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第十六節・一つの決着 セイル編
第286幕 ジパーニグの王
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士気の戻った軍官は、さっきまでより鋭い動きをしていた。ただ、クリムホルン王の一言があったおかげで攻撃を仕掛けてくることはなかった。
「なんで攻撃を中断させた?」
「簡単だ。貴様は私は相手をする」
信じられない言葉が飛び出してきた。彼が……一国の王が、俺の相手を?
「クリムホルン王……!」
「お前たちはまずあの鳥を落とすのだ。戦闘機を全て失えば、始まるのは上空からの蹂躙。空と地で連携せよ」
「はっ!」
どうやら彼は本気らしい。軍官たちは全員、スパルナと戦っている攻撃機への支援をする為に動き出した。
それを魔方陣で追撃しようとすると、すっとクリムホルン王が立ち塞がった。
「連れぬな。せっかく舞台を整えてやったというのに」
「……舞台?」
「そうだ。ロンギルスからは聞いておるのだろう? 私たちが戦争を動かしているのだと。今もまた然り。一兵卒共は別の戦場へ行き……貴様は私と戦う」
マントを外したクリムホルン王は、全身を防具で固めている。ただ……なんで言えば良いんだろう。彼の着ているのは俺たちが見た事のある鎧とは違う。鈍く光る銅と黒を混ぜた色。どこか古めかしささえ感じるそれは、ある種の美しさを秘めていた。
「久しぶりの本物の戦場…….最早叶ったわ思っておったが、貴様のお陰だ。全く、人生と言うものはこれだから楽しい。心折れ、刃砕け、仕える身になろうとも、我が牙は未だ錆び付かず」
腰に挿した刀を鞘からするりと抜いて……クリムホルン王は頭に添えて、切っ先をこちらに向けるような構えを見せてきた。
「……一つ、聞かせてくれ。なんで、貴方がここにいる」
「知れたこと。我が国の危機となれば、駆けつけなければなるまい。それが、人を率いる者としての役目。上に立つ者として、守るべき責務だ」
「それは……上に住んでる人にはないのかよ……!?」
本当に責任があるって言うのなら、魔人と戦うなんて馬鹿げてる。地下都市に危機が迫ってきたら真っ先に飛んできて、上の町が攻撃されても動かないなんて……そんなの、ありかよ……!
「人とアンヒュルは違う。わかるか? この意味が」
「一緒だろう! 上の人と!」
「やれやれ、地下人と地上人は違う。貴様たちは……ただの邪魔な先人よ」
吐き捨てるように嘲笑うと、クリムホルン王は俺との間合いを詰めて鋭い突きを放ってくる。それは、政治だけをしてきた者には到底たどり着けない煌めきがあった。
――キィィン。
とっさに魔方陣で氷の盾を作り出して、身体をよじりながら前方に突き出すと、その刀は音を鳴らして俺の作り出した盾を貫いた。
「くそっ……!」
「どうした? その程度の業で国を盗ろうとは……余りのおかしさに茶が沸くわ」
辛うじて避けることに失敗した俺は、左肩に深々と突き刺さった刃を折りにかかり……すぐさま引かれて避けられてしまった。そこから縦に半回転しながら俺の頭上に刀を振り下ろすように斬りかかってくる。それを胸の辺りを掠めるようにギリギリで回避すると更に息もつかさないように身を一瞬引いて、矢のような突きを飛ばしてくる……。
クリムホルン王の剣技に俺は完全に圧倒されていた。その一つ一つに冴え渡る技術が感じられ、俺より数段上の高みにいる――それがひしひしと伝わってくるんだ。
軍官が使っていた銃なんて石ころ投げてるのと変わらないんじゃないかと思うほどの鋭さ。一撃の重みさえ普通のそれとは違った。
「強いっ……!」
「違うな。貴様が弱いのだよ。アレもなぜこのような者に手こずっておったのか……」
「アレ……?」
「勇者ヘルガ。貴様にはそう言ったほうが早いだろう。長い時を生きている間に、あの者の腕は錆びついたらしい。私よりも才能溢れる女傑であったのに、原初の起動式の性能、好敵手に恵まれぬ環境……それらがアレを落ちぶれさせた。昔とは遠く……弱くしてしまった」
ヘルガが……弱くなった……?
