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第三章 リューデンハイム生
5 墓参り計画
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ユーリはグループ研究の優等のご褒美が外泊許可だと聞いた時から、ある計画を胸に抱いていた。そして、フランツと共に提出したグループ研究で優等をとり、先生からご褒美の外泊許可証を貰った。
『土曜日に外泊したら、日曜の門限の6時までにリューデンハイムに帰れば良いのよね。ヒースヒルのパパとママのお墓に参って来れるわ!』
外泊許可証を見つめながら、ユーリは両親の命日の前に、外泊を使ってお墓参りしようと計画をたてた。フランツの外泊許可を羨んで騒がしい教室を後にして、寮の自室に籠もる。
地理の教科書に載っている簡単な地図を見て、ユングフラウからヒースヒルと、フォン・フォレストの距離を比べる。
「大体、同じぐらいかしら? いえ、少しヒースヒルの方が近いわ」
まだ、お祖父様のように休憩無しで飛ぶ自信は無かったので、途中で休み休み行くなら7時間はみておく。
「夏だから、朝の4時には明るくなっているわよね。それに、その頃なら竜舎には誰もいないわ。少し荷物を持って行くけど、不審に思われなくて済むから好都合だわ。4時に発ったら、お昼にはヒースヒルに着くわ」
両親のお墓参りと、育った家を見て、熟練の竜騎士なら夜までにユングフラウに帰れるだろう。でも、ユーリは日帰りでヒースヒルの往復には自信がなかったので、一泊して次の日の朝帰る予定を組む。
「夜はハンナやキャシーの家に泊めて貰えると良いな。でも、ハンナ達がもう私のことを友達だと思ってなかったら、困るなぁ。この一年間、数通しか手紙を書いていなかったもの。それに、イリスと絆を結んでからはまだ一通も出してなかったわ」
つい、イリスにばかり気を取られて、ハンナ達に手紙も書いてないと反省する。
「そういえば、ハンナやキャシーからもこのところ手紙を貰ってないわ。やだわ、私ったらリューデンハイムに入学したのも、伝えてないんだわ。まさか、引っ越したりはしてないと思うけど……」
郵便事情も悪いので、ユーリの手紙への返事もなかなか届かず、この数ヶ月はお互いに音信不通になっていた。ユーリは、万が一引っ越していたらと、野宿の用意もする。
「あっ! 王妃様への挨拶も何か手をうたなきゃ。予め、金曜にご褒美の外泊を頂いたので、土日はゆったりとすごしたいと許可を貰えば良いわね。お祖父様には、用事があるので今週末は帰らないと手紙を書けば、私が寮に居ると思われるわ。完璧な計画だわ!」
ユーリはヒースヒルに行って帰って来ても誰にも気づかれない筈だと、自分の立てた計画を自画自賛する。
しかし、唯一の誤算があった。グレゴリウスだ! グレゴリウスはユーリが王妃様に土日は来られないと許可を貰っているのを見て、やはり何か企んでいると気づいた。そして、ユーリが夕食のパンの大きな固まりを素早く制服の上着に隠したのを目撃して、絶対に怪しいと確信する。
『ユーリは何か企んでいる。まさか、リューデンハイムから逃げ出すのか? 私が意地悪ばかりしているから……いや、お祖母様に月曜の朝には参りますと言っていた。外泊許可証をあんなに見つめていたのだから、土日に何処かへ行くのだ』
グレゴリウスはアラミスにユーリとイリスを見張ってくれるように頼み、何か異変があったら起こしてくれと言って早めにベッドに入った。
土曜の早朝、ユーリはこっそりと竜舎に入り、イリスの鞍に野宿する時の毛布を丸めたのや、食糧や飲み物を詰め込んだリュックをくくりつけて「静かにね」と言い聞かせて、竜舎の外に連れ出す。前もってイリスにヒースヒル行きの計画を打ち明けてしまうと、他の竜達にバレるのではと心配して秘密にしていたのだ。
『イリスは私をヒースヒルに連れて行ける? 地図は持って来たけど、上空からわかるか不安なの』
