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第十一章 戦争と恋
17 カサンドラ
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決戦の朝、ローラン王国もイルバニア王国が何か仕掛けてくると警戒を高めていた。ゲオルクはルドルフを呼びつけて、イルバニア王国の動きに注意するように命じる。
「あのアリスト卿がこのまま制空権を渡す事は無いだろう。何か作戦を立ててくる」
ルドルフは父王の旧帝国を復興するという野望に踊らされているローラン王国の現状を憂う。
元々、荒れ地が多く厳しい気候のローラン王国は食糧自給率が低く、イルバニア王国からの輸入に頼っている。その上、徴兵制で農村から働き盛りの男達を引き上げては、それでなくとも乏しい食糧が足らなくなるのは目に見えていた。
「先ずはイルバニア王国の穀物地帯を我が領土として、カザリア王国に攻め入る」
誰が聞いても夢物語だとルドルフは考えるのに、何故か国民はゲオルク王を支持する者が多いのが不思議でならない。ローラン王国の貧しい民は、他国を侵略して豊かな大地を我が物にする夢に踊らされていた。
しかし、それにも翳りが現れてきたとルドルフは憂慮する。東南諸島連合王国は粗悪なダカット金貨の取り引きを嫌がり、イルバニア王国の海軍と渡り合ってまで穀物を運び込まなくなってしまい、秋の収穫までには餓死者が出そうな有り様なのだ。
流石に餓えた群衆はゲオルク王の政策は間違っているのではと陰でコソコソ言い始め、荒れ果てた農地を耕すのを諦めて逃げ出した領民を捕らえるのに貴族達は労力を費やしている。ゲオルク王がそんな国の状況を無視して戦争に勝利する事だけを考えているのが、ルドルフには狂気に思えておぞましい。
ゲオルクの騎竜のカサンドラも、我が身の不幸を嘆く。
『若い日のゲオルクは希望に満ち、野心的ではあるが国を豊かにしようとしていたのに……いつから、旧帝国の復興などという悪夢に取り付かれたのだろう』
ゲオルクが弟のヘンドリックスを捕らえた辺りから、カサンドラは絆の竜騎士との心の交流が取れなくなった。自分から魔力を引き出すのはまだしも、ヘンドリックスのマリナーズからも魔力を引き出し始めた時に、カサンドラはゲオルクを絆の竜騎士に選んだのは間違いだったと後悔した。
『国を荒らし、民を苦しめる王の力の源になるために自分が存在するのか……いっそ死んでしまいたい』
カサンドラの嘆きは、絆の竜騎士のゲオルクに届かない。竜は自国の為に他国を侵略する手助けもするが、ゲオルクの自国も何もかも旧帝国復興という馬鹿げた夢の犠牲にするやり方には、カサンドラはついていけない。
ゲオルク王は自分の騎竜との交流を切って、忠告に耳を傾けなかった報いを今日受ける事になる。
イルバニア王国の竜編隊が本陣に向かって襲撃をかけるのを、ゲオルクは何を企んでいるのだと警戒しながら、先ずは普通の竜騎士を乗せた編隊に防衛を任せる。
北の砦の塀の上で、ユーリはイリスと共にマキシウスからの合図を待っていた。
『ユーリ、今だ!』
マキシウスは防衛に現れた竜騎士編隊に向かっていき、火を噴きつけて編隊を乱して突っ切る作戦を立てた。
『ラモス、パリス、アトス、サイラス、ジョナス『焔』を噴いて!』
竜達は一斉に、防衛の竜騎士編隊に火を噴きかける。
防衛の竜達は火から竜騎士を護ろうと大混乱に陥り、その隙をついてマキシウス達とサブの竜騎士編隊が本陣へと目指して突破していく。
隊列を崩した竜騎士編隊に、イルバニア王国の竜騎士隊が襲いかかり、本陣への突入を試みている竜騎士編隊への妨害に回られないようにする。
