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6/10『止まった時』
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骨董店で懐中時計を買った。
いまは壊れて動かないけど、本来だったら【時間を止められる時計】なんだとか。
そんな漫画みたいな話を信じたわけじゃなく、見た目が気に入ったから買っちゃった。メインの文字盤が1つと、小さな文字盤が2つあるクロノグラフの【2カウンタータイプ】。
時計好きだった祖父の影響で、簡単な修理くらいならできるから、帰宅して早速裏蓋を開けてみた。
「んん?」
時計の内部構造って大体一緒なんだけど、見たことない機構が搭載されてる。それに大体の時計では人工ルビーが埋め込まれてる部分に、見たことのない石……ブラックオパール? が鎮座している。
慎重に壊れている箇所を探ると、歯車の破損とズレを見つけた。恐らくこれが故障の原因だ。
ジャンク品から集めた部品と入れ替えて位置を調節。電池も新品にしたら、黒かったオパールが白っぽい虹色に輝きだした。
え、なにこれ、どういう機能? まさかマジで時間止められる……? いやいやまさか。
苦笑しつつ蓋を閉め文字盤を確認。3つの文字盤のメイン部分、時刻を示す針が動いてる。
ストップウォッチが動くか確認するために本体横の竜頭を押した。
お、動く動く。じゃあ一旦停止して~……ん、止まらないな。
修理を続ける前にコーヒーでも、と窓の外を見て動きが止まる。
ベランダの手すりに降りようとしている鳩が、翼を広げたまま空中で固まっていたから。【30】までの目盛りを持つ分積算計を回る針は残り5秒……3、2、1……。
針が頂点に戻ったと同時に、鳩が手すりに降りて、毛づくろいを始めた。
「マジかよ……」
もう一度試そうしたけどできなくて、一度しか使えないのかと思ったら違った。
箱に入ってた説明書によると、時間停止は一回30秒。停止終了後、1時間は使用不可。
通常は分積算計の役割を果たす【30】目盛り盤が時間停止可能タイムを示し、通常は時刻秒針の役割を果たす【60】目盛り盤が時間停止再開可能までの時を計る。
これ、すごい。けど……使い道、ないかも。
事故の場面に遭遇したら使うことになるかも? なんて考えていたけど、日常生活の中でそんな場面もなく、時間停止機能付きの懐中時計はただ平和に時を刻んでいた。
懐中時計を使い始めて一ヶ月。
この時計、爺ちゃんだったらどうしてただろう。
ベッドに寝転び懐中時計を眺めていたら、急に視界が回り出した。歪む視界に浮かぶ映像は懐中時計と共に過ごした誰かの記憶のようだ。
「‼」
視界が戻って飛び起きた。歪んだ視界の中で見えた光景が頭の中を駆け巡る。
和室に敷かれた布団の上で、赤ん坊が眠っている。突如周囲の家具が大きく揺れた。地震だ。赤ん坊の横にある箪笥が、揺れの影響で傾いた。寝ている赤ん坊を直撃するかと思いきや、その箪笥は空中で停止。駆けてくる老父。その手には、懐中時計が握られていた。老父が赤ん坊を抱きかかえてその場を離れた数秒後、箪笥は小さな布団の上に倒れた。老父の手をすり抜けた時計は、箪笥の下敷きになった。
その赤ん坊は、俺だった。
爺ちゃんがこの時計を使って俺の命を救ってくれ、懐中時計は俺の代わりに動かなくなった。
そんなことって……。でも確かに、子供のころにそんな話を聞いたことがあるような……。
生前の爺ちゃんに見せてもらったコレクションの中にこの時計は入ってなかったけど、なにかの理由で手放した可能性はある。
あの骨董店に聞けば、時計のルーツや越し方がわかるかもしれない。
思い立ったが吉日。使用可能になった報告がてら、骨董店へ行ってみた。
「あれ?」
確かにこの場所にあったはずの骨董店はなくなっていて、その代わりに【地方のコンビニ】感あふれる個人経営の商店があった。
ついこないだできたような店構えじゃないけど……。
「いらっしゃい。なにかお探し?」
店の中から出てきたのは、小柄でふくよかなおばちゃんだった。
「あ、えっと……このお店って、最近できた感じですか?」
「いいえぇ。もう二十年になるかしら」
「その前って、骨董店だったりしました?」
「えぇ。うちのお爺さんが営んでましたよ。亡くなってほどなくしてこのお店に改築したの。ほら、あれ」
おばちゃんが指さした先に一葉の写真。俺が懐中時計を買った骨董店が映ってる。
「その時の商品って……」
「交流があった骨董屋さんにお譲りしたけど……なにかお探し?」
「あ、いえ。このあたりの風土なんかを調べていて、それで」
「あらそう、ご苦労さま」
お礼を言ってその場を離れる。
この時計はきっと、俺の手に帰ってきたんだと思う。時間が巡り、時計が巡る。俺の手を離れてもまた、必要な人のもとへ。