ユーリの言葉にイリスは驚いたが、竜は絆の竜騎士の頼みを拒否しない。
『大丈夫だよ、ヒースヒルには行ったことはないが、ローラン王国との国境の北の砦には何回も行ったから。北の砦の手前に着いたら低空を飛ぶよ。それならユーリにもヒースヒルがわかるだろう』
ユーリを乗せて飛ぶのはイリスの幸せなので、颯爽とリューデンハイムを後にする。
寝ていると思っていたアラミスがユーリとイリスの会話を聞いているなんて全く知らなかった。まして、グレゴリウスをたたき起こすだなんて、ユーリには考えもつかなかった。
ユーリにとってはグレゴリウスは自分に意地悪をする嫌な男の子に過ぎず、幼い恋心を持て余して自分をずっと見ているとは思ってもみなかったのだ。
『あっ、イリス! 此処がヒースヒルよ』
ユーリは途中なるべく人気のない場所で休憩を取り、お昼前にはヒースヒルに無事に着いた。
『ねぇ、イリス、ヒースヒルには竜なんか来ないのよ。私が竜で舞い降りたりしたら、ハンナとキャシーは腰を抜かしてしまうわ。だから、森で待っていてよ』
イリスはユーリを乗せて飛ぶのは大好きだが、何か変だと感じていた。
『駄目だ! ユーリを一人にはできないよ』
『此処は私が育った場所よ。何も危険は無いわ、だからイリスは森でのんびりと森林浴でもしててよ』
『海水浴は好きだけと、森林浴なんて楽しくないよ! 絶対にユーリから離れない!』
目立つから森で待っていてと、イリスを説得しようと頑張ったが無理だった。せめて、人気のない場所にしようと、町から離れたユーリの育った小さな家の近くに着地する。家はユーリがヒースヒルを後にした一年前のままだ。
「うわぁ~! 懐かしいわ! ママやパパが大切にしていた家を、ハックさんはキチンと管理してくれているのね」
家にはハックが住んでいるので、邪魔にならないようそっと眺めるだけにしようと思ったが、竜が舞い降りて気づかないわけがない。
「ユーリ、ユーリじゃないか。突然、どうしたんだい? 竜になんか乗って、ビックリしたよ。その竜は、お祖父様の竜騎士から借りたのかい?」
ハックの言葉で誤解していると思ったが、訂正するのは控えておく。
「ハックさん、驚かせてすみません。父と母の命日が近いので、お墓参りに来たのです」
「もう、一年がたつのか。ユーリはすっかり大きくなったね。それで、墓参りはもう済ませたのかね? 済ませたのなら、お昼を食べていくがいいさ」
二人の会話を聞いていたイリスは、ユーリが両親の墓参りにヒースヒルに来たのだと初めて知った。
『私も、ウィリアムとロザリモンドのお墓に参りたい』
しまった! とユーリは慌てたが、後の祭りで、こうなったらイリスは絶対に此処で待っててはくれないだろうと諦める。ユーリはイリスと共に両親のお墓参りをする事にする。
二人のお墓はユーリが供えた小さな白いバラに囲まれていた。一年ぶりに来たユーリは、雑草とかはえているのではと心配していたが、綺麗に保たれているのに安心した。
「パパ、ママ」
墓前に元気に暮らしているから安心してと報告したが、やはり二人に会いたいとユーリは泣き崩れてしまう。
『ウィリアム、ロザリモンド、ユーリは私が守るから、安心してくれ』
イリスにとっても因縁の深い二人のお墓に神妙に頭を下げ、泣き続けているユーリをどう慰めようかと悩んでいた時、上空からアラミスが舞い降りた。
突然の冷たい風と竜の羽ばたき音に、泣いていたユーリも気づき、一瞬、お祖父様が迎えに来たのかと勘違いした。
ラモスではなく、アラミスだと知って驚く。
「皇太孫殿下、何しにここへ?」
アラミスから降りたグレゴリウスはユーリが両親の墓前で泣いていたのに気づく。
『ユーリ、君も両親を亡くしたと言ってたけと……まだ悲しいんだね……』
ロザリモンド姫とウィリアムの墓は、質素な物ではあったが、小さな白いバラに囲まれた様子は美しい。
「ユーリ、私もロザリモンド姫とウィリアム卿のお墓にお参りさせて貰って良いかい」
ユーリは皇太孫殿下が何故ここに来たのかはわからなかったが、両親の墓参りを拒みはしない。
「ええ、どうぞ……」
刻まれた墓石の日付を見て、ウィリアムス卿がローラン王国との戦争で亡くなったのだと察した。グレゴリウスは、小さな墓の前に礼儀正しく跪いて二人の冥福を祈った。
ユーリは何時もの意地悪ばかりしているグレゴリウスでは無い真摯な態度に驚く。
「皇太孫殿下、両親の墓にお参り下さりありがとうございます。どなたかに言われて、来られたのですか?」
まさか、グレゴリウスが自分の後をつけてきたとは考えもせず、誰かが命日が近いので墓参りを命じたのかな? と、変だとは思いつつも勘違いしてユーリは尋ねる。
「いや、誰にも言われてないよ。ユーリがリューデンハイムを抜け出すのに気がついて、追いかけて来たんだ」
ユーリはグレゴリウスの無謀な行動に、自分の事はさておき驚く。
「皇太孫殿下! では、誰にも言わずに私の後をつけて此処に来られたのですか? なんて事なさるんです! すぐにお帰り下さい。皆、心配していますよ」
ユーリはヒースヒル行きがバレないように画策したのが、グレゴリウスに台無しにされたのに腹をたてた。
「すぐに帰れと言われても、お腹もすいてるし無理だよ」
ユーリに怒られて、しょげ返ったグレゴリウスは、格好よくこの場を立ち去れたら良いのにと思う。しかし、アラミスとこんなに遠出したことなかったのと、空腹でふらふらだった。
『ユーリ、グレゴリウスは疲れている。ユングフラウに帰るのは無理だよ』
アラミスの言葉にユーリはがっくりきた。自分だけなら気がつかれないだろうが、皇太孫殿下の不在はすぐに気づかれてしまうだろう。
「もう、台無しだわ!」
長距離飛行に慣れていないから自分でも一泊の計画だったので、グレゴリウスを危険にさらす訳にはいかないとユーリは諦めた。
「もう! 仕方無いわね~。お腹が空いているなら、食事にしましょう。でも、パンとチーズしか無いわよ」
墓前でユーリが持って来たパンとチーズを分け合って食べながら、何でバレたのかと聞く。
「君が、お祖母様に土日は挨拶に来れないと許可を貰ったり、夕食のパンを隠したりしてるから、何か企んでるなと思ったんだ」
昨夜のパンは少し固くなっていたが、朝ご飯抜きの二人は空腹だったので、あっという間に平らげた。ユーリは今頃はユングフラウで皇太孫の不在がバレて、大騒動になってるだろうとうんざりした。
「殿下、お腹もいっぱいになった事だし、帰れませんか? 私も、一緒に帰りますから」
ユーリはこうなったら一刻でも早くグレゴリウスをユングフラウにお帰ししなくてはと、自分の一泊プランも変更する。
『ユーリ、今からユングフラウに帰るのは無理だよ、夜になってしまう。慣れていない君達が夜に飛ぶのは危険だよ』
イリスやアラミスは慣れていない自分達の竜騎士の安全を考えて、飛ぶのを拒否した。
『そんなぁ』
騎竜達が飛ばないと、ユングフラウまで馬車で帰っても数日かかる。
『イリス、お祖父様に殺されちゃうわ~』
ユーリは何時もは自分の言うことを聞いてくれるイリスに泣きついた。
『ユーリ、何と言われても無駄だよ。マキシウスは君を殺したりしない。万が一、殺そうとしたら、私が全力で護るよ』
ユーリは竜には大袈裟な表現が理解できないのだと呆れて反論しかけた。
『ユーリ、グレゴリウスは寝ちゃったよ~。凄く疲れていたんだね』
イリスと言い争っている間に、肝心のグレゴリウスがすやすやと眠ってしまった。
『ええっ~! イリス、何故教えてくれなかったの?』
慌てて食事をした木陰ですやすやと眠るグレゴリウスの側にユーリは座る。金褐色の瞳を閉じたグレゴリウスの顔は幼く見えて、ユーリは起こすのを躊躇う。
「もう少ししたら、起こしましょう。そして、皇太孫殿下にアラミスを説得させたら良いわ……私はお祖父様に怒られる程度の問題だけど、皇太孫殿下は大問題だもの……」