国王は第一陣は上手くいったと、息を止めていたのに気づき深呼吸する。このまま本陣に達せられる筈もなく、第二、第三と竜騎士編隊が現れる。
ユーリはマキシウスの指示に従って、竜達に火を噴かせる。
マキシウス達が本陣を奇襲している間、グレゴリウス達のサブは無人飛行の竜に何度も焔を噴き掛ける。竜は焔を本能的に避けるが、一度や二度では何も異常は無く、サブの編成隊は苦戦する。
しかし、初めはゲオルク王が操る無人の竜達を抑えるのに苦戦していたが、何度なく火を被った竜達は火傷を負い、次第に戦意を消失してき、命令通りの一糸乱れぬ動きが取れなくなる。
そうなると竜騎士を乗せていない竜達はもろく、散り散りにローラン王国の方へ逃げ去る。
ゲオルク王は自分の命令に従わず飛び去った竜達に罵声を浴びせたが、本陣まで迫ったイルバニア王国の竜騎士編隊を苦々しく睨みつけ、またしてもアリスト卿に負けるのかと腹を立てる。
流石にローラン王国も、国王がいる本陣を易々と落とされるわけにはいかないと、竜騎士総出撃で防戦にあたったが、竜達は竜騎士を護ろうと火を避けるので隊列を乱されてしまうのだ。
元々、竜騎士の数ではローラン王国に勝ち目はなく、ゲオルク王の無人竜編隊が逃げ去って後は、一方的な戦いになっていく。
「父上、このままでは本陣にイルバニア王国の竜騎士隊が到達します」
ゲオルク王は本陣が落ちそうだと進言するルドルフを怒鳴りつけて、お前には任せて置けないと自ら指揮を取ると言い出す。
「父上、それはお止め下さい。バロア城に一時撤退して、陣を立て直すべきです」
ルドルフがバロア城までの一時撤退を口にすると、ゲオルク王は激怒して殴りつける。
「お前の弱気が、この戦に悪い影響を与えているのだ! こうなったら、マキシウスの首か、アルフォンスの首を捕らないと気がおさまらぬ!」
ゲオルク王は引き止めるルドルフを足蹴にして、カサンドラと飛び立ち一気に北の砦へと突撃をかける。
マキシウス達も、グレゴリウス達も、ゲオルク王が残りの竜騎士達と北の砦に奇襲をかけるとは思ってもみなかった。普通なら火を噴く竜に怯えて逃げ出した兵士や、騎馬隊を集結させる為にも、バロア城へと一時撤退をすると考えて、退路を断つ作戦に移行中だったので、不意をつかれた形になる。
北の砦にまでも何十人もの竜騎士達がいたが、まさか特攻を仕掛けられるとは考えていなかったので、隙を突かれたが流石に防戦に勤める。
「ゲオルクめ!」
アルフォンスは、ゲオルクが自分の野心の為に国を犠牲にするやり方を憎んでいたので、北の砦に向かってくる白い竜を見ると、ギャランスに飛び乗り迎え撃つ。
「国王陛下、お止め下さい!」
ユーリはゲオルク王など相手にしないで、他の竜騎士達に任せて下さいと国王を止めようとしたが果たせなかった。
『ギャランス『焔』を噴のよ!』
ゲオルクも恵まれた農業王国の統治者である従兄のアルフォンスには長年の逆恨みを抱いていたので、ギャランスに向かっていったが、火を噴きつけられて態勢を崩す。しかし、ゲオルクは結界を張ることで対抗し、火を噴くギャランスに襲いかかり、アルフォンスに剣で斬りつけた。
「危ない!」
腕を怪我をして押され気味の国王の窮地が見てられず、ユーリは咄嗟にイリスに飛び乗ると、助太刀に参戦する。
「ユーリ、来てはいけない!」
他の竜騎士達も国王の劣勢に気づき、助けに行こうとしていたが、ローラン王国の竜騎士達に邪魔をされて果たせない。北の砦の上で戦っているゲオルクとアルフォンスの一番近くにいた竜騎士はユーリだった。
「生意気な小娘から、血祭りにあげてやろう!」
ゲオルクは竜に火を噴かせたのはユーリだと見抜いて、イルスに向かっていく。
