312 / 366
11/8『真ん丸おめめで編み笠かぶって』
しおりを挟む
「よぅし、今日の仕事は終わりじゃ」
「うむ」
ホイッと宙返りをして、二匹は置物から生身の狸に戻った。
「腹減ったな。なにか人間向けのもんが食いたいな」
「でもいい加減、葉金術使うのもなぁ」
「それがだな、最近来るようになった屋台が、葉っぱのままでも支払い可能になったと」
「そーんな都合のええ話ぃ」
「とりあえず行ってみんか? そいで、嘘か誠か確かめよう」
「ツラい目に遭うのは嫌だぞ?」
「そんときゃ逃げればいいさに」
「小吉はいつもそうやってー」
「中吉っつぁんよりポジテブなだけじゃい」
ほれほれ、と促されて中吉が重い腰を上げた。
門番をしている店舗から歩くこと5分。大通り沿いに面した歩道の端っこに、暖かな灯りを放つ一軒の屋台が見えた。
「おぉ、あれかな?」
「小吉、人間に化けんと」
「気にせん店主らしいぞ」
「違ってたら大変じゃ!」
「それもそうか。んでは」
二匹はホイッと人間の姿になって屋台へ近づいた。
「いらっしゃい、二名様。あ、うち動物さん歓迎してるんで普段のお姿でもいいですよ」
「ありゃ、どっかボロ出てた?」
「常連のタヌキさんに見分け方教わったんです」
「ありゃそうかい」
二匹は人間姿のまま椅子に座る。
「ご注文どうぞ」
店主がテーブル上のメニューを示した。品名の横に価格が提示されている。
「人間界の金はないけどいいのかい?」
「はい。もし気が引けるようでしたら、お代としてなにか不思議な現象などをお見せ頂ければ」
「不思議……というと?」
「ヘンゲだったり葉っぱをお金に変える術だったり」
「葉金術は門外不出じゃから無理じゃのう」
「ですよねー。そちらの決まりごとに反しない範囲で結構ですよ」
「ほしたら……仕事中の姿になるっちゅうのはどうかね」
「ヘンゲですか。是非」
ほんじゃと小吉が中吉に目配せをした。いつものようにホイッと空中で一回転して、置物の姿になった。
「わー! すごいすごい! 難しいでしょうにそんなアッサリと」
「いやぁ、いつものことだで」
「なぁに中吉っつぁん、照れちゃって」
「やめろよ小吉」
「中吉さんに小吉さん。素敵なお名前ですね」
「いやいや」
「えへへ」
店主と談笑しながら注文を済ませる。
「ワシらの同族以外にも来とるんか?」
「そうですね、周辺の動物さんの間で重宝して頂いてます」
「ワシらを追い出さんでくれる店なんぞ他で聞かんからな、当然じゃないかの」
「生きてりゃ誰でもお腹減りますもん」
店主は魔法のような手捌きでうどんを作った。
「はい、たぬきうどん海老天乗せと、冷やしたぬきうどんのカマボコ増し増し、お待たせしましたー」
「「おぉー」」
目の前に出された器を覗き込んで、二匹が感嘆の声を上げる。顔には笑みが広がった。
美味い美味いとうどんをすする二匹を、店主が嬉しそうに見つめている。
「お嬢さんはなんだって、ワシらに優しくしてくれるのかね」
「うーん、皆さんには嫌な話かもですが、人間界には昔話ってのがありまして」
「大概ワシらが【悪者】のやつかね」
「はい」店主は苦笑しながら続けた。「美味しそうだからとか空腹で仕方なくとか、みんな理由は同じなのに、なんで動物だけ冷遇されるのかなって悲しくて……だったら私が優遇できるお店作ればいいんじゃんって思って」
「奇特な人間さんじゃな」
「良く言われます」
「儲けが出なけりゃ店が続けられんだろ。大丈夫なのかい?」
「はい。本業は作家でして、色んな方々に了承を得て、お伺いしたお話に少し脚色を加えた小説とか物語を書いてるんですよ」
「「ほう」」
「そちらが順調なので、こちらはほぼ趣味みたいな感じです」
「そりゃええねぇ。ワシらもありがたいよ」
「なので、もし良ければ差し支えない範囲でお話も伺えると嬉しいです」
小吉と中吉は嬉しくなって、体験談や同族から聞いた昔話を店主に伝えた。
いつの間にか同席していた人間の客も、二匹の話を興味深く聞いている。
昔話を終えた二匹は、ふうと息をついた。
「おもしろーい!」
「そんなことがあったんだねぇ!」
店主と客が手を叩いて称賛する。
「いやいや」
「お客さんはワシらのこと、嫌じゃないんかね」
「言葉通じるしユーモアもあるし……同席できて嬉しいよ」
客の言葉に二匹の顔に笑みが広がる。
「お礼にフルーツ、サービスします。秦さんもね」
「俺にも? ありがとう」
「いえいえ」
さんにん仲良くフルーツを頬張る姿に、店主が顔を綻ばせる。
二匹の帰り際に店主が言った。
「毎日開店できるように副店主などを探すので、末永くご愛顧ください」
店主の心意気に応えようと、動物たちは店主のために土産話や自家製果実などを持ち寄った。
客も店主も大層喜び、屋台も作家業も大繁盛! ウィンウィンの関係になれたとさ。
