前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

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Chapter.39

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「じゃあ、先に席行ってるね」
「はーい」
 別のグループとして来ている知人に会場内で会うという園部と別れ、鹿乃江は広い通路を移動する。
(あった)
 通路番号を頼りに客席スペースへ入る。見晴らしの良い二階席のひとつが、チケットに書かれた座席だった。
(人気あるんだなー)
 開演30分前。広い会場の八分目ほどが埋まった客席を眺めてぼんやり考える。紫輝の名前や顔写真の載ったうちわを持っている観客も見受けられた。
 最後に会ったのは四か月半ほど前、紫輝の車で自宅最寄駅まで送ってもらったときだ。
 あの日掴まれた腕の感覚と熱い体温を思い出して、そっと自分の腕に触れてみる。当時の記憶が呼び起こされ、悲しさが押し寄せてきてしまった。紛らわせるためにステージ上に組まれたセットへ視線を移す。
(まさかライブ見ることになるとはなぁ……)
 ことの発端は、職場の後輩からの頼み事だった。


「初の大きいツアーなんです! だから空席作りたくないんです! お願いします!」頭を下げて手を合わせる園部。「変な人と一緒に入るのもヤなんです!」
 一緒に行く予定だった友人が入院してしまい、急遽同行者を探しているとのことだった。公演まで一週間を切っていたため、ドタキャンされる恐れのあるSNSなどで探したくないらしい。
「曲とか全然知らないよ?」
「大丈夫です! 明日CD貸します!」
「え、予習」
「チケ代もいらないんで!」
「いや、それは払うよ」
「いいんですか?!」
 鹿乃江の言葉を、承認と捉えたようだった。
「何日の何時からだっけ…?」
 日時を聞いて、会社パソコンのメーラーに入っている予定表を開く。出勤日だが必須業務は少なく、多少の早上がりが可能だ。
(あんなでかい会場だったら、見つからないよね……)
「うん、じゃあ、譲ってもらう」
「やったー!」
「ほかに行きたい人見つかったら、そっち優先してね」
 たぶん、探す気はもうないだろうことはわかっていたが、一応言ってみる。
「了解です! チケットがデジタル式で手元にないんで、一緒に入ることになるんですけど……」
「うん、待ち合わせ指定してくれたらそれに間に合うように上がるよ」
「ありがとうございます! 明日CD持ってきますね!」
 園部が嬉しそうに言うので、鹿乃江も少し楽しみになってきた。
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