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第18話 もう一つの勇者伝説
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霧の森を抜けた先に、開けた空間が広がっていた。
天を突くように立つ白い柱。そこから放たれる光が、周囲の闇を押しのけていた。
中心には巨大な魔法陣。その周囲を囲むように刻まれた古紋は薄く輝き、まだこの場所が生きていることを告げている。
「ここが……封印の心臓部、“聖霊柱”ですね」ユナが低く呟く。
空気が一段と冷たい。息を吸うたびに心臓に圧力がかかるほどの重さだ。
シオンが魔杖を構えて地面を調べる。
「この魔法陣、封印維持のためというより、“開門”の術式に改修されています。つまり……」
「誰かが、ここを開けたがってるってことか」
シオンが頷く。
「はい。内部にアクセスできるのは、勇者の血……つまり、あなたしかいません」
胸の奥で剣の欠片が震えた。まるで“お前を待っていた”と語りかけてくるようだった。
ユナの視線が真剣に俺に向けられる。
「リオさん、この先は本当に危険です。封印に干渉すれば、レオン様を縛る鎖も緩みます」
「だから行く。兄さんの魂がこの中にあるなら、確かめなきゃ前に進めない」
ユナは一瞬だけ何かを言いかけたが、小さく頷いた。
「……わかりました。でも、私たちが傍にいます。決して一人では行かせません」
三人は魔法陣の中央に足を踏み入れた。
足下の文字が光り、轟音が轟く。周囲の光景が反転し、地平線がぐるりと反転していく。
視界が暗転し、次の瞬間、俺たちは巨大な空間に立っていた。
天井のない闇の天。足下には鏡のような水面が広がり、遠くで無数の光が浮かんでいる。
どこまでも静寂。そして、その中央に一本の剣が突き立っていた。
黒と金の二色が混じり合う異様な輝き。
「聖剣ラグナ・ヴェイル……完全な姿」ユナが小さく息を呑む。
「兄さんが……ここに」
近づこうとしたその瞬間、目の前の鏡面が波打った。
水面から浮かび上がったのは、もう一人の俺だった。
だがその瞳は完全に黒く染まり、口元には微笑が浮かんでいる。
「ようやく来たか、リオ・レオンハート」
「……俺?」
「違う。お前の中に眠る“勇者の欠片”、もう一つの意志だ」
その声に息を飲む。
「兄の剣が三つに分かたれた時、その一つは血に、もう一つは魂に、そして最後の一つは闇に宿った。お前が光なら、俺はその裏側。勇者の絶望そのものだ」
「絶望……?」
黒い俺が笑った。
「勇者は光であり、人々の希望の象徴だ。だがその裏で何を捨ててきたと思う?命、友情、そして己の心だ。勇者が笑うたび、闇は孤独として積もっていった」
その言葉が胸を刺した。
兄の背中を思い出す。笑いながらも、いつも少し遠くを見ていた。
「だからお前はレオンを憎んでいた。自分ばかりが犠牲になる兄に、無力な弟として苛立っていた。違うか?」
思わず剣を握りしめる。
黒い俺は、まるで兄のような声で続けた。
「認めろ、リオ。勇者の力は“光と闇”が対になることで初めて完全になる。それが“もう一つの勇者伝説”。兄は光を選び、闇を封印に残した。お前は――どちらを選ぶ?」
背後でユナが叫ぶ。
「リオさん!その言葉に乗せられないで!」
だが黒い俺の声はさらに強く響いた。
「封印を壊せば兄を救える。だが世界は滅びる。封印を守れば兄は永遠の牢獄に囚われ続ける。それでも選ばなくてはならない」
剣の光がぶつかり合うように空間が震える。
