222 / 273
第十一章 戦争と恋
5 アスランの誘惑
しおりを挟む
「確かこのあたりだったわ、あった、此処よ」
メーリングのバザールの中を迷いながら進んだユーリは、シェリフ商会の建物にたどり着いた。
「アスラン様は、いらっしゃいますでしょうか」
何度か訪問したことのあるユーリの顔は覚えられていたので、召使いは二階へと案内する。
「ユーリ、今日は何の用事ですか」
ユーリは、アスランがメーリングに滞在していて安堵した。
「こちらに座って下さい」
床のふかふかの絨毯の上で寛いでいるアスランの横に、ユーリは座る。何も合図もしてなさそうなのに、召使いが色々と食事の皿を運んで来た。
「ちょうど、お昼にしようと思っていたのです。要件は後で伺いますから、一緒に食べて下さい。一人での食事は、味気ないですからね」
付き添いの侍女と護衛にも食事が別室で出されていると聞き、ユーリは何事もゆっくりと進めるのが東南諸島風なのですよと食事を勧められて断れなくなった。
「辛いのは、苦手でしたね」
アスランはもてなし上手で、ユーリが食べやすいのを選んで皿に取ってくれる。
「とても美味しいわ。この海鮮炒めの麺は絶品だわ」
ユーリが上手に箸で食べるのをアスランは面白そうに眺める。出会った時から2年が過ぎ、可愛い少女から魅力的な女性に変わりかけているユーリに、心が惹かれているのを可笑しく思う。
アスランには口説き落とした第一夫人のミヤがいて、大事な人生のパートナーとして信頼していた。その他に何人かの押し付けられた妻はいたが、第二夫人は不在のままだった。こんな変な女の子と暮らすのも面白そうだと、アスランは考えたのだ。
「アスラン様にお願いがあって、訪ねて来たのです」
食事を終えて、お茶と甘いデザートを食べると、ユーリは本題を持ち出した。
「この竜心石を買って頂きたいのです。できれば、100万ダカットで……」
ユーリから竜心石を手渡されて、アスランはイルバニア王国には代々国王に伝わる竜心石しかないと思っていたので少し驚く。
「ふ~ん、こんな貴重な宝物を100万ダカットで手放すのですか。ダカットねぇ、ローラン王国の粗悪な金貨にはウンザリしているのですよ。あの国のゲオルク王は、自らの首を締めてますね。元の金貨を集めて粗悪なダカット金貨を倍増して、経済をどうにか回そうとしてますが、1ダカット=1クローネどころか、3ダカットで1クローネにも扱われなくなっていますよ」
ユーリは普段なら興味深いローラン王国の貨幣政策の失敗を語るアスランにあれこれ質問しただろうが、今は竜心石を買ってくれるのかどうかが気にかかる。
「ゲオルク王が裕福な商人や地主の財産を没収するから、経済は冷え込む一方ですしね。緩い統治のイルバニア王国は戦争間近なのに、相変わらず呑気さを発揮して、消費は冷え込んでないから貿易相手として助かっていますよ」
貿易立国の東南諸島連合王国の王子であるアスランは、実際にローラン王国に何度かシェリフ商会の御曹司として足を運んだことがあり、行く度にゲオルク王の全体主義的な政策に反発を感じていた。
自由貿易が東南諸島のモットーなので、ここ数年はイルバニア王国からの直接の小麦の輸出が押さえられているので、食料自給率の低いローラン王国に小麦を密輸して大儲けを企む商人も多かった。しかし、ローラン王国が支払う粗悪なダカット金貨の相場の件で、東南諸島の商人との悶着は絶えない。
「100万ダカットかぁ、ローラン王国からバロア城の賠償金でも要求されましたか? 馬鹿げた請求書など無視しなさい」
「なぜバロア城の賠償金だとわかったのですか」
ユーリが驚くのを、アスランは笑う。
