スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

文字の大きさ
53 / 273
第五章 カザリア王国へ

7  エドアルド皇太子の訪問

しおりを挟む
 次の朝、ユーリとフランツを除く特使一行は 、同盟締結の為の会議に出席するために王宮に出かけて行った。

 残された二人はメンバーが大使館に帰ってくるまでには海水浴を終えておきたかったので、午前中に出かけ昼食を海岸で食べながら竜達の海水浴を見ていようと計画した。

「ユーリ嬢、今夜は舞踏会で夜中まで踊るのですから、少しお昼寝をしていた方が良いですわ。きっと、貴女と踊りたいという殿方がたくさんいらっしゃるから」

 大使夫人は舞踏会に備えて休憩を取るべきだわと、海岸行きに難色を示す。

『海水浴に早く行こう!』

 でも、竜達が急かすようにウォ~と吠えたので、それ以上は言わなかった。

「竜が海水浴が好きだなんて知りませんでしたわ。仕方ありませんね、でも、お茶の時間までには帰って来て下さいね。今夜の舞踏会のダンスの順番や、気を付けなくてはいけない殿方を話し合っておきたいですから」

 ユーリには竜達が『早く!』と騒ぐ声が、耳を押さえたくなる程うるさく聞こえていたので、やっと後見人の大使夫人の許可がおりてホッとする。

 ユーリとフランツは海岸で食べる簡単な昼食をバスケットに入れて貰って、大使館の竜舎へと向かう。

「今頃は、会議が始まっているだろうな」

 今回限りの外務省実習ではなく、外交官を目指しているフランツは、同盟締結という大舞台の雰囲気を肌で感じたかったとこぼす。

「明日からも、会議は続くわよ。それより、パーティーが多すぎるわ。昼は会議、夜はパーティーじゃあ、体力が保たないわ。海岸に着いたら、竜達は勝手に泳ぐでしょうから、私達はのんびりしましょう」

 ユーリの言葉に、フランツもこれからの過密スケジュールを思い出して、そうだねと同意した。

 呑気な二人の海水浴計画は、突然のエドアルドの登場で変更を余儀なくされた。

 エドアルドは今日から始まる会議に特使であるグレゴリウスは例外として出席するだろうが、見習い竜騎士のユーリは出席出来ないだろうと思った。

 そして、ユーリが会議の控え室で待機しているだろうと考えて、王宮の庭でも案内しようと誘いに行ったが、大使館で留守番だと聞き押しかけたのだ。

「ユーリ様、フランツ様! ああ、良かった。エドアルド皇太子殿下がお越しです」

 突然のエドアルドの訪問に慌てた大使館員は、ユーリとフランツが海岸にまだ出掛けてなくてホッとする。

 二人はさっさと出掛けておけば良かったと、竜達の抗議の声に眉をひそめた。

『少し、待ってて エドアルド皇太子殿下の相手をしたら、直ぐに海水浴に行きましょう』

 二人が大使館のサロンに入ると、腕に大きなバラの花束を抱えたエドアルドがセリーナから、お茶のもてなしを受けている。

 エドアルドはユーリの入室を礼儀正しく立って迎えると、バラの花束をプレゼントした。

「今朝は王宮のバラが素晴らしかったので、庭を案内しようと控え室に誘いに行ったのですが、大使館にいらっしゃると伺って。バラを持参したのですが、ここのバラも見事ですね」

 エドアルドの言葉に、ユーリは見事なバラの花束のお礼を言う。

「ありがとうございます。大使館のバラも見事ですが、このバラも綺麗ですわ」

 実は大使館の見事過ぎるほどに咲いたバラの件で、早朝老練な外交官二人の間で小さな事件があったのだ。

 今朝は会議の打合せの為に早起きした、クレスト大使とマッカートニー外務次官は、ユーリの緑の魔力を機密書で読んで知ってはいたが、朝起きて庭のバラが葉っぱが見えないほど満開になっている様子を実際に見て心底から驚いた。