『イリス『焔』を噴いて!』
イリスはユーリに命じられるまでもなく、ゲオルクに向かって火を噴く。巨大な火はゲオルクの結界に阻まれたように最初は見えたが、次第にカサンドラは火を避けだす。
『カサンドラ、あの小娘の首を捕るのだ!』
イリスの火を避けながら、襲撃するゲオルクに、ユーリは結界で弾き飛ばされるかもと思いながらも矢を射る。一矢は結界に飛ばされたが、二矢はカサンドラがよけた。
「結界が弱くなっている!」
ユーリは火を受け続けて結界が弱くなっているのに気づき、三矢をゲオルク王に向けて射る。
風の魔法も使い、三矢はゲオルク王を捕らえたとユーリは思ったが、カサンドラが最後の最後に、絆の竜騎士を庇った。
「竜には矢は効かないわ」
千載一遇のチャンスを逃したユーリは、四矢目を手に取ろうとして、固まってしまう。
「矢も槍も剣も弾き返す竜なのに……」
ユーリの放った三矢がカサンドラの胸に吸い込まれていくのを、ローラン王国とイルバニア王国の全員が一瞬止まって、信じられない思いで見る。
『カサンドラ!』
ゲオルク王の悲痛な叫びに、騎竜は応えた。
『ゲオルク、私はお前との絆を断つ! さらばだ……』
そう言った瞬間、カサンドラは灰のように空気に解けていった。
騎竜していた竜が消滅し、ゲオルクは地上に転落しかけたが、ルドルフが騎竜に救い上げさせる。
ユーリは余りに壮絶なカサンドラの死に茫然としていたが、国王からゲオルクを逃がすなと命令され、反射的に四矢を射る。
四矢はゲオルク王を掠めてルドルフに当たったが、ローラン王国の竜騎士隊も必死で国王と皇太子を守り通してバロア城へと撤退する。
イルスと北の砦に降り立ったユーリは、カサンドラの胸に吸い込まれていった矢の残像にガタガタと震えが止まらない。アルフォンスはユーリがどれほど竜を愛しているか知っていたので、カサンドラの死にショックを受けたのだと、腕の傷をおして抱きしめる。
『ユーリ、カサンドラは自ら死を選んだのだ。ゲオルクとの絆を断つには、死しかなかった。絆の竜騎士に裏切られるのは、死ぬより辛いからユーリのせいじゃない』
イリスの慰めに、ユーリは首に抱きついて涙を流す。
イルバニア王国の竜騎士達も全員がカサンドラの死にショックを受けたが、ゲオルク王とルドルフ皇太子の衝撃は計り知れないだろうと、この好機を生かす作戦に出る。
「ユーリ、バロア城にローラン王国の軍勢を集結させてはいけないのだ。疲れているだろうが、バロア城をイルバニア王国が落とす好機なのだ」
マキシウスに命じられて、ユーリは竜心石の真名『魂』で覚醒させて、全ての竜達に『焔』を噴くように命じる。
ローラン王国は王の騎竜が亡くなり、王は茫然自失、皇太子は矢傷を得て、士気が上がりようがない。
その上空からは火を噴く竜騎士隊がバロア城に襲いかかるし、陸は騎兵隊と歩兵に取り囲まれ、竜騎士隊は国王と皇太子をケイロンへと逃がす為に決死の逃亡戦を戦い、大勢の犠牲者をだした。
バロア城に残された兵士達は、指揮官達が逃げ出したのに防衛する意欲をなくして、白旗を立て降伏した。
「ゲオルク王とルドルフ皇太子は、取り逃がしたか……」
アルフォンスは腕に負った刀傷を治療して貰いながら、長年悩まされた宿敵を打ち損じたと悔しがる。
「ユーリ、大丈夫か」
バロア城を制圧して大多数は城に留まったが、グレゴリウスはユーリと怪我をしたお祖父様が心配で、北の砦に帰る許可を得て戻った。
ユーリは魔力を使い果たしたのと、カサンドラの死の衝撃で、ぐったりとグレゴリウスの腕に倒れ込む。
国王は自分の治療をしていたヘルメスに、ユーリを診るようにと言ったが、外傷とは違い魔力の使いすぎの発熱には打つ手は点滴ぐらいしかない。
