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第二十二節・終曲の激戦 セイル編
第369幕 後ろ向きの思考
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最前線から拠点にしている町まで後退した俺とスパルナは、衛生兵の治療を受けることになった。スパルナはヘルガと戦った傷が結構多かったけれど、動くことには支障がないようだ。
だけど俺の方は自分が使った魔方陣による火傷や打撲。背中の深い刺し傷に大量の出血でまさしく満身創痍といった状態だ。おまけに魔方陣で応戦したときにさばききれなかった銃弾が手足に当たっていて、普通だったらすぐに立つことなんて出来なかったとまで言われていたな。
恐らく……だけど、『英』『炎』の魔方陣を使った時に攻撃されていたのだろうな。全く、抜け目のない女だ。
魔力の使い過ぎに身体はボロボロ。おまけに手足は撃ち抜かれてまともに動くこともままならないなんて、我ながらに情けないことだった。
……まあ、俺がヘルガを出来る限り引き止めたおかげでグランセスト軍の被害を抑えられたって思うと、少しはそういう気持ちも薄らいでいくんだけどな。その後すぐに帝都の方に見えない結界の壁みたいなのが出来て、侵攻することが出来なくなったのは残念だけどな。
その結界のおかげで、俺も少しは療養に専念出来る訳なんだけど……その分、色々悩んでしまう。
「……兄貴だったら、こんな事にはならなかったんだろうな」
あれから一番気になっていた兄貴の顛末を聞いたからこそ、余計にそう思う。俺たちがシアロル軍を帝都から引き離すまでの間に、たった一人で足止めしていたんだから。普通の人や魔人じゃ絶対に出来ない。何万もの兵士相手に援軍が到着するまで奮闘していた兄貴に引き換え、俺のなんて無様なことだろう。
兄貴と自分を比べるのもおかしい事だけれど――なんて答えの出ない自問自答を繰り返していて病室に見立てた部屋の一室で寝ていた時。ノックの音が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
「兄貴……」
部屋に入ってきた兄貴は、なにか大きな紙袋を抱えていた。
「……それは?」
「パンや肉。果物ってところだな。シアロルでは甘いものは手に入りにくいからちょっと苦労したぞ」
中に入ってる果物を一つ俺に放り投げて渡してくれた。グランセストで暮らしていた時には見たことのない赤い果物だ。そういえばシアロルに来た時に見たことがある。確か……りんごとか言ったっけ。食べたことがないから味に想像がつかない。
噛り付いてみると、外側の赤と違って、中は薄い黄色を帯びた果肉をしていた。瑞々しい果汁が口の中に溢れて、特有の甘さを伝えてくれる。
「甘い……」
「ああ。俺も少し前に初めて食べたが、中々美味いよな」
二人でしゃくしゃくとりんごをかじってるってのも、中々シュールな光景だ。これで気持ちの方も晴れやかだったら、もっと良かったんだけどな。
「落ち込んでるみたいだが、どうかしたか?」
「……俺は結局、兄貴の――グランセストの軍に何か出来たんだろう?」
うじうじと悩んでいた俺は、意を決して兄貴に相談することにした。ここで一人だけで悩んでいても何も解決しないし、誰かに話を聞いてもらいたかった。
「……セイル。お前はよくやった。ゴーレムやヘルガの相手はお前だからこそ出来たし、互角の戦いが出来たんだろう。スパルナだったら、どうしても少しずつ不利になっていくからな。それに、エンデハルト王がどこにいて、どんな攻撃をしてくるかまで教えてくれた」
「でも! ……それでも、兄貴だったら――」
「セイル。俺とお前は違う存在だ。生き方も戦い方も違う。俺がお前でも、同じようなことが出来たかわからない」
ゆっくりと首を横に振る兄貴は、諭すような眼をしていた。
「誰かと比べるな。お前はお前で、他の誰にもなれない。変わることの出来ない存在だ」
「変わることの、出来ない……」
「そうだ。もし俺がお前だったら、スパルナは必死に助けてくれなかったろう。あいつはお前に本当に良く懐いてるからな。誰かに大切に思われる。人徳だって一つの才能だ」
兄貴にそう言われると、自分がそこまで思いつめるほど悪いとも思えなくなるから不思議だ。落ち込みやすくて考え込みやすい……だけれど単純とかいう自分の性格がおかしくなるくらいにはな。
「……どうやら、元気が出たみたいだな」
「ああ。おかげで、な」
何度も情けない思いをして、泣きたくなっても前に進めたのは、兄貴の存在があったからだ。それに……スパルナがいてくれたから、な。
「医者から聞いたが、しばらくは身体を休めたら動けるようになるそうだ。だから、あまり無理はするなよ」
「わかってるさ。……ありがとう。兄貴」
兄貴はそれから、適当に今の俺でも食べられそうなものを見繕って渡してくれた。
「それじゃ、ゆっくり休んでろよ」
「……ああ」
残りはスパルナにでもやるかとか言いながら、兄貴は部屋を後にした。俺のすぐ隣にある机の上には、これは多すぎるだろう……と思えるくらい果物やら野菜やらが置かれている。
わざわざ俺を励ましてくれる為だけに来てくれた兄貴は、やっぱり最高の男だ。だからこそ、あんたの役に立ちたい。心の底からそう思うよ。
だけど俺の方は自分が使った魔方陣による火傷や打撲。背中の深い刺し傷に大量の出血でまさしく満身創痍といった状態だ。おまけに魔方陣で応戦したときにさばききれなかった銃弾が手足に当たっていて、普通だったらすぐに立つことなんて出来なかったとまで言われていたな。
恐らく……だけど、『英』『炎』の魔方陣を使った時に攻撃されていたのだろうな。全く、抜け目のない女だ。
魔力の使い過ぎに身体はボロボロ。おまけに手足は撃ち抜かれてまともに動くこともままならないなんて、我ながらに情けないことだった。
……まあ、俺がヘルガを出来る限り引き止めたおかげでグランセスト軍の被害を抑えられたって思うと、少しはそういう気持ちも薄らいでいくんだけどな。その後すぐに帝都の方に見えない結界の壁みたいなのが出来て、侵攻することが出来なくなったのは残念だけどな。
その結界のおかげで、俺も少しは療養に専念出来る訳なんだけど……その分、色々悩んでしまう。
「……兄貴だったら、こんな事にはならなかったんだろうな」
あれから一番気になっていた兄貴の顛末を聞いたからこそ、余計にそう思う。俺たちがシアロル軍を帝都から引き離すまでの間に、たった一人で足止めしていたんだから。普通の人や魔人じゃ絶対に出来ない。何万もの兵士相手に援軍が到着するまで奮闘していた兄貴に引き換え、俺のなんて無様なことだろう。
兄貴と自分を比べるのもおかしい事だけれど――なんて答えの出ない自問自答を繰り返していて病室に見立てた部屋の一室で寝ていた時。ノックの音が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
「兄貴……」
部屋に入ってきた兄貴は、なにか大きな紙袋を抱えていた。
「……それは?」
「パンや肉。果物ってところだな。シアロルでは甘いものは手に入りにくいからちょっと苦労したぞ」
中に入ってる果物を一つ俺に放り投げて渡してくれた。グランセストで暮らしていた時には見たことのない赤い果物だ。そういえばシアロルに来た時に見たことがある。確か……りんごとか言ったっけ。食べたことがないから味に想像がつかない。
噛り付いてみると、外側の赤と違って、中は薄い黄色を帯びた果肉をしていた。瑞々しい果汁が口の中に溢れて、特有の甘さを伝えてくれる。
「甘い……」
「ああ。俺も少し前に初めて食べたが、中々美味いよな」
二人でしゃくしゃくとりんごをかじってるってのも、中々シュールな光景だ。これで気持ちの方も晴れやかだったら、もっと良かったんだけどな。
「落ち込んでるみたいだが、どうかしたか?」
「……俺は結局、兄貴の――グランセストの軍に何か出来たんだろう?」
うじうじと悩んでいた俺は、意を決して兄貴に相談することにした。ここで一人だけで悩んでいても何も解決しないし、誰かに話を聞いてもらいたかった。
「……セイル。お前はよくやった。ゴーレムやヘルガの相手はお前だからこそ出来たし、互角の戦いが出来たんだろう。スパルナだったら、どうしても少しずつ不利になっていくからな。それに、エンデハルト王がどこにいて、どんな攻撃をしてくるかまで教えてくれた」
「でも! ……それでも、兄貴だったら――」
「セイル。俺とお前は違う存在だ。生き方も戦い方も違う。俺がお前でも、同じようなことが出来たかわからない」
ゆっくりと首を横に振る兄貴は、諭すような眼をしていた。
「誰かと比べるな。お前はお前で、他の誰にもなれない。変わることの出来ない存在だ」
「変わることの、出来ない……」
「そうだ。もし俺がお前だったら、スパルナは必死に助けてくれなかったろう。あいつはお前に本当に良く懐いてるからな。誰かに大切に思われる。人徳だって一つの才能だ」
兄貴にそう言われると、自分がそこまで思いつめるほど悪いとも思えなくなるから不思議だ。落ち込みやすくて考え込みやすい……だけれど単純とかいう自分の性格がおかしくなるくらいにはな。
「……どうやら、元気が出たみたいだな」
「ああ。おかげで、な」
何度も情けない思いをして、泣きたくなっても前に進めたのは、兄貴の存在があったからだ。それに……スパルナがいてくれたから、な。
「医者から聞いたが、しばらくは身体を休めたら動けるようになるそうだ。だから、あまり無理はするなよ」
「わかってるさ。……ありがとう。兄貴」
兄貴はそれから、適当に今の俺でも食べられそうなものを見繕って渡してくれた。
「それじゃ、ゆっくり休んでろよ」
「……ああ」
残りはスパルナにでもやるかとか言いながら、兄貴は部屋を後にした。俺のすぐ隣にある机の上には、これは多すぎるだろう……と思えるくらい果物やら野菜やらが置かれている。
わざわざ俺を励ましてくれる為だけに来てくれた兄貴は、やっぱり最高の男だ。だからこそ、あんたの役に立ちたい。心の底からそう思うよ。
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