俺は、それでも歩を進めた。
「俺は……どっちの道も選ばない」
黒い俺が目を見開く。
「何?」
「俺は“兄を救い”、そして“世界も救う”。どちらかを捨てるなんて、兄も絶対に望まない!」
黒い俺が笑った。
「理想論だ。犠牲がなければ世界は成り立たん」
「それでも、俺は理想にしがみつく!」
瞬間、剣の光が爆ぜた。
黒い俺が攻撃を仕掛け、俺の剣と交錯する。
金と黒の火花が散り、鏡面の大地が割れる。
そのとき、背後からユナが祈りの詠唱を始めた。
「光よ、心を照らせ。勇者の血に宿る真実を示したまえ!」
光が走り、周囲の空間を満たす。
光が黒い俺の身体を包み、彼の表情が揺らぐ。
「やめろ……俺は、お前だぞ」
「分かってる。だからこそ、受け入れてやる」
俺は剣を振り抜いた。
鋭い光が闇を裂き、黒い俺の身体は霧となって消える。
残されたのは、一筋の声。
「願いを貫け、リオ……俺たちは一つだ」
静寂が戻った。
鏡面の中心には、聖剣ラグナ・ヴェイルが変わらず立っていた。
だが今度はその光に黒の混じりはない。純粋な白と金の輝きだった。
ユナがゆっくりと近づく。
「封印の闇が……浄化された」
シオンも息を呑んで頷く。
「ラグナ・ヴェイルが完全体に戻れば、封印の“管理者”が新たに定められる。リオさん……それはあなたです」
剣に手を伸ばす。
肌を刺すような強い光。
だが恐怖はなかった。兄の声が確かに聞こえたからだ。
“お前ならできる。勇者の名を継いで、俺たちの物語を続けてくれ”
「分かった、兄さん。俺が新しい伝説を作る。もう一つの勇者として」
聖剣の柄を掴んだ瞬間、光が弾け、空間を包み込む。
かつて封印だったこの場所が、穏やかな風と共に輝きを取り戻していく。
霧の森が、遠くで静かに揺れていた。
“もう一つの勇者伝説”。
それは、喪失から始まり、希望へと続く物語だった。
(続く)
天を突くように立つ白い柱。そこから放たれる光が、周囲の闇を押しのけていた。
中心には巨大な魔法陣。その周囲を囲むように刻まれた古紋は薄く輝き、まだこの場所が生きていることを告げている。
「ここが……封印の心臓部、“聖霊柱”ですね」ユナが低く呟く。
空気が一段と冷たい。息を吸うたびに心臓に圧力がかかるほどの重さだ。
シオンが魔杖を構えて地面を調べる。
「この魔法陣、封印維持のためというより、“開門”の術式に改修されています。つまり……」
「誰かが、ここを開けたがってるってことか」
シオンが頷く。
「はい。内部にアクセスできるのは、勇者の血……つまり、あなたしかいません」
胸の奥で剣の欠片が震えた。まるで“お前を待っていた”と語りかけてくるようだった。
ユナの視線が真剣に俺に向けられる。
「リオさん、この先は本当に危険です。封印に干渉すれば、レオン様を縛る鎖も緩みます」
「だから行く。兄さんの魂がこの中にあるなら、確かめなきゃ前に進めない」
ユナは一瞬だけ何かを言いかけたが、小さく頷いた。
「……わかりました。でも、私たちが傍にいます。決して一人では行かせません」
三人は魔法陣の中央に足を踏み入れた。
足下の文字が光り、轟音が轟く。周囲の光景が反転し、地平線がぐるりと反転していく。
視界が暗転し、次の瞬間、俺たちは巨大な空間に立っていた。
天井のない闇の天。足下には鏡のような水面が広がり、遠くで無数の光が浮かんでいる。
どこまでも静寂。そして、その中央に一本の剣が突き立っていた。
黒と金の二色が混じり合う異様な輝き。
「聖剣ラグナ・ヴェイル……完全な姿」ユナが小さく息を呑む。
