滅びた勇者の弟に転生したけど、兄の残した絆で世界を救うことになりました

eringi

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第5話 元勇者パーティとの再会

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 燃えた村をあとにして三日。俺とユナは北へ向かう街道を進んでいた。  
 冷たい風が頬を刺す。空はどこまでも灰色で、太陽さえ霞んで見える。かつての交易路だったというこの道も、今ではほとんど人影がない。  
 通り過ぎた集落はすべて荒れていた。人々は疲れ切り、希望のない目をしていた。  
 それでも、僅かな光を手放していない人々もいた。傷ついた者を癒やす小屋、食料を分け合う母親たち。そこに残る“生きようとする意思”を見ると、胸の奥が熱くなった。  

「リオさん」  
「うん?」  
「この先の町、ナーダで少し足を止めましょう。神殿跡へ向かうには装備の補給が必要です」  
「了解。……それに、正直少し疲れた」  
 ユナが小さく笑った。  
 「あなたは無茶をしすぎです。兄上に似てきましたね」  
「俺が? そんなはずないさ……」  
 否定したつもりだったが、内心ではどこかくすぐったかった。  

 ***  

 夕刻、雪の舞う峠を越えた先にナーダの町が見えてきた。  
 木造の城壁で囲まれたその町は、小規模ながらもまだ人の気配を保っている。  
 門番が槍を構え、俺たちを怪訝な目で見た。  
「身分は?」  
「旅の者だ。北の神殿を目指している」  
「神殿に? ……この時期にか?」  
 男はため息を漏らし、やがて門を開いた。  
「まあ、行くならせいぜい気をつけな。最近、この辺りで“影狩り”って奴らが動いてる」  
「影狩り?」  
「夜な夜な現れては、魔に取り憑かれた人間を殺して回っている。だが本当に魔じゃなくても殺されるらしくてな」  

 背筋が粟立った。  
「正義を履き違えた輩、というわけか」  
「そうだ。昔の“勇者パーティ”の生き残りが率いているって噂もあるがな」  
 その言葉に、ユナが息を呑んだ。  
「まさか……」  
「心当たりが?」  
 ユナは静かに首を振る。だがその顔には明らかな動揺があった。  

 町に入ると、広場の一角で人だかりができていた。  
 鉄製の檻の中に、ボロ布をまとった若者が縛られている。  
 「こいつが“闇の目”を持っていたそうだ!」  
 群衆の中から怒号が飛ぶ。  
 手には松明と石。彼らの目は恐怖に濁り、怒りに染まっていた。  
 「落ち着け! 本当に闇のものか、まだ確認も済んでいない!」  
 押し留めていた衛兵を弾き飛ばし、誰かが石を投げた。その瞬間、群衆が一斉にざわめいた。  

 その時、群衆の向こうから風が吹いた。  
 炎が一瞬横へ揺れ、声が響く。  
 「くだらん真似はやめろ。その子どもは無実だ」  
 人々がざわつく。  
 そこに現れたのは、銀髪の男だった。  
 肩まで伸びる髪、片目に黒い眼帯。立ち姿は静かだが圧倒的な気配を放っていた。  
 「……あれは、“影狩り”の隊長、カイル・オルド」  
 ユナが小さく名を呟いた。  
 「知っているのか?」  
 「ええ。かつてレオン様と共に戦った剣士です」  

 カイルは一歩前に出て、群衆を見渡した。  
 「お前たちが恐れているのは“闇”ではない。知らないものを恐れているだけだ」  
 その声は低いがよく通った。だが人々の恐怖までは消えない。  
 「だが、確かにこの辺りには穢れの兆しがある。だからこそ、俺たちは闇の芽を摘む」  
 そう言ってカイルは少年の鎖を一刀で断ち切った。  
 「去れ。二度とこの町に戻るな」  
 少年は怯えたまま逃げ出した。  

 ざわつく群衆を背に、カイルは俺たちの方を向いた。  
 鋭い灰色の眼が、一瞬で俺を見抜く。  
 「……勇者の血か」  
 「俺を知っているのか?」  
 「ユナが一緒なら間違いない。あの時、まだ赤子だったリオ・レオンハート。随分と大きくなったな」  
 「あなたが……カイル」  
 ユナの表情に懐かしさと恐怖が入り交じる。  
 「生きていたのですね」  
 「死に損なっただけだ」  

 カイルは俺をじっと見つめた。  
 「お前が剣を持っているなら、問わねばならん。なぜその剣を抜いた?」  
 「村を救うためだ。瘴気が人を喰っていくのを黙って見ていられなかった」  
 「……そうか。だが、あの聖剣を扱えるのはレオンただひとりのはず。血筋があろうと、魂が違えば呑まれるぞ」  
 「それでもやるしかない」  
 そう答えると、カイルの眉が動いた。  
 やがて小さく笑い、短く言った。  
 「言葉だけなら、兄貴にそっくりだ」  

 その後、俺たちは町外れの酒場で彼から話を聞いた。  
 彼が率いる“影狩りの隊”は、勇者の封印後に生まれた闇の残滓を狩るための組織だった。  
 だが、次第に目的が歪み始めた。  
 魔性の兆しを見せる者たちを容赦なく処刑し、時には innocent な人まで巻き込むようになっていった。  
「だから今は俺ひとりだ。仲間を失った。正義に溺れた結果だ」  
 彼の声には深い疲れが滲んでいた。  

 「カイルさん、封印教団が復活しつつあります」  
 ユナが真剣な面持ちで告げる。  
 「闇の主を名乗る者が現れ、人々を操っています」  
 カイルの眼が鋭く光った。  
 「やはりか。あの戦いは、まだ終わっていなかったということだな」  
 「あなたも……神殿に向かうつもりですか?」  
 「そうだ。そこにすべての始まりがある。レオンが命を落とした“終焉の地”にな」  

 その言葉に、心が震えた。  
 兄の死の真実――彼もそれを追っているのだ。  
 彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。  
 そこには、古い地図と奇妙な印が描かれていた。  
 「神殿跡へは、刃の谷を抜ける必要がある。瘴気が濃く、普通の人間では数日ももたん」  
 カイルは地図を俺に渡し、真剣な眼差しを向けた。  
 「リオ、お前が本当にレオンの弟なら――答えを見つけろ。だが絶対に、あの闇に触れるな」  
 「闇に触れるな……?」  
 「封印が解けるたびに、誰かがそれを“望む声”を聞く。勇者の血を持つ者ほど、その声に引き寄せられる。お前の中の剣もそうだ」  
 胸の奥が熱く疼いた。  
 確かに、召喚するたびに剣が俺に囁きかけてくるような感覚があった。  
 それを“闇の声”だとするなら――兄は、その声の先に何を見たのだろう。  

 「……行くよ。俺は、この剣の真実を確かめる」  
 ユナが横で頷いた。  
 カイルはしばし黙り、それから小さく笑った。  
 「なら、北門まで送ろう。俺もそこまでは行く予定がある」  

 外に出ると、雪が静かに降っていた。  
 白の中に黒い外套が映える。  
 カイルは前を歩きながら言った。  
 「レオンは死んだが、その覚悟は消えていない。……お前がどう選ぶか、兄貴も見ているだろうさ」  
 その声は冷たい風に消えていったが、不思議と温かさが残った。  

 門を出るころ、夜の帳が降り始めた。  
 ユナが灯を掲げ、俺は空を仰ぐ。  
 雲の切れ間から星が覗いた。  
 もし兄がこの空を見ていたなら、あの星を何と呼んだだろう。  

 俺は握りしめた欠片に視線を落とした。  
 ほのかに光る黒の中に、かすかに兄の面影が浮かんで見えた気がした。  

 「兄さん……俺、やっと少しだけわかった気がするよ。あなたがあの剣に何を託したのか」  

 風が吹き抜け、雪が舞う。  
 先へ進む足音が、静かな夜に溶けていった。  

(続く)
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