スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

文字の大きさ
139 / 273
第八章 見習い実習

8  モガーナの決意

しおりを挟む
 声楽のレッスンから寮に帰ると、グレゴリウスとフランツが一緒に夕食を食べようと待っていた。

「遅い昼食を食べたから」断ろうとするユーリをグレゴリウスは叱る。

「キチンと食事を取らないと駄目だよ。そんな調子では身体がもたないよ」

 フランツもユーリの体調を心配する。

「早く竜騎士になりたいのは皆同じだよ。僕だって、外交官として一人前になりたいもの。でも、焦って身体を壊したら、元も子もないよ。近頃のユーリは、地に足がついてない気がするよ」

 二人に諫められて、ユーリは少し反省する。

「何だか気が急いて……まだ15才だと思う時もあるけど、もう15才だとも思うの。20才まで、あと5年、いえ4年しかないのね……何か残しておきたくて……子どもを産んだ方が良いのから?」

 ユーリはパロマ大学で真名を見た時から、何となく前世に捕らわれた気持ちが度々していた。

「ユーリ、何を言ってるの?」

 なぜ20才までに何か残したいとか、子どもを産むとか言い出したのか二人は不安を感じる。

「何でもないわ、ただの目標よ。19才までに竜騎士になって、20才までに子どもを産もうかなって。普通の女の子でも何才までに結婚しようとか考えるでしょ」

 フランツもグレゴリウスも、ユーリの説明には納得し難い気持ちだったが、女の子の立てる人生設計には当てはまるので反論しにくい。

『馬鹿ね! 二人に打ち明けたいと思っているから、口を滑らしたのだわ。でも、前世の話とか荒唐無稽だし、19才で死んだとか重い話を背負わせるのは駄目よ! お祖母様はそんなの意味ないと仰るけど、だんだん死んだ年に近づいている……私が死んだら、イリスも死んでしまうのよね。私が結婚するまでイリスも子竜を産まないと言ってるし、本当は竜騎士より結婚した方が良いのかしら。でも、数年で死ぬかもしれないのに結婚するのも相手に悪いわよね。第一、恋愛もしてないのに結婚なんて無理だわ』

 ユーリは時々このような不毛な考えを巡らしては、結婚は相手が必要なので自分ではどうしようもないから、竜騎士になる方だけでも頑張ろうと結論を出すのだ。

 こういう馬鹿げた思いに捕らわれた時、お祖母様に笑い飛ばして貰うと、ユーリは凄く精神的に楽になる。

「馬鹿馬鹿しい! 前世と同じ人生を歩むなんて、あり得ないわ。第一、竜なんかと絆を前世で結んでないでしょう」

 お祖母様に会いたいわと、ユーリは思いながら夕食を食べた。


 モガーナはユーリがユングフラウで、グレゴリウスとエドアルドとの板挟みになる期間だけでも、側について支えて遣りたいと願っていたが、時期が悪くてなかなか思うようにはいかない。収穫期と納税の時期は、頼りないラングストン管理人に任せておけなかったのだ。

 エミリアとダニエルを結婚させて、次代の管理人にしようとは考えていたし、両家の承諾も得ていた。先ずは結婚式をあげさせなくてはと、エミリアの両親をせっついたり、結婚の支度を手伝ったりと忙しい日々を送る。

「マウリッツ老公爵と和解できたのは、好都合ですわね」

 夏をユーリと共に過ごした老公爵は、モガーナ・フォン・フォレストに駆け落ちの際に無礼な振る舞いをしたことを丁重に謝り、ユーリの祖母と祖父としての付き合いを求めてきていたのだ。

