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第十七節・落日の国編
第313幕 暗雲の気配
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ナッチャイスが焦土と化していた事を知ったのはイーリンが戻ってしばらくしてからだった。まさか数日の内にナッチャイスが……それも、完膚なきまでに滅ぼされているなんて誰が思うものか。事実確認の為に調査隊を組んで向こうに行っているのだけれど、あまり状況は芳しくない。少なくともあちらに渡った商人や旅人たちの消息は一切わかってない。
真っ先に思い出すのはセイルの顔なんだが……彼はそんな事をする男ではないし、根絶やしという言葉がしっくり来るほどの残虐な行為をやるような者ではない。まず間違いなく別の誰かになる。
それで考えられるのは……シアロルの勇者であるヘルガだろう。特殊な力を持つ勇者も人の側に残っているのは武龍とヘルガ。それと……ルーシーがイギランスに留まっているのだとしたら、彼女もそうなるだろう。もっとも、武龍は生きていたら、の話だけれどな。
司、カーター、ソフィアは死に、くずはとヘンリーはこちらの陣営についている。そう考えると勇者と呼ばれていた者は半数近くがこの世から去っていったことになるな。少しずつだけれど、終わりが見えてきたような気がする。人の国も残るはイギランスとシアロルのみ。そのうちの一つにはセイルが潜入してると考えた方が良いだろう。出来るならばどこにいるのか知りたいけど……彼と連絡がつかない以上、無理だろう。
どっちに行くにしろ、最終的には合流するわけだし、あまりに気にする必要はないだろう。
それよりも……やはり今一番気になるのはナッチャイスの事。ジパーニグは生き残りがいないか確認しているようだが……聞いた話ではそれも絶望的だ。何しろ次々と入ってくる情報からわかるのは、廃墟すら残っていないという現実なのだから。よくもここまでやったと言える。
「グレリア殿!」
気が滅入る現状に頭を悩ませていると、大慌てな声でロイウスが飛んできた。
何度も見たことがあるような光景に少しうんざりするも、話を聞かないわけにもいかないだろう。
「……そんなに慌てて一体どうした?」
「じ、実は……」
息を切らせながらなんとか落ち着こうとしているロイウスは、ひとしきり呼吸した後、ようやく顔を上げた。
「はぁ……」
「落ち着いたか?」
「え、ええ。実はナッチャイスの生き残りがジパーニグで見つかりまして……」
それは朗報だ。このところあちらの方面からは悪い――というか酷い話しか伝わってこない。恐らく、たまたまこちらにいた者たちが偶然事なきを得たのだろう。
「良かった……とは言い切れないが、命があるだけいいじゃないか」
「それで……その生き残りの一人がグレリア殿に会いたいと」
「俺に?」
なんでまた俺なんかと……。
ナッチャイスには知り合いなんていないはずだし、一体誰が俺を……?
「ええ。ナッチャイスの……勇者様です」
――
「まさか武龍が生きてるとはな」
ロイウスから話を聞いた俺は、暇していたシエラと一緒に武龍に会うことにした。
「その武龍って勇者はどんな人なの?」
「……そういえばシエラは会ったことがなかったな」
俺が彼と最初に会ったのはイギランスで勇者たち全員の顔合わせをした時と……エセルカが誘拐された時だったな。両方ともシエラを連れていなかったし、彼女が知らないのも当然だろう。
「なんと言えばいいかな……。強くなることに貪欲な男、なのかもな」
「……それってセイルと何か違うの?」
「あいつは魔方陣も込みの男だ。武龍は、自分の肉体だけを鍛え上げていて、独特な武術を使う。頭も固いし、あいつとは大分違う」
自分を苛めて強くなろうとするところは一緒なのかもしれない……というのは似てるかもな。
「そう。……でも、大丈夫なの? もしかしたら襲われるかも」
「それはない。一応融通の効くところはあるし、戦いたいなら、すぐにでも乗り込んでくるだろう」
「そういうもの、かなぁ……」
実際はわからないけどな。だが、襲うならもっと早くやりそうなものだ。
「なんにせよ、会ってみたらわかるさ」
「もし襲いかかってきたら私が守ってあげるよ」
胸を張ってとん、と叩くシエラだが、なんとも頼りない姿だ。
「ははっ、頼りにしてるよ」
目当てのところに着いた俺らは、口を閉ざして……扉を開ける。一応勇者ということで、他の生き残りとは違う部屋みたいで、そいつは一人で腕立て伏せをしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
俺たちの来訪に気付かずに黙々と身体を鍛えてる目の前の男に、どんな風に言えば良いのかと固まってしまった。
「グ、グレリア。声、掛けないの?」
「……なんだか、掛けづらくてな」
どうすれば良いかと思案している間にもこの奇妙な時間は続いて……結局、俺たちは武龍が腕立てを止めるのを待ち続けた。
「……よしっ、これで今日の鍛錬は……おお、来たか魔王の右腕」
