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第六章 同盟締結
35 また会う日まで
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お別れの晩餐会は、エリザベート王妃とユーリの涙で終わった。
「ユーリ嬢、本当に帰国してしまうのですね」
何度となく引き止めたが、こればかりは国王の助けもなく諦めたエリザベート王妃だったが、晩餐会が終わりに近づくと涙を浮かべる。情にもろいユーリは、あれほど振り回されたにもかかわらず、エリザベート王妃の好意を感じていたので、涙が我慢できなくなる。
「王妃様には親切にして頂いて感謝しております。ニューパロマ滞在中に教えて頂いた事は忘れません」
ポロポロと涙をこぼすユーリを、グレゴリウスは複雑な気持ちで慰める。ユーリがエリザベート王妃のお気に入りになって、過密な社交スケジュールに振り回されていたのを心配していたし、プライベートな食事に何度となく招待されていたのも腹立たしく思っていたからだ。
『ユーリったら、そんなに帰国するのが悲しいのなら、ニューパロマに居なさいと言われるぞ!』
泣いているユーリを複雑な気持ちでイルバニア王国側は眺める。
帰りの馬車の中でグレゴリウスが少し苦情を言ったが、ユーリはしょんぼりして思いも寄らない言葉を発する。
「エリザベート王妃様がとても孤独でいらっしゃるのがお気の毒で……国王陛下は公務でお忙しいし、エドアルド皇太子殿下は学業や学友達と楽しくされているんですもの。周りには取り巻きが沢山いるし、社交界を牛耳っていらっしゃるから王妃様の孤独な気持ちに皆は気づいて無いのよ」
グレゴリウスも王族の孤独は理解はできた。
「何度かプライベートな食事に私を招かれたのも、国王陛下やエドアルド皇太子殿下とご一緒に食事をされたかったからだと思うの。一応、縁談のある相手を招いているのだからと、国王陛下も執務室を後にされるし、皇太子殿下も学友達との気楽な食事会をお断りになって王妃様と夕食を共にされるから」
『チェッ、ユーリは全くエドアルドの下心に気づいてないな~』
「皇太子殿下もたまには母上様と夕食をご一緒して下さいね。マウリッツ公爵夫人も男の子は愛想が無いとよく愚痴っていらっしゃるわ。ユージーンとフランツにも、よく言い聞かせなくちゃあ」
セリーナも男の子2人だし、ユングフラウ大学に在籍中だから、寂しいと感じていたのでユーリの言葉は胸に落ちた。
「そうですわね、男の子なんて愛想がないですわね。勝手に大きくなった気でいるのでしょう。マウリッツ公爵夫人は、ユーリ嬢がいらして幸せね。私もこの一月、とても楽しかったですわ。夏休みなのだから、ニューパロマにいらしたら良いのに」
おいおいと大使に止められたが、セリーナの言葉にユーリはお世話になりましたと涙をポロポロこぼす。グレゴリウスは役得とばかしに泣いているユーリを抱きしめたが、大使館に着いてしまい残念に感じる。
「明日の朝には帰国されるのですね」
セリーナとユーリが抱き合って泣いているのを、他のメンバーはやれやれと呆れていたが、ユーリはせっかくの薄紫色のドレスに染みをつけてはとハンカチで涙を拭く。
「大使夫人には本当にお世話になりました。ご迷惑ばかりお掛けして、すみませんでした」
ニューパロマ最後の夜なので、やはり名残惜しく感じて、サロンで少し話をした。
大使や外務次官はこの数年の苦労が実り同盟国になったのを嬉しく思い出してはいたが、この一ヶ月のユーリが引き起こした大騒動の日々の方が印象に深く残っているのに驚く。
「会議の初日から、エドアルド皇太子が大使館に押し掛けてこられて、竜達と海水浴に行かれたり、怒涛の1ヶ月でしたな~」
クレスト大使がどうにかユーリを無事に帰国させられると安堵しているのを、外務次官やジークフリートは秋の攻防戦が待っているので、まだ気が抜けないので少し羨ましく思う。