そう呟いたユーリも、早朝から起きていたし、初めての長距離飛行で疲れてきっていた。ほんの少し身体を休めようと、呑気に寝ているグレゴリウスの横に寝転んだ。
普段は竜舎で昼寝の時間帯だが、イリスとアラミスは自分達の絆の竜騎士を護って辺りを警戒していた。
『土曜日に外泊したら、日曜の門限の6時までにリューデンハイムに帰れば良いのよね。ヒースヒルのパパとママのお墓に参って来れるわ!』
外泊許可証を見つめながら、ユーリは両親の命日の前に、外泊を使ってお墓参りしようと計画をたてた。フランツの外泊許可を羨んで騒がしい教室を後にして、寮の自室に籠もる。
地理の教科書に載っている簡単な地図を見て、ユングフラウからヒースヒルと、フォン・フォレストの距離を比べる。
「大体、同じぐらいかしら? いえ、少しヒースヒルの方が近いわ」
まだ、お祖父様のように休憩無しで飛ぶ自信は無かったので、途中で休み休み行くなら7時間はみておく。
「夏だから、朝の4時には明るくなっているわよね。それに、その頃なら竜舎には誰もいないわ。少し荷物を持って行くけど、不審に思われなくて済むから好都合だわ。4時に発ったら、お昼にはヒースヒルに着くわ」
両親のお墓参りと、育った家を見て、熟練の竜騎士なら夜までにユングフラウに帰れるだろう。でも、ユーリは日帰りでヒースヒルの往復には自信がなかったので、一泊して次の日の朝帰る予定を組む。
「夜はハンナやキャシーの家に泊めて貰えると良いな。でも、ハンナ達がもう私のことを友達だと思ってなかったら、困るなぁ。この一年間、数通しか手紙を書いていなかったもの。それに、イリスと絆を結んでからはまだ一通も出してなかったわ」
つい、イリスにばかり気を取られて、ハンナ達に手紙も書いてないと反省する。
「そういえば、ハンナやキャシーからもこのところ手紙を貰ってないわ。やだわ、私ったらリューデンハイムに入学したのも、伝えてないんだわ。まさか、引っ越したりはしてないと思うけど……」
郵便事情も悪いので、ユーリの手紙への返事もなかなか届かず、この数ヶ月はお互いに音信不通になっていた。ユーリは、万が一引っ越していたらと、野宿の用意もする。
「あっ! 王妃様への挨拶も何か手をうたなきゃ。予め、金曜にご褒美の外泊を頂いたので、土日はゆったりとすごしたいと許可を貰えば良いわね。お祖父様には、用事があるので今週末は帰らないと手紙を書けば、私が寮に居ると思われるわ。完璧な計画だわ!」
ユーリはヒースヒルに行って帰って来ても誰にも気づかれない筈だと、自分の立てた計画を自画自賛する。
しかし、唯一の誤算があった。グレゴリウスだ! グレゴリウスはユーリが王妃様に土日は来られないと許可を貰っているのを見て、やはり何か企んでいると気づいた。そして、ユーリが夕食のパンの大きな固まりを素早く制服の上着に隠したのを目撃して、絶対に怪しいと確信する。
『ユーリは何か企んでいる。まさか、リューデンハイムから逃げ出すのか? 私が意地悪ばかりしているから……いや、お祖母様に月曜の朝には参りますと言っていた。外泊許可証をあんなに見つめていたのだから、土日に何処かへ行くのだ』
グレゴリウスはアラミスにユーリとイリスを見張ってくれるように頼み、何か異変があったら起こしてくれと言って早めにベッドに入った。
土曜の早朝、ユーリはこっそりと竜舎に入り、イリスの鞍に野宿する時の毛布を丸めたのや、食糧や飲み物を詰め込んだリュックをくくりつけて「静かにね」と言い聞かせて、竜舎の外に連れ出す。前もってイリスにヒースヒル行きの計画を打ち明けてしまうと、他の竜達にバレるのではと心配して秘密にしていたのだ。
『イリスは私をヒースヒルに連れて行ける? 地図は持って来たけど、上空からわかるか不安なの』
ユーリの言葉にイリスは驚いたが、竜は絆の竜騎士の頼みを拒否しない。
『大丈夫だよ、ヒースヒルには行ったことはないが、ローラン王国との国境の北の砦には何回も行ったから。北の砦の手前に着いたら低空を飛ぶよ。それならユーリにもヒースヒルがわかるだろう』
