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第十節 女王の誓い・決別編
第191幕 シエラの真実
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ミルティナ女王の仕草に、思わず俺は乾いた笑いを浮かべてしまった。
当たり前だ。
今まで信じていた事はまやかしであり、俺たちが暗躍していると思っていた勇者たちを喚んだ王……ヒュルマの国々ですらまとめ上げている存在がいると明言されたに等しいのだから。
いや、どこか疑念を感じてはいた。
それを肯定や否定するだけの材料を見つけることが出来なかったからこそ、先送りにしていただけに過ぎない。
……あくまで、これまでの彼女の言葉が本当であるならば、だ。
――なにを考えている?
女王が俺に与えてくれた情報の中には、当事者でなければ知らない事も多い。
それだけあれば十分なはずだ。
……違う。
俺はミルティナ女王が最初に言った事が知りたいからこそ、彼女への疑念を解消出来ずにいる。
「ふむ、どれだけ言葉を紡いでも、そなたはわしを信用しないのだな」
「……何故、貴女はシエラの事を聞いてきた? それに対する答えをほしい」
「ほう、気になるか」
面白そうに――しかし見定めるように笑いかけてくる女王は実に魅力的にも映る。
初めて会った時、彼女の事をエセルカと比べたが……とんでもない。
確かに体つきは幼くとも、彼女は精神的に非常に大人だ。
人の一生を全うした俺よりも、その姿は気高く見える。
そんな女王は険しい目つきになり、何かを計るように俺を睨んできた。
「一つ、はっきりとさせておきたい事がある。
そなたがシエラの事を知ったとして、どうする?」
「どうもしない。シエラは俺の大切な仲間だ。
そして……例え何があっても、俺は彼女を見捨てることはしない。
それだけだ」
俺の答えに満足したのか、ミルティナ女王は今まで見たどんな顔よりも優しく、穏やかに微笑んでいるようだった。
慈しみに溢れるその顔は、俺越しに誰かを見ているような感じだった。
「わしのこの地位に就く時、自分の家を捨てた。
いや、正確には捨てざるを得なかった」
「女王は本当はアルランス姓ではなかった、と。
そういうことですか?」
うむ、と彼女は一度だけ軽く頷いて、少しずつ自分の事を語りだした。
「わしの本当の名はミルティナ・アルトラ。
そしてわしの見立てが間違いなければ……シエラの本当の家はファルトのはず」
「ファルト? それはこの国の伝説の英雄である、グレリアと同じ家の出という訳ですか?」
まさか……と思ったが、シエラがファルトの家の者なのであれば、ある意味その懐かしさにも余計に納得がいく。
そして、ミルティナ女王がアルトラの家の者であるのならば、彼女もまた俺の子孫なのかもしれない。
俺の娘はアルトラに嫁ぎ、三人の孫を産んだ。
その内の一人を……一番俺の血を濃く受け継いでいた男子を引き取り、他の二人は全員アルトラの家に残ったからな。
「具体的な確証はないが……そういう事になるな。
わしは幼い頃のあの子にしか知らぬからな。
しかし、成長した事を考えれば……彼女はわしが知るあの子である可能性は非常に高い。
髪色は違えど、その顔つき、目の色・形はよく似ておるよ。
アイシェラ・ファルト様にな」
「それが、シエラの本当の名ですか。
……しかし、解せませんね。
貴女は当時の彼女と一緒にいたはず。
それなのに、なぜ離れ離れに?」
俺の言葉はきっと女王にとって、触れてはならない事だったのだろう。
今までとは比べ物にならないほどの怒りの色を顕わにしていた。
それは、何かを奪われた者。自身の弱さを突きつけられてもなお、心折れなかった者の瞳。
「決まっておる。
わしの大切な御方は、人質にとられたのだよ。
あの忌々しき記憶絵師にな」
ギリギリと椅子の肘掛けが軋み鳴る程の強さで握りしめていた。
怒気で周囲が粉々に砕け散るんじゃないかと思うほどだ。
それだけ、彼女にとっては屈辱だったのだろう。
「わしはアルトラ家の者の中でも代々ファルト家の者を護る役割があった。
これは先祖である男が英雄グレリアに強い憧れを抱いていたからだと言われておる。
後に兄が彼の娘を嫁にもらった時は、あまりの嬉しさに泣いて喜んだそうだ」
しばらく怒りをこらえ、落ち着きを取り戻したミルティナ女王は、どこか誇らしげにその事を語っている。
そんな中、俺はもはやほとんど薄れかけていた当時の事を思い出していた。
確かに、アルトラの家には二人の男がいて、どちらも俺の事を尊敬している節があった。
……その内の弟の方となると――
「ブレングの子孫か」
「……どうしてその事を知っておる?」
――ブレング・アルトラ。
彼には兄であるエディンの事を大変好いていて、とても仲の良い兄弟だったことを覚えている。
娘がファルト姓を隠して付き合っていたのもあるが、結婚前に家族を紹介する事になって、ようやく娘が俺の子どもである事を知って、兄弟仲良く驚いていたな。
不意に胸の中が暖かくなるのを感じたが、ミルティナ女王にとってはいきなり自分の先祖を言い当てた奇妙な男に見えたのだろう。
訝しむように眉をひそめ、俺の事を警戒するように見てきていた。
やってしまった。
本来であれば口にするべきではなかったのだが、つい納得がいってしまったせいか、流れるようについて出てしまった。
現在、グレリア・ファルトについての資料はほとんど何も残っていない。
家族構成どころか、いつ産まれて死んだのかすら正確に把握されてないのだ。
人の国でもだが……色んな意味でほとんど神格化されているからな。
神にも近い男と付き合いのあった家の事なんて、それこそ当事者の子孫以外誰も知らないだろう。
その事をミルティナ女王も理解しているせいか、その目には強い警戒の色が見える。
恐らく、俺が敵の内通者に見えているのだろう。
ならば――ここはこちらも、出来る限り本当の事を伝えるしかない。
嘘だと思われる方が強いだろうが、少なくとも今必要なのは彼女の敵ではない、と理解してもらうことなのだから。
軽く深呼吸をして、覚悟を決めた俺は……自身の事について語ろうと口を開いた――。
当たり前だ。
今まで信じていた事はまやかしであり、俺たちが暗躍していると思っていた勇者たちを喚んだ王……ヒュルマの国々ですらまとめ上げている存在がいると明言されたに等しいのだから。
いや、どこか疑念を感じてはいた。
それを肯定や否定するだけの材料を見つけることが出来なかったからこそ、先送りにしていただけに過ぎない。
……あくまで、これまでの彼女の言葉が本当であるならば、だ。
――なにを考えている?
女王が俺に与えてくれた情報の中には、当事者でなければ知らない事も多い。
それだけあれば十分なはずだ。
……違う。
俺はミルティナ女王が最初に言った事が知りたいからこそ、彼女への疑念を解消出来ずにいる。
「ふむ、どれだけ言葉を紡いでも、そなたはわしを信用しないのだな」
「……何故、貴女はシエラの事を聞いてきた? それに対する答えをほしい」
「ほう、気になるか」
面白そうに――しかし見定めるように笑いかけてくる女王は実に魅力的にも映る。
初めて会った時、彼女の事をエセルカと比べたが……とんでもない。
確かに体つきは幼くとも、彼女は精神的に非常に大人だ。
人の一生を全うした俺よりも、その姿は気高く見える。
そんな女王は険しい目つきになり、何かを計るように俺を睨んできた。
「一つ、はっきりとさせておきたい事がある。
そなたがシエラの事を知ったとして、どうする?」
「どうもしない。シエラは俺の大切な仲間だ。
そして……例え何があっても、俺は彼女を見捨てることはしない。
それだけだ」
俺の答えに満足したのか、ミルティナ女王は今まで見たどんな顔よりも優しく、穏やかに微笑んでいるようだった。
慈しみに溢れるその顔は、俺越しに誰かを見ているような感じだった。
「わしのこの地位に就く時、自分の家を捨てた。
いや、正確には捨てざるを得なかった」
「女王は本当はアルランス姓ではなかった、と。
そういうことですか?」
うむ、と彼女は一度だけ軽く頷いて、少しずつ自分の事を語りだした。
「わしの本当の名はミルティナ・アルトラ。
そしてわしの見立てが間違いなければ……シエラの本当の家はファルトのはず」
「ファルト? それはこの国の伝説の英雄である、グレリアと同じ家の出という訳ですか?」
まさか……と思ったが、シエラがファルトの家の者なのであれば、ある意味その懐かしさにも余計に納得がいく。
そして、ミルティナ女王がアルトラの家の者であるのならば、彼女もまた俺の子孫なのかもしれない。
俺の娘はアルトラに嫁ぎ、三人の孫を産んだ。
その内の一人を……一番俺の血を濃く受け継いでいた男子を引き取り、他の二人は全員アルトラの家に残ったからな。
「具体的な確証はないが……そういう事になるな。
わしは幼い頃のあの子にしか知らぬからな。
しかし、成長した事を考えれば……彼女はわしが知るあの子である可能性は非常に高い。
髪色は違えど、その顔つき、目の色・形はよく似ておるよ。
アイシェラ・ファルト様にな」
「それが、シエラの本当の名ですか。
……しかし、解せませんね。
貴女は当時の彼女と一緒にいたはず。
それなのに、なぜ離れ離れに?」
俺の言葉はきっと女王にとって、触れてはならない事だったのだろう。
今までとは比べ物にならないほどの怒りの色を顕わにしていた。
それは、何かを奪われた者。自身の弱さを突きつけられてもなお、心折れなかった者の瞳。
「決まっておる。
わしの大切な御方は、人質にとられたのだよ。
あの忌々しき記憶絵師にな」
ギリギリと椅子の肘掛けが軋み鳴る程の強さで握りしめていた。
怒気で周囲が粉々に砕け散るんじゃないかと思うほどだ。
それだけ、彼女にとっては屈辱だったのだろう。
「わしはアルトラ家の者の中でも代々ファルト家の者を護る役割があった。
これは先祖である男が英雄グレリアに強い憧れを抱いていたからだと言われておる。
後に兄が彼の娘を嫁にもらった時は、あまりの嬉しさに泣いて喜んだそうだ」
しばらく怒りをこらえ、落ち着きを取り戻したミルティナ女王は、どこか誇らしげにその事を語っている。
そんな中、俺はもはやほとんど薄れかけていた当時の事を思い出していた。
確かに、アルトラの家には二人の男がいて、どちらも俺の事を尊敬している節があった。
……その内の弟の方となると――
「ブレングの子孫か」
「……どうしてその事を知っておる?」
――ブレング・アルトラ。
彼には兄であるエディンの事を大変好いていて、とても仲の良い兄弟だったことを覚えている。
娘がファルト姓を隠して付き合っていたのもあるが、結婚前に家族を紹介する事になって、ようやく娘が俺の子どもである事を知って、兄弟仲良く驚いていたな。
不意に胸の中が暖かくなるのを感じたが、ミルティナ女王にとってはいきなり自分の先祖を言い当てた奇妙な男に見えたのだろう。
訝しむように眉をひそめ、俺の事を警戒するように見てきていた。
やってしまった。
本来であれば口にするべきではなかったのだが、つい納得がいってしまったせいか、流れるようについて出てしまった。
現在、グレリア・ファルトについての資料はほとんど何も残っていない。
家族構成どころか、いつ産まれて死んだのかすら正確に把握されてないのだ。
人の国でもだが……色んな意味でほとんど神格化されているからな。
神にも近い男と付き合いのあった家の事なんて、それこそ当事者の子孫以外誰も知らないだろう。
その事をミルティナ女王も理解しているせいか、その目には強い警戒の色が見える。
恐らく、俺が敵の内通者に見えているのだろう。
ならば――ここはこちらも、出来る限り本当の事を伝えるしかない。
嘘だと思われる方が強いだろうが、少なくとも今必要なのは彼女の敵ではない、と理解してもらうことなのだから。
軽く深呼吸をして、覚悟を決めた俺は……自身の事について語ろうと口を開いた――。
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