「ユーリと居ると退屈はしないよね。泣いたり、笑ったり、忙しいもの。 竜舎に籠もったり、エリザベート王妃様のお気に入りになったり、ハロルド達を竜騎士にしたり、ターシュとか、アレックス様にプロポーズされたり」
フランツの言葉に、ユーリが抗議するのを全員で笑う。
グレゴリウスはこの一月でユーリがとても美しくなったのを感じていたので、自分の告白はスルーされたのは悔しく思うが、夏休みを離宮のあるストレーゼンで一緒に過ごせるのを楽しみにしていた。
「明日は朝早くたって、途中で休憩は入れますが、ユングフラウまで一気に飛ぶ予定ですから、早めにお休みになって下さい」
ジークフリートに忠告されて、グレゴリウス、ユーリ、フランツが自室に下がると、大人たちだけで少し話し合いを持つ。ユージーンはエドアルドが秋にリューデンハイムに遊学するのを初めて聞いて驚いた。
「そんな、やっと帰国できると安心していたのに……」
エドアルドの熱烈なアピールも、恋愛音痴のユーリには政略結婚をしなくてはという義務感に毛のはえたものぐらいだったと安堵した後なので、ズシンと心が重たくなる。
言いにくそうに外務次官から、ユングフラウ滞在中の社交相手にユーリを指名されていると聞かされて、馬鹿馬鹿しい! と怒りを露わにする。
「ユーリは帰国したら、外務省を離れるのですよ。元々は、国務省での見習いが本人の希望ですから。本人は社交界から引退したいと言うほど、社交が苦手です。それに、カザリア王国の皇太子妃だなんて、ユーリが苦労するに決まってるでしょう。グレゴリウス皇太子殿下の気持ちには同情しますが、ユーリは皇太子妃なんか向いてませんよ。 人前で取り乱すし、行儀もなってませんし、第一に王宮の鳥籠はユーリには窮屈でしょう。ユーリには幸せになってもらいたいのです」
ユージーンはやはり本調子ではないなと、外交官にあるまじき本音を漏らしたのに溜め息をつく。ジークフリートも、グレゴリウスの指導の竜騎士という立場を外したら、ユージーンと同意見だったが、エドアルドの遊学を控えて、そんな甘っちょろい事を言っている余裕がない。
「ランドルフ外務相に、マキャベリ国務相に頭を下げて貰わないといけないのですよ。多分、国務省の指導の竜騎士はシュミット卿だし、彼がエドアルド皇太子殿下の接待に協力してくれるとは考えられないのです。できれば、ユージーン卿に引き続き、ユーリ嬢のお守りをして貰いたいのですが……」
外務次官の言葉の途中から、顔の表情を変えたユージーンが、ユーリのお守りを引き受けたくないのは一目瞭然だ。
「ユージーン卿、お願いします。貴方も、ユーリ嬢をエドアルド皇太子の妃になんかしたくないと仰ったじゃありませんか。外国の皇太子妃なんか苦労するに決まってますよ。シュミット卿ではエドアルド皇太子の熱烈なアプローチを回避する自信がありません」
ジークフリートの真剣な申込みも、ユージーンは表情を険しくしたままだ。
大使も外務次官も、魅力的な問題児のユーリのお守りは胃が痛くなるだろうと、ユージーンが首を縦にふらないのは理解できたが、外務相にごり押しして貰おうと考える。ユージーンは他のメンバーがユーリを自分に押し付けるつもりなのに気づいたが、絶対に拒否する決意を固める。
微妙な空気になったので、各自部屋に向かったが、外務次官とジークフリートはなかなか寝つけなかった。
次の朝は、荷物を部屋から運び出したり、お別れの挨拶やらとイルバニア王国の大使館はバタバタと慌ただしい。
エドアルドとハロルド達もマゼラン卿と共に大使館まで見送りに来た。特使のグレゴリウスに礼儀正しく別れの挨拶をするのは当たり前として、ユーリとはかなり長々と挨拶を交わす。
ユーリがイリスに乗るサポートするエドアルドを、イルバニア王国側は必要ないのにと苛つきながら見ていたが、別れ際に素早くキスしたのには抗議の声をあげた。
「もう、エドアルド皇太子殿下!」