「これは……見事なバラですな」

 マッカートニー外務次官はユーリの緑の魔力を過小評価していたかもと、認識を改めた。そんな夫と外務次官のやり取りや、ユーリの緑の魔力を知らないセリーナは、エドアルドの言葉に素直に喜んだ。

「ええ、今年はバラが見事に咲いて喜んでますの。でも、皇太子殿下が持って来られたバラは、ここの庭にはないものですから、嬉しいですわ。ユーリ嬢、さっそく花瓶に飾ってくださいな」

 セリーナは夫の大使や他の特使一行が会議で留守の間に、こんなに積極的な行動をエドアルドがしたのに困惑した。

 王妃からユーリの後見人に指名されていた責任感から、セリーナは礼儀正しく応対しながらも、絶対にエドアルドと親密にならないように気をつかった。

 ユーリは大使夫人の言い付けに従ってサロンから下がって、バラを花瓶に飾りに行こうとした。しかし、海水浴に連れて行って貰えると楽しみにしてたのに待たされて、苛々していた竜達が不満を爆発的させる。

『ユーリ、海水浴に連れて行ってくれると言ったのに! いつ行くんだ!』

『待ちくたびれたよ~。海水浴に早く行こう!』

 五頭の竜達の不満の叫び声に、ユーリは思わず手を耳に当ててバラを床に落としてしまった。

 大使夫人は竜騎士ではないので、竜達の叫び声が聞こえない。皇太子殿下のプレゼントのバラを床に落としたユーリの不作法に驚いて、花束を拾い上げて謝る。

 しかし、エドアルドもフランツも手で耳を押さえていたので、謝罪の言葉は届かなかった。

『皆、少し待ってちょうだい。海水浴には連れて行くから! お願いだから、おとなしくしてて』

 ユーリの命令でイルバニア王国の竜達はおとなしくなったが、エドアルドの騎竜のマルスが騒ぎ始める。

『エドアルド、私も海水浴に行きたい。みんな、これからユーリとフランツと海水浴に行くんだ。ずるいよ! 私だけ行けないなんて』

 普段は素直なマルスの我が儘に、エドアルドは驚いた。

「ユーリ嬢、フランツ卿、貴方たちは竜達と海水浴に行かれる予定だったのですか? 私の騎竜のマルスも海水浴に行きたがっているのですが、竜が海水浴するのですか?」

 ユーリとフランツはエドアルドに海水浴の計画がばれたので、あちゃ~と顔を見合わせて困る。

 セリーナは竜達の言葉は聞こえなかったが、ユーリやフランツやエドアルドの態度や言葉から、竜達が不満を爆発させ、どうやらエドアルドの竜も海水浴に行きたいと駄々をこねているのだと察した。

「エドアルド皇太子殿下、実は竜達を海水浴に連れて行く予定でしたの。どうやら、もう待ちきれないみたいですわね。ユーリ嬢、フランツ卿、失礼して竜達を海水浴に連れて行きなさい」

 皇太子殿下は自分が引き止めて、二人に海岸に行かせようとしたセリーナの思惑は失敗に終わる。

「ユーリ嬢、フランツ卿、私達も海水浴に同行させて下さい。マルスがこんなに海水浴に行きたがるなんて知りませんでした。このまま王宮に連れて帰ったら、拗ねてしまいます。大使夫人、二人に頼んで下さい。お願いします」

 隣国の皇太子殿下の頼みを無碍に断るなんて不作法なことは誰も出来なかったし、マルスが本当に行きたがっているのをユーリもフランツも知っていたので困って、大使夫人の顔を眺める。

「まぁ、仕方ありませんわね。ユーリ嬢、フランツ卿、エドアルド皇太子殿下と騎竜も一緒に海水浴にお連れしたら。でも、今夜は舞踏会なのですから、お茶の時間迄には帰って来て下さいね」

 セリーナはユーリとエドアルドを二人きりにさせないようにと厳命を受けていた。だが、皇太子からの頼みを断るのは不作法過ぎて無理だと判断して、フランツがいるのだから見張りを託す事にした。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...