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第十二節 人の国・裏の世界 セイル編
第213幕 敵対者の勧誘
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皇帝に誘われて行われた食事なのだが、正直味がよくわからなかった。
いや、確かに美味かったような気がする。
あまり馴染みのない料理ばかりだったけど、普通に食べれた……はずだ。
というかあの威厳のある皇帝と共に食事をすること自体緊張するというのに、こういう公式な場での食事の作法など完璧であろうはずがない。
ただでさえ結構広い食堂という落ち着かない空間。
その上に食事中、一切喋らない皇帝に気を回し過ぎてあまり味わう暇などなかったように思える。
それでも料理の味を聞かれれば『美味しい』と言う他なかったのだけどな。
食事が終わった後の軽いデザートも済んだ俺たちは、改めて来客用の部屋に戻ることになった。
「やはり祖国の料理は良い。郷愁の念を湧き上がらせてくれる。
当時はこれほどに立派な食事をしていた訳ではないがな」
「祖国……」
皇帝のその言葉にはなにか違和感があった。
具体的に……となると考え込んでしまうけど、とにかく何かがひっかかる。
「そうだ。貴様には覚えがないか?
生まれは……ジパーニグだったか。
旅をする身であるのならば、自然と疎遠になっていくものであろう?」
「それはまあ……確かに」
今ではジパーニグなんて寄り付きもしてないけど、それでも自分のよく知る料理が出てきた時なんかは親の顔も思い出して寂しくなったりもした。
だけど、それは俺が長いことジパーニグを離れることになったからだ。
ちょくちょく帰れるのであれば、そういう想いをすることもないだろう。
「ですが皇帝は常にシアロルの地にいらっしゃるではないですか。
何をそんなに懐かしむ事があると?」
「シアロルにいるからこそ、思うこともあるのだ。
この気持ちは、貴様にはわからぬだろう」
皇帝の……どこか憐れむような視線は俺にある種の考えをもたらす。
それは本来絶対にあり得ないと思うような――いわば妄想だ。
だけど、自ら体験したことがまるでピースを嵌めるように一つずつはまっていく。
魔方陣の有用性を知らず、中途半端に発展した世界。
人と魔人の関係性に勇者と転生英雄の存在。
それと……群を抜いて発展したシアロル帝都クワドリスとそれ以上の技術力を誇る地下都市のスラヴァグラード。
……特にこの都市に来た時に抱いた感情が、余計にその念を抱かせる。
それはつまり、スラヴァグラードはまるで異世界からやってきたようだ。
「皇帝、貴方は……」
「……貴様も既に気付いているであろうが、この地下都市スラヴァグラードは異世界の人間たちが作り上げた町だ」
ある程度気付いていたその事実も、皇帝にはっきりと言われてしまったら言葉もなく驚いてしまう。
だってそれは、考えようとしなかったからだ。
いや、正確にはしたくなかった。
だってそれは『英雄召喚』以外の方法でこの世界に来たという証明になるのだから。
「異世界って?」
「こことは違う別の世界のことだ。
例えばちょっと前に出会った金髪縦ロール――ルーシーなんかがそうだな」
「へー……」
スパルナに教えてやったんだが、どうにも反応が薄い。
ま、仕方ないだろう。彼は元々実験ばかりで世界の事情には疎い。
だからこそ感心するかのような声でそれだけの反応しかしないのだろう。
「そこでは空を飛ぶ鋼鉄の鳥や海奥深くを潜る鋼鉄の魚が存在する。
この都市の様子を見て分かる通り、既に失われているものあるがな」
皇帝のその説明はちょっと想像出来ないけど、この都市にも似たようなものが飛んでいる。
あれは小鳥よりも小さいものだったけどな。
「……なんでそんな高度な技術を持っているのがこんな地下に」
「それを話す必要はあるまい? 大切なことは今ここに存在し、貴様たちの文明にも多大に影響を与えているということだ」
全身鋼鉄の鎧馬に首都にそれに近い場所に存在する建物。
確かに人の国にはこの地下都市の影響を受けているところがある。
本当は話して欲しいのだけれど、皇帝はその気が一切ないようだ。
「それじゃあなんで俺にこんな話をしたんですか」
「現在の話をするためだ。セイルよ。
貴様が望むのであれば……その異世界の知恵、思うままに触れることが可能になる。
それこそ、貴様が最先端の技術者となることも可能であろう」
「だから、このシアロルに仕えろ……と?」
なにも言わずに静かにうなずいた皇帝の提案に俺は一瞬悩んでしまった。
地上の暮らしに比べ、地下は楽園に近い。
知らないことはいっぱいあるし、食べ物も美味い。
恐怖を感じる事もあるけれど、正直ずっとここにいたいという気持ちも強い。
だけど――
「どうだ? 貴様が手を伸ばせば、望むもの全てが手に入る。
もちろん、くずはとかいうジパーニグの勇者の安全も保証してやろう」
「……それは出来ない」
「ほう?」
皇帝の提案は魅力的だ。
くずはも守れるし、ここでずっと安全に……幸せに暮すというのも悪くはないだろう。
だけどそれは自分の世界に閉じこもって得られる幸福だ。
そんなもの、本当の幸せじゃない。
それは……もっと大切なもののはずだから。
「ここにいれば心地よい生活が送れるかもしれない。
でも……この都市での生活は大切なものをなくしてしまう。
そんなの俺の望む全てじゃない」
今この場での答えとしては間違いなく悪手だろう。
それでも自分の気持ちに嘘はつけない。
ここで皇帝の提案を受け入れるってことは、今まで犠牲になってきた全部を否定することになるのだから。
いや、確かに美味かったような気がする。
あまり馴染みのない料理ばかりだったけど、普通に食べれた……はずだ。
というかあの威厳のある皇帝と共に食事をすること自体緊張するというのに、こういう公式な場での食事の作法など完璧であろうはずがない。
ただでさえ結構広い食堂という落ち着かない空間。
その上に食事中、一切喋らない皇帝に気を回し過ぎてあまり味わう暇などなかったように思える。
それでも料理の味を聞かれれば『美味しい』と言う他なかったのだけどな。
食事が終わった後の軽いデザートも済んだ俺たちは、改めて来客用の部屋に戻ることになった。
「やはり祖国の料理は良い。郷愁の念を湧き上がらせてくれる。
当時はこれほどに立派な食事をしていた訳ではないがな」
「祖国……」
皇帝のその言葉にはなにか違和感があった。
具体的に……となると考え込んでしまうけど、とにかく何かがひっかかる。
「そうだ。貴様には覚えがないか?