パシンっと反射的に平手打ちされた頬を撫でながら、唇の感触にぼおっとしているエドアルドは、重大発言をしてのける。
「秋にお会いできるまで、私のことを忘れないで下さいね! リューデンハイムで一緒に勉強できるのを楽しみにしてます。それまでは、このキスを預けておきます」
見習い竜騎士の三人は「リューデンハイム留学!」と叫び声をあげたが、カザリア王国の人達の前で、ややこしい話をしたくない大人たちに出立を促されて竜達を飛ばす。
エドアルドはユーリを乗せたイリスが見えなくなるまで、ぼおっと空を眺めていたが、コツンと頭をマゼラン卿に軽く小突かれて我に返った。
大使夫妻に挨拶して馬車で王宮に帰りながら、エドアルドはマゼラン卿から長々と説教と、夏休み中にハロルド、ユリアン、ジェラルド達と共に騎竜の猛特訓を命じられる。
「騎竜訓練?」
訳のわかっていないエドアルドにマゼラン卿は、リューデンハイムでは見習い竜騎士の騎竜訓練がかなり厳しく行われている事を伝え、ユーリの前で恥をかきたくないなら頑張って下さいと激励する。
「騎竜訓練は竜騎士になってから本格的にするのだと思っていた。ユーリ嬢も騎竜訓練に参加されるのだろうか? かなり危険だと思うのだけど」
マゼラン卿は何度かユーリがイリスに乗っているのを見ていたので、かなり騎竜は上手だとエドアルドに伝える。
「そうだよなぁ~。ユーリ嬢の騎竜体勢は見事だもの。貴婦人乗りなのに、一度もふらついたの見たことないし、乗馬も見事だったし、弓も名手なんだ。可憐だし、可愛いし、歌も素晴らしいし、料理もお上手だし……」
恋するエドアルドのユーリラブは、耳にタコでうんざりしているマゼラン卿は、ハロルド達も夏休みに猛特訓して見習い竜騎士に昇格させて、一緒にリューデンハイムに留学させる予定だと伝える。
「ハロルド、ジェラルド、ユリアンも一緒にリューデンハイムに留学できるのか! 嬉しいな」
グレゴリウスが特使随行員に二人の見習い竜騎士の学友を連れてくると聞いた時に感じた苛つきを、ユーリによって解消されたことに改めて感謝するエドアルドだ。
「あの三人が見習い竜騎士になれるように、皇太子殿下も訓練を手伝って下さい。それが殿下にも良い効果を与えると思いますよ。人に教えると、自己流にしていた事とかもチェックし直されますからね。下手な騎竜をして、ユーリ嬢のお祖父様のアリスト卿に呆れられないようにしませんとね。現在の一番の竜騎士を祖父に持っているユーリ嬢を口説くなら、かなり頑張りませんと。ユーリ嬢はファザコンだとか聞いてますし、ウィリアム卿も見事な騎竜だったそうですよ」
「ええ~、ユーリ嬢はファザコンなんですか。そういえば、気の良い働き者が理想の結婚相手だったと言われてだけど、父上のウィリアム卿のことだったのか。ウィリアム卿は見習い竜騎士だったけど、駆け落ちされたのですよね。そんなに騎竜がお上手だったのですか?」
マゼラン卿は極秘に手に入れたリューデンハイムのウィリアムの成績を見て、アリスト卿がどれほど駆け落ちに失望したかと、親として同情を禁じ得なかった。ユーリを見て、その父親が竜騎士としての素質に優れていたのは明らかだが、武術にも優れていたと成績表で知った。
『アリスト卿は、ウィリアム卿に竜騎士隊長になって欲しいと期待していた筈だ』
代々、竜騎士隊長を輩出してきたフォン・アリスト家に相応しい能力を持っていたウィリアムが、ロザリモンドと駆け落ちした時の衝撃の深さを考えるだけで胸が痛むマゼラン卿だ。
「夏休み中にかなり頑張らないとウィリアム卿どころか、グレゴリウス皇太子に負けてしまいますよ」
「それだけは嫌だな! ユーリ嬢に練習して格好良い飛行姿を見せなくては!」
マゼラン卿の叱咤激励にエドアルドが夏休みは騎竜訓練だ! と決意していた頃、ユーリは自分には隙が多すぎるのではと、別れ際にキスされたのを思い出してプンプン怒っていた。
『グレゴリウスにもキスされたし、ぼんやりし過ぎだよ』
イリスに言われて、そう言えばグレゴリウスにもキスされたのよね~と、自分のファーストキスは夢も希望も無いわとがっかりする。
「ユーリ嬢、本当に帰国してしまうのですね」
何度となく引き止めたが、こればかりは国王の助けもなく諦めたエリザベート王妃だったが、晩餐会が終わりに近づくと涙を浮かべる。情にもろいユーリは、あれほど振り回されたにもかかわらず、エリザベート王妃の好意を感じていたので、涙が我慢できなくなる。
「王妃様には親切にして頂いて感謝しております。ニューパロマ滞在中に教えて頂いた事は忘れません」
ポロポロと涙をこぼすユーリを、グレゴリウスは複雑な気持ちで慰める。ユーリがエリザベート王妃のお気に入りになって、過密な社交スケジュールに振り回されていたのを心配していたし、プライベートな食事に何度となく招待されていたのも腹立たしく思っていたからだ。
『ユーリったら、そんなに帰国するのが悲しいのなら、ニューパロマに居なさいと言われるぞ!』
泣いているユーリを複雑な気持ちでイルバニア王国側は眺める。
帰りの馬車の中でグレゴリウスが少し苦情を言ったが、ユーリはしょんぼりして思いも寄らない言葉を発する。
「エリザベート王妃様がとても孤独でいらっしゃるのがお気の毒で……国王陛下は公務でお忙しいし、エドアルド皇太子殿下は学業や学友達と楽しくされているんですもの。周りには取り巻きが沢山いるし、社交界を牛耳っていらっしゃるから王妃様の孤独な気持ちに皆は気づいて無いのよ」
グレゴリウスも王族の孤独は理解はできた。
「何度かプライベートな食事に私を招かれたのも、国王陛下やエドアルド皇太子殿下とご一緒に食事をされたかったからだと思うの。一応、縁談のある相手を招いているのだからと、国王陛下も執務室を後にされるし、皇太子殿下も学友達との気楽な食事会をお断りになって王妃様と夕食を共にされるから」
『チェッ、ユーリは全くエドアルドの下心に気づいてないな~』
「皇太子殿下もたまには母上様と夕食をご一緒して下さいね。マウリッツ公爵夫人も男の子は愛想が無いとよく愚痴っていらっしゃるわ。ユージーンとフランツにも、よく言い聞かせなくちゃあ」
セリーナも男の子2人だし、ユングフラウ大学に在籍中だから、寂しいと感じていたのでユーリの言葉は胸に落ちた。
「そうですわね、男の子なんて愛想がないですわね。勝手に大きくなった気でいるのでしょう。マウリッツ公爵夫人は、ユーリ嬢がいらして幸せね。私もこの一月、とても楽しかったですわ。夏休みなのだから、ニューパロマにいらしたら良いのに」
おいおいと大使に止められたが、セリーナの言葉にユーリはお世話になりましたと涙をポロポロこぼす。グレゴリウスは役得とばかしに泣いているユーリを抱きしめたが、大使館に着いてしまい残念に感じる。
「明日の朝には帰国されるのですね」
セリーナとユーリが抱き合って泣いているのを、他のメンバーはやれやれと呆れていたが、ユーリはせっかくの薄紫色のドレスに染みをつけてはとハンカチで涙を拭く。
「大使夫人には本当にお世話になりました。ご迷惑ばかりお掛けして、すみませんでした」
ニューパロマ最後の夜なので、やはり名残惜しく感じて、サロンで少し話をした。
大使や外務次官はこの数年の苦労が実り同盟国になったのを嬉しく思い出してはいたが、この一ヶ月のユーリが引き起こした大騒動の日々の方が印象に深く残っているのに驚く。
「会議の初日から、エドアルド皇太子が大使館に押し掛けてこられて、竜達と海水浴に行かれたり、怒涛の1ヶ月でしたな~」
クレスト大使がどうにかユーリを無事に帰国させられると安堵しているのを、外務次官やジークフリートは秋の攻防戦が待っているので、まだ気が抜けないので少し羨ましく思う。
「ユーリと居ると退屈はしないよね。泣いたり、笑ったり、忙しいもの。 竜舎に籠もったり、エリザベート王妃様のお気に入りになったり、ハロルド達を竜騎士にしたり、ターシュとか、アレックス様にプロポーズされたり」