「……魔王の右腕?」
「お前は知らなくていい」
この男。まだそんな事を言ってたのか。
敵意を見せることはない……が、その物腰は全く隙がない。
さて、まさか世間話をするために俺を呼んでいたわけではないだろう。一体どんな話をしてくれるやら。
真っ先に思い出すのはセイルの顔なんだが……彼はそんな事をする男ではないし、根絶やしという言葉がしっくり来るほどの残虐な行為をやるような者ではない。まず間違いなく別の誰かになる。
それで考えられるのは……シアロルの勇者であるヘルガだろう。特殊な力を持つ勇者も人の側に残っているのは武龍とヘルガ。それと……ルーシーがイギランスに留まっているのだとしたら、彼女もそうなるだろう。もっとも、武龍は生きていたら、の話だけれどな。
司、カーター、ソフィアは死に、くずはとヘンリーはこちらの陣営についている。そう考えると勇者と呼ばれていた者は半数近くがこの世から去っていったことになるな。少しずつだけれど、終わりが見えてきたような気がする。人の国も残るはイギランスとシアロルのみ。そのうちの一つにはセイルが潜入してると考えた方が良いだろう。出来るならばどこにいるのか知りたいけど……彼と連絡がつかない以上、無理だろう。
どっちに行くにしろ、最終的には合流するわけだし、あまりに気にする必要はないだろう。
それよりも……やはり今一番気になるのはナッチャイスの事。ジパーニグは生き残りがいないか確認しているようだが……聞いた話ではそれも絶望的だ。何しろ次々と入ってくる情報からわかるのは、廃墟すら残っていないという現実なのだから。よくもここまでやったと言える。
「グレリア殿!」
気が滅入る現状に頭を悩ませていると、大慌てな声でロイウスが飛んできた。
何度も見たことがあるような光景に少しうんざりするも、話を聞かないわけにもいかないだろう。
「……そんなに慌てて一体どうした?」
「じ、実は……」
息を切らせながらなんとか落ち着こうとしているロイウスは、ひとしきり呼吸した後、ようやく顔を上げた。
「はぁ……」
「落ち着いたか?」
「え、ええ。実はナッチャイスの生き残りがジパーニグで見つかりまして……」
それは朗報だ。このところあちらの方面からは悪い――というか酷い話しか伝わってこない。恐らく、たまたまこちらにいた者たちが偶然事なきを得たのだろう。
「良かった……とは言い切れないが、命があるだけいいじゃないか」
「それで……その生き残りの一人がグレリア殿に会いたいと」
「俺に?」
なんでまた俺なんかと……。
ナッチャイスには知り合いなんていないはずだし、一体誰が俺を……?
「ええ。ナッチャイスの……勇者様です」
――
「まさか武龍が生きてるとはな」
ロイウスから話を聞いた俺は、暇していたシエラと一緒に武龍に会うことにした。
「その武龍って勇者はどんな人なの?」
「……そういえばシエラは会ったことがなかったな」
俺が彼と最初に会ったのはイギランスで勇者たち全員の顔合わせをした時と……エセルカが誘拐された時だったな。両方ともシエラを連れていなかったし、彼女が知らないのも当然だろう。
「なんと言えばいいかな……。強くなることに貪欲な男、なのかもな」
「……それってセイルと何か違うの?」
「あいつは魔方陣も込みの男だ。武龍は、自分の肉体だけを鍛え上げていて、独特な武術を使う。頭も固いし、あいつとは大分違う」
自分を苛めて強くなろうとするところは一緒なのかもしれない……というのは似てるかもな。
「そう。……でも、大丈夫なの? もしかしたら襲われるかも」
「それはない。一応融通の効くところはあるし、戦いたいなら、すぐにでも乗り込んでくるだろう」
「そういうもの、かなぁ……」
実際はわからないけどな。だが、襲うならもっと早くやりそうなものだ。
「なんにせよ、会ってみたらわかるさ」
「もし襲いかかってきたら私が守ってあげるよ」
胸を張ってとん、と叩くシエラだが、なんとも頼りない姿だ。
「ははっ、頼りにしてるよ」
目当てのところに着いた俺らは、口を閉ざして……扉を開ける。一応勇者ということで、他の生き残りとは違う部屋みたいで、そいつは一人で腕立て伏せをしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
俺たちの来訪に気付かずに黙々と身体を鍛えてる目の前の男に、どんな風に言えば良いのかと固まってしまった。
「グ、グレリア。声、掛けないの?」
「……なんだか、掛けづらくてな」
どうすれば良いかと思案している間にもこの奇妙な時間は続いて……結局、俺たちは武龍が腕立てを止めるのを待ち続けた。
「……よしっ、これで今日の鍛錬は……おお、来たか魔王の右腕」
「……魔王の右腕?」
「お前は知らなくていい」
この男。まだそんな事を言ってたのか。
敵意を見せることはない……が、その物腰は全く隙がない。
さて、まさか世間話をするために俺を呼んでいたわけではないだろう。一体どんな話をしてくれるやら。
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