ユーリは宿舎のベッドでカサンドラの胸に吸い込まれる矢と、灰のように消滅した様子を繰り返して夢に見てはうなされる。
メアリーは額に冷たいタオルを乗せては、夢にうなされるユーリを心配してまんじりともせずに朝を迎える。
「ユーリの様子はどうだ」
バロア城の防衛の備えを済ませたマキシウスは、無理をさせたユーリが倒れたと聞いて心配になり様子を見にきた。
「熱は少しまだありますが、落ち着いてきました。ただ、夢を見てはうなされているのが、お可哀想で……」
ユーリには北の砦で後方から竜達に命令だけをさせる筈だったのに、ゲオルク王と対決させ、カサンドラを死なす結果になってしまったと、マキシウスは心を痛める。
本陣からバロア城へと向かうと考えた自分の判断ミスで、国王に負傷させたり、孫娘の心に傷を負わせてしまったと、拳を握り締めたが、未だ戦争中なのだと気持ちを切り替える。
マキシウスとて戦争の犠牲者や負傷者に心を痛めるが、それに捕らわれてしまっては指揮者としての責務が果たせないのだ。ユーリの世話は子どもの時からの侍女のメアリーに任せて、バロア城へと帰って行く。
ユーリは目覚めると、カサンドラの最期に涙を流したが、空腹には勝てなかった。グレゴリウスは、ユーリがシチューをおかわりするのを見て、ホッとして自分も空腹だと気づき、メアリーに一緒に運んで来てもらって食べる。
「ユーリ、熱が下がったら、ユングフラウに帰るんだよ。もう、充分に戦ったからね」
グレゴリウスはローラン王国がこのまま引き下がるとは考えていなかったので、ユーリを安全なユングフラウに帰したいと思った。
「毒を食えば皿までよ。治療者の数も足りないし、ロシュフォード卿も疲れていらっしゃるわ。もう、戦闘はこりごりだけど、治療と食事は改善しないと……」
少し元気になると言うことを聞かない婚約者の唇を、グレゴリウスはキスでふさいだ。
「ユーリ、絶対に駄目だからね」
そう言いつつもグレゴリウスはユーリが側に居てくれると、心がときめいてしまうのだ。
「あのアリスト卿がこのまま制空権を渡す事は無いだろう。何か作戦を立ててくる」
ルドルフは父王の旧帝国を復興するという野望に踊らされているローラン王国の現状を憂う。
元々、荒れ地が多く厳しい気候のローラン王国は食糧自給率が低く、イルバニア王国からの輸入に頼っている。その上、徴兵制で農村から働き盛りの男達を引き上げては、それでなくとも乏しい食糧が足らなくなるのは目に見えていた。
「先ずはイルバニア王国の穀物地帯を我が領土として、カザリア王国に攻め入る」
誰が聞いても夢物語だとルドルフは考えるのに、何故か国民はゲオルク王を支持する者が多いのが不思議でならない。ローラン王国の貧しい民は、他国を侵略して豊かな大地を我が物にする夢に踊らされていた。
しかし、それにも翳りが現れてきたとルドルフは憂慮する。東南諸島連合王国は粗悪なダカット金貨の取り引きを嫌がり、イルバニア王国の海軍と渡り合ってまで穀物を運び込まなくなってしまい、秋の収穫までには餓死者が出そうな有り様なのだ。
流石に餓えた群衆はゲオルク王の政策は間違っているのではと陰でコソコソ言い始め、荒れ果てた農地を耕すのを諦めて逃げ出した領民を捕らえるのに貴族達は労力を費やしている。ゲオルク王がそんな国の状況を無視して戦争に勝利する事だけを考えているのが、ルドルフには狂気に思えておぞましい。
ゲオルクの騎竜のカサンドラも、我が身の不幸を嘆く。
『若い日のゲオルクは希望に満ち、野心的ではあるが国を豊かにしようとしていたのに……いつから、旧帝国の復興などという悪夢に取り付かれたのだろう』
