滅びた勇者の弟に転生したけど、兄の残した絆で世界を救うことになりました

eringi

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第24話 世界の真実

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 封印の地から昇る朝日は、どんな黄金よりも眩しかった。  
 冷たい風の中に、ほんの少しだけ土と草の匂いが混ざっている。  
 長い戦いのあとに訪れた静穏――それが、かえって不気味に思えた。  
 俺とシオンは丘の上に座り、遠くに広がる大地を見つめていた。  

 「リオさん、信じられません。昨日まで灰色だったこの土地が、もうここまで緑に戻るなんて」  
 「ユナの祈りと、兄さんの魂の力が残ってるんだろう。あの封印は世界の一部だったんだ」  
 呟きながら、聖剣の柄を握る。  
 兄とユナの命、その二つがこの剣に宿り、今も微かに温かみを発していた。  

 シオンは石片を拾い上げ、表面の刻印を指でなぞった。  
 「これは古代王国時代の封紋です。あの教団が使っていた術式の原型……でも、奇妙なんです。」  
 「奇妙?」  
 「封印がもともと“魔を閉じ込めるため”じゃなかったことです。記録の順序が逆なんです。これは“封印を維持するために世界を創った”印。つまり――」  
 「封印が先で、世界がそのあとに?」  
 「はい。おそらく、我々の世界そのものが“封印装置の外殻”なんです」  

 言葉が出なかった。  
 頭の奥が痺れるように熱い。  
 この世界が、封印を守るためだけに存在した?  
 そんなものが真実なら、俺たちが生きてきた意味は……。  
 だが次の瞬間、胸の奥で剣がわずかに震えた。  
 兄の声が響く。  
 “惑うな、リオ。世界の形がどうあれ、人の心が紡ぐものこそ、本当の現実だ”  

 「……兄さん」  
 呟いたまま、視線を上げる。  
 空の果てにかすかに黒い筋が見えた。  
 風がざわめき、地面がごく僅かに揺れる。  
 「嫌な予感がします」シオンが顔を上げた。  
 「封印が、今度は反転し始めている。崩壊ではなく、“外側”から」  

 空で光が裂けた。  
 巨大な影が現れ、翼を広げる。  
 まるでかつて戦った竜のように見えたが、その姿は黒でも銀でもなく、透けるように光を反射していた。  
 「封印の化身……世界を安定させるために創られた守護者。けど今は、自律を失ってる!」  
 シオンが叫ぶ。  
 「人や街を守るために生まれた存在が、今は封印の“敵”になった。」  

 竜の影が空を覆い、無数の光の雨を降らせる。  
 地面が抉れ、山が揺れた。  
 「来るぞ!」  
 俺は聖剣を構えた。  
 金と青の光が混ざり、天に届くほどの柱を作る。  
 見上げた竜の眼が、どこか悲しげだった。  
 「誰かを守るために生まれ、誰かを傷つける。そんなの、もうやめよう」  

 剣を一閃。  
 光が竜に届き、空気が一瞬止まる。  
 だが竜は崩れなかった。  
 逆に、竜の胸から声が響いた。  
 「勇者よ……なぜ剣を振るう」  
 「この世界を守るためだ!」  
 「ならば問おう。その世界が人のためにあると、なぜ言える」  

 その問いに、心が揺れた。  
 確かに、この世界は封印の外殻なら、人間という存在すら偶然の副産物なのかもしれない。  
 それでも。俺は迷わず言葉を返した。  
 「理由なんていらない。だって、俺たちはもう知ってしまった。人は願い、笑い、愛する。たとえ造り物だったとしても、それは紛れもなく“生きてる”んだ!」  

 光が全身からほとばしる。  
 竜が咆哮を上げ、迎え撃つ刃がぶつかり合う。  
 空が裂け、世界が再び白く染まった。  
 光の中で竜の形が崩れ、やがて無数の羽を散らすように消えていく。  

 風だけが残った。  
 シオンが膝をつき、息を荒げる。  
 「……終わった、んですか」  
「いや、これでやっと始まったんだよ」  
「始まり……?」  
「本当の世界を作る旅が。俺たち人間の手でな」  

 丘の上に陽が差す。  
 封印の地の中心から、巨大な光柱が天に昇り、空全体を包んだ。  
 すると、まるで光が世界を再構築するように、新たな地形が瞬く間に広がっていく。  
 枯れた森に緑が戻り、溶岩に覆われた山が雪の峰へと変わる。  
 それはまるで、新しい世界の誕生だった。  

 シオンが呆然と呟く。  
 「レオン勇者が始めた封印の時代が……本当に終わったんですね」  
 「兄さんが捨てた犠牲も、ユナの祈りも、全部この世界に生きてる。だから俺は戦い続ける。今度は、命を奪うためじゃなく、守るために」  

 聖剣が穏やかに光を放つ。  
 そしてその光がゆっくりと空へと昇り、白い羽に変わって散った。  
 空には新しい太陽が姿を現す。  
 俺はその光を正面から見上げた。  

 「兄さん、見てるか。……これが、俺たちの世界だ」  
 その瞬間、優しい風が吹いた。  
 頬を撫でるそのぬくもりは、まるで兄の手のようだった。  
 声はもう聞こえない。けれど確かに、あの笑顔が、空のどこかにある気がした。  

 シオンが肩を叩く。  
 「リオさん、これからどうしますか?」  
 「行くよ。北の彼方にまだ、封印の影がある。そこにも人がいるなら、守らなきゃ」  
 シオンが小さく笑った。  
 「まったく、勇者ってのは休まないですね」  
 「俺は勇者じゃない。ただ、誰かの道を照らせる人間でありたいだけだ」  

 荒野の風が背を押す。  
 草の上に二人の影が伸び、太陽がゆっくりと昇る。  
 長い戦いの果て、ようやく訪れた平穏の朝。  
 だが、まだ旅は終わっていない。  
 人も竜も、神さえも知らない世界を創るための、一歩がここから始まる。  

 聖剣の刃に、金の光が柔らかく宿った。  
 それは、兄から受け継いだ意思であり、ユナの祈りの欠片だった。  
 俺は剣を掲げ、空へ誓う。  
 「この世界を、今度こそ……守り通す」  

(続く)
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