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第2話 村人A、転生スキルを誤解される
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翌朝、リオは村の共同井戸のそばで水を汲んでいた。朝日が差し込み、水面がきらきらと光る。村の人々は朝の支度に追われ、子どもたちは笑いながら駆け回っている。そんな様子を眺めながら、リオはふと昨夜を思い出していた。森の魔物を倒した瞬間。あの異様な感覚。
「思考が速くなったような……時間が止まったような……」
手を見つめ、試しに集中してみたが何も起こらない。昨日のあれは偶然の錯覚なのか、それとも……。
「おはよう、リオさん!」
元気な声が背後から響いた。振り向くと、昨日の少女ミーナが籠を抱えて走ってくる。
「今日はお母さんにパンを届ける手伝いしてるの!」
「えらいな。じゃあ、一緒に行こうか」
二人で村の通りを歩くと、あちこちの家から「リオさん、おはよう」「昨日はありがとう!」と声がかかった。どうやら噂はかなり広まっているらしい。
そのうちの一軒、木彫りの看板が掲げられた店の前で老人が手を挙げた。
「おお、救世の人じゃないか! 森が静かになったお陰で畑が助かったよ!」
「救世の人?」
リオは首を傾げた。老人は朗らかに笑う。
「村の皆で言ってるんだよ。森を救った英雄リオ!ってな。神様の祝福を持ってるんじゃないかって巫女さまが言っておったぞ」
「巫女さま?」
「ああ、明日町から来るんだ。お祈りにね。お前さんとも会いたいと言っていたらしいぞ」
リオは乾いた笑いを浮かべる。
「俺、ほんとに普通の村人なんだけどなあ……」
だが、その「普通」の基準がすでに狂い始めていた。
村の外れで畑仕事をしていると、突然周囲が騒がしくなった。牛車が一台村に入ってくる。荷台には数名の旅人風の男女。細工の美しい甲冑を着た若い男が、堂々と立ち上がった。
「ここが“森を清めし者”の住む村か!」
村人たちはぽかんとし、リサが代わりに答える。
「ええっと、そうですけど……あなたたちは?」
「我らは中央の冒険者ギルドから派遣された者だ。報告にあった魔物の鎮静事件を調べに来た」
男は金髪をかき上げ、視線を鋭くした。
「君が……リオ、というのか?」
「え? あ、はい」
名乗るや否や、彼の目が光る。
「見せてもらおう。どうやって森の魔物を仕留めた?」
「えっと、ただ木の枝で……」
ざわり、と周囲がざわめく。
「木の枝で一撃……!?」「嘘だろ……」
信じられないほどの沈黙のあと、男は挑むように笑った。
「なるほど。戦士ではなく賢者系か。魔力を枝に集中させて撃ったのだな」
「いや、そんなこと――」
「隠す必要はない。謙虚さは美徳だが、記録のためには正確な情報が必要だ。我々は君の功績を正式に報告する責務がある」
リオが困惑していると、村人たちの目線が一斉に彼に注がれた。
「リオさん、賢者だったのか!」「そんなの隠してたなんて……」
収拾がつかない。結局、リオは「たまたま運が良かっただけ」と弁明したが、冒険者たちは全く耳を貸さなかった。
彼らは去り際にこう言った。
「明日、聖女殿がここを訪れる。必ずお前も立ち会え。詳細を聞きたいとのことだ」
「聖女……?」
また新しい面倒の種が増えた、とリオは頭を抱えた。
その日の午後、村の少年たちがリオを見張るようにしてついて回っていた。
「フフ、これがあの“森を一瞬で焼いた枝”かー?」
「ちょ、触るなって!」
奪われた木の枝を追いかける。転んだ拍子に畑の石を蹴った瞬間、リオの足元から淡い光が広がった。