ゲオルクが弟のヘンドリックスを捕らえた辺りから、カサンドラは絆の竜騎士との心の交流が取れなくなった。自分から魔力を引き出すのはまだしも、ヘンドリックスのマリナーズからも魔力を引き出し始めた時に、カサンドラはゲオルクを絆の竜騎士に選んだのは間違いだったと後悔した。
『国を荒らし、民を苦しめる王の力の源になるために自分が存在するのか……いっそ死んでしまいたい』
カサンドラの嘆きは、絆の竜騎士のゲオルクに届かない。竜は自国の為に他国を侵略する手助けもするが、ゲオルクの自国も何もかも旧帝国復興という馬鹿げた夢の犠牲にするやり方には、カサンドラはついていけない。
ゲオルク王は自分の騎竜との交流を切って、忠告に耳を傾けなかった報いを今日受ける事になる。
イルバニア王国の竜編隊が本陣に向かって襲撃をかけるのを、ゲオルクは何を企んでいるのだと警戒しながら、先ずは普通の竜騎士を乗せた編隊に防衛を任せる。
北の砦の塀の上で、ユーリはイリスと共にマキシウスからの合図を待っていた。
『ユーリ、今だ!』
マキシウスは防衛に現れた竜騎士編隊に向かっていき、火を噴きつけて編隊を乱して突っ切る作戦を立てた。
『ラモス、パリス、アトス、サイラス、ジョナス『焔』を噴いて!』
竜達は一斉に、防衛の竜騎士編隊に火を噴きかける。
防衛の竜達は火から竜騎士を護ろうと大混乱に陥り、その隙をついてマキシウス達とサブの竜騎士編隊が本陣へと目指して突破していく。
隊列を崩した竜騎士編隊に、イルバニア王国の竜騎士隊が襲いかかり、本陣への突入を試みている竜騎士編隊への妨害に回られないようにする。
国王は第一陣は上手くいったと、息を止めていたのに気づき深呼吸する。このまま本陣に達せられる筈もなく、第二、第三と竜騎士編隊が現れる。
ユーリはマキシウスの指示に従って、竜達に火を噴かせる。
マキシウス達が本陣を奇襲している間、グレゴリウス達のサブは無人飛行の竜に何度も焔を噴き掛ける。竜は焔を本能的に避けるが、一度や二度では何も異常は無く、サブの編成隊は苦戦する。
しかし、初めはゲオルク王が操る無人の竜達を抑えるのに苦戦していたが、何度なく火を被った竜達は火傷を負い、次第に戦意を消失してき、命令通りの一糸乱れぬ動きが取れなくなる。
そうなると竜騎士を乗せていない竜達はもろく、散り散りにローラン王国の方へ逃げ去る。
ゲオルク王は自分の命令に従わず飛び去った竜達に罵声を浴びせたが、本陣まで迫ったイルバニア王国の竜騎士編隊を苦々しく睨みつけ、またしてもアリスト卿に負けるのかと腹を立てる。
流石にローラン王国も、国王がいる本陣を易々と落とされるわけにはいかないと、竜騎士総出撃で防戦にあたったが、竜達は竜騎士を護ろうと火を避けるので隊列を乱されてしまうのだ。
元々、竜騎士の数ではローラン王国に勝ち目はなく、ゲオルク王の無人竜編隊が逃げ去って後は、一方的な戦いになっていく。
「父上、このままでは本陣にイルバニア王国の竜騎士隊が到達します」
ゲオルク王は本陣が落ちそうだと進言するルドルフを怒鳴りつけて、お前には任せて置けないと自ら指揮を取ると言い出す。
「父上、それはお止め下さい。バロア城に一時撤退して、陣を立て直すべきです」
ルドルフがバロア城までの一時撤退を口にすると、ゲオルク王は激怒して殴りつける。
「お前の弱気が、この戦に悪い影響を与えているのだ! こうなったら、マキシウスの首か、アルフォンスの首を捕らないと気がおさまらぬ!」
ゲオルク王は引き止めるルドルフを足蹴にして、カサンドラと飛び立ち一気に北の砦へと突撃をかける。
マキシウス達も、グレゴリウス達も、ゲオルク王が残りの竜騎士達と北の砦に奇襲をかけるとは思ってもみなかった。普通なら火を噴く竜に怯えて逃げ出した兵士や、騎馬隊を集結させる為にも、バロア城へと一時撤退をすると考えて、退路を断つ作戦に移行中だったので、不意をつかれた形になる。
