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第12話 闇の教団、復活す
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谷を越え、黒雲に包まれた平原へと足を踏み入れた途端、空気が変わった。
雪ではなく灰が舞い、風はひどく重たい。まるでこの地そのものが呼吸を止めようとしているようだった。
足元には古い遺跡の破片がちらほら見える。崩れた石柱、焦げた紋章、そして砂に半ば埋もれた聖印。
「ここが……“黒の神殿”の周辺にあたる区域ですね」
地図を確認しながらシオンが呟く。
ユナは目を閉じて祈り、空気の流れを確かめるようにした。
「封印の気配が弱まっています。誰かが……すでに内部に侵入したかもしれない」
その言葉に、胸の奥がざわめいた。
夜を迎える前に、俺たちはかろうじて屋根の残る廃屋を見つけ、焚き火を起こした。
火の赤い光が壁の影を揺らす中、俺は手のひらにある二つの聖剣の欠片を見つめていた。
一つは兄から継いだ黒い欠片。もう一つは、竜の谷で見つけた青の欠片。
どちらも微かに脈打つような光を放ち、それぞれ別の“鼓動”を刻んでいるのがわかった。
シオンが魔法石を取り出し、その反応を観察していた。
「やはり共鳴してますね。でも……この波形はおかしい」
「何が起きてる?」
「本来なら同調するはずなんです。けど、二つはむしろ“抵抗”しあってる」
「どういうことだ?」
ユナが険しい表情になる。
「封印が“二つの意思”で作られていた可能性です。聖剣そのものにも、善と悪、両方の性質が宿っている」
「つまり兄さんは、剣の“悪”の部分も封じたってことか」
「ええ。そして……今、その封印が壊れかけている」
炎の音だけが、重く響いた。
それを破るように、外で何かが動く音がした。
風ではない。人の気配だ。
俺は反射的に立ち上がり、扉に手をかける。
「気をつけて」ユナが杖を構えた。
外の闇は静まり返っている。だがその暗がりの奥から、白い仮面がひとつ、またひとつと浮かび上がっていった。
「……誰だ」
声に応じ、黒ずくめの影が静かに進み出る。
その後ろには無数の影が列をなし、松明を掲げていた。
「ようやく来ましたか。勇者の弟よ」
先頭の仮面が言った。声は低く、それでいてどこか甘やかさを含んでいる。
「俺を知っているのか」
「あなたの存在を知らぬ者などいません。我々“封印教団”は、あなたの血を待っていました」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が氷のように冷えた。
封印教団――かつて兄と仲間たちが滅ぼしたはずの闇の組織。
神への信仰を脅迫という形で利用し、人々を生贄にしては“神の再臨”を待ち望んだ狂信者集団。
「やっぱり……生きてたのね」ユナの声が震えていた。
「あなたたちを滅ぼしたはず。レオン様の手で」
「そう、勇者レオンは確かに我らを焼き尽くしました。しかし我らは“魂”で存続した。封印の中に、彼とともに眠り続けていたのです」
仮面の一人が足を踏み出すたびに、砂が黒く染まる。
「お前たちの目的はなんだ」
「再誕です。封印を解き、勇者レオンの魂を取り戻すこと。それが新たな救世の始まりとなる」
「ふざけるな。兄を利用する気か」
「利用? いいえ、解放です。彼は永遠の戦いに囚われている。あなたの血こそ、その鎖を断ち切る鍵」
気づくと、俺の手の中で欠片が明滅していた。
黒と青の光が交互に瞬き、まるで何かに反応しているかのようだった。
教団の男が笑う。
「その剣はあなたの手にあるべきではない。預けなさい。彼を救うために」
「断る」
俺は返す言葉と同時に構えを取った。
ユナは障壁を張り、シオンが魔法弾を詠唱する。
緊張が一瞬で張り詰めた。
乾いた音が鳴った。
次の瞬間、周囲の仮面が同時に呪文を唱える。
地面が裂け、辺り一面を黒い炎が覆いつくした。
視界が白く閃き、足元が爆ぜる。
「散開しろ!」
俺は叫びながら、炎の中を突き抜け、剣の欠片を振るった。
