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第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
幕間 楽園の影
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シアロル帝国を治め、更に地下に築かれた都市――スラヴァグラードに君臨するロンギルス皇帝はセイル、スパルナの二人を地下都市へと案内した後、一人自身の屋敷で寛いでいた。
王としての職務を終えた彼は地上でシアロルを守っているヘルガを想いながら、ゆっくりとワインを傾けていた頃……ノックの音が聞こえてきた。
「入れ」
誰が来るのかわかっているかのように短く一言。
部屋に入ってきたその男はかつてセイルと激しい一戦を交えた男――ラグズエルだった。
「皇帝陛下。ただいま参上いたしました」
片膝をついて頭を垂れるその姿は、傲慢さなど一切感じられない。
主君と崇める者に対する態度のそれは、ある意味では銀狼騎士団の者たちと通じるものがあるだろう。
「よく来た。あの者たちはどうしている?」
「はっ、現在はホテルの一室をあてがっており、監視用のドローンを配置しております」
「そうか……」
地下の空を飛ぶ小型のドローンは、可能性はゼロに等しいにしても考えられるであろう侵入者を警戒する為の役割を与えられている。
無数にあるそれのうちのいくつかをセイルたちの監視に当てているというわけだ。
「彼らは今現在は大人しくしているようです。
都市を探索してはいるようですが、怪しい行動は特に取っていないかと」
頭を上げずにかしずく状態で報告をするラグズエルにほんの少しだけ満足そうに微笑むロンギルス皇帝。
彼の目にはどれだけの未来が見据えられているのか……それはラグズエルにもわからない事だ。
ラグズエルにわかる事は……例えどうあがいたとしてもロンギルス皇帝には敵わないということだった。
「魔人共の管理といい、あれの能力の報告といい……お前には苦労をかけるな」
「そんな……なんとも畏れ多い。
わたくしには過ぎた言葉でございます」
「ふっ、そこまでの殊勝な態度。
少しでも他の者に向けることが出来るのであれば、また違うであろうに」
「……わたくしの忠義は全て貴方様のもの。
同じく地上の国を治めておられる者どもにならばいざしらず、有象無象の輩に対して礼節を重んじる心は持ち合わせておりません」
「はっ、はっきりと言う奴だ。だからこそ信用出来るとも言えるが」
臣下の礼を取り続けているラグズエルを一瞥することすら無く、ロンギルス皇帝はただゆっくりとワインを傾けるだけだ。
言葉だけで互いに顔すらみないやり取り。
だが、それだけ上下関係がはっきりとしているとも言える。
セイルに対してあれだけの事をしたラグズエルがまるで別人のようなのだから。
「それで……肝心のあの男、どうでしょうか?」
「まだなんとも言えぬな。
しかし火の鳥、雷の虎、氷の狼、水の龍……そのどれもが通常の起動式では実現出来ないものばかりだ。
間違いなく原初の起動式――しかも我らが持ち合わせておらぬ文字の持ち主に間違いない」
「それでは……引き込む、と?」
「お前は納得出来ないであろうがな。
決着を付けたいのであろう?」
そこで初めてロンギルス皇帝はちらりとラグズエルの方を向く。
どこかからかうように愉快げな視線を向ける皇帝にも一切動じず、ラグズエルは冷静なまま一度顔を上げる。
「確かに、あの者との決着を付けたく思います。
が、我らが皇帝陛下の意思を歪めるほどのことではございません。
貴方様の進む道に比べましたら、路傍の石のようなものです」
「よく言う。恐らくあれとの交渉は決裂するだろう。
その時は真っ先に駆けるといい。
力を振るう暴虐の使徒の姿こそ、お前の在り方なのだから」
「……はい」
ラグズエルは頭を下げたまま、とても人には見せられないであろう残忍な笑みを浮かべていた。
ロンギルス皇帝を阻むような事はあってはならないが、そうでないのであれば全力で楽しむ。
それが彼の基本スタンスだからだろう。
今からあれ――セイルが受け入れなかった時の事を考えて、自然と笑みが溢れていた。
「だが、殺しはするなよ?
生きてさえいれば原初の起動式を手に入れる術はあるのだからな」
ラグズエルの不穏な気配を察したのか、若干咎めるような口調でロンギルスは警告する。
態度には出ていないながらも、常人であれば耐えきれないであろう威圧感を発していた。
「心得ております……が、あの男の隣にいる者。
あれについては好きにしてもよろしいでしょうか?」
「あれか……好きにしろ。
必要なのは原初の起動式を持つ者のみだ」
「有難き幸せ」
ロンギルスに必要なもの。
それは神がこの世界の人間を初めて創った時に授け、後に争いの火種となり、闘争の乱世を嘆いた神により封じられた原初の起動式のみ。
現在ではラグズエルの記憶操作によって秘匿化されているそれは、アンヒュル――この世界の人間にのみが持ち得るものであり、『英雄』として名を刻んだ者が神の声を聞き、一部のみ解放されたもの。
それ以外の有象無象に関心を持つことなど、あろうはずがなかった。
「しばらくは影に潜む事を徹底せよ。
お前には、まだやってもらわなければならない事があるからな」
「はっ!」
再度深く頭を下げたラグズエルは立ち上がり、部屋から出て行く。
それを見送る事もなく、皇帝として君臨するロンギルスは自身の時間を改めて満喫する。
上に残した愛しきものの姿に想い馳せながら――
王としての職務を終えた彼は地上でシアロルを守っているヘルガを想いながら、ゆっくりとワインを傾けていた頃……ノックの音が聞こえてきた。
「入れ」
誰が来るのかわかっているかのように短く一言。
部屋に入ってきたその男はかつてセイルと激しい一戦を交えた男――ラグズエルだった。
「皇帝陛下。ただいま参上いたしました」
片膝をついて頭を垂れるその姿は、傲慢さなど一切感じられない。
主君と崇める者に対する態度のそれは、ある意味では銀狼騎士団の者たちと通じるものがあるだろう。
「よく来た。あの者たちはどうしている?」
「はっ、現在はホテルの一室をあてがっており、監視用のドローンを配置しております」
「そうか……」
地下の空を飛ぶ小型のドローンは、可能性はゼロに等しいにしても考えられるであろう侵入者を警戒する為の役割を与えられている。
無数にあるそれのうちのいくつかをセイルたちの監視に当てているというわけだ。
「彼らは今現在は大人しくしているようです。
都市を探索してはいるようですが、怪しい行動は特に取っていないかと」
頭を上げずにかしずく状態で報告をするラグズエルにほんの少しだけ満足そうに微笑むロンギルス皇帝。
彼の目にはどれだけの未来が見据えられているのか……それはラグズエルにもわからない事だ。
ラグズエルにわかる事は……例えどうあがいたとしてもロンギルス皇帝には敵わないということだった。
「魔人共の管理といい、あれの能力の報告といい……お前には苦労をかけるな」
「そんな……なんとも畏れ多い。
わたくしには過ぎた言葉でございます」
「ふっ、そこまでの殊勝な態度。
少しでも他の者に向けることが出来るのであれば、また違うであろうに」
「……わたくしの忠義は全て貴方様のもの。
同じく地上の国を治めておられる者どもにならばいざしらず、有象無象の輩に対して礼節を重んじる心は持ち合わせておりません」
「はっ、はっきりと言う奴だ。だからこそ信用出来るとも言えるが」
臣下の礼を取り続けているラグズエルを一瞥することすら無く、ロンギルス皇帝はただゆっくりとワインを傾けるだけだ。
言葉だけで互いに顔すらみないやり取り。
だが、それだけ上下関係がはっきりとしているとも言える。
セイルに対してあれだけの事をしたラグズエルがまるで別人のようなのだから。
「それで……肝心のあの男、どうでしょうか?」
「まだなんとも言えぬな。
しかし火の鳥、雷の虎、氷の狼、水の龍……そのどれもが通常の起動式では実現出来ないものばかりだ。
間違いなく原初の起動式――しかも我らが持ち合わせておらぬ文字の持ち主に間違いない」
「それでは……引き込む、と?」
「お前は納得出来ないであろうがな。
決着を付けたいのであろう?」
そこで初めてロンギルス皇帝はちらりとラグズエルの方を向く。
どこかからかうように愉快げな視線を向ける皇帝にも一切動じず、ラグズエルは冷静なまま一度顔を上げる。
「確かに、あの者との決着を付けたく思います。
が、我らが皇帝陛下の意思を歪めるほどのことではございません。
貴方様の進む道に比べましたら、路傍の石のようなものです」
「よく言う。恐らくあれとの交渉は決裂するだろう。
その時は真っ先に駆けるといい。
力を振るう暴虐の使徒の姿こそ、お前の在り方なのだから」
「……はい」
ラグズエルは頭を下げたまま、とても人には見せられないであろう残忍な笑みを浮かべていた。
ロンギルス皇帝を阻むような事はあってはならないが、そうでないのであれば全力で楽しむ。
それが彼の基本スタンスだからだろう。
今からあれ――セイルが受け入れなかった時の事を考えて、自然と笑みが溢れていた。
「だが、殺しはするなよ?
生きてさえいれば原初の起動式を手に入れる術はあるのだからな」
ラグズエルの不穏な気配を察したのか、若干咎めるような口調でロンギルスは警告する。
態度には出ていないながらも、常人であれば耐えきれないであろう威圧感を発していた。
「心得ております……が、あの男の隣にいる者。
あれについては好きにしてもよろしいでしょうか?」
「あれか……好きにしろ。
必要なのは原初の起動式を持つ者のみだ」
「有難き幸せ」
ロンギルスに必要なもの。
それは神がこの世界の人間を初めて創った時に授け、後に争いの火種となり、闘争の乱世を嘆いた神により封じられた原初の起動式のみ。
現在ではラグズエルの記憶操作によって秘匿化されているそれは、アンヒュル――この世界の人間にのみが持ち得るものであり、『英雄』として名を刻んだ者が神の声を聞き、一部のみ解放されたもの。
それ以外の有象無象に関心を持つことなど、あろうはずがなかった。
「しばらくは影に潜む事を徹底せよ。
お前には、まだやってもらわなければならない事があるからな」
「はっ!」
再度深く頭を下げたラグズエルは立ち上がり、部屋から出て行く。
それを見送る事もなく、皇帝として君臨するロンギルスは自身の時間を改めて満喫する。
上に残した愛しきものの姿に想い馳せながら――
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