北の砦にまでも何十人もの竜騎士達がいたが、まさか特攻を仕掛けられるとは考えていなかったので、隙を突かれたが流石に防戦に勤める。
「ゲオルクめ!」
アルフォンスは、ゲオルクが自分の野心の為に国を犠牲にするやり方を憎んでいたので、北の砦に向かってくる白い竜を見ると、ギャランスに飛び乗り迎え撃つ。
「国王陛下、お止め下さい!」
ユーリはゲオルク王など相手にしないで、他の竜騎士達に任せて下さいと国王を止めようとしたが果たせなかった。
『ギャランス『焔』を噴のよ!』
ゲオルクも恵まれた農業王国の統治者である従兄のアルフォンスには長年の逆恨みを抱いていたので、ギャランスに向かっていったが、火を噴きつけられて態勢を崩す。しかし、ゲオルクは結界を張ることで対抗し、火を噴くギャランスに襲いかかり、アルフォンスに剣で斬りつけた。
「危ない!」
腕を怪我をして押され気味の国王の窮地が見てられず、ユーリは咄嗟にイリスに飛び乗ると、助太刀に参戦する。
「ユーリ、来てはいけない!」
他の竜騎士達も国王の劣勢に気づき、助けに行こうとしていたが、ローラン王国の竜騎士達に邪魔をされて果たせない。北の砦の上で戦っているゲオルクとアルフォンスの一番近くにいた竜騎士はユーリだった。
「生意気な小娘から、血祭りにあげてやろう!」
ゲオルクは竜に火を噴かせたのはユーリだと見抜いて、イルスに向かっていく。
『イリス『焔』を噴いて!』
イリスはユーリに命じられるまでもなく、ゲオルクに向かって火を噴く。巨大な火はゲオルクの結界に阻まれたように最初は見えたが、次第にカサンドラは火を避けだす。
『カサンドラ、あの小娘の首を捕るのだ!』
イリスの火を避けながら、襲撃するゲオルクに、ユーリは結界で弾き飛ばされるかもと思いながらも矢を射る。一矢は結界に飛ばされたが、二矢はカサンドラがよけた。
「結界が弱くなっている!」
ユーリは火を受け続けて結界が弱くなっているのに気づき、三矢をゲオルク王に向けて射る。
風の魔法も使い、三矢はゲオルク王を捕らえたとユーリは思ったが、カサンドラが最後の最後に、絆の竜騎士を庇った。
「竜には矢は効かないわ」
千載一遇のチャンスを逃したユーリは、四矢目を手に取ろうとして、固まってしまう。
「矢も槍も剣も弾き返す竜なのに……」
ユーリの放った三矢がカサンドラの胸に吸い込まれていくのを、ローラン王国とイルバニア王国の全員が一瞬止まって、信じられない思いで見る。
『カサンドラ!』
ゲオルク王の悲痛な叫びに、騎竜は応えた。
『ゲオルク、私はお前との絆を断つ! さらばだ……』
そう言った瞬間、カサンドラは灰のように空気に解けていった。
騎竜していた竜が消滅し、ゲオルクは地上に転落しかけたが、ルドルフが騎竜に救い上げさせる。
ユーリは余りに壮絶なカサンドラの死に茫然としていたが、国王からゲオルクを逃がすなと命令され、反射的に四矢を射る。
四矢はゲオルク王を掠めてルドルフに当たったが、ローラン王国の竜騎士隊も必死で国王と皇太子を守り通してバロア城へと撤退する。
イルスと北の砦に降り立ったユーリは、カサンドラの胸に吸い込まれていった矢の残像にガタガタと震えが止まらない。アルフォンスはユーリがどれほど竜を愛しているか知っていたので、カサンドラの死にショックを受けたのだと、腕の傷をおして抱きしめる。
『ユーリ、カサンドラは自ら死を選んだのだ。ゲオルクとの絆を断つには、死しかなかった。絆の竜騎士に裏切られるのは、死ぬより辛いからユーリのせいじゃない』
イリスの慰めに、ユーリは首に抱きついて涙を流す。