 モガーナもユーリがマウリッツ公爵家で大切に扱われているのを承知していたので、ユングフラウでの面倒は竜馬鹿のマキシウスよりはあてになると、謝罪を受け入れたのだ。

「エドアルド皇太子も、忙しい時期に御遊学されなくても良いのに。本当に迷惑ですわ!」

 領主として一番忙しい時期にユングフラウに行かなくてはならないと、ぷんぷん怒りながら、エミリアの結婚式の準備を進めるモガーナだ。

「エミリアとダニエルには、忙しい新婚生活のスタートになるわね。でも、慣れるのには良いかもしれませんわ。ユーリは不在がちな領主になりそうですもの」

 モガーナは着々とフォン・フォレストの次期の領主としてユーリが楽に管理できるように準備を始めていたが、フォン・アリスト家の方に関しては放置していた。マキシウスには妹のシャルロットがいたし、甥や姪が居るのだから、ユーリでなくても良いでしょうと勝手な事を考えていたし、代々竜騎士隊長を勤めている武門を孫娘に継げるとは考えてもいなかった。

「ユングフラウの滞在場所が問題ですわね。フォン・キャシディ家の屋敷には、ジークフリート卿がいらっしゃるし。短期間ならいざ知らず、艶聞の多い殿方なのに、年寄りの親戚が居座ったらご迷惑だわ。仕方ありませんわね、竜馬鹿のフォン・アリスト家にしましょう。あそこなら、ユーリは慣れてますしね」

 全くマキシウスの意思は関係なく、フォン・アリスト家への滞在を決めたモガーナだ。


 ユーリは、エミリア先生からの手紙で結婚を知らされて驚いた。ユーリが寮の入り口で受け取った手紙を食堂で読んでいるのを、グレゴリウスとフランツは、何なの? と寄って来る。

「私の家庭教師だったエミリア先生が、館の警備員のダニエル・ターナーさんと結婚されるの。ユングフラウのエミリア先生の実家のパターソン家で簡単な挙式をされるから、私にブライズメイドをして欲しいと書いてあるわ。お祖母様はダニエルさんとエミリア先生に、屋敷に住んでフォン・フォレストの管理人になって貰うつもりなんだわ。今の管理人のラングストンさんは、お年だから引退間近での。まぁ! お祖母様も結婚式にいらっしゃるのね。ユングフラウはお嫌いなのに、珍しいわね」

 グレゴリウスとフランツは怖ろしいほどの美貌と言われているモガーナに会えるのかなと期待する。

「お祖父様はモガーナ様に謝罪して和解したのだから、ユーリの舞踏会に来て下されば良いのにね」

 フランツの言葉はユーリを喜ばせた。

「まぁ、本当に? マウリッツのお祖父様と、お祖母様が和解したの? 嬉しいわ! だって、フランツやユージーンと付き合うのは良いとしても、マウリッツ公爵家に行くのを微妙だと思われているみたいだったの。それに和解されたということは、お祖父様もパパを許したって事よね。何だか泣いちゃいそう」

 ユーリがハンカチで目を押さえるのを、フランツとグレゴリウスは微笑んで見ている。 

「ユーリ、良かったね! 君のデビューの舞踏会に、フォン・フォレストのお祖母様がいらっしゃるなら、紹介して欲しいな。だって、怖ろしいほどの美貌だと聞いてるもの」

 グレゴリウスの言葉にユーリは笑いながら承知する。

「ええ、とても私のお祖母様とは見えないわ。とても美しい方なのよ。少し怖いけど……二人なら、大丈夫よ」

 二人はお祖母様とは見えないというのを、似ていないという意味に取っていたが、実際に会って若いという意味だったと驚愕と同時に知ることになる。 

「結婚式は来週なの。エドアルド皇太子殿下が到着された後だわ。う~ん、この日は騎竜訓練の日ね! 怖いけど、ミューゼル卿に昼からお休みを貰えるか聞いてみるわ。他の日に騎竜訓練を変えて貰えると助かるけど……そこまでは無理よね」

 スケジュール表を見ながら、ユーリが考え込んでいるのを見て、フランツは変更して貰えばと提案した。

「エドアルド皇太子殿下達は、基本的に竜騎士隊での訓練が主なんだよ。まぁ、他国の外務省や国務省で見習い実習しても意味無いし、受け入れる側も困るしさ。だから僕達もお付き合いで竜騎士隊の実習が多いから、振り替えて貰えば?」

「そうだけど……シュミット卿に昼から休みを貰うの? ミューゼル卿に言う方がマシかも。それにしても、皇太子殿下もフランツも、いっぱい騎竜訓練を受けるのね。差がついちゃうな~」

 ユーリの悩みは、モガーナがマキシウスに直接交渉して解決してくれた。

「やはり、お祖父様はお祖母様に弱いわ。エミリア先生の結婚式の日は、実習は休みにして下さったの。これでエミリア先生のブライズメイドもゆっくりできるわ」

 騎竜訓練の後で、マキシウスはユーリに結婚式の当日は見習い実習を休んで良いと告げたのだ。不思議そうに見上げる孫娘に、モガーナから手紙で頼まれたと困った様子で告げたが、どうも屋敷に長期滞在しそうな文面に思えたのは怖ろしくて口にしなかった。

「ユングフラウが嫌いなモガーナが、ユーリの家庭教師の結婚式の為に来るだなんて変だ。『結婚式の前日に到着して、しばらく御厄介になります』しばらく? しばらくとは、何日だ?」

 モガーナからの手紙を読んだマキシウスは混乱した。執事に客間の用意を命じながらも、嘗て愛した女性の突然の訪問に狼狽える。

 このように狼狽えている主人を見るのは初めての執事は驚いたが、侍女達に丁寧に客間を掃除するように命じた。フォン・フォレストの魔女と呼ばれるモガーナ様に何か落ち度があってはならないと、侍女達は床に顔が写るぐらいに磨き立てた。


 フランツからモガーナがユングフラウに来ると聞いたジークフリートは、もしかしたらユーリの後見人としての役目を果たす為ではと期待した。

「モガーナ様ならレーデルル大使夫人など子ども同然でしょう。まぁ、どなたであろうと太刀打ちできる方がおられるとは思いませんがね。ただ、モガーナ様はユングフラウがお嫌いですから、長期滞在はされないのでは無いでしょうか?」

 他の外務省のメンバーは、フォン・フォレストの魔女と呼ばれるモガーナに直接の面識が無かったので、ジークフリートに色々と質問する。

「美しいお方だとユーリ嬢からも聞いているが、本当なのだろうか?」

 外務次官はニューパロマで、ユーリがお祖母様みたいな迫力のある美人なら良かったのにと愚痴っていたのを思い出した。

「そうですね、私は今までモガーナ様ほど美しい貴婦人を見たことはありませんね。怖いほどの美貌ですし、性格もかなり手厳しい方です。多分、ユーリ嬢にはお優しいでしょうが、エドアルド皇太子の社交相手を押し付けた私達はボロクソに言われますよ。覚悟しておいた方が良いでしょう。マゼラン卿に近づかない方が良いと忠告してあげますか? カザリア王国の密偵がフォン・フォレストに入れず、うちの領地であれこれ調査したみたいで、モガーナ様のお気に障ったみたいですから」 

 外務省のメンバーは、ユーリが結界を張るのをお祖母様から習ったと聞いていたので、結界で密偵を排除したのだと気づいた。フォン・フォレストの魔女を密偵に探らすなど、イルバニア王国の人間には怖ろしくて出来ないのに、マゼラン卿は怖いもの知らずだと身震いする。

「鉄仮面殿とフォン・フォレストの魔女殿の一騎打ちなら、どちらが勝のだろう?」

 呑気な外務相の言葉に、ジークフリートはその前座試合で外務省とカザリア王国大使館が、先ず蹴り飛ばされるのではと背筋が凍った。その予感は的中し、最強の後見人に守られたユーリに、外務省もカザリア王国大使館も手だしが出来なくなるのだ。


 ユーリはお祖母様がエミリア先生の結婚式の為にユングフラウに来るのだとしか思ってなかった。来週末のマウリッツ公爵家での舞踏会に来て下されば嬉しいなと単純に考えていた。

 農家出身のユーリはこの収穫と納税時期が忙しいのは知っていたので、領主のお祖母様が長期間にわたってフォン・フォレストを留守にするとは考えもつかなかったのだ。

 それほどユーリが夜更けにフォン・フォレストに突然帰ってきて泣いたのが、モガーナに衝撃を与えたとは思いもよらない事だった。しかし、ユーリもモガーナのユングフラウ滞在中にビシバシと指導されることになる。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...