5 / 25
着てほしいのか?(※加筆有)
しおりを挟む遅めの朝食を摂った後、俺達は大型商業施設が立ち並ぶ駅北へ来た。
「泊まりに必要なものって言っても、部屋着くらいだよな」
そう言って、衣料品店に入る。恐らく日本最大手の、ファストファッションの店。部屋着を買うならここだよな。
昨日の急な泊まりでは、千冬が、家にあった新しい下着と歯ブラシを俺のために下ろしてくれて、部屋着は千冬のものを貸してくれた。
「下着と歯ブラシは買って返すとして、次からはあるものを使えばいいし…、あと、昨日世話になった分の礼も何かしてぇけど」
「え、いいですよ、そんな」
「これからも世話になるんだから、ちゃんとしときてぇの。…つっても、メシ奢るくらいしか思いつかねぇけど。千冬は、なんか希望あるか?」
「うーん…、希望、ですか…?」
下着をカゴに入れ、そのままルームウェア売り場へ行く。
秋口の店内は、すでに冬仕様のウェアが様々並んでいるが、買うものは決まっている。
自分の部屋でもよく着ている黒いスウェットを無造作にカゴに入れた。
買い物終了だ。
「千冬?」
振り返ると、千冬は少し離れた場所で他のルームウェアを見ていた。
何かのコラボなのか、フードに動物の耳がついたモコモコした服が、数種類置かれている。
まさか千冬の自分用じゃねぇだろうし…。
「あ、彼女用か」
なるほどな~。
千冬、ああいうの、彼女に着てほしいタイプなのか。
千冬の性癖が垣間見えた気がして、思わず口の端が片方上がる。
ジッと服を見ている千冬に、後ろから声をかけた。
「それ、着てほしいのか?」
「ぅ、えええっ!?」
「ぷっ!驚きすぎ、ハハハ」
顔を赤くして目を見開く千冬。
そんな反応が面白くて吹き出す。
「き、き、着て、くれるんですか…?」
「え?そうなんじゃねぇの?お前が頼めば」
「………」
ごくりと唾を飲み込み、またモコモコのルームウェア達に向き合う千冬。
戦地に赴く男かってくらい真剣な眼差しで笑える。
千冬の彼女ってどんな人か知らねぇけど、今の千冬を見せてやりてぇな。
「じゃ、じゃあ…、これ…買っても良いですか……?」
「おう?好きにしろよ。俺も会計してくる」
千冬は羊の白いルームウェアを手に持ち、俺とレジに向かう。
たまにこっちをチラチラ見てくるから、「お前の性癖をバカにするつもりはねぇから安心しろ」という思いを込めて、ニッと笑い返す。
千冬には目を逸らされてしまったから、ちゃんと伝わってるかは分からねぇけど。
服屋の買い物が終わると、あとは日用品も少し買って、時刻は15時。
「今日もまた泊まっていきますよね?」
「あ?あー、明日から授業だもんな。でもいきなり二泊は流石に迷惑だろ?今日はこのままアパート帰るわ」
「えっ!」
「え?」
「…あ、えっと、…そう…ですか」
なんだか納得してなさそうな千冬の態度に、ピンとくる。
さっき、「メシ奢る」って言ったから、楽しみにしてたのか?
でも時間が微妙だし、千冬だって今日は一人でゆっくり休んだ方が良いと思うけどな。
昨日、あんなとこで寝てたみてぇだし。
「千冬、明日の1限の後って他に授業あるか?」
「いいえ?2限は何も取ってなくて、あとは午後の授業だけです」
「じゃあ、1限終わったらメシ食い行こうぜ」
「!は、はい!」
パッと顔を輝かせる千冬に苦笑する。
かわいい後輩だよな、ほんと。
*
千冬の家に寄り荷物を回収して、玄関前で千冬に「ありがとな」と再度お礼を伝える。
「駅まで送りますよ」
「いいって、ガキじゃねぇんだから」
「…でも…、」
「お前、ほんと世話焼きなんだな。バイトもすげぇ面倒見てくれるし、昨日今日もずっと世話されてた気ぃするし」
「え?…あ、僕…、しつこかった、ですか…?」
眉を下げてた千冬が、自信なさげに俺に尋ねる。
「そんなことねぇよ。ありがとな」
「なら、良かったですけど…」
「でも、あんま気ぃ遣わなくていいからな。バイトも授業も一緒だし、来週から4ヶ月は週一で泊まらせてもらうことになるし…。」
そう言いながら、縁って不思議なもんだな、と思う。
最初はただのバイト先の客だった千冬が、つい先日、新しいバイト先の先輩になって、そして昨日は、とうとう「匿名で活動してる人気の歌い手」なんて秘密まで知っちまった。
「まぁ、なんだ?その…、これからも、仲良くやれたら、嬉しい…からさ」
「…!」
急激に近づいた千冬との距離を思いながら、素直な気持ちを口にする。
ちょっと恥ずかしい。
「じゃ、また明日な。それから来週からも、よろしくな」
「はい!」
「あと、今日はちゃんとベッドで寝ろよ?」
「はい。そうします」
ふふ、と笑う千冬に手を振り、千冬のマンションを後にする。
なんだか濃い一晩だったとぼんやり思い返す。
千冬は悪い奴じゃねぇから、どれだけ仲良くなっても嫌な気はしねぇけど。
明日も、千冬と会う。
明日は千冬に、何を食わせてやろうかな、と思いながら、俺はこっそり頬を緩めた。
57
あなたにおすすめの小説
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる