滅びた勇者の弟に転生したけど、兄の残した絆で世界を救うことになりました

eringi

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第11話 壊れた聖剣の秘密

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 北の風は冷たいというより、まるで刃物のようだった。  
 手袋越しでも指が痺れ、息を吐けば白い霧が立ちのぼる。  
 雪原を抜けた先に、岩肌が露出した谷が口を開けている。そこが“竜の谷”だった。  
 地面は黒く焦げ、空の色さえどこか鈍い。遠くで雷鳴に似た咆哮がこだまする。  
 それが風の音なのか、まだ生き残る何かの鳴き声なのか、判断できなかった。  

 「ここが竜の谷……瘴気の濃度が高いですね」  
 ユナが首にかけた護符を強く握る。  
 魔法陣のように淡い光が浮かび、彼女の衣の裾が風に揺れた。  
 シオンが記録用の魔法石を取り出して計測を始める。  
 「封印値、基準魔力の四倍。通常ではあり得ません。誰かが意図的に封印をいじっています」  
 「アルデンか」  
 口にした瞬間、胸の奥の欠片が微かに震えた。  
 この谷の空気そのものが、聖剣と反応しているように感じられる。  

 足元の雪を踏みしめながら進むと、やがて地面の下から黒い結晶が覗いた。  
 それは岩のように硬く張りつき、脈打つような光を放っていた。  
 「この瘴気の結晶……どこかで見たことが」  
 ユナが膝をつき、祈りの言葉を唱える。  
 結晶の表面が一瞬だけ波打ち、そこに映ったのは“兄レオン”の姿だった。  
 驚いて声を上げる前に、光景は消え、ただの黒石に戻る。  

 「見ましたか?」  
 「見た。兄さん……だ」  
 「これは残留魂反応です。強大な存在が死の瞬間に発した魔力が、瘴気と混ざって形をとったもの。つまりここで、勇者と何かが戦った」  
 ユナの声が低くなる。  
 俺は無意識に剣の欠片を握っていた。  
 黒い金属が脈打つように光り、掌が熱を帯びた。  

 「リオさん、止めて。その欠片は……ここで共鳴しています」  
 ユナが警告するが、俺はその場に釘付けになっていた。  
 頭の中に兄の叫びがこだまする。  
 “この剣は完全ではない! 封印しなければ――”  

 次の瞬間、欠片が光を放ち、黒い結晶が爆ぜて周囲の雪を吹き飛ばした。  
 地鳴りと共に、谷の奥から巨大な影が姿を現す。  
 爛々と赤い瞳を燃やす竜の残骸――瘴気に取り憑かれた“骸竜”だった。  

 「下がれ!」  
 俺は咄嗟にユナとシオンを背後に庇い、剣を構えようとした。  
 しかし、握った欠片は何の反応も示さない。  
 振りかざした手の中で、ただ鈍く黒いまま。  
 「どうして光らない!」  
 「壊れているんです!」ユナが叫んだ。  
 「リオさんの欠片は完全ではない。勇者の聖剣は三つに砕かれて封印されたと記録にある。あなたのは、その一片にすぎないんです!」  
 「三つ……!?」  

 咆哮。  
 骸竜は地を叩き割り、風と共に黒い炎を吐いた。  
 ユナの防御障壁が瞬時に展開されるが、火炎の圧力で砕け散る。  
 炎の中を、シオンの魔法弾が走る。  
 「風刃、解き放て!」  
 炎を切り裂く緑光が竜の喉元を掠めたが、致命傷にはならない。  
 「効かない……」  
 「リオさん、竜の胸の中心を! あそこに穢れの核があるはずです!」  
 ユナの声に応じ、剣の欠片を両手で握る。  
 「頼む……今だけでいい、応えてくれ!」  

 胸の奥で光が爆ぜた。  
 欠片が一瞬、銀の刃へと形を変える。  
 その光を振りかざして走り、骸竜の胸を突き刺した。  
 黒い液体が噴き出し、竜が絶叫する。  
 光が拡散し、瘴気が一気に崩壊していった。  
 雪が蒸気を上げ、谷に静寂が戻る。  

 呼吸を落ち着かせて目を開けると、骸竜は完全に動きを止めていた。  
 俺は膝をつき、まだ熱を帯びる剣を見下ろす。  
 刃はすぐに砕け、再び欠片に戻った。  
 ユナが駆け寄り、傷を確かめながら息をついた。  
 「無事ですか?」  
 「なんとか……だが、もう限界だ」  
 欠片はほとんどの輝きを失っている。  

 シオンが竜の胸の奥に残った金属片を拾い上げた。  
 「これ……聖剣の残りだと思う」  
 見ると形は似ているが、俺の欠片よりもわずかに青みを帯びて光っていた。  
 「これで二つ……」  
 ユナはそっと目を閉じ、竜の亡骸に祈りを捧げる。  
 「レオン様が封印に使った聖剣は、三つに分けられました。その一本はあなたが持ち、今、二つ目が見つかった。残る一つは――」  
 「神殿の中心、だな」  
 俺は立ち上がり、谷の奥に広がる黒雲を見据えた。  
 「全部を揃えれば聖剣は完全に戻る。けど同時に、封印も壊れる」  
 ユナが頷く。  
 「だからこそ、慎重に進まなければなりません。剣が揃えば、世界を再び作り変える力になります」  

 少しの沈黙の後、雪片が頬を打つ。  
 風が凪ぎ、空が少しだけ晴れた。  
 その中で、欠片がふっと光を帯び、兄の声がうっすらと心に流れ込む。  
 “リオ……真実を見ろ。俺はお前が歩く姿を望んでいた”  

 「兄さん……」  
 呟いた声は、まるで風に乗って遠くへ溶けていった。  

 シオンが地図を広げて言う。  
 「この谷を越えた先に、“黒の神殿”があります。封印の中枢……それがすべての答えです」  
 「行こう」  
 欠片を握り、足を踏み出す。  

 兄が封じた秘密。  
 この手で確かめるまでは止まらない。  
 壊れた聖剣の真実、その奥に何があるのか。  

(続く)
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