いつか子供ができるその日まで、その子が無事大人になるその時まで大切にしよう。
いまは壊れて動かないけど、本来だったら【時間を止められる時計】なんだとか。
そんな漫画みたいな話を信じたわけじゃなく、見た目が気に入ったから買っちゃった。メインの文字盤が1つと、小さな文字盤が2つあるクロノグラフの【2カウンタータイプ】。
時計好きだった祖父の影響で、簡単な修理くらいならできるから、帰宅して早速裏蓋を開けてみた。
「んん?」
時計の内部構造って大体一緒なんだけど、見たことない機構が搭載されてる。それに大体の時計では人工ルビーが埋め込まれてる部分に、見たことのない石……ブラックオパール? が鎮座している。
慎重に壊れている箇所を探ると、歯車の破損とズレを見つけた。恐らくこれが故障の原因だ。
ジャンク品から集めた部品と入れ替えて位置を調節。電池も新品にしたら、黒かったオパールが白っぽい虹色に輝きだした。
え、なにこれ、どういう機能? まさかマジで時間止められる……? いやいやまさか。
苦笑しつつ蓋を閉め文字盤を確認。3つの文字盤のメイン部分、時刻を示す針が動いてる。
ストップウォッチが動くか確認するために本体横の竜頭を押した。
お、動く動く。じゃあ一旦停止して~……ん、止まらないな。
修理を続ける前にコーヒーでも、と窓の外を見て動きが止まる。
ベランダの手すりに降りようとしている鳩が、翼を広げたまま空中で固まっていたから。【30】までの目盛りを持つ分積算計を回る針は残り5秒……3、2、1……。
針が頂点に戻ったと同時に、鳩が手すりに降りて、毛づくろいを始めた。
「マジかよ……」
もう一度試そうしたけどできなくて、一度しか使えないのかと思ったら違った。
箱に入ってた説明書によると、時間停止は一回30秒。停止終了後、1時間は使用不可。
通常は分積算計の役割を果たす【30】目盛り盤が時間停止可能タイムを示し、通常は時刻秒針の役割を果たす【60】目盛り盤が時間停止再開可能までの時を計る。
これ、すごい。けど……使い道、ないかも。
事故の場面に遭遇したら使うことになるかも? なんて考えていたけど、日常生活の中でそんな場面もなく、時間停止機能付きの懐中時計はただ平和に時を刻んでいた。
懐中時計を使い始めて一ヶ月。
この時計、爺ちゃんだったらどうしてただろう。
ベッドに寝転び懐中時計を眺めていたら、急に視界が回り出した。歪む視界に浮かぶ映像は懐中時計と共に過ごした誰かの記憶のようだ。
「‼」
視界が戻って飛び起きた。歪んだ視界の中で見えた光景が頭の中を駆け巡る。
和室に敷かれた布団の上で、赤ん坊が眠っている。突如周囲の家具が大きく揺れた。地震だ。赤ん坊の横にある箪笥が、揺れの影響で傾いた。寝ている赤ん坊を直撃するかと思いきや、その箪笥は空中で停止。駆けてくる老父。その手には、懐中時計が握られていた。老父が赤ん坊を抱きかかえてその場を離れた数秒後、箪笥は小さな布団の上に倒れた。老父の手をすり抜けた時計は、箪笥の下敷きになった。
その赤ん坊は、俺だった。
爺ちゃんがこの時計を使って俺の命を救ってくれ、懐中時計は俺の代わりに動かなくなった。
そんなことって……。でも確かに、子供のころにそんな話を聞いたことがあるような……。
生前の爺ちゃんに見せてもらったコレクションの中にこの時計は入ってなかったけど、なにかの理由で手放した可能性はある。
あの骨董店に聞けば、時計のルーツや越し方がわかるかもしれない。
思い立ったが吉日。使用可能になった報告がてら、骨董店へ行ってみた。
「あれ?」
確かにこの場所にあったはずの骨董店はなくなっていて、その代わりに【地方のコンビニ】感あふれる個人経営の商店があった。
ついこないだできたような店構えじゃないけど……。
「いらっしゃい。なにかお探し?」
店の中から出てきたのは、小柄でふくよかなおばちゃんだった。
「あ、えっと……このお店って、最近できた感じですか?」
「いいえぇ。もう二十年になるかしら」
「その前って、骨董店だったりしました?」
「えぇ。うちのお爺さんが営んでましたよ。亡くなってほどなくしてこのお店に改築したの。ほら、あれ」
おばちゃんが指さした先に一葉の写真。俺が懐中時計を買った骨董店が映ってる。
「その時の商品って……」
「交流があった骨董屋さんにお譲りしたけど……なにかお探し?」
「あ、いえ。このあたりの風土なんかを調べていて、それで」
「あらそう、ご苦労さま」
お礼を言ってその場を離れる。
この時計はきっと、俺の手に帰ってきたんだと思う。時間が巡り、時計が巡る。俺の手を離れてもまた、必要な人のもとへ。
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