幾つかの軌道を描き、放たれる剣戟を避け、グラムレーヴァを抜いて防ぎ、刃を交わす……。そんな死闘をしている状況でまるで世間話でもしてるかのように涼しい顔で話すクリムホルン王の言葉には、ただただ衝撃しかなかった。彼女は勇者の中でもずば抜けていて……ラグズエルの時も思ったけど、彼女は誰よりも強い。世界中の人や魔人を敵に回しても平気なのかもしれないと思っていた。そんな彼女が弱くなっただなんて……。
「だから貴様等には感謝しているだろう。身についた錆を落とし、昔の感覚をアレは取り戻す。そして……アンヒュル共は再び完全に我等の統治下に置かれるのだからな。次は反抗心も持たぬ傀儡がグランセストを治めることになるだろう。此度の戦は……その為だけにあるのだからな」
「それだけ……そんな事の為だけに、あんな物まで投入してきたのか!? 全てを根絶やしに……そこまでするのか!?」
「箱庭の戦争こそ恒久的な平和だ。定められた時期に定められた者たちが命を失う……。少数の犠牲で平和が保たれ続けるのならば、素晴らしいではないか」
何を……何を言ってるんだ? そんな事、本気で思っているって? そんな事が――
「そんな事、あっていいはずがない!」
「思うのは勝手だ。だが、現実の世界はそれで回っている」
「なら……あんたを倒して、皇帝も全部! 倒して! 犠牲を強いる平和を壊す!」
「良かろう。破壊者よ。ならば私も……全力を持って相手をしようではないか」
ここまでやって更に力を隠していたと皇帝は宣言した。だけど、俺ももう一歩も引く気はない。ここで、この愚王を討つ――!
「なんで攻撃を中断させた?」
「簡単だ。貴様は私は相手をする」
信じられない言葉が飛び出してきた。彼が……一国の王が、俺の相手を?
「クリムホルン王……!」
「お前たちはまずあの鳥を落とすのだ。戦闘機を全て失えば、始まるのは上空からの蹂躙。空と地で連携せよ」
「はっ!」
どうやら彼は本気らしい。軍官たちは全員、スパルナと戦っている攻撃機への支援をする為に動き出した。
それを魔方陣で追撃しようとすると、すっとクリムホルン王が立ち塞がった。
「連れぬな。せっかく舞台を整えてやったというのに」
「……舞台?」
「そうだ。ロンギルスからは聞いておるのだろう? 私たちが戦争を動かしているのだと。今もまた然り。一兵卒共は別の戦場へ行き……貴様は私と戦う」
マントを外したクリムホルン王は、全身を防具で固めている。ただ……なんで言えば良いんだろう。彼の着ているのは俺たちが見た事のある鎧とは違う。鈍く光る銅と黒を混ぜた色。どこか古めかしささえ感じるそれは、ある種の美しさを秘めていた。
「久しぶりの本物の戦場…….最早叶ったわ思っておったが、貴様のお陰だ。全く、人生と言うものはこれだから楽しい。心折れ、刃砕け、仕える身になろうとも、我が牙は未だ錆び付かず」
腰に挿した刀を鞘からするりと抜いて……クリムホルン王は頭に添えて、切っ先をこちらに向けるような構えを見せてきた。
「……一つ、聞かせてくれ。なんで、貴方がここにいる」
「知れたこと。我が国の危機となれば、駆けつけなければなるまい。それが、人を率いる者としての役目。上に立つ者として、守るべき責務だ」
「それは……上に住んでる人にはないのかよ……!?」
本当に責任があるって言うのなら、魔人と戦うなんて馬鹿げてる。地下都市に危機が迫ってきたら真っ先に飛んできて、上の町が攻撃されても動かないなんて……そんなの、ありかよ……!