「貴女がダカットだと言うからですよ。第一、ゲオルク王は間抜けだなぁ。100万クローネで、請求すれば良かったのにな。ダカット金貨は国際的に信用を無くして、下落一方ですよ。最新の相場では30万クローネ位に落ち込んでますよ。まぁ、金の保有量からしたら40万クローネ位の値打ちはあるから、30万クローネは低く過ぎですから、買い取って利鞘を儲けても良いですけどね」
それだけ貿易相手が、ローラン王国との取引をウンザリしているとの評価だと、アスランは皮肉を込めて笑う。
国のミヤならチャッカリとローラン王国に小麦を運んで粗悪なダカット金貨を掴まされた商人達から安く買い取って、東南諸島連合王国の金貨鋳造所に金の目方売りをしてるだろうと想像する。
「貴女はこの竜心石を、魔力に取り付かれたゲオルク王に売り飛ばすとは考えないのですか。まぁ、騎竜の魔力を吸い上げる彼奴の遣り口は気にいりませんから、私はしませんけどね」
ユーリは竜心石をゲオルク王が手に入れる危険性を考えて無かったので顔色を変えたが、アスランも嫌ってるから協力しないと聞いて安心する。
「ふ~ん、何でバロア城の賠償金なんか気にするのですか? あんなの誰から見ても不法でしょう。ユーリも少しは頭を使えばわかるでしょうに、それでも気に障るのですね…‥」
ユーリも皆から説得されるまでもなく、腹立ちは感じるが払う必要性が無いのは理解していた。
「馬鹿げてるのはわかっているの。でも、100万ダカットで、ローラン王国と繋がっている気持ち悪さが耐えきれなくて……」
アスランは、ユーリの馬鹿な潔癖症は嫌いじゃ無いなと思う。
「そういう馬鹿なプライドは好きですね。ただ、貴女の100万ダカットで、ローラン王国は兵站とか買い付けるのではないでしょうかね」
「そう言えば……そうかも! そんなの許せないわ」
目から鱗のユーリを、クスクスと笑いながらアスランは引き寄せる。
「イルバニア王国の人達も、同じようなことを言っていたと思いますよ。聞く耳を持っていなかったのでしょう」
可愛い耳なのにと、ふざけて耳にキスをしてきたアスランを突き飛ばして、ユーリは側から離れる。
「おや、ルドルフ皇太子に操を立てるのですか」
もう! とユーリが怒って立ち上がろうとするのを、手をつかんで抱き寄せた。
「怒った貴女は魅力的ですね」
黒く輝く瞳に見つめられて、ユーリはドキマギする。皮肉な言葉や、傲慢な態度ばかり気にしていたが、アスランはとても整った顔をしているのに気づいた。
「冗談は、言わないで下さい」
ユーリはアスランを押し返しながら、ふざけているのだと怒った。
「私は、まだ第二夫人を見つけて無いのですよ。おおっと、誤解しないで下さい。第一夫人のミヤとは、貴女の考えているような関係ではありません」
ユーリが第二夫人と聞いて怒って立ち去ろうとしたのを、慌てて弁解する。
「う~ん、東南諸島連合王国の結婚制度は、誤解されやすいのですよね。第一夫人のミヤは妻ではなく、そうですねぇ、人生のパートナーなのです。留守にしがちの私に代わって、財産と家の管理をしてくれているだけです」
ユーリは前から東南諸島の結婚制度には疑問を沢山持っていたので、二人っきりで話せるチャンスに引き込まれてしまう。アスランと結婚制度について議論をしているうちに、お互いの考え方を腹を割って話せる相手を見つけたのに気づいた。
「ユーリの考え方と、行動は矛盾している。旧帝国から独立した三国は女性を大事にしているようで、自立を認めてませんからね。貴女も女性人権を重視した進んだ考え方なのに、フリーな結婚制度を受け入れられないのか不思議です」
「フリーなのは、男性だけに思われます。移り気な男の人に、都合が良い結婚制度では無いのですか」
「冗談じゃない、私なんか欲しくもない妻を何人も押し付けられて困っているのですよ。他の結婚相手を見つけるのに、どれほどミヤと苦労しているか。より良い条件の相手でなければ、結婚して出て行ってくれませんから、苦心惨憺して減らしても、次のが送りこまれて閉口してるのです。ミヤは持参金を増やす能力が高いから、狙われているのです」
ユーリは東南諸島連合王国の変わった結婚制度を、興味津々で聞く。
「何人もの奥さんは、嫉妬とかしないのですか。それに子どもはどうなるのですか」
「嫉妬は感じるのかもしれませんね。でも、第二夫人以外は基本は他へのステップアップと考えていますから、より良い縁談の為の能力の高い子供を持つことに熱心です。能力の高い子供を産むと、玉の輿に乗り易くなりますからね」
アスランと結婚している内に持参金を増やして貰って、次のより良い条件の結婚相手にステップアップしていく、強かな女の人の生き方を面白く思う。
「ユーリは私と結婚したら、他のややこしい求婚者から解放されますよ。ずっと一緒に、世界中を竜や船で回るのも面白いと思うな。ゴルチェ大陸には未開の土地も多いですが、変わった宗教を信じる国や、魔法に満ちた国もあります。イルバニア王国に縛られず、色んな国を見てみたいと思いませんか」
アスランの話す極彩色の鳥が飛び交う島や、嵐の後の虹、雄大な自然の驚異、海に飛び込む色とりどりの更紗を着た女の人達の話にユーリは引き込まれた。
「ほら、こんな更紗を身体に巻き付けて、海に飛び込む貴女の姿を想像してみて下さい。色とりどりの熱帯魚や、イルカと一緒に暖かな海で泳ぐのです。メリルもイリスも海水浴を楽しみますよ」
アスランは赤地に細かな模様が染め付けられた更紗をユーリに被せて、よく似合いますよと抱き寄せる。
ユーリは、アスランの見知らぬ世界の話に魅了された。
「でも……」戦争になりそうな祖国を捨てて、アスランについて行くのはとユーリは戸惑う。
「貴女が祖国にいたいなら、それでも良いのです。束縛はしませんから」
黒い瞳に引き込まれそうになっていたユーリは、アスランにキスされそうになった瞬間、悲しそうな金褐色の瞳が浮かんで突き放す。
アスランとの生活は魅力的だが、自分でなくとも良いのだと感じる。でも、グレゴリウスが自分がアスランと世界中を飛び回ったりしたら、悲しむだろうと思うと、色鮮やかな世界も意味のない物に感じる。
「ユーリ! 何をしてるんだ!」
話に夢中になっていた二人は、階下の騒ぎに気づいて無かった。グレゴリウスとジークフリードはイリスを見張ってたので、ユーリがメーリングに行ったのに気づくのに遅れたが、馬車の御者から宝石店を聞き、竜心石を売ろうとしていたと驚愕してシェリフ商会に乗り込んだ。
止める召使いや護衛を押し切って二階に駆け込んだグレゴリウスは、アスランの腕の中にいるユーリにショックを受けた。
「連れて帰ります!」
ユーリの手を掴んで立ち上がらせると、強引に屋上へつれてあがりアラミスに乗せて飛び立った。あまりの無礼さに呆気にとられたアスランは、怒るより、笑いの発作に襲われる。
ジークフリードと防戦中の召使いを笑いながら止めると、ユーリと暮らしたら退屈とは無縁だったのになぁと呟く。
「アスラン・シェリフ・シャザード・ファミーリア殿下、ユーリ嬢から竜心石を買いとられたのですか?」
ジークフリードは重大な話をきちんと聞かないと、この場を後に出来なかった。
「まぁ、話は飲みながらにしましょう。竜心石はユーリが持っていますから、大丈夫ですよ。なぜ、私の名前を知っているのか教えて欲しいですね。それに失恋した自棄酒を、独りで飲むのは味気なさすぎますよ」
「少しの間ならお付き合いします。若い二人が、間違いをおこしては大変ですからね」
「イルバニア王国一の色男が、無粋なことを言うのだな」
ジークフリードは軽く抗議しながら、酒席に付き合う。
「皇太子殿下の指導の竜騎士ですし、ユーリ嬢の父上とはハトコですからね。それに亡くなる時にユーリ嬢を見守ると約束しましたから」
ジークフリードは注がれた酒を一気に飲み干す。アスランは、失恋したのは自分だけでは無いなと苦笑して、自棄酒を飲む。
メーリングのバザールの中を迷いながら進んだユーリは、シェリフ商会の建物にたどり着いた。
「アスラン様は、いらっしゃいますでしょうか」
何度か訪問したことのあるユーリの顔は覚えられていたので、召使いは二階へと案内する。
「ユーリ、今日は何の用事ですか」
ユーリは、アスランがメーリングに滞在していて安堵した。
「こちらに座って下さい」
床のふかふかの絨毯の上で寛いでいるアスランの横に、ユーリは座る。何も合図もしてなさそうなのに、召使いが色々と食事の皿を運んで来た。
「ちょうど、お昼にしようと思っていたのです。要件は後で伺いますから、一緒に食べて下さい。一人での食事は、味気ないですからね」
付き添いの侍女と護衛にも食事が別室で出されていると聞き、ユーリは何事もゆっくりと進めるのが東南諸島風なのですよと食事を勧められて断れなくなった。
「辛いのは、苦手でしたね」
アスランはもてなし上手で、ユーリが食べやすいのを選んで皿に取ってくれる。
「とても美味しいわ。この海鮮炒めの麺は絶品だわ」
ユーリが上手に箸で食べるのをアスランは面白そうに眺める。出会った時から2年が過ぎ、可愛い少女から魅力的な女性に変わりかけているユーリに、心が惹かれているのを可笑しく思う。
アスランには口説き落とした第一夫人のミヤがいて、大事な人生のパートナーとして信頼していた。その他に何人かの押し付けられた妻はいたが、第二夫人は不在のままだった。こんな変な女の子と暮らすのも面白そうだと、アスランは考えたのだ。
「アスラン様にお願いがあって、訪ねて来たのです」
食事を終えて、お茶と甘いデザートを食べると、ユーリは本題を持ち出した。
「この竜心石を買って頂きたいのです。できれば、100万ダカットで……」
ユーリから竜心石を手渡されて、アスランはイルバニア王国には代々国王に伝わる竜心石しかないと思っていたので少し驚く。
「ふ~ん、こんな貴重な宝物を100万ダカットで手放すのですか。ダカットねぇ、ローラン王国の粗悪な金貨にはウンザリしているのですよ。あの国のゲオルク王は、自らの首を締めてますね。元の金貨を集めて粗悪なダカット金貨を倍増して、経済をどうにか回そうとしてますが、1ダカット=1クローネどころか、3ダカットで1クローネにも扱われなくなっていますよ」
ユーリは普段なら興味深いローラン王国の貨幣政策の失敗を語るアスランにあれこれ質問しただろうが、今は竜心石を買ってくれるのかどうかが気にかかる。
「ゲオルク王が裕福な商人や地主の財産を没収するから、経済は冷え込む一方ですしね。緩い統治のイルバニア王国は戦争間近なのに、相変わらず呑気さを発揮して、消費は冷え込んでないから貿易相手として助かっていますよ」
貿易立国の東南諸島連合王国の王子であるアスランは、実際にローラン王国に何度かシェリフ商会の御曹司として足を運んだことがあり、行く度にゲオルク王の全体主義的な政策に反発を感じていた。
自由貿易が東南諸島のモットーなので、ここ数年はイルバニア王国からの直接の小麦の輸出が押さえられているので、食料自給率の低いローラン王国に小麦を密輸して大儲けを企む商人も多かった。しかし、ローラン王国が支払う粗悪なダカット金貨の相場の件で、東南諸島の商人との悶着は絶えない。
「100万ダカットかぁ、ローラン王国からバロア城の賠償金でも要求されましたか? 馬鹿げた請求書など無視しなさい」
「なぜバロア城の賠償金だとわかったのですか」
ユーリが驚くのを、アスランは笑う。
「貴女がダカットだと言うからですよ。第一、ゲオルク王は間抜けだなぁ。100万クローネで、請求すれば良かったのにな。ダカット金貨は国際的に信用を無くして、下落一方ですよ。最新の相場では30万クローネ位に落ち込んでますよ。まぁ、金の保有量からしたら40万クローネ位の値打ちはあるから、30万クローネは低く過ぎですから、買い取って利鞘を儲けても良いですけどね」
それだけ貿易相手が、ローラン王国との取引をウンザリしているとの評価だと、アスランは皮肉を込めて笑う。
国のミヤならチャッカリとローラン王国に小麦を運んで粗悪なダカット金貨を掴まされた商人達から安く買い取って、東南諸島連合王国の金貨鋳造所に金の目方売りをしてるだろうと想像する。
「貴女はこの竜心石を、魔力に取り付かれたゲオルク王に売り飛ばすとは考えないのですか。まぁ、騎竜の魔力を吸い上げる彼奴の遣り口は気にいりませんから、私はしませんけどね」
ユーリは竜心石をゲオルク王が手に入れる危険性を考えて無かったので顔色を変えたが、アスランも嫌ってるから協力しないと聞いて安心する。
「ふ~ん、何でバロア城の賠償金なんか気にするのですか? あんなの誰から見ても不法でしょう。ユーリも少しは頭を使えばわかるでしょうに、それでも気に障るのですね…‥」
ユーリも皆から説得されるまでもなく、腹立ちは感じるが払う必要性が無いのは理解していた。
「馬鹿げてるのはわかっているの。でも、100万ダカットで、ローラン王国と繋がっている気持ち悪さが耐えきれなくて……」
アスランは、ユーリの馬鹿な潔癖症は嫌いじゃ無いなと思う。
「そういう馬鹿なプライドは好きですね。ただ、貴女の100万ダカットで、ローラン王国は兵站とか買い付けるのではないでしょうかね」
「そう言えば……そうかも! そんなの許せないわ」
目から鱗のユーリを、クスクスと笑いながらアスランは引き寄せる。
「イルバニア王国の人達も、同じようなことを言っていたと思いますよ。聞く耳を持っていなかったのでしょう」
可愛い耳なのにと、ふざけて耳にキスをしてきたアスランを突き飛ばして、ユーリは側から離れる。
「おや、ルドルフ皇太子に操を立てるのですか」
もう! とユーリが怒って立ち上がろうとするのを、手をつかんで抱き寄せた。
「怒った貴女は魅力的ですね」
黒く輝く瞳に見つめられて、ユーリはドキマギする。皮肉な言葉や、傲慢な態度ばかり気にしていたが、アスランはとても整った顔をしているのに気づいた。
「冗談は、言わないで下さい」
ユーリはアスランを押し返しながら、ふざけているのだと怒った。
「私は、まだ第二夫人を見つけて無いのですよ。おおっと、誤解しないで下さい。第一夫人のミヤとは、貴女の考えているような関係ではありません」
ユーリが第二夫人と聞いて怒って立ち去ろうとしたのを、慌てて弁解する。
「う~ん、東南諸島連合王国の結婚制度は、誤解されやすいのですよね。第一夫人のミヤは妻ではなく、そうですねぇ、人生のパートナーなのです。留守にしがちの私に代わって、財産と家の管理をしてくれているだけです」
ユーリは前から東南諸島の結婚制度には疑問を沢山持っていたので、二人っきりで話せるチャンスに引き込まれてしまう。アスランと結婚制度について議論をしているうちに、お互いの考え方を腹を割って話せる相手を見つけたのに気づいた。
「ユーリの考え方と、行動は矛盾している。旧帝国から独立した三国は女性を大事にしているようで、自立を認めてませんからね。貴女も女性人権を重視した進んだ考え方なのに、フリーな結婚制度を受け入れられないのか不思議です」
「フリーなのは、男性だけに思われます。移り気な男の人に、都合が良い結婚制度では無いのですか」
「冗談じゃない、私なんか欲しくもない妻を何人も押し付けられて困っているのですよ。他の結婚相手を見つけるのに、どれほどミヤと苦労しているか。より良い条件の相手でなければ、結婚して出て行ってくれませんから、苦心惨憺して減らしても、次のが送りこまれて閉口してるのです。ミヤは持参金を増やす能力が高いから、狙われているのです」
ユーリは東南諸島連合王国の変わった結婚制度を、興味津々で聞く。
「何人もの奥さんは、嫉妬とかしないのですか。それに子どもはどうなるのですか」
「嫉妬は感じるのかもしれませんね。でも、第二夫人以外は基本は他へのステップアップと考えていますから、より良い縁談の為の能力の高い子供を持つことに熱心です。能力の高い子供を産むと、玉の輿に乗り易くなりますからね」
アスランと結婚している内に持参金を増やして貰って、次のより良い条件の結婚相手にステップアップしていく、強かな女の人の生き方を面白く思う。
「ユーリは私と結婚したら、他のややこしい求婚者から解放されますよ。ずっと一緒に、世界中を竜や船で回るのも面白いと思うな。ゴルチェ大陸には未開の土地も多いですが、変わった宗教を信じる国や、魔法に満ちた国もあります。イルバニア王国に縛られず、色んな国を見てみたいと思いませんか」
アスランの話す極彩色の鳥が飛び交う島や、嵐の後の虹、雄大な自然の驚異、海に飛び込む色とりどりの更紗を着た女の人達の話にユーリは引き込まれた。
「ほら、こんな更紗を身体に巻き付けて、海に飛び込む貴女の姿を想像してみて下さい。色とりどりの熱帯魚や、イルカと一緒に暖かな海で泳ぐのです。メリルもイリスも海水浴を楽しみますよ」
アスランは赤地に細かな模様が染め付けられた更紗をユーリに被せて、よく似合いますよと抱き寄せる。
ユーリは、アスランの見知らぬ世界の話に魅了された。
「でも……」戦争になりそうな祖国を捨てて、アスランについて行くのはとユーリは戸惑う。
「貴女が祖国にいたいなら、それでも良いのです。束縛はしませんから」
黒い瞳に引き込まれそうになっていたユーリは、アスランにキスされそうになった瞬間、悲しそうな金褐色の瞳が浮かんで突き放す。
アスランとの生活は魅力的だが、自分でなくとも良いのだと感じる。でも、グレゴリウスが自分がアスランと世界中を飛び回ったりしたら、悲しむだろうと思うと、色鮮やかな世界も意味のない物に感じる。
「ユーリ! 何をしてるんだ!」
話に夢中になっていた二人は、階下の騒ぎに気づいて無かった。グレゴリウスとジークフリードはイリスを見張ってたので、ユーリがメーリングに行ったのに気づくのに遅れたが、馬車の御者から宝石店を聞き、竜心石を売ろうとしていたと驚愕してシェリフ商会に乗り込んだ。
止める召使いや護衛を押し切って二階に駆け込んだグレゴリウスは、アスランの腕の中にいるユーリにショックを受けた。
「連れて帰ります!」
ユーリの手を掴んで立ち上がらせると、強引に屋上へつれてあがりアラミスに乗せて飛び立った。あまりの無礼さに呆気にとられたアスランは、怒るより、笑いの発作に襲われる。
ジークフリードと防戦中の召使いを笑いながら止めると、ユーリと暮らしたら退屈とは無縁だったのになぁと呟く。
「アスラン・シェリフ・シャザード・ファミーリア殿下、ユーリ嬢から竜心石を買いとられたのですか?」
ジークフリードは重大な話をきちんと聞かないと、この場を後に出来なかった。
「まぁ、話は飲みながらにしましょう。竜心石はユーリが持っていますから、大丈夫ですよ。なぜ、私の名前を知っているのか教えて欲しいですね。それに失恋した自棄酒を、独りで飲むのは味気なさすぎますよ」
「少しの間ならお付き合いします。若い二人が、間違いをおこしては大変ですからね」
「イルバニア王国一の色男が、無粋なことを言うのだな」
ジークフリードは軽く抗議しながら、酒席に付き合う。
「皇太子殿下の指導の竜騎士ですし、ユーリ嬢の父上とはハトコですからね。それに亡くなる時にユーリ嬢を見守ると約束しましたから」
ジークフリードは注がれた酒を一気に飲み干す。アスランは、失恋したのは自分だけでは無いなと苦笑して、自棄酒を飲む。
22
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる