前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

文字の大きさ
20 / 69

Chapter.20

しおりを挟む
『いま、電話しても大丈夫ですか?』

 程なくして既読マークがつき、

『はい。大丈夫です。』

 返信が来た。
 リビングのソファに座り、軽く深呼吸してからアプリの電話機能を使う。
(電話で話すの初めてだな)
 数秒間の発信音のあと、通話が開始される。
『…はい。鶫野です』
 久しぶりに聞く鹿乃江の声に頬が緩む。しかしいまはそんなにホンワカしている場合ではない。
「前原です。急にごめんなさい」
『大丈夫です。…なにか、ありましたか?』
「えっと……」
 まずは雑誌の存在を知っているか、雑誌名を出して確認する。
『あー、吊り広告でたまに見る程度には……』
「あの、その雑誌に、載るらしいんです。オレ…っていうか、オレらが」
『……ん?』
 紫輝の言葉が飲み込めなかったようで、鹿乃江が気の抜けた声を出す。
(そりゃそうだよね……)
「このあいだ食事した帰り、ビルの下でカメラマンに張られてたみたいで……。そのとき撮られたオレらの写真が、その雑誌に載るんです」
『…え……』
 鹿乃江はそれきり黙ってしまう。
「あのっ!」慌てた紫輝が付け加える。「鶫野さんの顔は出ないんです。個人情報も。でも…ごめんなさい。オレのせいで、ご迷惑をおかけして……」
 それでも鹿乃江は無言のままだ。
「本当は直接会ってお話しないとダメなやつなんですけど……いまお会いするともっとご迷惑をおかけしてしまいそうなので……」
 だんだん消え入りそうになる声。
『…あの…』
 鹿乃江の声にギクリとする。
『お気になさらないでください…』
「え…」
『前原さんが悪いわけじゃないですし…その…タイミングというか…巡りあわせというか…んと…』言葉を選びながら、慎重に言葉を紡ぐ。『写真を撮られたこと、私も気付きませんでしたし…そのー』
「ありがとう」
『えっ』
「…ありがとうございます…」
『……はい……』
(やっぱり…好きだな……)
 ソファの上で膝を抱えながら、ふと微笑みが浮かぶ。
「あの……」
『はい』
「しばらく、会うのは控えようと思います」
『……はい』
 少し落ち込んだ声に聞こえて、少し嬉しく思う。
「でも、メッセは送っていいですか? このまま、連絡取れなくなっちゃうのは、嫌なので……」
『……はい。前原さんに、ご迷惑がかからないなら』
「迷惑なわけないっす」喰い気味に強く言う。「迷惑だなんて思うなら、最初から誘ったりしないんで」
(伝わったかな……伝わってなさそうだな……そういうの鈍そうだもんな、ほかは鋭いのに。そこがいいんだけど)
『そう……ですよね。はい。ありがとうございます』
 声で笑顔になったことがわかる。
(期待して、いいのかな)
「もし、なにかリアルにご迷惑をおかけするようなことがあったら、すぐに教えてください」
『はい』
「今回の件じゃなくても、困ったことがあったら連絡ほしいです」
『え……』
「話を聞くくらいしかできないかもですし、オレじゃ頼りないと思いますけど……」
『そんなことないです。いつも…元気、もらってるんですよ?』
 鹿乃江の不意な言葉に、胸が熱くなる。
『だから、頼りに、します』
「はい! いつでも待ってます!」
『ありがとうございます』
 電話越しに二人で笑い合うと、緊張していた気持ちがほぐれていく。
 電波に乗って会いに行けたらなぁ、なんて、少しロマンチストめいたことを思って独り笑う。
 いつまでもこのままでいることもできず、
「それじゃ、また……」
 紫輝が名残惜しそうに言葉を紡ぐ。
『はい。おやすみなさい』
「おやすみなさい」
 通話を終えて、小群の言葉を思い出す。
“知人ってことでコメント出すから。狙ってるんだったらしっかり説明なり弁明なり、ちゃんとフォローしとけよ?”
(いまので、できた……よね?)
 きっとあの感じだと、記事の内容までは読まなさそうだ。変に伝えて誤解されるより、いま把握している事実だけを伝えたほうがいい。そう判断しての対応だった。
 会えないのは寂しいが、どちらにせよ忙しくてしばらくは約束できなさそうだ。
(色々落ち着いたらまた誘おう)
 通話を終えたばかりのスマホで、検索履歴から【都内 個室 デート】のワードを選んで次に行く店の候補を探し始めた。

* * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...