「うむ」
ホイッと宙返りをして、二匹は置物から生身の狸に戻った。
「腹減ったな。なにか人間向けのもんが食いたいな」
「でもいい加減、葉金術使うのもなぁ」
「それがだな、最近来るようになった屋台が、葉っぱのままでも支払い可能になったと」
「そーんな都合のええ話ぃ」
「とりあえず行ってみんか? そいで、嘘か誠か確かめよう」
「ツラい目に遭うのは嫌だぞ?」
「そんときゃ逃げればいいさに」
「小吉はいつもそうやってー」
「中吉っつぁんよりポジテブなだけじゃい」
ほれほれ、と促されて中吉が重い腰を上げた。
門番をしている店舗から歩くこと5分。大通り沿いに面した歩道の端っこに、暖かな灯りを放つ一軒の屋台が見えた。
「おぉ、あれかな?」
「小吉、人間に化けんと」
「気にせん店主らしいぞ」
「違ってたら大変じゃ!」
「それもそうか。んでは」
二匹はホイッと人間の姿になって屋台へ近づいた。
「いらっしゃい、二名様。あ、うち動物さん歓迎してるんで普段のお姿でもいいですよ」
「ありゃ、どっかボロ出てた?」
「常連のタヌキさんに見分け方教わったんです」
「ありゃそうかい」
二匹は人間姿のまま椅子に座る。
「ご注文どうぞ」
店主がテーブル上のメニューを示した。品名の横に価格が提示されている。
「人間界の金はないけどいいのかい?」
「はい。もし気が引けるようでしたら、お代としてなにか不思議な現象などをお見せ頂ければ」
「不思議……というと?」
「ヘンゲだったり葉っぱをお金に変える術だったり」
「葉金術は門外不出じゃから無理じゃのう」
「ですよねー。そちらの決まりごとに反しない範囲で結構ですよ」
「ほしたら……仕事中の姿になるっちゅうのはどうかね」
「ヘンゲですか。是非」
ほんじゃと小吉が中吉に目配せをした。いつものようにホイッと空中で一回転して、置物の姿になった。
「わー! すごいすごい! 難しいでしょうにそんなアッサリと」
「いやぁ、いつものことだで」
「なぁに中吉っつぁん、照れちゃって」
「やめろよ小吉」
「中吉さんに小吉さん。素敵なお名前ですね」
「いやいや」
「えへへ」
店主と談笑しながら注文を済ませる。
「ワシらの同族以外にも来とるんか?」
「そうですね、周辺の動物さんの間で重宝して頂いてます」
「ワシらを追い出さんでくれる店なんぞ他で聞かんからな、当然じゃないかの」
「生きてりゃ誰でもお腹減りますもん」
店主は魔法のような手捌きでうどんを作った。
「はい、たぬきうどん海老天乗せと、冷やしたぬきうどんのカマボコ増し増し、お待たせしましたー」
「「おぉー」」
目の前に出された器を覗き込んで、二匹が感嘆の声を上げる。顔には笑みが広がった。
美味い美味いとうどんをすする二匹を、店主が嬉しそうに見つめている。
「お嬢さんはなんだって、ワシらに優しくしてくれるのかね」
「うーん、皆さんには嫌な話かもですが、人間界には昔話ってのがありまして」
「大概ワシらが【悪者】のやつかね」
「はい」店主は苦笑しながら続けた。「美味しそうだからとか空腹で仕方なくとか、みんな理由は同じなのに、なんで動物だけ冷遇されるのかなって悲しくて……だったら私が優遇できるお店作ればいいんじゃんって思って」
「奇特な人間さんじゃな」
「良く言われます」
「儲けが出なけりゃ店が続けられんだろ。大丈夫なのかい?」
「はい。本業は作家でして、色んな方々に了承を得て、お伺いしたお話に少し脚色を加えた小説とか物語を書いてるんですよ」
「「ほう」」
「そちらが順調なので、こちらはほぼ趣味みたいな感じです」
「そりゃええねぇ。ワシらもありがたいよ」
「なので、もし良ければ差し支えない範囲でお話も伺えると嬉しいです」
小吉と中吉は嬉しくなって、体験談や同族から聞いた昔話を店主に伝えた。
いつの間にか同席していた人間の客も、二匹の話を興味深く聞いている。
昔話を終えた二匹は、ふうと息をついた。
「おもしろーい!」
「そんなことがあったんだねぇ!」
店主と客が手を叩いて称賛する。
「いやいや」
「お客さんはワシらのこと、嫌じゃないんかね」
「言葉通じるしユーモアもあるし……同席できて嬉しいよ」
客の言葉に二匹の顔に笑みが広がる。
「お礼にフルーツ、サービスします。秦さんもね」
「俺にも? ありがとう」
「いえいえ」
さんにん仲良くフルーツを頬張る姿に、店主が顔を綻ばせる。
二匹の帰り際に店主が言った。
「毎日開店できるように副店主などを探すので、末永くご愛顧ください」
店主の心意気に応えようと、動物たちは店主のために土産話や自家製果実などを持ち寄った。
客も店主も大層喜び、屋台も作家業も大繁盛! ウィンウィンの関係になれたとさ。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる