スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香

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第十一章  戦争と恋

15  ユーリ、北の砦に行く

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 国務省での実習や、新米見習い竜騎士達への騎竜訓練や、諸々の事を後回しにして、古文書の研究とゲオルク王の策を破る方法を見つけ出すように命じられた。

「ゲオルク王は竜達の心を縛り付けて、思い通りに操っている。少しの間でも接触を断ち切れば、本陣を突くこともできるのだ」

 国王から直々に依頼を受けて、ビクターとユーリは古文書を読み進める。

「だぁ~、もう少し頑張れよ」

「この古文書はどうやら民間伝承を集めて書いた物みたいね~。玉菜を満月の夜に夫婦で採りに行くと子宝に恵まれる……キャベツ畑に赤ちゃんを拾いに行くという御伽噺の元かしら……他の古文書を読んでみるけど、少し休憩させて……」

 ビクトリアをソファーの奥に押しやると、ユーリはドタンと倒れ込む。ビクトリアはヘルメスから真名は魔力を持つ人間には危険だと聞いて、ユーリとビクターのストッパー役として古文書の研究につき合っていたのだが、ぐったりしている額に手をあてる。

「ユーリ、少し熱があるわね」

 読んでいた本をバタンと閉じて立ち上がると、ビクトリアはシンプソン夫人にベッドの用意を命じる。

「少し休めば大丈夫です」

 ビクトリアは大丈夫そうに見えないと、ユーリをベッドに押し込んだ。

「ビクトリア、一刻も早く打開策を見つけなくてはいけないんだぞ」

 フォン・フォレストに滞在していた時は髭を剃っていたのに、もじゃもじゃの熊のような有り様のビクターの額に手をおくと、やはり此方も熱を出している。

「あら、嫌だわ、貴方みたいな図体のデカい人の看病なんて御免だわよ。サッサとアレックスに手紙を書いて、手伝いを頼みなさいよ。それを書いたら貴方もベッドへ直行よ」

 ビクトリアの言う通りだとはビクターも思っていたが、変人なりにプライドがあったので、少し専門違いだと感じながらも、ライバルに助力を願うのを躊躇う。しかし、国難の時にそんな事を言ってられないと、アレックスを呼び寄せることにした。

「酷いじゃないか! 古文書を読む時は知らせる約束だっただろ」

 着くや否や怒鳴りだしたアレックスに、ルナとソリスは牙を剥いて威嚇する。

『これ、ルナ、ソリス! こちらはアレックス様よ。そんな牙を剥いては駄目よ』

『敵じゃないの?』

 ルナの微かな声が、アレックスは聞こえた気がする。

「ユーリ、この狼達は……もしかして話せるのか!」

 ガバッとルナを捕まえようとしたアレックスは、手をガブリと噛まれてしまう。

「ごめんなさい……でも、いきなり捕まえようとするからよ。自己紹介をして下さい」

 アレックスはユーリの指示通りに自己紹介する。

『噛んでごめんね』

『良いよ、こちらが脅かしたのが良くなかったんだ。君はルナ、そちらはソリスだね』

『ルナ、アレックス様の言葉が聞こえるの?』

 ユーリは今まで子狼達と話せるのは竜騎士達だけだったので驚く。

『なんとなくだけど……』

「アレックス様は竜騎士になれたかもしれませんね」

 ハロルド達と同様に10才の時の竜騎士の素質検査では、未だ未発達で落とされたのだとユーリは気の毒に思ったが、アレックスは別の考えだ。

「竜騎士だなんて御免だな。竜は便利だけど、剣を振り回したり、国に尽くす義務など研究の邪魔じゃないか。それに父上が小躍りして、王位継承権があるとか言って結婚相手を連れてきそうだ。でも、子狼達ともう少し話せたら良かったかな~。ターシュをエドアルド皇太子が見つけたのだが、私は話せないのだ」

 ユーリとビクターで先ずは古文書の研究だと、ターシュとの会話に思いを馳せているアレックスを引き戻す。流石に真名を研究しているアレックスが加わると、古文書を読むスピードは早くなる。

 でも、なかなか都合のよい術は見あたらなかった。

「全部、読むのは何年もかかりそうだな。竜とか、結界とか、操るとかの文字を探してみるしかないか……それか、他のアプローチを考えるかだな」

 普段の研究とは違い一刻を争うので、全文を読んでいくのは無理だとアレックスも感じる。

「ユーリの騎竜のイリスは火を噴くんだよな。他の竜は火を噴かないが、噴けたら有利ではないかな?」

 アレックスにどうやってイリスに火を噴かすのだと問い詰められても、ユーリは自分の怒りに反応しただけだと答える。

「私がイリスに火を噴かした訳ではないもの。でも、制御して火を噴くことができたら、火を避けようとして隊列は崩せるわね。竜は魔法の塊みたいな生き物だけど、火を避けるのは本能的な動きみたいだわ。でも、ルドルフ皇太子を火から庇ったから、竜は火傷とかはしなさそうね」

 どうやって火を噴かせるのか……ユーリはイリスに火を噴いた時を思い出してみてと頼んだが、怒り狂っていたとしか聞き出せない。

『イリスは前に火を噴いたのだから、今も噴ける?』

『う~ん、無理みたい……何でだろう?』

 火を噴いたイリスが無理だと言うなら、他の竜達に制御した火を噴けるわけがないとユーリはがっかりする。

「イリスからのアプローチが駄目なら、ユーリが頑張って火の真名を見つけ出すしかないな」

 アレックスの励ましの言葉に、ユーリは考え込む。

「火……炎……『焔』……」

『イリス、焔を噴いて!』

 ユーリの命令に、イリスは反応して火を噴く。

「やったね! 竜に火を噴かすことができたな」

 喜ぶアレックスだが、ユーリは竜が敵ではあろうと火を噴きつけるのは見たくないと複雑な気持ちだ。

「他の竜達も、火を噴けるか確かめないとな」

 ビクターもユーリが何をぐずぐずしているのかと、国王に報告しに行くように急かす。



「ユーリ、それは朗報だ。ギャランスで試してみよう」

 国王は北の砦での苦戦の報告に心を悩ませていたので、竜達に火を噴かすことが出来ると聞いて喜ぶ。空に火を噴く竜が飛んでいたら、ローラン王国の騎兵隊はちりじりに逃げて行くだろう。

 王宮の竜舎からギャランスを馬場に連れ出すと、国王陛下はユーリが書いた『焔』を読み上げたが、ギャランスはキョトンとしたままだ。

「上手くいかないな」

 ユーリは結界を教えた時を思い出して、イリスからギャランスに火の噴き方を教えさせたりしたが、国王がいくら『焔』を噴けと念じても、煙草に火も付けれそうにない。

「ユーリ、お前がギャランスに命令してみてくれないか。イリスだけが火を噴けるのか、他の竜達もできるのか知りたいのだ」

 ユーリはギャランスに『焔』を噴くように命じる。するとギャランスはイリスから聞いてはいたが、全く出来なかった『焔』が身体の中でカチッと音がして、喉を駆け上がる気持ちと同時に空に向かって火を噴き出した。

『おお、ギャランス! どうやって火を噴いたのだ』

『わからない、身体の中から込み上げてきたんだ』

『一度、火を噴いたのだから、やり方はわかっただろう。
『焔』を噴け!』 

 国王が命じても、ギャランスは火を噴いた時を思い出して、再現しようと努力したが無理だった。

 アルフォンスは、自分が真名を使いこなせないのだと悟る。ユーリを戦場には行かせないと、王妃にも約束したし、戦死者や負傷者を目に入れさせたくなかったが、非情な決断を下す。

「ユーリ、北の砦に行ってくれないか。あちらでアリスト卿の指示に従うのだ」

 なるべくユーリが北の砦で戦場の惨状を目にする時間を少なくしたいと考えて、作戦の前日に派遣する事を決定する。

 ユーリは見習い竜騎士達が北の砦に派兵されたのに憤りを感じていたが、竜達に火を噴かせた後の惨状を想像して心を暗くする。ユングフラウに残っている竜達で制御の精確さを練習して、せめて必要以上の被害をもたらさないようにしたいと考える。

 ユーリは北の砦には子狼達を連れていけないので、話ができる予科生達に世話をお願いする。

「ユーリ先輩までが、北の砦に派遣されるだなんて……」

 見習い竜騎士達がいなくなったリューデンハイムの寮はひっそりとしていたが、ユーリと子狼達が予科生達の心の支えになっていた。

「私は直ぐに帰ってくるわ。それまでルナとソリスをお願いね」

 予科生達は自分達も竜騎士を目指す立場だから、引き止めはしなかったが、マウリッツ公爵家への挨拶は難航した。


「貴女が戦場に行くだなんて!」

 マリアンヌはユーリを抱きしめて離さないと騒ぎ立てたし、老公爵はこのまま屋敷に閉じ込めようかとまで考える。

「お祖父様、叔母様、ご心配をお掛けして申し訳有りません。でも、看護婦や、賄いの女の人達も、北の砦には居ますし、祖父からも短期だけと念押しされましたから、直ぐにユングフラウに帰ってきますわ」

 老公爵は屋敷に閉じ込めてもイリスの絆の竜騎士であるユーリには無意味だと悟って、あれこれ注意事項を話して聞かせる。

 ユーリはフォン・フォレストのお祖母様には手紙で知らせる事にした。マウリッツ老公爵と違い、モガーナは領地に閉じ込めかねないからだ。

 北の砦に行く前の夜に、ユーリは万が一を考えて、パーラーやミシン会社の後を任せる人を書き残したりして、まるで遺言書みたいと苦笑する。

「ユーリ様、私は北の砦に付いて行きます」

 ユーリが手紙を書き終わって机の引き出しにしまっていると、メアリーが思い詰めた顔で付き添いを申し出る。

「メアリー、気持ちはありがたく頂いておくわ。でも、社交に行くのではないの。付き添いなど気にしない戦場に行くのよ」

 メアリーはユーリの言葉に初めて逆らった。

「いいえ、ユーリ様は皇太子妃になられる御方です。侍女の付き添い無しで、戦場であろうと行かせるわけにはいきません。それに王妃様から許可を頂いています」

 ユーリは、メアリーが差し出した王妃からの手紙を読んで溜め息をつく。

「戦場でも侍女が付き添わなくてはいけないの……メアリーも戦場の悲惨さを目にすることになるのよ」

 メアリーは若いお嬢様にこそ目にして欲しくないと言い返す。ユーリは幼い時から世話になっているメアリーに根負けしてしまう。

「お祖父様は侍女付きで戦場に来た私に何と言われるかしら……」

 想像しただけでトホホな気持ちになったユーリだが、王妃から先に連絡が入っていたのでマキシウスは了承済みだ。



「ユーリ、本当に来たんだね」

 グレゴリウスはユーリが戦場に来た心配と共に、1ヶ月ぶりに会えた喜びで、イリスから抱き下ろすとキスをする。

「グレゴリウス様、皆が見ていますわ」

 ユーリも久しぶりに会えたグレゴリウスと話したり、キスしたりもしたかったが、兵士で溢れている北の砦でいちゃつく根性はない。それに戦争の犠牲者の棺や、負傷者が次々と運び込まれる救護所の様子に、ユーリは戦争の悲惨さに心を痛めた。

「お祖父様、救護所を手伝いたいわ」

 ユーリの申し出を、マキシウスは却下する。

「お前が北の砦に派遣されたのは、竜達に火を噴かす為だ。治療の技で疲労して、作戦を失敗させたくない。今日は少し休んでから、竜達に火を噴かす練習をさせて欲しい。どの程度の威力なのか、知りたいのだ」

 ユーリはグレゴリウスに、宿舎まで案内して貰う。メアリーは荷物をほどいたり、水の有る場所を探したりと忙しくしていたが、ユーリはベッドに横たわると、王宮で説明された計画を思い浮かべる。

「計画通りに運ぶと良いけど……」

 昨夜から緊張して寝不足だったユーリは、メアリーが顔を洗う水を運んで来た時には、すやすやと寝ていた。メアリーはこんな戦場で昼寝を取れるお嬢様に呆れかえり、これぐらいでないと絆の竜騎士にはなれないのかしらと考える。

 しかし、ユーリの眠りは流石に浅く、メアリーが入室した気配でハッと目覚めた。
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