生まれは……ジパーニグだったか。
旅をする身であるのならば、自然と疎遠になっていくものであろう?」
「それはまあ……確かに」
今ではジパーニグなんて寄り付きもしてないけど、それでも自分のよく知る料理が出てきた時なんかは親の顔も思い出して寂しくなったりもした。
だけど、それは俺が長いことジパーニグを離れることになったからだ。
ちょくちょく帰れるのであれば、そういう想いをすることもないだろう。
「ですが皇帝は常にシアロルの地にいらっしゃるではないですか。
何をそんなに懐かしむ事があると?」
「シアロルにいるからこそ、思うこともあるのだ。
この気持ちは、貴様にはわからぬだろう」
皇帝の……どこか憐れむような視線は俺にある種の考えをもたらす。
それは本来絶対にあり得ないと思うような――いわば妄想だ。
だけど、自ら体験したことがまるでピースを嵌めるように一つずつはまっていく。
魔方陣の有用性を知らず、中途半端に発展した世界。
人と魔人の関係性に勇者と転生英雄の存在。
それと……群を抜いて発展したシアロル帝都クワドリスとそれ以上の技術力を誇る地下都市のスラヴァグラード。
……特にこの都市に来た時に抱いた感情が、余計にその念を抱かせる。
それはつまり、スラヴァグラードはまるで異世界からやってきたようだ。
「皇帝、貴方は……」
「……貴様も既に気付いているであろうが、この地下都市スラヴァグラードは異世界の人間たちが作り上げた町だ」
ある程度気付いていたその事実も、皇帝にはっきりと言われてしまったら言葉もなく驚いてしまう。
だってそれは、考えようとしなかったからだ。
いや、正確にはしたくなかった。
だってそれは『英雄召喚』以外の方法でこの世界に来たという証明になるのだから。
「異世界って?」
「こことは違う別の世界のことだ。
例えばちょっと前に出会った金髪縦ロール――ルーシーなんかがそうだな」
「へー……」
スパルナに教えてやったんだが、どうにも反応が薄い。
ま、仕方ないだろう。彼は元々実験ばかりで世界の事情には疎い。
だからこそ感心するかのような声でそれだけの反応しかしないのだろう。
「そこでは空を飛ぶ鋼鉄の鳥や海奥深くを潜る鋼鉄の魚が存在する。
この都市の様子を見て分かる通り、既に失われているものあるがな」
皇帝のその説明はちょっと想像出来ないけど、この都市にも似たようなものが飛んでいる。
あれは小鳥よりも小さいものだったけどな。
「……なんでそんな高度な技術を持っているのがこんな地下に」
「それを話す必要はあるまい? 大切なことは今ここに存在し、貴様たちの文明にも多大に影響を与えているということだ」
全身鋼鉄の鎧馬に首都にそれに近い場所に存在する建物。
確かに人の国にはこの地下都市の影響を受けているところがある。
本当は話して欲しいのだけれど、皇帝はその気が一切ないようだ。
「それじゃあなんで俺にこんな話をしたんですか」
「現在の話をするためだ。セイルよ。
貴様が望むのであれば……その異世界の知恵、思うままに触れることが可能になる。
それこそ、貴様が最先端の技術者となることも可能であろう」
「だから、このシアロルに仕えろ……と?」
なにも言わずに静かにうなずいた皇帝の提案に俺は一瞬悩んでしまった。
地上の暮らしに比べ、地下は楽園に近い。
知らないことはいっぱいあるし、食べ物も美味い。
恐怖を感じる事もあるけれど、正直ずっとここにいたいという気持ちも強い。
だけど――
「どうだ? 貴様が手を伸ばせば、望むもの全てが手に入る。
もちろん、くずはとかいうジパーニグの勇者の安全も保証してやろう」
「……それは出来ない」
「ほう?」
皇帝の提案は魅力的だ。
くずはも守れるし、ここでずっと安全に……幸せに暮すというのも悪くはないだろう。
だけどそれは自分の世界に閉じこもって得られる幸福だ。
そんなもの、本当の幸せじゃない。
それは……もっと大切なもののはずだから。
「ここにいれば心地よい生活が送れるかもしれない。
でも……この都市での生活は大切なものをなくしてしまう。
そんなの俺の望む全てじゃない」
今この場での答えとしては間違いなく悪手だろう。
それでも自分の気持ちに嘘はつけない。
ここで皇帝の提案を受け入れるってことは、今まで犠牲になってきた全部を否定することになるのだから。
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