6 / 18
6 ウィリアム視点
しおりを挟む夜会でダンスをした時は、嬉しくて楽しくて、こうやってずっと楽しく過ごせたら良いと思った。
良い気分で居たのに、オリヴィアが特定の男と親密にしていることに気づいてしまった。
「何だあいつ?」
と、呟くと、エリアスが教えてくれる。
「オリヴィアの馴染みの文官らしいよ。何でも、あの男を頼って王宮での職に応募したらしくて、何かと親しくしているって話だ。」
「何だそれ?」
「王宮に勤めるにはそれなりに厳しい審査もあるし、細い伝手でも頼ってみたんじゃないか?」
「伝手って、あの男はただの文官なんだろう?」
「だから、オリヴィアは文官になる予定だったんだよ。そこにタイミング良く王女の付き人の寿引退で、後釜を探していたんだよ。そりゃ王女の付き人ともなれば、公式に募集はしていなかったんだけど、噂にならないわけがない。自他推薦も山程届くだろ。その中で、目に留まったのが彼女だったんだ。辺境の伯爵の出で、どの派閥にも属していない、年廻りもちょうど良いってな。」
「へえ……。」
ウィリアムは、この時、聞き間違えをしてしまった。辺境伯の出だと思い込んでしまう。
ウィリアムは海辺の港町へ数日の視察に行った。ふとお土産屋を覗いて、可愛い小さな珊瑚をあしらったペンダントを見つけた。
「あいつの瞳みたいだ。」
思わずそれを買って包ませたが、店を出てから
「お前、それ、あの付き人にじゃないだろうな?」
とエリアスからの茶々が入る。
「別に良いだろう。ただの土産だ。特に深い意味があるわけじゃない。」
「いや、不味いだろうそれは。」
「なんで?」
「装飾品は、まず、王女に渡さないと。王女を差し置いて付き人が受け取るわけがないだろう?」
「そうか。ならシャーロットにも、」
と戻ろうとすると、
「王女に渡すものはキチンとした宝飾店でないと。」
と、言うので、宝飾店で選ぶことにした。
宝飾店らしく、緑の透明感のある翡翠が置いていた。
「色も丁度良いな。」
と、それを選んだ。値段が土産物の珊瑚とは段違いで驚いた。
帰ろうとしたら、
「これをいくつか買って置いた方が良いんじゃないか?」
とエリアスが言う。
「なんだ?」
と見ると、手頃な値段の石の、アクセサリーが叩き売りのように下げられている。店の人の話では、
「それは瑪瑙です。翡翠よりは、石の価値としては劣りますが、それでも美しいでしょう。多種の色があって、価格もお手頃なので、貴婦人などがご自宅の使用人達にお土産にしたりするのに丁度良いと人気なのですよ。」
エリアスが言うにはこういうことだ。
「オリヴィアは、プレゼントを受け取らないことで有名だからな。皆にお土産だとでも言わないと、受け取って貰えないかもしれない。」
「なるほど。カムフラージュしないと受け取って貰えないのか。」
「そういうことだ。」
なるほど。色々考えるものなんだな。と感心して、エリアスの言うとおりにした。30個ほど買って、包装紙の色やリボンの掛け方を統一感のないようにしてもらった。
1,164
あなたにおすすめの小説
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる