リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~

灰色キャット

文字の大きさ
183 / 415
第九節 迫りくる世界の闇・セイル編

第176幕 偽りの友情

しおりを挟む
「セイル……どうしたんだい?
 そんなに怖い顔をして」

 ラグナスは先程までの様子と打って変わって、いつもと同じように語りかけてくるその姿は……どこか歪なように見えた。
 それは俺と普段付き合うような気軽さで、さっきまでの様子がまるで嘘のようにも思えてしまうほどだ。

「ラグナス、今くずはに何をしようとしていた?」
「何を? 僕はただ彼女の相談に乗っていただけだよ。
 君の様子がおかしい、てね。
 ここにいる以上、君たちは僕の友人だ。
 そんな彼女が僕に悩みを打ち明けてるだけじゃないか」

 ラグナスはさっきまで見せていた態度を知らぬ存ぜぬで通すつもりらしい。
 だけど、あの姿……それにあの言葉を聞いた以上、ここで引き下がるわけにはいかない。

「……くずはから離れろ」
「セイル、僕は――」
「離れろ」

 俺は一切聞く耳を持たないと言うかのように、ラグナスの言葉を遮るように被せる。
 ここで彼の言葉に耳を傾けたら、一気に場をひっくり返されてしまう……そんな危険があるように思えたからだ。

「まあ聞けよ」

 俺の威圧を物ともせず、真剣味の宿った表情でラグナスは俺を見据えていた。
 今まで見た事のない凄みを感じて、思わず一歩、後退してしまった。

 俺がラグナスと出会い、共に過ごしてきた日々の中で、そんな表情を見せたことは今まで一度たりともなかった。
 だからこそ、初めて見る彼の様子に戸惑いを覚えてしまったのだ。

 そんな俺をラグナスは馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべ、やれやれと頭を左右に軽く振っている。

「セイル、自分のしていることがわかってるのか?
 君のその態度、とても友人にしていいものじゃあないよな。
 僕は君の事を大切な友だと思っている。
 それはずっと変わらないだろう」

 饒舌に喋るラグナスの仕草、視線の一つ一つが、こちらに圧力のようなものをかけている……。
 そんな気すらしそうなほどの俺はラグナスに圧倒されていた。

「今なら――まだ許そう。
 君の態度も、僕を威圧してきた事も全て。
 セイル……君とくずはは僕にとって、初めての友達だ。
 それをこんな形で終わらせたくない。
 君は、友情を失うんだぞ?」

 最終警告だと言わんばかりに詰め寄ってくる彼に気圧されるように一歩ずつ後ろに下がってしまう。
 そんな俺を見て、満足したのか、ラグナスは上から見下ろすような視線を向けて微笑んでいる。

 ――このままじゃ、全てあやふやになってしまう。
 俺は本当にそれでいいのか?

 兄貴に、『諦めない』って言ったはずだ。
 本当の英雄ってのはまだ良くわからないけど……ここで立ち止まってしまったら、俺はもう二度と先に進めないような……そんな気がする。

 だから、俺は再び強さを自分に宿して、ラグナスを睨み返した。

「お前と俺に、最初から友情なんてものはなかった。
 それがその態度ではっきりわかったさ。
 ここに来たときから……お前はそうやって俺を見下していたんだな」

 一瞬、面を喰らったような顔をしたラグナスは、俯いてなにか肩を震わせていた。
 髪で顔が隠れていて、どんな表情を浮かべているのかは全くわからない。

 けど、この男からは悲しいとか辛いとか……そういう感情は一切伝わってこなかった。

「そうか。なら仕方ないな。
 ついてこい。これ以上はくずはが起きる」

 顔を上げたラグナスは、顎でしゃくりながら外に出るように指示を出し、そのまま彼は外に出ていってしまった。
 その姿は、俺がこのままくずはを連れて逃げる事なんて全く考えていないというかのような素振りだ。

 ……ま、どこに逃げても無駄だってことなのかもしれなけどな。

 ちらりとくずはの方を見ると、彼女はぐっすりと眠っているようで……その顔はとても穏やかだ。

 少し――ほんの少しだけ、罪悪感に囚われそうになる。
 俺はこの安心した寝顔を奪うことになってしまうだろうから。
 だけど、そんな安らぎは嘘偽りに過ぎない。

 いつ崩れ落ちるかもしれない崖の上に立つ仮初の平和を、びくびくと怯えながら過ごすなんてまっぴらだ。
 だから、あいつを倒してくずはを元に戻す。

「……ちょっとの間だけ、待っていてくれ。くずは」

 寝ている彼女に万が一の事があってはいけない。
 俺はそっと、魔方陣を展開させる。
 今度こそ……俺はくずはを守る為に最善を尽くして見せる。

 俺はそっとくずはの髪を撫でて、そのまま部屋の外に出て、ラグナスが向かったであろう戦いやすい場所――あいつといつも訓練していた庭の方に向かうのだった。


 ――


 俺の予想通り、ラグナスは庭の方で待っていて……後ろ姿しか見えないその様子では、何を考えているのかは全くわからない。
 だけど……こっちに向けてくる悪意は間違いなく本物だった。

「全く……面倒を掛けさせてくれるな。
 お前に気付かれないようにあれこれとやってきたつもりだったが、俺も平和に浸かりすぎて勘が鈍ったのかもしれないな」
「ラグナス。お前は一体――」
「そんな名前で俺を呼ぶなよ」

 くるりとこっちを向いたラグナスは蔑むような視線を俺に向け、変わらず笑みを浮かべていた。
 そこにいたのは俺の知っている男ではなくて……全く知らない別の誰かの姿。

「俺の名前はラグズエル・ヴェスフィア。
 昔、『エルズ・ヴェスヴィア』と呼ばれていた男と言えば、愚かなお前にもわかりやすいだろう?」
「エルズ……! お前が……!?」

 ラグナス――ラグズエルの言葉を、俺は信じられなかった。
 だってこいつは……自分自身を今まで追いかけていた敵だとはっきり認めたんだから。

 そしてなにより――その言葉が本当であれば、この男は遥か昔から生きてきたことになる。
 一体どうやって?

 降り積もるように重なり合っていく疑問に頭が混乱しそうになるが、一つだけはっきりとわかる事がある。

 それは……この男が万が一『エルズ・ヴェスヴィア』なら、俺はこいつを許してはいけない、ということだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...