ユーリを乗せて飛ぶのはイリスの幸せなので、颯爽とリューデンハイムを後にする。
寝ていると思っていたアラミスがユーリとイリスの会話を聞いているなんて全く知らなかった。まして、グレゴリウスをたたき起こすだなんて、ユーリには考えもつかなかった。
ユーリにとってはグレゴリウスは自分に意地悪をする嫌な男の子に過ぎず、幼い恋心を持て余して自分をずっと見ているとは思ってもみなかったのだ。
『あっ、イリス! 此処がヒースヒルよ』
ユーリは途中なるべく人気のない場所で休憩を取り、お昼前にはヒースヒルに無事に着いた。
『ねぇ、イリス、ヒースヒルには竜なんか来ないのよ。私が竜で舞い降りたりしたら、ハンナとキャシーは腰を抜かしてしまうわ。だから、森で待っていてよ』
イリスはユーリを乗せて飛ぶのは大好きだが、何か変だと感じていた。
『駄目だ! ユーリを一人にはできないよ』
『此処は私が育った場所よ。何も危険は無いわ、だからイリスは森でのんびりと森林浴でもしててよ』
『海水浴は好きだけと、森林浴なんて楽しくないよ! 絶対にユーリから離れない!』
目立つから森で待っていてと、イリスを説得しようと頑張ったが無理だった。せめて、人気のない場所にしようと、町から離れたユーリの育った小さな家の近くに着地する。家はユーリがヒースヒルを後にした一年前のままだ。
「うわぁ~! 懐かしいわ! ママやパパが大切にしていた家を、ハックさんはキチンと管理してくれているのね」
家にはハックが住んでいるので、邪魔にならないようそっと眺めるだけにしようと思ったが、竜が舞い降りて気づかないわけがない。
「ユーリ、ユーリじゃないか。突然、どうしたんだい? 竜になんか乗って、ビックリしたよ。その竜は、お祖父様の竜騎士から借りたのかい?」
ハックの言葉で誤解していると思ったが、訂正するのは控えておく。
「ハックさん、驚かせてすみません。父と母の命日が近いので、お墓参りに来たのです」
「もう、一年がたつのか。ユーリはすっかり大きくなったね。それで、墓参りはもう済ませたのかね? 済ませたのなら、お昼を食べていくがいいさ」
二人の会話を聞いていたイリスは、ユーリが両親の墓参りにヒースヒルに来たのだと初めて知った。
『私も、ウィリアムとロザリモンドのお墓に参りたい』
しまった! とユーリは慌てたが、後の祭りで、こうなったらイリスは絶対に此処で待っててはくれないだろうと諦める。ユーリはイリスと共に両親のお墓参りをする事にする。
二人のお墓はユーリが供えた小さな白いバラに囲まれていた。一年ぶりに来たユーリは、雑草とかはえているのではと心配していたが、綺麗に保たれているのに安心した。
「パパ、ママ」
墓前に元気に暮らしているから安心してと報告したが、やはり二人に会いたいとユーリは泣き崩れてしまう。
『ウィリアム、ロザリモンド、ユーリは私が守るから、安心してくれ』
イリスにとっても因縁の深い二人のお墓に神妙に頭を下げ、泣き続けているユーリをどう慰めようかと悩んでいた時、上空からアラミスが舞い降りた。
突然の冷たい風と竜の羽ばたき音に、泣いていたユーリも気づき、一瞬、お祖父様が迎えに来たのかと勘違いした。
ラモスではなく、アラミスだと知って驚く。
「皇太孫殿下、何しにここへ?」
アラミスから降りたグレゴリウスはユーリが両親の墓前で泣いていたのに気づく。
『ユーリ、君も両親を亡くしたと言ってたけと……まだ悲しいんだね……』
ロザリモンド姫とウィリアムの墓は、質素な物ではあったが、小さな白いバラに囲まれた様子は美しい。
「ユーリ、私もロザリモンド姫とウィリアム卿のお墓にお参りさせて貰って良いかい」
ユーリは皇太孫殿下が何故ここに来たのかはわからなかったが、両親の墓参りを拒みはしない。
「ええ、どうぞ……」
刻まれた墓石の日付を見て、ウィリアムス卿がローラン王国との戦争で亡くなったのだと察した。グレゴリウスは、小さな墓の前に礼儀正しく跪いて二人の冥福を祈った。
