滅びた勇者の弟に転生したけど、兄の残した絆で世界を救うことになりました

eringi

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第19話 裏切りと誓いの剣

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 聖剣ラグナ・ヴェイルの光が静かに収束していく。  
 その輝きの中心で俺は剣を抜いたまま立ち尽くしていた。  
 あれほど重かった刃は、今は軽く、まるで自分の一部になったように感じる。  
 しかし胸の奥では、いまだ熱が冷めなかった。  
 あの黒い自分。封印に宿っていた闇の意志。  
 完全に消えたとは思えない。むしろ、どこかでまだ呼吸をしている気がした。  

 「リオさん、大丈夫ですか?」  
 振り向くとユナが駆け寄ってきた。  
その表情には安堵と、不安の両方が浮かんでいる。  
 「……ああ。たぶん、終わった」  
「いいえ、終わりではありません。聖剣の覚醒は封印の再構築。新たな勇者を創ると同時に、古きすべてを揺り動かす」  
ユナの言葉を聞きながら、俺は剣の刃を見た。  
反射する光の中に、ほんの一瞬、兄の面影が映った気がした。  
「兄さん……本当に、これでいいのか」  

 その後ろでシオンが術式を解析していた。  
「封印波の安定値が……急速に下がっています!再構築ではありません、崩壊です!」  
「何だと!?」  
「リオさん、光を収めて!」ユナが叫ぶ。  
だが遅かった。  
聖剣の刃から再び黒い稲光が走り、周囲の空間に亀裂の線が広がっていく。  
鏡の地面が砕け、無数の裂け目が現れた。  
「逃げろ!」  
咄嗟にユナを抱き寄せ、崩れ落ちる床を跳び越える。後ろで轟音が響き、闇がすぐそこまで迫ってきた。  

 やがて光が弾け、俺たちは外の地へと弾き出された。  
 荒れ果てた平原。昼も夜も判別できない空。  
 遠くには亀裂が走るように煙が立ち、そこから魔の気配が漏れ出していた。  
 「封印の力が……外界に流れ出ている」シオンが震える声で言う。  
 「つまり、封印はもう保てない。あの教団にとっては好機ということね」  
 ユナの瞳が鋭く光る。  
 嫌な予感がした。そのすぐ後、風を裂く音がした。  

 「お前たち、ようやく出てきたか」  
 声とともに、黒い外套を纏う者が三人、岩陰から現れた。  
 その中央に立つ男――見覚えのある顔だ。  
 「カイル……!」  
 かつての勇者パーティの剣士。影狩りのリーダーとして、一度は俺たちに助力してくれた男。  
 だがその眼は、あの時のような正義ではなかった。  
 「再会を喜べればいいが、そうもいかない。お前は封印を壊した。“勇者の血”がまた世界を乱すとはな」  
 「違う、俺は――」  
 「言い訳は聞かん!」  

 稲妻のように鋭い刃が襲いかかってきた。  
 剣と剣がぶつかり合い、鋭い衝撃が腕に響く。  
 カイルの剣は重く、迷いがない。その一撃一撃に長年の戦場の感覚が宿っていた。  
 背後でユナが制止の声を上げた。  
 「待って、カイル!誤解よ、彼は――」  
 「ユナ、お前もか」  
 彼が短く呟くと、その瞳に僅かな哀しみが浮かんだ。  
 「お前ほどの聖女が、なぜ“闇の勇者”などに肩入れする?」  
 「闇の勇者じゃない!」  
 俺は叫び、刃を払いのける。  
 「俺は兄の意思を受け継いだだけだ!世界を救うために戦ってる!」  
 「救う、だと?お前のその剣が、封印を破壊して魔を呼び覚ましたんだぞ!」  

 事実だった。  
 否定できない。俺が光を求めた結果、封印の一部が壊れ、混沌が溢れた。  
 だが――それを責められて引き下がるわけにもいかない。  
 「もしそうなら、俺が責任を取る!封印を直せるのは勇者の血を継ぐ俺自身だ!」  
 カイルが目を細める。  
 「……ならば問う。お前は“誰のために”世界を救う」  
 「兄のため。仲間のため。そして、俺のためだ!」  
 沈黙。  

 次の刹那、カイルの剣が止まった。  
 「答えは聞いた。俺にはもう、戦う理由はない」  
 彼が剣を下ろした瞬間、背後から黒い影が伸びた。  
 「カイル、危ない!」  
 叫ぶ間もなく、影が彼の胸を貫いた。  
 黒い靄が吹き出し、空気が濁る。  
 その影から現れたのは仮面をつけた教団の男――アルデンの姿だった。  
 「やはり勇者たちは愚かだ。仲間を疑い、愛する者を裏切る。その繰り返しだ」  
 「貴様……!」  

 怒りが頂点に達した瞬間、聖剣の光が再び覚醒する。  
 アルデンの腕から闇が伸び、光とぶつかり合う。  
 「封印はすでに崩れた。だが完全な解放には最後の“鍵”が必要だ。勇者の血、そして聖女の祈り。お前たち二人が揃えば完成する」  
 「そんなこと、させない!」  
 ユナの詠唱と同時に、シオンが結界を張る。  
 黒と光の波がぶつかり、嵐のような風が巻き起こった。  
 カイルが血を流しながらも立ち上がり、俺に剣を向けた。  
 「行け……リオ。あの男を……止めろ。ユナを……頼んだ」  

 その瞳には、確かに昔見た正義の光があった。  
 頷き、俺は剣を構える。  
 「兄が守った世界を、今度は俺が守る」  
 アルデンが薄く笑った。  
 「では見せてもらおう。勇者の弟の“誓い”というものを」  

 ぶつかり合う光。  
 空が裂け、大地が震える。  
 兄が生涯をかけて封じた闇が、再び暴れ始めていた。  

 だが今は恐れない。  
 剣を握るこの手には、兄の意志と竜の力、そして仲間の祈りが宿っている。  
 「これが俺の誓いの剣だ!」  
 叫びが空を裂き、闇の中心に光が突き刺さった。  

 遠くで、崩れ落ちる何かの音がした。  
 闇と光が混ざり、世界は新たな均衡を探し始めている。  
 その中で、俺は最後にカイルの身体を抱きかかえた。  
 「……お前らしいな。いつもまっすぐで」  
 彼が小さく笑い、息を吐いた。  
 「勇者の弟。最後まで……貫けよ」  
 その言葉と共に目が閉じられる。  

 ユナの頬を涙が伝った。  
 だが俺は前を見た。  
 「約束する。今度こそ、誰も犠牲にしない」  
 聖剣の光が、再び空へと伸びた。  

(続く)
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