311 / 415
第十七節・落日の国編
第294幕 切られる戦いの火蓋
しおりを挟む
決行当日。俺たちは夜の静かさに紛れ、行動を開始することにした。地上とは違い、外は昼とは別の賑わいを見せてはいたが、敵の基地があるところはやはり一般人が近づかないせいで閑散としていた。
月どころか星の明かりさえないここでは、まるでそこに太陽があるかのように照らされる街灯だけが全てだ。昼間は上に取り付けられた灯りがこの地下の世界を照らしてくれる為、時間の方は割とはっきりとしている。地上での夕暮れなんかも明かりの調節で再現しているのだから、本当に大したものだ。
そのおかげもあってか、地下人も結構朝昼夜の活動がはっきりと分かれていて、喧騒とは全く無縁の時間が出来ている……という訳だ。
「それじゃあ、始めるぞ。二人は誰かが来たらすぐにわかるように慎重に見張ってくれ」
「わかった。頑張ってね」
「任せてください。そちらの方はよろしくお願いします」
周囲の警戒を二人に任せて、俺は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして両手をかざして魔方陣を作り始める。
下手なものを構築して失敗する事は許されない。魔方陣が必ず発動する特性を持つ以上、中途半端な事をすれば、どれだけの被害が出るかわかったものじゃないからな。ここは慎重に。自分の魔力を確かめながら、確かめるように構築していく。
起動式は戦車を焼き払った日に使った『神』『焔』『剣』の三つに『連鎖』『待機』の二つを組み合わせたものだ。決行日までの間に色々と小さな魔方陣で試行錯誤した結果、こうする事でしばらくの間だが、魔方陣を留めて置くことが出来た。発動するまで常に魔力を奪われ続けるのがデメリットだが、これなら問題なく作戦を達成することが出来る。
「……よし、敵はどうだ?」
「こっちの方は大丈夫よ。一度遠くまで見てきたけど、誰も来なかったわ」
「私の方も問題ありません。そちらは……終わったようですね」
俺の様子を見てヘンリーは少し安堵したような顔を浮かべていた。案を出したのは良いが、実際やってみるまで不安があったのだろう。
「次の基地に行くぞ」
「はい」
「うん!」
魔方陣が正確に光沢されている事を確認した俺たちは、別の基地に向かって全く同じことをする。それを二度繰り返す……のはいいが、流石に常に魔力を奪われ続けるのは身体が怠く感じる。複雑な魔方陣を三つも発動し続けているような状態なんだし、当然と言えば当然なんだが……体が怠いだけで終わるというのは、自分の事ながら大したものだと思う。
現在は三つ目の魔方陣も問題なく構築が終わり、最後の基地に魔方陣を描いている最中。ここだけ『待機』のところを『始動』に変える。こうする事で最初にここが発動し、それから構築した順で魔方陣が発動していくという寸法だ。
俺一人だったらこんな事思いつかなかっただろう。なまじ戦いに長けているせいで、なんでもかんでも正面から物事を解決してしまうからな。
シエラのように最初から無理だと決めて、選択肢から外していただろう。
「……よし。二人とも、準備は終わったぞ。ここから離れよう」
「上手くいくかな?」
まだ魔方陣の常識が崩さないシエラは、走りながら不安そうに呟いていた。
気持ちはわかる。俺だってはっきりとどうなるか確証はないんだから。
「ここまでやったんだ。後は……なんとかなるさ」
「そういう考え方、好きですよ。最早後には陽けないのですから、失敗を気にするより、成功を信じた方がいいです」
ヘンリーの言う通り、ここで失敗したらどうしようなんて悩んでももう遅い。動く前に最悪を考えるのは良いが、一度動いたなら、後は前を向いて突っ走らないとな。
「初めての試みで不安なのはわかる。だが、もう止まることは出来ない。大丈夫だ。俺を信じろ」
「……うん。わかった。グレリアのこと、信じるよ」
ようやく覚悟が決まった目つきをするようになったシエラに胸を撫で下ろしていると、今度はヘンリーが嫌らしい笑みでこっちを見ていた。
「……なんだ?」
「いいえ。ただ、『俺を信じろ』なんて堂々言えるところなど、大したものだと思っただけですよ。私では到底……」
大仰に頭を振るその仕草は苛つくが、どこか寂しそうな光をその目に見てしまって……そのまま黙ることにした。
彼は彼なりに、強さに対して思うところがあるのだろう。それについて口が出せるほど、俺はヘンリーについて何も知らない。
「……行くぞ。いつまでもこの近辺にいるのはあまり良くない」
実際正しく発動されたかどうか確認しなければならないからな。俺たちは黙ったまま最初に魔方陣を構築した基地のところまで戻って、事の行く末を見守ることにした。
「少し、物悲しくなるね。敵とは言っても、今から大勢の人が死んでいくって考えると……」
悲しい目をしたシエラがそんな事をぽつりと呟いていたけど、それは……仕方のない事だ。俺たちがしているのは戦争で、これは被害を最小限に食い止める為なのだから。
このまま野放しにしていたら、間違いなく彼らは魔人の国を焼くだろう。俺たちがやるよりも多くの生き物が犠牲になる。だからこれは正しいんだ……と言うつもりはないけどな。
「……それじゃあ、始めるぞ」
俺たちは、罪を背負うことになってもやらなければならないんだ。少数を犠牲にして、より多くを守るために。
月どころか星の明かりさえないここでは、まるでそこに太陽があるかのように照らされる街灯だけが全てだ。昼間は上に取り付けられた灯りがこの地下の世界を照らしてくれる為、時間の方は割とはっきりとしている。地上での夕暮れなんかも明かりの調節で再現しているのだから、本当に大したものだ。
そのおかげもあってか、地下人も結構朝昼夜の活動がはっきりと分かれていて、喧騒とは全く無縁の時間が出来ている……という訳だ。
「それじゃあ、始めるぞ。二人は誰かが来たらすぐにわかるように慎重に見張ってくれ」
「わかった。頑張ってね」
「任せてください。そちらの方はよろしくお願いします」
周囲の警戒を二人に任せて、俺は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして両手をかざして魔方陣を作り始める。
下手なものを構築して失敗する事は許されない。魔方陣が必ず発動する特性を持つ以上、中途半端な事をすれば、どれだけの被害が出るかわかったものじゃないからな。ここは慎重に。自分の魔力を確かめながら、確かめるように構築していく。
起動式は戦車を焼き払った日に使った『神』『焔』『剣』の三つに『連鎖』『待機』の二つを組み合わせたものだ。決行日までの間に色々と小さな魔方陣で試行錯誤した結果、こうする事でしばらくの間だが、魔方陣を留めて置くことが出来た。発動するまで常に魔力を奪われ続けるのがデメリットだが、これなら問題なく作戦を達成することが出来る。
「……よし、敵はどうだ?」
「こっちの方は大丈夫よ。一度遠くまで見てきたけど、誰も来なかったわ」
「私の方も問題ありません。そちらは……終わったようですね」
俺の様子を見てヘンリーは少し安堵したような顔を浮かべていた。案を出したのは良いが、実際やってみるまで不安があったのだろう。
「次の基地に行くぞ」
「はい」
「うん!」
魔方陣が正確に光沢されている事を確認した俺たちは、別の基地に向かって全く同じことをする。それを二度繰り返す……のはいいが、流石に常に魔力を奪われ続けるのは身体が怠く感じる。複雑な魔方陣を三つも発動し続けているような状態なんだし、当然と言えば当然なんだが……体が怠いだけで終わるというのは、自分の事ながら大したものだと思う。
現在は三つ目の魔方陣も問題なく構築が終わり、最後の基地に魔方陣を描いている最中。ここだけ『待機』のところを『始動』に変える。こうする事で最初にここが発動し、それから構築した順で魔方陣が発動していくという寸法だ。
俺一人だったらこんな事思いつかなかっただろう。なまじ戦いに長けているせいで、なんでもかんでも正面から物事を解決してしまうからな。
シエラのように最初から無理だと決めて、選択肢から外していただろう。
「……よし。二人とも、準備は終わったぞ。ここから離れよう」
「上手くいくかな?」
まだ魔方陣の常識が崩さないシエラは、走りながら不安そうに呟いていた。
気持ちはわかる。俺だってはっきりとどうなるか確証はないんだから。
「ここまでやったんだ。後は……なんとかなるさ」
「そういう考え方、好きですよ。最早後には陽けないのですから、失敗を気にするより、成功を信じた方がいいです」
ヘンリーの言う通り、ここで失敗したらどうしようなんて悩んでももう遅い。動く前に最悪を考えるのは良いが、一度動いたなら、後は前を向いて突っ走らないとな。
「初めての試みで不安なのはわかる。だが、もう止まることは出来ない。大丈夫だ。俺を信じろ」
「……うん。わかった。グレリアのこと、信じるよ」
ようやく覚悟が決まった目つきをするようになったシエラに胸を撫で下ろしていると、今度はヘンリーが嫌らしい笑みでこっちを見ていた。
「……なんだ?」
「いいえ。ただ、『俺を信じろ』なんて堂々言えるところなど、大したものだと思っただけですよ。私では到底……」
大仰に頭を振るその仕草は苛つくが、どこか寂しそうな光をその目に見てしまって……そのまま黙ることにした。
彼は彼なりに、強さに対して思うところがあるのだろう。それについて口が出せるほど、俺はヘンリーについて何も知らない。
「……行くぞ。いつまでもこの近辺にいるのはあまり良くない」
実際正しく発動されたかどうか確認しなければならないからな。俺たちは黙ったまま最初に魔方陣を構築した基地のところまで戻って、事の行く末を見守ることにした。
「少し、物悲しくなるね。敵とは言っても、今から大勢の人が死んでいくって考えると……」
悲しい目をしたシエラがそんな事をぽつりと呟いていたけど、それは……仕方のない事だ。俺たちがしているのは戦争で、これは被害を最小限に食い止める為なのだから。
このまま野放しにしていたら、間違いなく彼らは魔人の国を焼くだろう。俺たちがやるよりも多くの生き物が犠牲になる。だからこれは正しいんだ……と言うつもりはないけどな。
「……それじゃあ、始めるぞ」
俺たちは、罪を背負うことになってもやらなければならないんだ。少数を犠牲にして、より多くを守るために。
0
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる