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Chapter.50
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薄い布越しに触れ合った身体から体温が伝わる。
鹿乃江の胸に愛しさがこみあげて、それまでは遠慮がちに回していた腕に力を籠めた。
「……鹿乃江さん、さっきオレのことズルイって言いましたけど、鹿乃江さんも相当ズルイっすよね」
紫輝が鹿乃江の耳元に唇を押し当てながら言う。
「えっ。なにも…してない、ですよね……?」
「いやぁ、ズルイっすよ。めっちゃかわいいんすもん」
(うぅ……)
照れくささとくすぐったさとでモゾモゾと鹿乃江が動くと、
「ん?」
紫輝が気付き、腕の力を緩めた。
鹿乃江は少しだけ紫輝の身体を押し離し、照れたような拗ねたような顔で
「そういうの、嬉しいですけど…あまり、慣れてないので…」
ぽつりと呟く。
紫輝が目尻を下げて子供をなだめるように頭を撫で、鹿乃江の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、慣れるようにたくさん言いますね」
「えっ、ちが」チュッと音を立てて紫輝が言葉の途中でキスをする。
耳まで赤くなる鹿乃江を見て満足そうにニコーと笑い、抱き寄せてから耳元で囁く。
「やっぱ、かわいいっす」
「……ありがとうございます……」
紫輝には敵わないことを悟って、鹿乃江は素直に受け入れることにした。
そっと、紫輝に身体を預けてみる。紫輝はそれを受け入れて、鹿乃江の横顔に優しく頬をすり寄せた。
「明日、お仕事ですか?」
「はい。前原さんは?」
「紫輝」
「ん?」
「紫輝でいいですよ」
「…紫輝…くん」
「はい」
顔を見ずとも嬉しそうなのがわかる。
「紫輝くんは、明日は?」
「オレは午後からっすね」
「じゃあ、朝はゆっくりできますね」待たせたうえに早起きさせるのは申し訳なさ過ぎて、思わず気遣う。
「そうっすね。だから……ホントはもっと一緒にいたいんですけど」
「はい……」
「…帰…っちゃいます…?」
体を離して鹿乃江の顔を覗き込む。
「…そう…ですね……」
正直、帰りたくない気持ちもある。やっと気持ちが通じたのだから、このままずっと一緒にいたい。しかし、正確な時間はわからないが、職場を出てからかなりの時間が経っている。
明日の出勤や終電の時間も考えて
「今日は、帰ります」
自分に言い聞かせるように口に出した。
「じゃあ、車、出しますね」
「まだ電車あると思うので」
「オレが送りたいんで、送りますね」
鹿乃江の言葉を遮るように紫輝が言う。その勢いに一瞬キョトンとして
「はい。お願いします」
鹿乃江が微笑んだ。
「ちょっと準備するんで、待っててください」
笑顔を見せてソファを離れ、背中側に落ちていた上着を取って別の部屋に入って行った。
自分の体温だけでは物足りなく感じて、そっと自分の腕を抱いてみる。自分のとは違う紫輝の体温が腕の形のまま背中に残っていることに気付き、それだけで胸がときめく。
(すき……)
ようやく対峙できた自分の気持ちをそっと拾い上げる。それは、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「お待たせしました」
紫輝は片手に鍵を持ってリビングに戻って来た。
「いえ」
首を横に振り、コートを着て足元のバッグを持つ。
紫輝もテーブルの脇に置いてあったボディバッグを肩に掛けると
「はい」
言って、空いた方の手を鹿乃江に差し伸べた。
照れながらその手に指を添えて、鹿乃江が立ち上がる。
紫輝はその指を握って手を繋ぎ、鹿乃江を見つめた。不思議そうに見つめ返す鹿乃江に、少し腰を曲げてキスをする。
「…行きましょっか」
「……はい」
紫輝の不意打ちには、いつまで経っても慣れそうにない。
鹿乃江の胸に愛しさがこみあげて、それまでは遠慮がちに回していた腕に力を籠めた。
「……鹿乃江さん、さっきオレのことズルイって言いましたけど、鹿乃江さんも相当ズルイっすよね」
紫輝が鹿乃江の耳元に唇を押し当てながら言う。
「えっ。なにも…してない、ですよね……?」
「いやぁ、ズルイっすよ。めっちゃかわいいんすもん」
(うぅ……)
照れくささとくすぐったさとでモゾモゾと鹿乃江が動くと、
「ん?」
紫輝が気付き、腕の力を緩めた。
鹿乃江は少しだけ紫輝の身体を押し離し、照れたような拗ねたような顔で
「そういうの、嬉しいですけど…あまり、慣れてないので…」
ぽつりと呟く。
紫輝が目尻を下げて子供をなだめるように頭を撫で、鹿乃江の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、慣れるようにたくさん言いますね」
「えっ、ちが」チュッと音を立てて紫輝が言葉の途中でキスをする。
耳まで赤くなる鹿乃江を見て満足そうにニコーと笑い、抱き寄せてから耳元で囁く。
「やっぱ、かわいいっす」
「……ありがとうございます……」
紫輝には敵わないことを悟って、鹿乃江は素直に受け入れることにした。
そっと、紫輝に身体を預けてみる。紫輝はそれを受け入れて、鹿乃江の横顔に優しく頬をすり寄せた。
「明日、お仕事ですか?」
「はい。前原さんは?」
「紫輝」
「ん?」
「紫輝でいいですよ」
「…紫輝…くん」
「はい」
顔を見ずとも嬉しそうなのがわかる。
「紫輝くんは、明日は?」
「オレは午後からっすね」
「じゃあ、朝はゆっくりできますね」待たせたうえに早起きさせるのは申し訳なさ過ぎて、思わず気遣う。
「そうっすね。だから……ホントはもっと一緒にいたいんですけど」
「はい……」
「…帰…っちゃいます…?」
体を離して鹿乃江の顔を覗き込む。
「…そう…ですね……」
正直、帰りたくない気持ちもある。やっと気持ちが通じたのだから、このままずっと一緒にいたい。しかし、正確な時間はわからないが、職場を出てからかなりの時間が経っている。
明日の出勤や終電の時間も考えて
「今日は、帰ります」
自分に言い聞かせるように口に出した。
「じゃあ、車、出しますね」
「まだ電車あると思うので」
「オレが送りたいんで、送りますね」
鹿乃江の言葉を遮るように紫輝が言う。その勢いに一瞬キョトンとして
「はい。お願いします」
鹿乃江が微笑んだ。
「ちょっと準備するんで、待っててください」
笑顔を見せてソファを離れ、背中側に落ちていた上着を取って別の部屋に入って行った。
自分の体温だけでは物足りなく感じて、そっと自分の腕を抱いてみる。自分のとは違う紫輝の体温が腕の形のまま背中に残っていることに気付き、それだけで胸がときめく。
(すき……)
ようやく対峙できた自分の気持ちをそっと拾い上げる。それは、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「お待たせしました」
紫輝は片手に鍵を持ってリビングに戻って来た。
「いえ」
首を横に振り、コートを着て足元のバッグを持つ。
紫輝もテーブルの脇に置いてあったボディバッグを肩に掛けると
「はい」
言って、空いた方の手を鹿乃江に差し伸べた。
照れながらその手に指を添えて、鹿乃江が立ち上がる。
紫輝はその指を握って手を繋ぎ、鹿乃江を見つめた。不思議そうに見つめ返す鹿乃江に、少し腰を曲げてキスをする。
「…行きましょっか」
「……はい」
紫輝の不意打ちには、いつまで経っても慣れそうにない。
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