瞬時に光が刃を形作り、黒炎を切り裂く。
だが、その奥に立つ仮面の影は一向に倒れない。
「あなたはまだ“覚醒”していない。半端な力では我らを滅ぼせません」
仮面の奥から聞こえる声。その口調はまるで俺を哀れむかのようだった。
「だが、あなたの血が満ちれば全てが完成する」
「そんなもの、俺は渡さない!」
怒りのままに踏み込み、光刃を横薙ぎに振るう。
仮面が弾け、黒い霧が噴き出した。だが次の瞬間、霧は一つに固まり新たな影を形作る。
再生。人ではない、魔の力そのもの。
ユナが杖を掲げ、祈りを高らかに響かせた。
「聖なる灯よ、我らを護りたまえ!」
光が弾け、教団の影をとらえる。シオンの魔法が次々と炸裂し、闇の中心を削る。
だが敵はあまりに多かった。
仮面たちは徐々に包囲を狭めてくる。炎と瘴気の壁に囲まれ、退路が塞がれていく。
俺は奥歯を噛みしめ、欠片の光をさらに強く握りしめた。
「兄さん……力を貸してくれ」
その呼びかけに応じるように、光が炸裂した。
黒と青、二つの光が合わさり、短い間だけ銀に輝く剣が現れる。
空気が震え、足元の砂が爆ぜた。
教団の影たちが一瞬ひるみ、風のような衝撃が走る。
その一閃で十を超える仮面が弾かれ、黒い霧となって消滅した。
残党は後退し、沈黙が訪れる。
だが、最後に残った仮面の男だけがゆっくりとこちらを見た。
「いいでしょう。その力、確かに勇者の血に相応しい。また会いましょう――鍵の子よ」
黒い渦が足元に展開し、男の姿は煙のように消えた。
風だけが残り、灰が再び舞い上がる。
俺は息を整えながら剣を見る。
再び欠片はもとの形に戻り、光を失っていた。
ユナは疲れた様子で膝をつき、それでも真剣な目を俺に向けた。
「彼らは完全に復活してしまいました。封印の崩壊が始まっています」
シオンが拳を握る。
「もう時間がない。神殿に急がないと!」
俺はうなずき、欠片を懐にしまいながら言った。
「ああ……そして次に会う時、あいつらを終わらせる」
燃えるように冷たい風が吹き抜けた。
黒い雲の向こうに、一筋だけ星のような光が見えた。
それが希望か、それとも破滅の前兆かは、まだ分からなかった。
(続く)
雪ではなく灰が舞い、風はひどく重たい。まるでこの地そのものが呼吸を止めようとしているようだった。
足元には古い遺跡の破片がちらほら見える。崩れた石柱、焦げた紋章、そして砂に半ば埋もれた聖印。
「ここが……“黒の神殿”の周辺にあたる区域ですね」
地図を確認しながらシオンが呟く。
ユナは目を閉じて祈り、空気の流れを確かめるようにした。
「封印の気配が弱まっています。誰かが……すでに内部に侵入したかもしれない」
その言葉に、胸の奥がざわめいた。
夜を迎える前に、俺たちはかろうじて屋根の残る廃屋を見つけ、焚き火を起こした。
火の赤い光が壁の影を揺らす中、俺は手のひらにある二つの聖剣の欠片を見つめていた。
一つは兄から継いだ黒い欠片。もう一つは、竜の谷で見つけた青の欠片。
どちらも微かに脈打つような光を放ち、それぞれ別の“鼓動”を刻んでいるのがわかった。
シオンが魔法石を取り出し、その反応を観察していた。
「やはり共鳴してますね。でも……この波形はおかしい」
「何が起きてる?」
「本来なら同調するはずなんです。けど、二つはむしろ“抵抗”しあってる」
「どういうことだ?」
ユナが険しい表情になる。
「封印が“二つの意思”で作られていた可能性です。聖剣そのものにも、善と悪、両方の性質が宿っている」
「つまり兄さんは、剣の“悪”の部分も封じたってことか」
「ええ。そして……今、その封印が壊れかけている」
炎の音だけが、重く響いた。
それを破るように、外で何かが動く音がした。
風ではない。人の気配だ。
俺は反射的に立ち上がり、扉に手をかける。
「気をつけて」ユナが杖を構えた。
外の闇は静まり返っている。だがその暗がりの奥から、白い仮面がひとつ、またひとつと浮かび上がっていった。
「……誰だ」
声に応じ、黒ずくめの影が静かに進み出る。
その後ろには無数の影が列をなし、松明を掲げていた。
「ようやく来ましたか。勇者の弟よ」
先頭の仮面が言った。声は低く、それでいてどこか甘やかさを含んでいる。
「俺を知っているのか」
「あなたの存在を知らぬ者などいません。我々“封印教団”は、あなたの血を待っていました」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が氷のように冷えた。
封印教団――かつて兄と仲間たちが滅ぼしたはずの闇の組織。
神への信仰を脅迫という形で利用し、人々を生贄にしては“神の再臨”を待ち望んだ狂信者集団。
「やっぱり……生きてたのね」ユナの声が震えていた。
「あなたたちを滅ぼしたはず。レオン様の手で」
「そう、勇者レオンは確かに我らを焼き尽くしました。しかし我らは“魂”で存続した。封印の中に、彼とともに眠り続けていたのです」
仮面の一人が足を踏み出すたびに、砂が黒く染まる。
「お前たちの目的はなんだ」
「再誕です。封印を解き、勇者レオンの魂を取り戻すこと。それが新たな救世の始まりとなる」
「ふざけるな。兄を利用する気か」
「利用? いいえ、解放です。彼は永遠の戦いに囚われている。あなたの血こそ、その鎖を断ち切る鍵」
気づくと、俺の手の中で欠片が明滅していた。
黒と青の光が交互に瞬き、まるで何かに反応しているかのようだった。
教団の男が笑う。
「その剣はあなたの手にあるべきではない。預けなさい。彼を救うために」
「断る」
俺は返す言葉と同時に構えを取った。
ユナは障壁を張り、シオンが魔法弾を詠唱する。
緊張が一瞬で張り詰めた。
乾いた音が鳴った。
次の瞬間、周囲の仮面が同時に呪文を唱える。
地面が裂け、辺り一面を黒い炎が覆いつくした。
視界が白く閃き、足元が爆ぜる。
「散開しろ!」
俺は叫びながら、炎の中を突き抜け、剣の欠片を振るった。
瞬時に光が刃を形作り、黒炎を切り裂く。
だが、その奥に立つ仮面の影は一向に倒れない。
「あなたはまだ“覚醒”していない。半端な力では我らを滅ぼせません」
仮面の奥から聞こえる声。その口調はまるで俺を哀れむかのようだった。
「だが、あなたの血が満ちれば全てが完成する」
「そんなもの、俺は渡さない!」
怒りのままに踏み込み、光刃を横薙ぎに振るう。
仮面が弾け、黒い霧が噴き出した。だが次の瞬間、霧は一つに固まり新たな影を形作る。
再生。人ではない、魔の力そのもの。
ユナが杖を掲げ、祈りを高らかに響かせた。
「聖なる灯よ、我らを護りたまえ!」
光が弾け、教団の影をとらえる。シオンの魔法が次々と炸裂し、闇の中心を削る。
だが敵はあまりに多かった。
仮面たちは徐々に包囲を狭めてくる。炎と瘴気の壁に囲まれ、退路が塞がれていく。
俺は奥歯を噛みしめ、欠片の光をさらに強く握りしめた。
「兄さん……力を貸してくれ」
その呼びかけに応じるように、光が炸裂した。
黒と青、二つの光が合わさり、短い間だけ銀に輝く剣が現れる。
空気が震え、足元の砂が爆ぜた。
教団の影たちが一瞬ひるみ、風のような衝撃が走る。
その一閃で十を超える仮面が弾かれ、黒い霧となって消滅した。
残党は後退し、沈黙が訪れる。
だが、最後に残った仮面の男だけがゆっくりとこちらを見た。
「いいでしょう。その力、確かに勇者の血に相応しい。また会いましょう――鍵の子よ」
黒い渦が足元に展開し、男の姿は煙のように消えた。
風だけが残り、灰が再び舞い上がる。
俺は息を整えながら剣を見る。
再び欠片はもとの形に戻り、光を失っていた。
ユナは疲れた様子で膝をつき、それでも真剣な目を俺に向けた。
「彼らは完全に復活してしまいました。封印の崩壊が始まっています」
シオンが拳を握る。
「もう時間がない。神殿に急がないと!」
俺はうなずき、欠片を懐にしまいながら言った。
「ああ……そして次に会う時、あいつらを終わらせる」
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(続く)
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