「人とアンヒュルは違う。わかるか? この意味が」
「一緒だろう! 上の人と!」
「やれやれ、地下人と地上人は違う。貴様たちは……ただの邪魔な先人よ」
吐き捨てるように嘲笑うと、クリムホルン王は俺との間合いを詰めて鋭い突きを放ってくる。それは、政治だけをしてきた者には到底たどり着けない煌めきがあった。
――キィィン。
とっさに魔方陣で氷の盾を作り出して、身体をよじりながら前方に突き出すと、その刀は音を鳴らして俺の作り出した盾を貫いた。
「くそっ……!」
「どうした? その程度の業で国を盗ろうとは……余りのおかしさに茶が沸くわ」
辛うじて避けることに失敗した俺は、左肩に深々と突き刺さった刃を折りにかかり……すぐさま引かれて避けられてしまった。そこから縦に半回転しながら俺の頭上に刀を振り下ろすように斬りかかってくる。それを胸の辺りを掠めるようにギリギリで回避すると更に息もつかさないように身を一瞬引いて、矢のような突きを飛ばしてくる……。
クリムホルン王の剣技に俺は完全に圧倒されていた。その一つ一つに冴え渡る技術が感じられ、俺より数段上の高みにいる――それがひしひしと伝わってくるんだ。
軍官が使っていた銃なんて石ころ投げてるのと変わらないんじゃないかと思うほどの鋭さ。一撃の重みさえ普通のそれとは違った。
「強いっ……!」
「違うな。貴様が弱いのだよ。アレもなぜこのような者に手こずっておったのか……」
「アレ……?」
「勇者ヘルガ。貴様にはそう言ったほうが早いだろう。長い時を生きている間に、あの者の腕は錆びついたらしい。私よりも才能溢れる女傑であったのに、原初の起動式の性能、好敵手に恵まれぬ環境……それらがアレを落ちぶれさせた。昔とは遠く……弱くしてしまった」
ヘルガが……弱くなった……?
幾つかの軌道を描き、放たれる剣戟を避け、グラムレーヴァを抜いて防ぎ、刃を交わす……。そんな死闘をしている状況でまるで世間話でもしてるかのように涼しい顔で話すクリムホルン王の言葉には、ただただ衝撃しかなかった。彼女は勇者の中でもずば抜けていて……ラグズエルの時も思ったけど、彼女は誰よりも強い。世界中の人や魔人を敵に回しても平気なのかもしれないと思っていた。そんな彼女が弱くなっただなんて……。
「だから貴様等には感謝しているだろう。身についた錆を落とし、昔の感覚をアレは取り戻す。そして……アンヒュル共は再び完全に我等の統治下に置かれるのだからな。次は反抗心も持たぬ傀儡がグランセストを治めることになるだろう。此度の戦は……その為だけにあるのだからな」
「それだけ……そんな事の為だけに、あんな物まで投入してきたのか!? 全てを根絶やしに……そこまでするのか!?」
「箱庭の戦争こそ恒久的な平和だ。定められた時期に定められた者たちが命を失う……。少数の犠牲で平和が保たれ続けるのならば、素晴らしいではないか」
何を……何を言ってるんだ? そんな事、本気で思っているって? そんな事が――
「そんな事、あっていいはずがない!」
「思うのは勝手だ。だが、現実の世界はそれで回っている」
「なら……あんたを倒して、皇帝も全部! 倒して! 犠牲を強いる平和を壊す!」
「良かろう。破壊者よ。ならば私も……全力を持って相手をしようではないか」
ここまでやって更に力を隠していたと皇帝は宣言した。だけど、俺ももう一歩も引く気はない。ここで、この愚王を討つ――!
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