「兄さんが……ここに」
近づこうとしたその瞬間、目の前の鏡面が波打った。
水面から浮かび上がったのは、もう一人の俺だった。
だがその瞳は完全に黒く染まり、口元には微笑が浮かんでいる。
「ようやく来たか、リオ・レオンハート」
「……俺?」
「違う。お前の中に眠る“勇者の欠片”、もう一つの意志だ」
その声に息を飲む。
「兄の剣が三つに分かたれた時、その一つは血に、もう一つは魂に、そして最後の一つは闇に宿った。お前が光なら、俺はその裏側。勇者の絶望そのものだ」
「絶望……?」
黒い俺が笑った。
「勇者は光であり、人々の希望の象徴だ。だがその裏で何を捨ててきたと思う?命、友情、そして己の心だ。勇者が笑うたび、闇は孤独として積もっていった」
その言葉が胸を刺した。
兄の背中を思い出す。笑いながらも、いつも少し遠くを見ていた。
「だからお前はレオンを憎んでいた。自分ばかりが犠牲になる兄に、無力な弟として苛立っていた。違うか?」
思わず剣を握りしめる。
黒い俺は、まるで兄のような声で続けた。
「認めろ、リオ。勇者の力は“光と闇”が対になることで初めて完全になる。それが“もう一つの勇者伝説”。兄は光を選び、闇を封印に残した。お前は――どちらを選ぶ?」
背後でユナが叫ぶ。
「リオさん!その言葉に乗せられないで!」
だが黒い俺の声はさらに強く響いた。
「封印を壊せば兄を救える。だが世界は滅びる。封印を守れば兄は永遠の牢獄に囚われ続ける。それでも選ばなくてはならない」
剣の光がぶつかり合うように空間が震える。
俺は、それでも歩を進めた。
「俺は……どっちの道も選ばない」
黒い俺が目を見開く。
「何?」
「俺は“兄を救い”、そして“世界も救う”。どちらかを捨てるなんて、兄も絶対に望まない!」
黒い俺が笑った。
「理想論だ。犠牲がなければ世界は成り立たん」
「それでも、俺は理想にしがみつく!」
瞬間、剣の光が爆ぜた。
黒い俺が攻撃を仕掛け、俺の剣と交錯する。
金と黒の火花が散り、鏡面の大地が割れる。
そのとき、背後からユナが祈りの詠唱を始めた。
「光よ、心を照らせ。勇者の血に宿る真実を示したまえ!」
光が走り、周囲の空間を満たす。
光が黒い俺の身体を包み、彼の表情が揺らぐ。
「やめろ……俺は、お前だぞ」
「分かってる。だからこそ、受け入れてやる」
俺は剣を振り抜いた。
鋭い光が闇を裂き、黒い俺の身体は霧となって消える。
残されたのは、一筋の声。
「願いを貫け、リオ……俺たちは一つだ」
静寂が戻った。
鏡面の中心には、聖剣ラグナ・ヴェイルが変わらず立っていた。
だが今度はその光に黒の混じりはない。純粋な白と金の輝きだった。
ユナがゆっくりと近づく。
「封印の闇が……浄化された」
シオンも息を呑んで頷く。
「ラグナ・ヴェイルが完全体に戻れば、封印の“管理者”が新たに定められる。リオさん……それはあなたです」
剣に手を伸ばす。
肌を刺すような強い光。
だが恐怖はなかった。兄の声が確かに聞こえたからだ。
“お前ならできる。勇者の名を継いで、俺たちの物語を続けてくれ”
「分かった、兄さん。俺が新しい伝説を作る。もう一つの勇者として」
聖剣の柄を掴んだ瞬間、光が弾け、空間を包み込む。
かつて封印だったこの場所が、穏やかな風と共に輝きを取り戻していく。
霧の森が、遠くで静かに揺れていた。
“もう一つの勇者伝説”。
それは、喪失から始まり、希望へと続く物語だった。
(続く)
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