イルバニア王国の竜騎士達も全員がカサンドラの死にショックを受けたが、ゲオルク王とルドルフ皇太子の衝撃は計り知れないだろうと、この好機を生かす作戦に出る。
「ユーリ、バロア城にローラン王国の軍勢を集結させてはいけないのだ。疲れているだろうが、バロア城をイルバニア王国が落とす好機なのだ」
マキシウスに命じられて、ユーリは竜心石の真名『魂』で覚醒させて、全ての竜達に『焔』を噴くように命じる。
ローラン王国は王の騎竜が亡くなり、王は茫然自失、皇太子は矢傷を得て、士気が上がりようがない。
その上空からは火を噴く竜騎士隊がバロア城に襲いかかるし、陸は騎兵隊と歩兵に取り囲まれ、竜騎士隊は国王と皇太子をケイロンへと逃がす為に決死の逃亡戦を戦い、大勢の犠牲者をだした。
バロア城に残された兵士達は、指揮官達が逃げ出したのに防衛する意欲をなくして、白旗を立て降伏した。
「ゲオルク王とルドルフ皇太子は、取り逃がしたか……」
アルフォンスは腕に負った刀傷を治療して貰いながら、長年悩まされた宿敵を打ち損じたと悔しがる。
「ユーリ、大丈夫か」
バロア城を制圧して大多数は城に留まったが、グレゴリウスはユーリと怪我をしたお祖父様が心配で、北の砦に帰る許可を得て戻った。
ユーリは魔力を使い果たしたのと、カサンドラの死の衝撃で、ぐったりとグレゴリウスの腕に倒れ込む。
国王は自分の治療をしていたヘルメスに、ユーリを診るようにと言ったが、外傷とは違い魔力の使いすぎの発熱には打つ手は点滴ぐらいしかない。
ユーリは宿舎のベッドでカサンドラの胸に吸い込まれる矢と、灰のように消滅した様子を繰り返して夢に見てはうなされる。
メアリーは額に冷たいタオルを乗せては、夢にうなされるユーリを心配してまんじりともせずに朝を迎える。
「ユーリの様子はどうだ」
バロア城の防衛の備えを済ませたマキシウスは、無理をさせたユーリが倒れたと聞いて心配になり様子を見にきた。
「熱は少しまだありますが、落ち着いてきました。ただ、夢を見てはうなされているのが、お可哀想で……」
ユーリには北の砦で後方から竜達に命令だけをさせる筈だったのに、ゲオルク王と対決させ、カサンドラを死なす結果になってしまったと、マキシウスは心を痛める。
本陣からバロア城へと向かうと考えた自分の判断ミスで、国王に負傷させたり、孫娘の心に傷を負わせてしまったと、拳を握り締めたが、未だ戦争中なのだと気持ちを切り替える。
マキシウスとて戦争の犠牲者や負傷者に心を痛めるが、それに捕らわれてしまっては指揮者としての責務が果たせないのだ。ユーリの世話は子どもの時からの侍女のメアリーに任せて、バロア城へと帰って行く。
ユーリは目覚めると、カサンドラの最期に涙を流したが、空腹には勝てなかった。グレゴリウスは、ユーリがシチューをおかわりするのを見て、ホッとして自分も空腹だと気づき、メアリーに一緒に運んで来てもらって食べる。
「ユーリ、熱が下がったら、ユングフラウに帰るんだよ。もう、充分に戦ったからね」
グレゴリウスはローラン王国がこのまま引き下がるとは考えていなかったので、ユーリを安全なユングフラウに帰したいと思った。
「毒を食えば皿までよ。治療者の数も足りないし、ロシュフォード卿も疲れていらっしゃるわ。もう、戦闘はこりごりだけど、治療と食事は改善しないと……」
少し元気になると言うことを聞かない婚約者の唇を、グレゴリウスはキスでふさいだ。
「ユーリ、絶対に駄目だからね」
そう言いつつもグレゴリウスはユーリが側に居てくれると、心がときめいてしまうのだ。
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