満々でアシュレイに「ヨーク伯爵の所へ行け!」と命じたマクドガル卿は「嫌です!」とキッパリと断られてしまう。
「俺がいないとお祖母ちゃんとお祖父ちゃんが病気になって死んじゃうかもしれない!」
そう叫んで走り去ってしまった。やはりな、とベケットは思ったが、そうも言っておれない。
「申し訳ありません。未だ子供ですから……」と言い訳をして、走り去ったアシュレイの後を追う。
アシュレイは城の庭の片隅に座り込んでいた。
ベケットはアシュレイのいる場所が何とはなく分かるから探し出せたが、他の者では見つけられなかっただろう。
「師匠、俺は……竜の卵なんか貰わなければ良かった。そうしたらいつまでもマディソン村で暮らしていられたんだ」
泣きべそをかいているアシュレイの手を持って立たせ、ハンカチで涙と鼻水を拭いてやる。
「お前もいつかはサリヴァンに行かなくてはいけないのは分かっているだろう。それに空を飛べるなら、マクドガル館だろうが、ヨークドシャー城からだろうがさほど変わらないだろう」
アシュレイにとっては全然違う。
空を飛ぶのは風を捕まえられた時だけだ。歩いて行き来できる距離が大事なのだ。
「サリヴァンには行かない。師匠が良い!」
師匠冥利に尽きるような言葉だが、何も分かっていないアシュレイにベケットは困惑する。
「マクドガル卿は、お前がヨーク伯爵に仕えた方が良いと考えておられる。だが、少しの猶予は貰ってやるよ。このままヨークドシャー城にお前を置くのは不安だからな」
アシュレイは少しの猶予とはどのくらいの年月なのかと期待に満ちた目で尋ねる。
「ねぇ、5年ぐらいは大丈夫なの?」
「いや、それは無いだろう。せいぜい半年だな」
半年、つまり秋には行かなくてはいけないのだ。
「収穫を手伝わないといけないから無理だよ。それに冬はお祖母ちゃんが冬の病に罹ったら大変だもん」
「多分、ヨーク伯爵はお前の祖父母の面倒も見てくれると思うから、心配しなくても良い」
アシュレイ程の魔法使いを仕えさせる為なら、老人2人を養うぐらい安いものだ。
「本当に?」とアシュレイは疑い深い目を向ける。
「ああ、そのくらいの交渉は任せておきなさい。それとアシュレイはヨークドシャー城で暮らすには言葉使いもなおさなくてはいけないぞ。カスパル様は若いが私より優れた魔法使いだから、しっかりと修行しなさい」
「師匠より優れているの? なら竜の卵の孵し方もしっているかな?」
過剰な期待は持たさない方が良いとベケットは焦る。カスパルに悪い。
「いや、それは流石に知らないのでは無いかな。私もカスパル様もサリヴァンの上級魔法使いの弟子だが、そんな事は習っていないと思う。だが、私も調べるし、カスパル様も調べてくれるだろう」
アシュレイはこれで竜の卵が孵せると一瞬喜んだが、師匠の言葉にガッカリする。
「私はマクドガル卿とヨーク伯爵と話し合わなくてはいけないから、お前は荷物を馬車に積んでおきなさい。お土産を忘れるのでは無いぞ」
アシュレイはお祖母ちゃんやお祖父ちゃんへのお土産を忘れたりしないと笑う。
やっと弟子が元気になってベケットはホッとした。これからカスパルは苦労するだろうが、それも魔法使いの義務の一つだと他人事のように考えていた。
「マクドガル卿、アシュレイの件でヨーク伯爵と話し合う必要があります」
走り去ったアシュレイを説得してくれたのだと、マクドガル卿はホッと胸を撫で下ろす。
二人でヨーク伯爵の書斎へ向かう。そこにはカスパルも控えていた。
「ベケット、この度は無理を言って済まない。だが、シラス王国に未曾有の危機が迫っているのだ」
ベケットはやはりサリンジャー伯爵は何か緊急な要件で急いで嵐の中をサリヴァンへ向かっていたのだと嫌な予感が当たって憂鬱になる。
そんな最中にアシュレイを手放しても良いものかと逡巡する。
「本来なら魔法使いの師匠と弟子の関係に他者が口出しするのは駄目なのも分かっているが、アシュレイは田舎に置いておくには勿体ない。それにシラス王国にはそんな余裕は無くなるだろう」
ベケットはアシュレイが巨大な渦の中に巻き込まれようとしているように感じた。
老いた自分の手で少しでも守ってやりたい。
「私もアシュレイはいずれはサリヴァンのマリオン様の所で修行するべきだと考えていました。それがヒューゴ様になろうと構いません。ただ、あの子はあまりにも行儀作法も常識も無い。せめて恥をかかないようにマナーを身につけるまで私が指導したいのです。それとあの子は流行病で両親を亡くしていますから、祖父母を心配して側をはなれたがりません。アシュレイを手元に置きたいとお思いなら、祖父母の保護が必要です」
ヨーク伯爵にとって農民の老夫婦を世話するぐらい簡単だ。その点は問題ないと頷いた。
「なるべく早くアシュレイを来させるように」とヨーク伯爵との面会は終わった。
「ベケット様、宜しいのですか?」
ヨーク伯爵の書斎を出た途端、カスパルが弟子を譲っても良いのかと心配する。
「アシュレイは私の手に余ります。だからカスパル様にもご苦労を掛けると思うのですが、しっかりと指導してやって下さい」
やはりサリンジャー伯爵を救出したのはアシュレイだったのだとカスパルは納得する。
それにサミュエルから「空を飛ぶ」とか信じられないような事も聞いていた。
なる程、年老いたベケットには手に余るだろうし、自分の手にも余る事になるだろう。
いずれはサリヴァンへ行かさなくて駄目だ。
「あの子は優しい子です。なるべくなら戦闘に加わらせたく無いのですが、そうも言っておられない状況なのでしょう」
今はマクドガル卿に仕えて、穏やかな暮らしをしているベケットだが、前の伯爵と共に戦場にも何度も出た事がある。
それはカスパルも同じで、二人はシラス王国を取り巻く敵国が手を結ぶ危機に顔を引き締めた。
「私もアシュレイをしっかりと指導します。それでいつ頃ヨークドシャー城に来るのでしょうか? 受け入れる準備もありますから教えて頂きたい」
「半年とアシュレイには言いました。あの子は祖父母から離れませんから、農作物の収穫が終わってからの方がスムーズに引っ越しができるでしょう」
呑気な話に聞こえたが、それまでもベケットの指導を受けるなら良いだろうとカスパルも了承した。
マクドガル卿は峠の崖崩れの工事もしなくてはいけないので気が急ぐ。
「さぁ、マクドガルへ帰るぞ!」
アシュレイは御者席でボブの横に座り、祖父母へお土産を渡したら、どんなに喜ぶだろうと考えていた。
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