フランツの言葉に、ユーリが抗議するのを全員で笑う。
グレゴリウスはこの一月でユーリがとても美しくなったのを感じていたので、自分の告白はスルーされたのは悔しく思うが、夏休みを離宮のあるストレーゼンで一緒に過ごせるのを楽しみにしていた。
「明日は朝早くたって、途中で休憩は入れますが、ユングフラウまで一気に飛ぶ予定ですから、早めにお休みになって下さい」
ジークフリートに忠告されて、グレゴリウス、ユーリ、フランツが自室に下がると、大人たちだけで少し話し合いを持つ。ユージーンはエドアルドが秋にリューデンハイムに遊学するのを初めて聞いて驚いた。
「そんな、やっと帰国できると安心していたのに……」
エドアルドの熱烈なアピールも、恋愛音痴のユーリには政略結婚をしなくてはという義務感に毛のはえたものぐらいだったと安堵した後なので、ズシンと心が重たくなる。
言いにくそうに外務次官から、ユングフラウ滞在中の社交相手にユーリを指名されていると聞かされて、馬鹿馬鹿しい! と怒りを露わにする。
「ユーリは帰国したら、外務省を離れるのですよ。元々は、国務省での見習いが本人の希望ですから。本人は社交界から引退したいと言うほど、社交が苦手です。それに、カザリア王国の皇太子妃だなんて、ユーリが苦労するに決まってるでしょう。グレゴリウス皇太子殿下の気持ちには同情しますが、ユーリは皇太子妃なんか向いてませんよ。 人前で取り乱すし、行儀もなってませんし、第一に王宮の鳥籠はユーリには窮屈でしょう。ユーリには幸せになってもらいたいのです」
ユージーンはやはり本調子ではないなと、外交官にあるまじき本音を漏らしたのに溜め息をつく。ジークフリートも、グレゴリウスの指導の竜騎士という立場を外したら、ユージーンと同意見だったが、エドアルドの遊学を控えて、そんな甘っちょろい事を言っている余裕がない。
「ランドルフ外務相に、マキャベリ国務相に頭を下げて貰わないといけないのですよ。多分、国務省の指導の竜騎士はシュミット卿だし、彼がエドアルド皇太子殿下の接待に協力してくれるとは考えられないのです。できれば、ユージーン卿に引き続き、ユーリ嬢のお守りをして貰いたいのですが……」
外務次官の言葉の途中から、顔の表情を変えたユージーンが、ユーリのお守りを引き受けたくないのは一目瞭然だ。
「ユージーン卿、お願いします。貴方も、ユーリ嬢をエドアルド皇太子の妃になんかしたくないと仰ったじゃありませんか。外国の皇太子妃なんか苦労するに決まってますよ。シュミット卿ではエドアルド皇太子の熱烈なアプローチを回避する自信がありません」
ジークフリートの真剣な申込みも、ユージーンは表情を険しくしたままだ。
大使も外務次官も、魅力的な問題児のユーリのお守りは胃が痛くなるだろうと、ユージーンが首を縦にふらないのは理解できたが、外務相にごり押しして貰おうと考える。ユージーンは他のメンバーがユーリを自分に押し付けるつもりなのに気づいたが、絶対に拒否する決意を固める。
微妙な空気になったので、各自部屋に向かったが、外務次官とジークフリートはなかなか寝つけなかった。
次の朝は、荷物を部屋から運び出したり、お別れの挨拶やらとイルバニア王国の大使館はバタバタと慌ただしい。
エドアルドとハロルド達もマゼラン卿と共に大使館まで見送りに来た。特使のグレゴリウスに礼儀正しく別れの挨拶をするのは当たり前として、ユーリとはかなり長々と挨拶を交わす。
ユーリがイリスに乗るサポートするエドアルドを、イルバニア王国側は必要ないのにと苛つきながら見ていたが、別れ際に素早くキスしたのには抗議の声をあげた。
「もう、エドアルド皇太子殿下!」
パシンっと反射的に平手打ちされた頬を撫でながら、唇の感触にぼおっとしているエドアルドは、重大発言をしてのける。
「秋にお会いできるまで、私のことを忘れないで下さいね! リューデンハイムで一緒に勉強できるのを楽しみにしてます。それまでは、このキスを預けておきます」
見習い竜騎士の三人は「リューデンハイム留学!」と叫び声をあげたが、カザリア王国の人達の前で、ややこしい話をしたくない大人たちに出立を促されて竜達を飛ばす。
エドアルドはユーリを乗せたイリスが見えなくなるまで、ぼおっと空を眺めていたが、コツンと頭をマゼラン卿に軽く小突かれて我に返った。
大使夫妻に挨拶して馬車で王宮に帰りながら、エドアルドはマゼラン卿から長々と説教と、夏休み中にハロルド、ユリアン、ジェラルド達と共に騎竜の猛特訓を命じられる。
「騎竜訓練?」
訳のわかっていないエドアルドにマゼラン卿は、リューデンハイムでは見習い竜騎士の騎竜訓練がかなり厳しく行われている事を伝え、ユーリの前で恥をかきたくないなら頑張って下さいと激励する。
「騎竜訓練は竜騎士になってから本格的にするのだと思っていた。ユーリ嬢も騎竜訓練に参加されるのだろうか? かなり危険だと思うのだけど」
マゼラン卿は何度かユーリがイリスに乗っているのを見ていたので、かなり騎竜は上手だとエドアルドに伝える。
「そうだよなぁ~。ユーリ嬢の騎竜体勢は見事だもの。貴婦人乗りなのに、一度もふらついたの見たことないし、乗馬も見事だったし、弓も名手なんだ。可憐だし、可愛いし、歌も素晴らしいし、料理もお上手だし……」
恋するエドアルドのユーリラブは、耳にタコでうんざりしているマゼラン卿は、ハロルド達も夏休みに猛特訓して見習い竜騎士に昇格させて、一緒にリューデンハイムに留学させる予定だと伝える。
「ハロルド、ジェラルド、ユリアンも一緒にリューデンハイムに留学できるのか! 嬉しいな」
グレゴリウスが特使随行員に二人の見習い竜騎士の学友を連れてくると聞いた時に感じた苛つきを、ユーリによって解消されたことに改めて感謝するエドアルドだ。
「あの三人が見習い竜騎士になれるように、皇太子殿下も訓練を手伝って下さい。それが殿下にも良い効果を与えると思いますよ。人に教えると、自己流にしていた事とかもチェックし直されますからね。下手な騎竜をして、ユーリ嬢のお祖父様のアリスト卿に呆れられないようにしませんとね。現在の一番の竜騎士を祖父に持っているユーリ嬢を口説くなら、かなり頑張りませんと。ユーリ嬢はファザコンだとか聞いてますし、ウィリアム卿も見事な騎竜だったそうですよ」
「ええ~、ユーリ嬢はファザコンなんですか。そういえば、気の良い働き者が理想の結婚相手だったと言われてだけど、父上のウィリアム卿のことだったのか。ウィリアム卿は見習い竜騎士だったけど、駆け落ちされたのですよね。そんなに騎竜がお上手だったのですか?」
マゼラン卿は極秘に手に入れたリューデンハイムのウィリアムの成績を見て、アリスト卿がどれほど駆け落ちに失望したかと、親として同情を禁じ得なかった。ユーリを見て、その父親が竜騎士としての素質に優れていたのは明らかだが、武術にも優れていたと成績表で知った。
『アリスト卿は、ウィリアム卿に竜騎士隊長になって欲しいと期待していた筈だ』
代々、竜騎士隊長を輩出してきたフォン・アリスト家に相応しい能力を持っていたウィリアムが、ロザリモンドと駆け落ちした時の衝撃の深さを考えるだけで胸が痛むマゼラン卿だ。
「夏休み中にかなり頑張らないとウィリアム卿どころか、グレゴリウス皇太子に負けてしまいますよ」
「それだけは嫌だな! ユーリ嬢に練習して格好良い飛行姿を見せなくては!」
マゼラン卿の叱咤激励にエドアルドが夏休みは騎竜訓練だ! と決意していた頃、ユーリは自分には隙が多すぎるのではと、別れ際にキスされたのを思い出してプンプン怒っていた。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
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