176 / 415
第八節 ヒュルマの国・動乱編
第169幕 勇者たちの状況
しおりを挟む
「グレリアくん! お疲れ様ー」
「あ、ああ、ありがとう」
これ以上拘束するのは無意味と判断した俺は、武龍の上から退くことにした。
すると、とことことエセルカが汚れを拭く為のタオルを差し出してきたから、それを素直に受け取ることにした。
あれだけの戦闘を繰り広げたはずなのにそうやって平然としている辺り肝が座ってるか……それともそれだけ俺を信頼してくれているのかと考えてしまうほど安心しきっている表情をエセルカはしていた。
「ほら、立てるか?」
「……ああ」
俺は身体についた汚れを拭き、どこか消沈している様子の武龍に手を差し伸べた。
逡巡そぶりを見せていたが、一度ため息を吐いた後、彼は俺の手を取った。
立ち上がった彼は、少々警戒するかのような素振りを見せたが……俺が何もしないということがわかると、すぐにそれを解いた。
どこか腑に落ちないような……納得出来ないという様子なのには変わりないが、その鋭い目を余計に尖らせて俺を見据えてきた。
「なぜ、俺を助けた?」
「なぜ……って、俺はお前に聞きたいことがある。
それに、殺す必要のない相手くらい見極めているつもりだ」
彼が今、俺と敵対しているであろう連中と親密な関係にあるか……もしくは仲間だった場合、俺は一通り情報を手に入れた時に彼を手に掛ける必要だって出てきただろう。
だが、恐らく彼は何も知らない。
今までの流れから考えたら『英雄召喚』で喚び出された異世界の人は、確実になんらかの形で敵対している奴らと関わりがある。
ということは、武龍は情報を全く貰えていないような立場なのだと考えるのが自然だろう。
ならば、彼の役割は国民にわかりやすく『勇者』であることなのかもしれない。
それはある意味、ルーシーにも当てはまる。
彼女は暗躍するようなタイプでもないし、どちらかというと民を護る側にいる存在だ。
だからこそ彼女は下手な事を知らないようにアンヒュルのいる地に送り込まれた……と思う。
彼女のいたイギランスは暗躍中であるヘンリーもいたからな。
対する武龍はナッチャイスで唯一の勇者だ。
おまけにこの男は強い相手と戦うことに重きを置いている。
無論、正義感というのを持ち合わせてはいるだろうが……どちらかを選ぶ局面になったらどうなるかはわからない。
守護者というよりは求道者というのが相応しいだろう。
「殺す必要の――価値の無い男、というわけか」
「違う。死ぬには惜しい男、ということだ」
自嘲気味に鼻で笑って俯く武龍に対し、宥めるような口調で俺は彼を諭した。
今まで戦ってきた勇者たちの中ではルーシーに次いでマシな部類に入る彼に、価値の有無なんてつけられるはずもない。
というか、『勇者』と言う割には性格的にそんな訳ないだろうと思うような人材ばかりが集まってるな。
くずは――彼女の性格は勇気があるとは言えないし、他の連中に至っては余計にそうだろう。
「はっ、言葉は言いよう……というやつだな。
だが、悪くはない」
自分の事が多少なりとも認められている事を実感したように武龍は軽く笑っていた。
やはり、この手の男は自身を認められることを好むというわけか。
「それで、俺に一体何を聞きたい?
助けてもらった礼だ。可能な限り答えよう」
「それなら、まずはどうしてナッチャイスの勇者である武龍がここにいる?」
「他の勇者たちが次々と倒れ、現在負傷していない者は俺だけだとヘンリーに聞いたからだ。
ジパーニグの勇者が誰もいない以上、俺が行くしかあるまい」
「勇者がいないだと?」
それはおかしな話だ。
確かに、くずはは今アンヒュルのところにいるはずだが、ジパーニグにはまだ司が残っていたはずだ。
……そういえば、俺が首都までやってきたというのに現れたのはヘンリー・ヘルガという他国の勇者たちだった。
肝心のジパーニグの勇者である司は、一切姿を見せなかった。
「あ、ああ。くずははアリッカルでアンヒュルたちとの戦闘で行方不明。
もう一人の男は現在負傷により療養中だと聞いた。
確か、花と温泉が有名なマフカの町にいるらしいな」
「らしいというのは――」
なぜ曖昧なままで終わっているのか? そういう風なニュアンスの言葉を言おうとしたのだが、勇者会合で武龍は司とひと悶着があったのを思い出した。
あれは誰がどう見ても司の方が悪かったし、あんな事があっても尚、勇者だから連携を取れと言われても無理がある話だろうな。
「……そういうことだ。
俺はあのような無様な男の事などどうでもいい」
「あ、私も知らないからね? 司くんなんてどうでもいいし」
地面に吐き捨てるように言ってる武龍の様子から見ても、あの後、関係は改善されなかったと見て間違いないだろう。
とすると、本当に司がマフカにいるかどうかわからない……ということだ。
エセルカにもどうでもいい、と言われているのには少々憐れみを感じるが、奴の所業を考えるとむしろ当然のことだろう。
ならば、これ以上のことは聞けそうにない。
……司がどこにいるか、そんなことは別に知らなくてもいいか。
あの程度の男が何をしてもたかが知れている。
そう結論づけた俺は、さっさと思考を切り替えて他の質問をすることにした。
「あ、ああ、ありがとう」
これ以上拘束するのは無意味と判断した俺は、武龍の上から退くことにした。
すると、とことことエセルカが汚れを拭く為のタオルを差し出してきたから、それを素直に受け取ることにした。
あれだけの戦闘を繰り広げたはずなのにそうやって平然としている辺り肝が座ってるか……それともそれだけ俺を信頼してくれているのかと考えてしまうほど安心しきっている表情をエセルカはしていた。
「ほら、立てるか?」
「……ああ」
俺は身体についた汚れを拭き、どこか消沈している様子の武龍に手を差し伸べた。
逡巡そぶりを見せていたが、一度ため息を吐いた後、彼は俺の手を取った。
立ち上がった彼は、少々警戒するかのような素振りを見せたが……俺が何もしないということがわかると、すぐにそれを解いた。
どこか腑に落ちないような……納得出来ないという様子なのには変わりないが、その鋭い目を余計に尖らせて俺を見据えてきた。
「なぜ、俺を助けた?」
「なぜ……って、俺はお前に聞きたいことがある。
それに、殺す必要のない相手くらい見極めているつもりだ」
彼が今、俺と敵対しているであろう連中と親密な関係にあるか……もしくは仲間だった場合、俺は一通り情報を手に入れた時に彼を手に掛ける必要だって出てきただろう。
だが、恐らく彼は何も知らない。
今までの流れから考えたら『英雄召喚』で喚び出された異世界の人は、確実になんらかの形で敵対している奴らと関わりがある。
ということは、武龍は情報を全く貰えていないような立場なのだと考えるのが自然だろう。
ならば、彼の役割は国民にわかりやすく『勇者』であることなのかもしれない。
それはある意味、ルーシーにも当てはまる。
彼女は暗躍するようなタイプでもないし、どちらかというと民を護る側にいる存在だ。
だからこそ彼女は下手な事を知らないようにアンヒュルのいる地に送り込まれた……と思う。
彼女のいたイギランスは暗躍中であるヘンリーもいたからな。
対する武龍はナッチャイスで唯一の勇者だ。
おまけにこの男は強い相手と戦うことに重きを置いている。
無論、正義感というのを持ち合わせてはいるだろうが……どちらかを選ぶ局面になったらどうなるかはわからない。
守護者というよりは求道者というのが相応しいだろう。
「殺す必要の――価値の無い男、というわけか」
「違う。死ぬには惜しい男、ということだ」
自嘲気味に鼻で笑って俯く武龍に対し、宥めるような口調で俺は彼を諭した。
今まで戦ってきた勇者たちの中ではルーシーに次いでマシな部類に入る彼に、価値の有無なんてつけられるはずもない。
というか、『勇者』と言う割には性格的にそんな訳ないだろうと思うような人材ばかりが集まってるな。
くずは――彼女の性格は勇気があるとは言えないし、他の連中に至っては余計にそうだろう。
「はっ、言葉は言いよう……というやつだな。
だが、悪くはない」
自分の事が多少なりとも認められている事を実感したように武龍は軽く笑っていた。
やはり、この手の男は自身を認められることを好むというわけか。
「それで、俺に一体何を聞きたい?
助けてもらった礼だ。可能な限り答えよう」
「それなら、まずはどうしてナッチャイスの勇者である武龍がここにいる?」
「他の勇者たちが次々と倒れ、現在負傷していない者は俺だけだとヘンリーに聞いたからだ。
ジパーニグの勇者が誰もいない以上、俺が行くしかあるまい」
「勇者がいないだと?」
それはおかしな話だ。
確かに、くずはは今アンヒュルのところにいるはずだが、ジパーニグにはまだ司が残っていたはずだ。
……そういえば、俺が首都までやってきたというのに現れたのはヘンリー・ヘルガという他国の勇者たちだった。
肝心のジパーニグの勇者である司は、一切姿を見せなかった。
「あ、ああ。くずははアリッカルでアンヒュルたちとの戦闘で行方不明。
もう一人の男は現在負傷により療養中だと聞いた。
確か、花と温泉が有名なマフカの町にいるらしいな」
「らしいというのは――」
なぜ曖昧なままで終わっているのか? そういう風なニュアンスの言葉を言おうとしたのだが、勇者会合で武龍は司とひと悶着があったのを思い出した。
あれは誰がどう見ても司の方が悪かったし、あんな事があっても尚、勇者だから連携を取れと言われても無理がある話だろうな。
「……そういうことだ。
俺はあのような無様な男の事などどうでもいい」
「あ、私も知らないからね? 司くんなんてどうでもいいし」
地面に吐き捨てるように言ってる武龍の様子から見ても、あの後、関係は改善されなかったと見て間違いないだろう。
とすると、本当に司がマフカにいるかどうかわからない……ということだ。
エセルカにもどうでもいい、と言われているのには少々憐れみを感じるが、奴の所業を考えるとむしろ当然のことだろう。
ならば、これ以上のことは聞けそうにない。
……司がどこにいるか、そんなことは別に知らなくてもいいか。
あの程度の男が何をしてもたかが知れている。
そう結論づけた俺は、さっさと思考を切り替えて他の質問をすることにした。
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる