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第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
第201幕 帝都クワドリス、潜入
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俺たちは町で一度ゆっくりと休んだ後、次の日に帝都クワドリスに辿り着いた。
相変わらずの雪雲模様で、ちらほらと降る白い物体に多少うんざりしてきた。
最初は雪がこんなに降る光景なんて見たことがないと新鮮な気分を味わっていたけど、こうも絶えず続くと、嫌にもなってくるってもんだ。
「近くで見るとこれまた大きいな」
そんな天気の中、崖のようにそびえ立つ城壁を眺めながら思わず呟いてしまう。
この白い大地の中に立つ石の壁は、より一層冷たさを体現している。
「なんだか、檻の中に入るみたい」
俺の隣でスパルナがぽつりと呟いているのを聞いて、確かにそうだと思わず深く頷いてしまった。
町と城をぐるりと囲んでいるこの壁の向こうにいる国民は、まるで飼われているんじゃないか? と思えそうな気がする。
通常、門には番兵が立っているのが基本なんだけど、ここでそんな事をしたら凍えて死ぬ可能性があるため、門の中を通る時に大きく分厚いガラスをはめ込んだ部屋から来訪者を確認している――という感じだった。
これについては上手く出来ているな、と内心感心してしまう。
あまりに寒く、ここまでの道中で手に入る程度の軽装では壁を登って上まで行くことなんて無理だし、そもそも近くで見上げると、てっぺんが見えないほどの高さだ。
とても現実的なものではない。
そんな大きさの割に、出入り口は窓から番兵が覗ける――視界に収める事ができる程度だ。
自然と、彼らに顔を見られてしまうというわけだ。
そしてここでローブなどで顔を隠すことは出来ない。
通る際に必ず被っているフードを取るか、顔をよく見せるように指示が飛ばされる。
現に並んでいる最中、全員が同じ指示を受けていたし、順番が回ってきたときも俺たちの顔をなにか書かれている紙と見比べ、照合しているようだった。
しばらく彼らにじろじろと不審者を見るような目で見られ、どきどきしながら不安に思っていると――
「よし、通れ。次」
あごでくいっと『行け』という指示をすると、そのまま俺の後ろで待っている人を審査し始めた。
「うわぁ……どきどきしたよ」
スパルナがほっと胸を撫で下ろして、後ろを少しだけ振り返って門を見ている。
実は……この子の方は特に問題ないと思ってはいたけど、俺の方はヒヤヒヤしていた。
ラグズエルがここに潜伏しているのだとしたら……いや、それ以前に俺はアリッカルの勇者と一悶着起こしているし、現にヘルガが追跡にやってきたという事もある。
あれから二年も立ってるんだし、既に顔も割れていると考えていたんだけど……普通に通れて逆に拍子抜けした。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「……ん、どう、した?」
スパルナがくいくいっと袖を引っ張ってきたから、そっちの方に視線を向けると、彼は興味深げに目の前に立っている棒状の物体を指差していた。
「あれ、なに? 魔人の町じゃ見たこと無いよ? それにこの道も」
それは一つ一つはその場を明るくするためのもののようだが、一定の間隔で設置されているそれは、薄暗い雪空をそれなりに明るく照らしてくれている。
そして地面は何かで固められていて、硬い感触が足に伝わってくるようだ。
「石を敷き詰めてるってわけじゃないみたいだな」
「うーん、変な感じー」
整備されている街道ですらここまでのものじゃないだろう。
見たこともない建物に見たことのない道。
どこよりも発展しているように見えるこの帝都は、俺の予想をいきなり軽く上回ってくれた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
俺がこの町の違和感にちょっと考え事をしていると……スパルナが不思議そうな顔でこっちを見ていた。
さて、どんな風に言葉を選んだほうがいいだろうか……。
「この国、見ただけで他の国とは明らかに違うだろ?」
「うん。ぼくもあんまり知らないけど、今まで行ったどの町とも違うね」
スパルナはうんうんと頷いているけど、俺の思っていたことは全く別の事だった。
それは『なぜ、他の国にシアロルの技術が流れてきていないのか?』だ。
あまり賢いとも呼べない俺でも、他の国の首都を見て回ったからこそわかる。
ジパーニグやイギランスと比べて、シアロルは明らかに違いすぎる。
道や建物……それ以外の風景までも、だ。
発展してる、って言った方が良いほどの違い。
同じ魔人と敵対しているし、勇者会合もやっているんだから少なからず交流があるはずだ。
それなのに……この格差はなんだろう?
確かに、多少は参考にされてる部分もあるけど、ここまで違えばそれは極々些細なことのように思えた。
この国は――ずっと未来に生きている。
「お兄ちゃん? 顔色悪いけど、大丈夫?」
あまり考えたくない現実を頭の中に直接叩き込まれたような気がした。
そしてそれは顔に出ていたのだろう。
スパルナの方を見ると、心配そうに俺のことを見上げていた。
「いや、なんでもない。
それより、まずは宿を探そう。
長旅で疲れもあるし、少し早めに休みたいしな」
「……わかった」
スパルナは納得がいかないという顔をしていたけど、俺だって頭の中を整理する時間が欲しい。
結局彼が諦めるような形で、俺たちは感じた歪さを胸に秘めて歩き出した。
この国に何が隠されているのか――それすらも知らないままに。
相変わらずの雪雲模様で、ちらほらと降る白い物体に多少うんざりしてきた。
最初は雪がこんなに降る光景なんて見たことがないと新鮮な気分を味わっていたけど、こうも絶えず続くと、嫌にもなってくるってもんだ。
「近くで見るとこれまた大きいな」
そんな天気の中、崖のようにそびえ立つ城壁を眺めながら思わず呟いてしまう。
この白い大地の中に立つ石の壁は、より一層冷たさを体現している。
「なんだか、檻の中に入るみたい」
俺の隣でスパルナがぽつりと呟いているのを聞いて、確かにそうだと思わず深く頷いてしまった。
町と城をぐるりと囲んでいるこの壁の向こうにいる国民は、まるで飼われているんじゃないか? と思えそうな気がする。
通常、門には番兵が立っているのが基本なんだけど、ここでそんな事をしたら凍えて死ぬ可能性があるため、門の中を通る時に大きく分厚いガラスをはめ込んだ部屋から来訪者を確認している――という感じだった。
これについては上手く出来ているな、と内心感心してしまう。
あまりに寒く、ここまでの道中で手に入る程度の軽装では壁を登って上まで行くことなんて無理だし、そもそも近くで見上げると、てっぺんが見えないほどの高さだ。
とても現実的なものではない。
そんな大きさの割に、出入り口は窓から番兵が覗ける――視界に収める事ができる程度だ。
自然と、彼らに顔を見られてしまうというわけだ。
そしてここでローブなどで顔を隠すことは出来ない。
通る際に必ず被っているフードを取るか、顔をよく見せるように指示が飛ばされる。
現に並んでいる最中、全員が同じ指示を受けていたし、順番が回ってきたときも俺たちの顔をなにか書かれている紙と見比べ、照合しているようだった。
しばらく彼らにじろじろと不審者を見るような目で見られ、どきどきしながら不安に思っていると――
「よし、通れ。次」
あごでくいっと『行け』という指示をすると、そのまま俺の後ろで待っている人を審査し始めた。
「うわぁ……どきどきしたよ」
スパルナがほっと胸を撫で下ろして、後ろを少しだけ振り返って門を見ている。
実は……この子の方は特に問題ないと思ってはいたけど、俺の方はヒヤヒヤしていた。
ラグズエルがここに潜伏しているのだとしたら……いや、それ以前に俺はアリッカルの勇者と一悶着起こしているし、現にヘルガが追跡にやってきたという事もある。
あれから二年も立ってるんだし、既に顔も割れていると考えていたんだけど……普通に通れて逆に拍子抜けした。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「……ん、どう、した?」
スパルナがくいくいっと袖を引っ張ってきたから、そっちの方に視線を向けると、彼は興味深げに目の前に立っている棒状の物体を指差していた。
「あれ、なに? 魔人の町じゃ見たこと無いよ? それにこの道も」
それは一つ一つはその場を明るくするためのもののようだが、一定の間隔で設置されているそれは、薄暗い雪空をそれなりに明るく照らしてくれている。
そして地面は何かで固められていて、硬い感触が足に伝わってくるようだ。
「石を敷き詰めてるってわけじゃないみたいだな」
「うーん、変な感じー」
整備されている街道ですらここまでのものじゃないだろう。
見たこともない建物に見たことのない道。
どこよりも発展しているように見えるこの帝都は、俺の予想をいきなり軽く上回ってくれた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
俺がこの町の違和感にちょっと考え事をしていると……スパルナが不思議そうな顔でこっちを見ていた。
さて、どんな風に言葉を選んだほうがいいだろうか……。
「この国、見ただけで他の国とは明らかに違うだろ?」
「うん。ぼくもあんまり知らないけど、今まで行ったどの町とも違うね」
スパルナはうんうんと頷いているけど、俺の思っていたことは全く別の事だった。
それは『なぜ、他の国にシアロルの技術が流れてきていないのか?』だ。
あまり賢いとも呼べない俺でも、他の国の首都を見て回ったからこそわかる。
ジパーニグやイギランスと比べて、シアロルは明らかに違いすぎる。
道や建物……それ以外の風景までも、だ。
発展してる、って言った方が良いほどの違い。
同じ魔人と敵対しているし、勇者会合もやっているんだから少なからず交流があるはずだ。
それなのに……この格差はなんだろう?
確かに、多少は参考にされてる部分もあるけど、ここまで違えばそれは極々些細なことのように思えた。
この国は――ずっと未来に生きている。
「お兄ちゃん? 顔色悪いけど、大丈夫?」
あまり考えたくない現実を頭の中に直接叩き込まれたような気がした。
そしてそれは顔に出ていたのだろう。
スパルナの方を見ると、心配そうに俺のことを見上げていた。
「いや、なんでもない。
それより、まずは宿を探そう。
長旅で疲れもあるし、少し早めに休みたいしな」
「……わかった」
スパルナは納得がいかないという顔をしていたけど、俺だって頭の中を整理する時間が欲しい。
結局彼が諦めるような形で、俺たちは感じた歪さを胸に秘めて歩き出した。
この国に何が隠されているのか――それすらも知らないままに。
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