ユーリは何時もの意地悪ばかりしているグレゴリウスでは無い真摯な態度に驚く。
「皇太孫殿下、両親の墓にお参り下さりありがとうございます。どなたかに言われて、来られたのですか?」
まさか、グレゴリウスが自分の後をつけてきたとは考えもせず、誰かが命日が近いので墓参りを命じたのかな? と、変だとは思いつつも勘違いしてユーリは尋ねる。
「いや、誰にも言われてないよ。ユーリがリューデンハイムを抜け出すのに気がついて、追いかけて来たんだ」
ユーリはグレゴリウスの無謀な行動に、自分の事はさておき驚く。
「皇太孫殿下! では、誰にも言わずに私の後をつけて此処に来られたのですか? なんて事なさるんです! すぐにお帰り下さい。皆、心配していますよ」
ユーリはヒースヒル行きがバレないように画策したのが、グレゴリウスに台無しにされたのに腹をたてた。
「すぐに帰れと言われても、お腹もすいてるし無理だよ」
ユーリに怒られて、しょげ返ったグレゴリウスは、格好よくこの場を立ち去れたら良いのにと思う。しかし、アラミスとこんなに遠出したことなかったのと、空腹でふらふらだった。
『ユーリ、グレゴリウスは疲れている。ユングフラウに帰るのは無理だよ』
アラミスの言葉にユーリはがっくりきた。自分だけなら気がつかれないだろうが、皇太孫殿下の不在はすぐに気づかれてしまうだろう。
「もう、台無しだわ!」
長距離飛行に慣れていないから自分でも一泊の計画だったので、グレゴリウスを危険にさらす訳にはいかないとユーリは諦めた。
「もう! 仕方無いわね~。お腹が空いているなら、食事にしましょう。でも、パンとチーズしか無いわよ」
墓前でユーリが持って来たパンとチーズを分け合って食べながら、何でバレたのかと聞く。
「君が、お祖母様に土日は挨拶に来れないと許可を貰ったり、夕食のパンを隠したりしてるから、何か企んでるなと思ったんだ」
昨夜のパンは少し固くなっていたが、朝ご飯抜きの二人は空腹だったので、あっという間に平らげた。ユーリは今頃はユングフラウで皇太孫の不在がバレて、大騒動になってるだろうとうんざりした。
「殿下、お腹もいっぱいになった事だし、帰れませんか? 私も、一緒に帰りますから」
ユーリはこうなったら一刻でも早くグレゴリウスをユングフラウにお帰ししなくてはと、自分の一泊プランも変更する。
『ユーリ、今からユングフラウに帰るのは無理だよ、夜になってしまう。慣れていない君達が夜に飛ぶのは危険だよ』
イリスやアラミスは慣れていない自分達の竜騎士の安全を考えて、飛ぶのを拒否した。
『そんなぁ』
騎竜達が飛ばないと、ユングフラウまで馬車で帰っても数日かかる。
『イリス、お祖父様に殺されちゃうわ~』
ユーリは何時もは自分の言うことを聞いてくれるイリスに泣きついた。
『ユーリ、何と言われても無駄だよ。マキシウスは君を殺したりしない。万が一、殺そうとしたら、私が全力で護るよ』
ユーリは竜には大袈裟な表現が理解できないのだと呆れて反論しかけた。
『ユーリ、グレゴリウスは寝ちゃったよ~。凄く疲れていたんだね』
イリスと言い争っている間に、肝心のグレゴリウスがすやすやと眠ってしまった。
『ええっ~! イリス、何故教えてくれなかったの?』
慌てて食事をした木陰ですやすやと眠るグレゴリウスの側にユーリは座る。金褐色の瞳を閉じたグレゴリウスの顔は幼く見えて、ユーリは起こすのを躊躇う。
「もう少ししたら、起こしましょう。そして、皇太孫殿下にアラミスを説得させたら良いわ……私はお祖父様に怒られる程度の問題だけど、皇太孫殿下は大問題だもの……」
そう呟いたユーリも、早朝から起きていたし、初めての長距離飛行で疲れてきっていた。ほんの少し身体を休めようと、呑気に寝ているグレゴリウスの横に寝転んだ。
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