地面がふわりと浮き、石が宙に止まる。
「うわっ!?」
次の瞬間、風が巻き起こり、石たちは一直線に宙を舞って遠くの木に突き刺さった。
少年たちは呆然と口を開けた。
「リオ兄ちゃん、すっげえ!」
「魔法だ! 本物の魔法だ!」
「違う! 俺は何もしてない、勝手に……!」
だが、彼の言葉は誰にも信じられなかった。村人たちは、ますます「リオは賢者」「きっと神の力を宿している」と信じ込む。
リオはため息をつきながら、枝を拾い上げた。
「これ、ただの木の棒なんだけどな……」
夜になり、村の宴が開かれた。森の平穏と豊穣を祝う恒例の祭りだったが、今年は特別な理由が加わっていた。
「偉大なる賢者リオ殿に祝福を!」
乾杯の声とともに、花びらが舞い、音楽が鳴り響く。
リオは恐縮しながらも笑顔を保つが、内心では汗が流れていた。
(これ、完全に誤解されてるよな……)
横でリサがワインを注ぎながら笑う。
「仕方ないよ。皆、感謝してるんだもの。神様だって思いたい気持ち、わかるでしょ?」
「神様って……俺はただの人間だよ」
「そう言える人ほど、本当に力を持ってるんだよ」
その穏やかな声に、リオは少しだけ心が和らいだ。
祭りが終わるころ、夜空に大きな満月が昇る。リオはひとり丘に登り、涼しい風にあたっていた。草のざわめきと虫の声が心地よい。
「このまま、静かに暮らせたらいいんだけどな」
願うように呟いたとき、遠くの道の向こうに一行の灯が見えた。
十数人の護衛を従えた豪華な馬車。その前に立つ女性の姿が月明かりに浮かぶ。
白い修道服、淡銀の髪。清らかな光をまとうような笑み。
「聖女陛下がお越しになりました!」
村人が叫ぶ。
リオは思わず立ち上がった。胸の奥がざわめく。
あの声、どこかで――。
女性がこちらを見た。目と目が合った瞬間、彼女は駆け出した。
「リオ……! 本当に、あなたなのですか!」
涙を浮かべ、彼女は彼の腕に飛び込んだ。
村中が息をのむ中、リオはただ呆然として彼女を見下ろした。
「え……誰?」
(続く)
「思考が速くなったような……時間が止まったような……」
手を見つめ、試しに集中してみたが何も起こらない。昨日のあれは偶然の錯覚なのか、それとも……。
「おはよう、リオさん!」
元気な声が背後から響いた。振り向くと、昨日の少女ミーナが籠を抱えて走ってくる。
「今日はお母さんにパンを届ける手伝いしてるの!」
「えらいな。じゃあ、一緒に行こうか」
二人で村の通りを歩くと、あちこちの家から「リオさん、おはよう」「昨日はありがとう!」と声がかかった。どうやら噂はかなり広まっているらしい。
そのうちの一軒、木彫りの看板が掲げられた店の前で老人が手を挙げた。
「おお、救世の人じゃないか! 森が静かになったお陰で畑が助かったよ!」
「救世の人?」
リオは首を傾げた。老人は朗らかに笑う。
「村の皆で言ってるんだよ。森を救った英雄リオ!ってな。神様の祝福を持ってるんじゃないかって巫女さまが言っておったぞ」
「巫女さま?」
「ああ、明日町から来るんだ。お祈りにね。お前さんとも会いたいと言っていたらしいぞ」
リオは乾いた笑いを浮かべる。
「俺、ほんとに普通の村人なんだけどなあ……」
だが、その「普通」の基準がすでに狂い始めていた。
村の外れで畑仕事をしていると、突然周囲が騒がしくなった。牛車が一台村に入ってくる。荷台には数名の旅人風の男女。細工の美しい甲冑を着た若い男が、堂々と立ち上がった。
「ここが“森を清めし者”の住む村か!」
村人たちはぽかんとし、リサが代わりに答える。
「ええっと、そうですけど……あなたたちは?」
「我らは中央の冒険者ギルドから派遣された者だ。報告にあった魔物の鎮静事件を調べに来た」
男は金髪をかき上げ、視線を鋭くした。
「君が……リオ、というのか?」
「え? あ、はい」
名乗るや否や、彼の目が光る。
「見せてもらおう。どうやって森の魔物を仕留めた?」
「えっと、ただ木の枝で……」
ざわり、と周囲がざわめく。
「木の枝で一撃……!?」「嘘だろ……」
信じられないほどの沈黙のあと、男は挑むように笑った。
「なるほど。戦士ではなく賢者系か。魔力を枝に集中させて撃ったのだな」
「いや、そんなこと――」
「隠す必要はない。謙虚さは美徳だが、記録のためには正確な情報が必要だ。我々は君の功績を正式に報告する責務がある」
リオが困惑していると、村人たちの目線が一斉に彼に注がれた。
「リオさん、賢者だったのか!」「そんなの隠してたなんて……」
収拾がつかない。結局、リオは「たまたま運が良かっただけ」と弁明したが、冒険者たちは全く耳を貸さなかった。
彼らは去り際にこう言った。
「明日、聖女殿がここを訪れる。必ずお前も立ち会え。詳細を聞きたいとのことだ」
「聖女……?」
また新しい面倒の種が増えた、とリオは頭を抱えた。
その日の午後、村の少年たちがリオを見張るようにしてついて回っていた。
「フフ、これがあの“森を一瞬で焼いた枝”かー?」
「ちょ、触るなって!」
奪われた木の枝を追いかける。転んだ拍子に畑の石を蹴った瞬間、リオの足元から淡い光が広がった。
地面がふわりと浮き、石が宙に止まる。
「うわっ!?」
次の瞬間、風が巻き起こり、石たちは一直線に宙を舞って遠くの木に突き刺さった。
少年たちは呆然と口を開けた。
「リオ兄ちゃん、すっげえ!」
「魔法だ! 本物の魔法だ!」
「違う! 俺は何もしてない、勝手に……!」
だが、彼の言葉は誰にも信じられなかった。村人たちは、ますます「リオは賢者」「きっと神の力を宿している」と信じ込む。
リオはため息をつきながら、枝を拾い上げた。
「これ、ただの木の棒なんだけどな……」
夜になり、村の宴が開かれた。森の平穏と豊穣を祝う恒例の祭りだったが、今年は特別な理由が加わっていた。
「偉大なる賢者リオ殿に祝福を!」
乾杯の声とともに、花びらが舞い、音楽が鳴り響く。
リオは恐縮しながらも笑顔を保つが、内心では汗が流れていた。
(これ、完全に誤解されてるよな……)
横でリサがワインを注ぎながら笑う。
「仕方ないよ。皆、感謝してるんだもの。神様だって思いたい気持ち、わかるでしょ?」
「神様って……俺はただの人間だよ」
「そう言える人ほど、本当に力を持ってるんだよ」
その穏やかな声に、リオは少しだけ心が和らいだ。
祭りが終わるころ、夜空に大きな満月が昇る。リオはひとり丘に登り、涼しい風にあたっていた。草のざわめきと虫の声が心地よい。
「このまま、静かに暮らせたらいいんだけどな」
願うように呟いたとき、遠くの道の向こうに一行の灯が見えた。
十数人の護衛を従えた豪華な馬車。その前に立つ女性の姿が月明かりに浮かぶ。
白い修道服、淡銀の髪。清らかな光をまとうような笑み。
「聖女陛下がお越しになりました!」
村人が叫ぶ。
リオは思わず立ち上がった。胸の奥がざわめく。
あの声、どこかで――。
女性がこちらを見た。目と目が合った瞬間、彼女は駆け出した。
「リオ……! 本当に、あなたなのですか!」
涙を浮かべ、彼女は彼の腕に飛び込んだ。
村中が息をのむ中、リオはただ呆然として彼女を見下ろした。
「え……誰?」
(続く)
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