リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~

灰色キャット

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第十節 女王の誓い・決別編

第183幕 記憶の海、さまよう少女

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 セイルが俺の元にくずはを置いていった後……彼女は目を覚ましてからは大変だった。
 部屋に連れて帰ってすぐ、セイルの事を気にしており、しきりに彼がいないことを涙目で訴えてきていたのだ。

 エセルカやシエラもその様子に戸惑いを覚えるほどの変貌を遂げていたが……これで改めてセイルが何を思っているのか納得出来ることもあった。
 以前、俺自身やセイルにもかけた体内にある他人の魔力や異質な力を清め祓う魔方陣を展開する。

 正直、記憶を操作された人間に対して使ったのは初めてだが……これは失敗だった。
 いや、正確には半分は失敗したというべきだろう。

 くずは自身の記憶は一切元に戻らず、依然として泣きわめいているばかりで、状況は良くならなかった。
 むしろエセルカが徐々に不機嫌になっていくもんだから、悪化したとも言えたが。

 だからこそ、俺は以前から考えていたもう一つの魔方陣を展開することにした。
 起動式マジックコードは『神』『浄化』『光』『癒』の四つ。
『神』は次に紡いだ文字に作用する特性をもつからこそ、こういう配列にした。

 恐らくだが、記憶を操ってるというのは一種の魔力によって精神を支配していると推測している。
 それならば、『浄化』の能力を極限なまでに高めさえすればなんとかなるだろう。

 発動した魔方陣はくずはの身体を覆うように展開し、包み込んで……彼女に光が降り注いでいく。
 しばらくは泣いて暴れていた彼女は、やがて大人しくなって、気を失ってしまった。
 エセルカは腰に挿しているナイフを抜きかけた姿勢で止まっていて、結構ギリギリの状況だったのかもしれない。

「くずはちゃん、大丈夫なの?」
「まず、そのナイフをしまえ」
「えー……だって、あんまりグレファくんに迷惑かけるから……」
「迷惑だと思ってないからしまえ」
「はーい」
「……当然のようにナイフを抜こうとしてるエセルカもだけど、なんでそれを平然と受け止められるのよ」

 しょんぼりしたような顔でナイフを収めていたが、仲間に笑顔でそんなものを向けるのは止めてほしいものだ。
 最近は結構大人しくなってきたけど、エセルカは俺に関係してくる他人に非常に厳しい側面がある。

 男にはそれなりなんだが、女の方には本当に過剰とも言える反応をしてくるから、余計に困りものだ。
 ……が、ここでも『グレリア』と呼ばず、ちゃんと指示した通り『グレファ』と呼んでくれるだけまだマシか。

 それと、一連の行動に関してシエラから呆れた顔で突っ込まれたが、ジパーニグで救出して以降は大体こんな感じだった。

 あの宿屋での一件以降、今のエセルカはこういう人物だとわかってるからな。
 更にG級に合格して、初めて教室に訪れた時……自己紹介で『グレファくんに手を出したら駄目だからね』って周囲に殺気を振りまいていたのだから、これくらい平然としてないとな。

「う、うぅん……」

 少しの間、反応がなかったくずはだけど、目を覚ました時には先程の泣き叫ぶような様子を見せず、ただただ何が起こってるのかわからないような顔でぼーっと何もない場所を見上げているだけだった。

「くずは、大丈夫か?」
「ここ……どこ……?」
  
 どこか夢見がちな表情でぼんやりとしているくずはは、ようやく俺とエセルカに気づいたのか、ゆっくりと交互に視線を向けてきていた。

「ここはグランセスト。
 魔人の領域にある国で、その中にあるリアラルト訓練学校だ」
「が……っこ……う?」
「おーい、くずはちゃーん」

 エセルカが目の前で手をひらひらしたり、頭をぽんぽん叩いたりしているが、くずははなんの反応もない。
 ……くずはのこの状態。

 恐らくだが、今彼女は記憶の整理をしているのではないかと思う。
 どれくらいの期間、記憶を弄られていたかはわからないが……こればかりは待ってみるしかないだろう。

 なにしろ記憶操作を受けている者にもそうだが、この魔方陣自体も人に使うのは初めてだ。
 一体どんな影響があるのか……それは俺にでさえわからない。

 なにか起こった時にはすぐにでも対処しなければならないだろうし、今日はここを動けないだろう。

「グレファくん、お腹すいてない?
 私、ご飯持ってきてあげるよ」

 俺の役に立てると思ったのか両手を叩いて嬉しそうに頬に添えていた。
 そういうところに気が回るのは良いが、もっと別の事にも気を回してほしい。

「それじゃあ、頼む。
 シエラもついて行ってやってくれ」
「え? う、うん」

 まさか自分に振ってくるとは思いもしなかったのか、シエラがしどろもどろになって頷いていた。
 正直、今のエセルカが一人で行動してもろくな事にならないような気しかしなかったからだ。

「それじゃ、美味しいもの取ってくるから待っててね」
「シエラ」
「……わかった。見張れば良いんでしょ?
 でも、あまり期待しないでよ」
「揉め事にならなければそれでいい。
 後、くずはの分も頼んだぞ」

 扉の方に進みながらひらひらと手を振ったくずはと、ご機嫌そうなエセルカがともに出ていってしまい……残された俺は、くずはがきちんと意識を取り戻すまで、ひとまず身体を休めることにする。

「わ……た、し……」
「くずは。焦らずにゆっくりと思い出していけばいい。
 誰もお前の事を急かしはしない」

 どこか穏やかな心で彼女を見ているのは、くずはこそがセイルが勝ち取ってきたものだからだろう。
 確かに、今の彼女の状態を考えたら、最善とは言えないだろう。

 それでも最悪の結果にならなかった――それだけでも十分な戦果だと思う。
 だからこそ、必ず元のくずはに戻してみせる。

 それこそがセイルに彼女を託された俺の役目であり、彼の帰ってくる場所を守ってやることこそが俺が仲間としてしてやれることだろうから。
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