スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

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第九章 思春期

9  エリザベート王妃様に振り回されるユーリ

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 大使館へ行く荷物を侍女にまとめるように指示を出すと、マリアンヌは溜め息をついた。

「なんだかお嫁に出すみたいだわ」

「マリアンヌ、冗談でもやめてください。お嫁に出すだなんて縁起でもない」

 マリアンヌの嘆きを聞き咎めたリュミエールだったが、ユーリがカザリア王国大使館でエリザベート王妃の付き添いをするというのは、花嫁修業と取られかねないと困惑していた。実際に耳敏い貴族からお祝いを言われたりして、キッパリ否定した。しかし、相手は正式に告知されてないから、慎重に振る舞っているのだろうと訳知りな笑顔をしたりするのだ。

「ユージーン、どうにか出来ないのか」

 父親に咎められても、エリザベート王妃がユーリを付き添わす件は、テレーズ王妃が許可されてしまっているので文句が付けれなかった。

「これでも、大使館に泊まる日数を少なくしたのです。それにエリザベート王妃は礼儀作法に厳しい方ですから、エドアルド皇太子も無作法な振る舞いはできませんよ。ユーリも躾けなおして貰えますから、悪い事ばかりではありませんよ」

 ユージーンは日頃からユーリの問題だらけの行儀作法では、グレゴリウスの妃となった時に苦労するだろうと案じていたので、エリザベート王妃も手を焼くだろうと苦笑する。

「ユーリが可哀相だわ、別に無作法なわけではないのに。ユージーンは、皇太子妃にしようとして評価しているから、厳しく見過ぎなのよ。ロックフォード侯爵夫人は、ユーリのことを、優しくて良い子だと褒めて下さってるわ。そりゃ、もう少しはお淑やかに振る舞うべきだけど、あんなに礼儀作法に厳しいエリザベート王妃様に、躾けられるなんて可哀相過ぎるわ」

 まるで姑に虐められる嫁の話だと、ユーリに甘々の公爵は不満を吐き出した。

「ユーリは、付き添いに行くだけだ。花嫁修業みたいな言い方はやめなさい」

 めったに母親に声を荒げることのない父親の態度にユージーンは驚いて、火の粉が飛び散らないうちに退散する。



「メアリーが付いて来てくれて良かったわ」

 カザリア王国大使館で、ユーリは荷物を広げながら溜め息をつく。ニューパロマでイルバニア王国の大使館に1ヶ月滞在したが、従兄のユージーンやフランツも一緒だったし、やはり他国の人達に囲まれての生活は気を使いそうだと憂鬱だ。

「ユーリ嬢、王妃様がお待ちですわ」

 レーデルル大使夫人に呼びに来られて、ユーリは下に降りていった。

「やっと来たのね。さぁ、ここに座りなさいな」

 大使館に来る前に泥縄だが、マリアンヌから礼儀作法を叩き込まれたユーリは、王妃から許しが出るまで椅子に座らずに待っていた。付き添いが何をするのかも、わからないユーリは王妃の指示を待つ。だが、王妃は々と質問しだしたので、答えるだけであっぷあっぷだ。

「週に一回しか、声楽のレッスンを受けてないのですか。それでは少なすぎますわ。パウエル師とのレッスンを見学しなくてはね」

 ユーリは週一回の声楽レッスンもサボりがちだったので、見学されるのは避けたい。

「王妃様、エドアルド皇太子殿下の遊学の様子を見学なさらなくていいのですか。私の声楽レッスンより、皇太子殿下の武術訓練や、騎竜訓練を見学されたいのでは」

 エリザベートはエドアルドを愛していたが、武術訓練や、騎竜訓練に興味はない。

「それは、マゼラン卿やラッセル卿に任せておきますわ。見学しても、上達しているのかよくわかりませんもの」

 今度のレッスンは王妃の参観かぁと、トホホな気持ちになる。

「ユーリ嬢はオペラは『浮気な恋人』しか観てないと聞きましたわ。今夜は『薔薇の騎士』ですのよ。内容は知ってますか?」

 ユーリは、知らないと正直に答える。

「それはいけませんわ。『薔薇の騎士』は旧帝国の建国神話がもとになっていますのよ。あの有名な叙事詩の『ライモンダー』に恋愛要素を加えてますの。まさか、それも読んでませんの」

 ユーリはリューデンハイムで歴史文学は習ったが、旧帝国の文学までは勉強してない。王妃様は大使夫人に詩集の『ライモンダー』を手配させると、ユーリに朗読させる。

 旧帝国語の苦手なユーリは苦労しつつ朗読したが、つっかえながらの叙事詩の朗読に頭痛がしそうになったエリザベートは、大使夫人に交代するように命じる。レーデルル大使夫人は滑らかに朗読した。

「朗読がお上手なのですね」

 ユーリが感心していると、エリザベートにこの程度はできて当然ですよと叱られた。

「どうも文学的な方面は、勉強不足ですわね。旧帝国語も得意でないみたいですね。少しずつ勉強しないといけませんわ」

 ユーリは恥ずかしくて椅子の中で小さくなる。

「あら、ちゃんとお座りなさい。行儀悪いですよ」

 カザリア王国大使館に着いて数時間なのに、ユーリは逃げて帰りたくなる。

 エリザベート王妃とレーデルル大使夫人と、一緒にお茶を飲んでいると、エドアルドが早めに武術訓練を切り上げて大使館に帰ってきた。ユーリがお淑やかにお茶をしている姿を見て、これはかなり堪えてるなと察する。

「母上、ユーリ嬢に大使館の庭を案内します。まだバラがきれいですから」

 エリザベート王妃は風邪をひかさないようにと上着を着なさいとか細々と注意を与えたが、元気の無い様子にも気づいていたので許可を与える。

 大使館の庭には、晩秋なのにバラが咲き誇っていた。エドアルドは、ユーリをエスコートして東屋に連れて行く。

「お元気が無いですね、どうなさったのですか」

 優しく問いかけられると、ユーリの緊張感は解けてしまい、涙が溢れだす。

「エドアルド皇太子殿下、お願いですから家に帰らせて下さい」

 来たばかりなのに、帰りたいと泣き出したユーリに、エドアルドは困ってしまう。 

「何があったのですか?」

 ユーリは一つ一つは小さな事なので、何がと言われても返事は出来なかったが、自分には王妃の付き添いなんて無理なのと泣いた。エドアルドは泣いているユーリを抱き寄せて、涙を拭きながら小さな問題を根気よく聞く。

「私が勉強不足なのも、行儀が悪いのも事実なの」

 エドアルドは、母上がユーリにとって良かれと思って、張り切りすぎたのだと謝る。

「一時に言われたら、辛くなりますね。母上はユーリ嬢に会いたいと願っていたので、あれこれ言い過ぎたのでしょう。許してやって下さい」

「そんな、許すだなんて。今夜のオペラを観劇するのに、必要な知識も無かったから、教えて下さったのだから。まだまだ勉強しなくちゃいけないのね……勉強は嫌いなのに」

 ユーリが溜め息をつくのを、エドアルドはクスクス笑う。

「リューデンハイムでいっぱい勉強されてきたのに、お嫌いなんですか」

「見習い竜騎士になる為に、仕方なく勉強しただけよ。ユージーンにも教養不足だと叱られたわ。読書をしなくちゃいけないのはわかっているけど、夜にはくたくたで寝てしまうの。夏休みは海で泳いだりしてのんびり過ごすし、冬休みぐらいかな読書するのは。お祖母様は何も言わないけど、館には図書室が2つも有るのに、全く活用してないのを呆れていらっしゃるかも。エドアルド皇太子殿下は、読書されるのですか」

 パロマ大学生のエドアルドは、勉強が好きで読書も普通に楽しんでいる。

「読書は好きですね。ユーリ嬢はあまりされないのですね」

「読書は嫌いでは無いけど、どちらかというと土いじりの方が好きかも。冬とか何も出来ないなら、読書するって感じなの」

 ユーリが土いじりをしていると聞いてエドアルドは驚いたが、農家で育ったのだと思い出す。

「園芸を趣味とされる貴婦人もおられますが、手が荒れるのではないでしょうか? でも、ユーリ嬢らしいですね。魚捕りも上手いし、木の実や、トリュフも見つけるなんて生活能力が高いです」

 ユーリは、フランツなら野生児と言うところだわと笑う。さっきまで泣いていたユーリが笑ったので、エドアルドはホッとする。まるで姑に厳しく注意されて泣く新妻を慰めるといった展開も楽しかったが、やはり溌剌としたユーリの方が可愛らしく感じる。

「私は読書をあまりしてないけど、リューデンハイムの皆がそうだと思わないで下さいね」

 ユーリは不出来な自分のせいで、エドアルドが誤解するのを怖れた。

「フランツなんか本の虫なの。今年の冬休みは、フォン・フォレストに来たいと言ってるけど、旧帝国時代の本目当てなの。夏休みなら海で泳げるからわかるけど、旧館は寒いと警告したのに物好きだわ。旧館の図書室には、旧帝国時代の発禁書が集められていると聞いて読みたがっているの。旧帝国語なんて、難しいのにね」
    
「え~、旧帝国時代の発禁書ですか。私も読みたいです! フランツ卿が羨ましいですね。可愛いユーリ嬢と冬休みを一緒に過ごせて、その上貴重な本まで読めるなんて、羨ましい過ぎます」

 ユーリは、寒い旧館に行く気はさらさらないと、薄情なことを言う。

「どうせなら、夏休みに来れば良いのにね。そろそろ虫干ししなきゃいけないの。もし廃嫡されたら、アレックス様に手伝って頂こうかと考えたぐらいなの」

 エドアルドは、絶対に廃嫡させないと心に誓う。

「アレックスだと虫干しの手伝いになりませんよ。きっと読書して、ボ~ッとしているばかりでしょう。私が手伝ってあげましょう」

「まぁ、皇太子殿下にそんな手伝って頂けませんわ」

 二人で仲良く話をしていたが、大使夫人に王妃が風邪をひかないか心配されていますと、呼びにこられた。

「ユーリ嬢、王妃様も少し急ぎすぎたと仰ってますわ」

 渋々立ち上がる様子に苦笑して、レーデルル大使夫人はユーリを安心させる。あまり厳しくすると皇太子妃になりたくないと拒否反応が出ませんでしょうかと、エリザベート王妃にも少し苦言を呈していたのだ。エドアルドも、ユーリをエスコートして大使館に戻る。



 マゼラン卿はエリザベート王妃のご訪問に付き添って、ユングフラウに来ていた。エドアルドがユーリと庭で話し合っている間、ハロルドに留守の間の二人の進展を聞く。

「進展というほどのものはありませんね。一度、レーデルル大使夫人の作戦で、令嬢方と共にピクニックに行ったぐらいかな。まぁ、チャンスだと考えられてキスされたみたいですが、ユーリ嬢に平手打ちされてしまいましたね。その後は当分の間、エドアルド様にもグレゴリウス皇太子にも、ユーリ嬢はツンケンしてましたから、あちらも同じ失敗をしたのでしょう」

 せっかくのチャンスを生かせなかったエドアルドに、何をやってるのかと、溜め息をつくマゼラン卿だ。

「あっ、それとユーリ嬢のお祖母様は、フォンフォレストに帰られているみたいですよ。イルバニア王国では、収穫祭を盛大に行うのですね。領地の管理人がまだ新任なので、あまり留守にできないとユーリ嬢が話しておられました」

 恐ろしいモガーナがユングフラウにいないと聞いて、マゼラン卿は目を輝かせる。

「ユーリ嬢は、モガーナ様がいつユングフラウに帰って来られるか、話していなかったか?」

 できればこのまま領地に留まって頂きたいと願っていたが、あの方がやすやすと孫娘を外国の皇太子妃にさせる気がないのはわかっていた。 

「さあ、ユーリ嬢もご存知ないみたいですよ。ユーリ嬢はお祖母様が大好きみたいで、一緒に過ごしたいと願ってはいるみたいなのですが、領地の管理もあるからと我が儘は言えないと仰ってました」

 ユーリの緑の魔力を息子に話すべきかマゼラン卿は少し悩んだが、庭の満開のバラを見ても気づかないのなら、知る資格はないと突き放して考える。

「ところで父上、ユングフラウは変だと思われませんか? いくら花の都とはいえ、この季節にバラが満開だなんて。イルバニア王国の開祖アルフレッド大王は緑の魔力持ちだったとの伝説がありますが、アルフォンス国王陛下はもしかして先祖返りの力をお持ちなのでは」

 少しピントはずれているが、跡取りの息子がキチンと気づいていたのに、マゼラン卿は満足する。

「お前は、ローラン王国がコンスタンス妃を正式に離婚した意味を考えたか?」

 バラの話から離婚の話を持ち出されて、父上のことだから無意味な噂話で無いことは確実だと、ハロルドは少し考える。

「まさか、ユーリ嬢は緑の魔力持ちなのですか? ローラン王国がコンスタンス妃を離婚したのは、絆の竜騎士であるユーリ嬢に求婚するためだと思っていました。そうか、それで納得しました。王子様方に竜騎士の能力が無いとケチを付けたりしてましたが、まだ幼いのに変だと思っていたのです。エドアルド様はご存知なのでしょうか?」

 マゼラン卿は、息子に皇太子には秘密にしておくようにと約束させた。

「何故、秘密にしておかなければならないのですか? こんな重大な事なのに。ユーリ嬢の緑の魔力の威力はどれほどなのでしょうか、調査されたのですか」

 矢継ぎ早に質問するハロルドにマゼラン卿は、そのようにがっついたりしてはユーリを逃がしてしまうと注意した。 

「ユーリ嬢は、キャサリン王女の孫だ。キャサリン王女から、ロザリモンド姫、ユーリ嬢と緑の魔力は遺伝したのだろう。ただ、ユーリ嬢はフォン・フォレストの魔女殿から巨大な魔力も受け継いでいる。それによって、滞在されている一帯が大豊作になるほどの威力を発揮されているのだ」

 ハロルドは、今年のニューパロマ一帯が例年にない大豊作だったと興奮した。

「そんな貴重な能力を持ったロザリモンド姫を駆け落ちさせたままで、放置したのですか?」

「ロザリモンド姫が駆け落ちしても放置されていたのは、竜騎士の素質がないから王位継承権を持たないからと、緑の魔力も僅かだったからだろう。でも、ユーリ嬢の緑の魔力は、伝説のアルフレッド大王並みなのだ」

 ハロルドは、アルフレッド大王のバラッドをうろ覚えの記憶から引き出す。

「王の歩く道には黄金の小麦が輝き、王の帰還に薔薇は喜びに満ち溢れる。そんなフレーズがありましたね」

 大使館の満開のバラはユーリが来てから、より鮮やかに咲き誇っているようにハロルドには思えた。

「ユングフラウの綺麗な令嬢方と、恋愛ゲームなどしている場合では無いぞ。恋愛ゲームを演じてエドアルド様とユーリ嬢を親密にさせるならいざ知らす、遊び惚けてるのではない」 

 可愛いミッシェルに心引かれるが、ハロルドは気持ちを引き締める。その夜はエリザベート王妃に伴われて『薔薇の騎士』を観劇する予定のユーリは、メアリーに手伝って貰いながらドレスに着替える。

「こんな生活が続くなんて耐えられないわ」

 愚図るユーリの気持ちは理解できたが、王妃をお待たせするわけにはいかないとメアリーはテキパキと身支度させる。
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