たとえば、この恋に終わりがないと言われても──

永江寧々

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広場にて

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 午前十一時、広場には大勢の人間が集まっていた。
 今日も雲ひとつない快晴で太陽が隠れる場所がない。燦々と降り注ぐ熱がラフナディールの民の肌をジリジリと焼いていく。
 屋根もない広場に大勢の人間が集まったは、最悪のイベントを見るため。
 
「んーッ!!!!」

 キツく結ばれた布を噛みながら必死に抵抗を見せるザイードをその場にいた全員が見上げている。
 彼がいるのは高所。それも丸太のように太い木に四肢を固定され、これから四日間もの間、水も食事も与えられずここで過ごすこととなる。
 性犯罪と殺人罪は即死刑。放火は死者が出ていなければこうして日干しにされると決まっている。ラフナディールの法律は皇族も貴族も関係なく適用される。
 逃げる時間を稼ぐために市場の一部を放火したザイードの罪は重く、刑が執行されることとなった。
 目を覚ましたザイードの声はくぐもるだけで叫びにはならず、誰もが嫌悪ある表情で見つめている。

「ん!? んんんん!」

 気絶したまま縛り付けられて設置されたため、ザイードは何も知らなかった。精霊の加護が取り上げられてしまったことの説明もないままだったザイードは精霊がいないこと、力が使えないことに戸惑い、パニックを起こしかけている。
 暴れようにも四肢を拘束されているのではこれ以上のもがきようもなく、いつもより近い太陽にさっそく汗をかき始めた。
 これからどんどん気温は上がっていく。まだ四十度を超えてはいないが、あっという間に四十度を超え、ひどいときは五十度を超える。
 四日間生き抜くことができればそれで刑は終わるが、ラフナディールでこの刑罰に耐えられた者は一人もいない。

「本当に四日間も……?」
「ああ」

 ザファルの声に感情はなかった。これでも足りないぐらいだと思っているザファルにとって情状酌量を与えている気分なのだ。
 エルヴァングには死刑制度がなく、その分、他国よりも長い刑期が用意されている。
 ラフナディールのように「罰は重くなければ意味がない」という国のやり方はアストリッドには過激に思えてしまうが、止めることはしない。

「死んでしまったらどうするのですか?」
「砂漠に放り出しておけばあっという間に骨になる」

 冗談ではないのだろう。
 今頃叫び回っているだろうザイードを想像してはいい気味だと鼻を鳴らすイヴァが、ふと頭によぎったことを口にする。

「不思議なんですが、ラフナディールは他国に比べて罰が重いのにどうして犯罪者の温床となってるんですかね?」
「巨大が故に管理しきれていないせいだろうな」
「人がたくさんいるんだから警備を増やせばいいだけだと思うんですけど」
「これでも他国に比べれば警備の人間は多いのだ。それこそエルヴァングの二十倍以上は警備の人間がいるだろう」
「二十倍!? それでも足りないんですか!?」

 国土が違うという考えに至らないイヴァは指折り数えながら知りもしないエルヴァングの警備の数を勝手に想像して計算するも答えは出なかった。

「盗みひとつで指を切られるとわかっていても窃盗は減らない。抑止力どころか大きな犯罪に進ませているのかもしれないな」
「普通はやめようって思いますけどね」
「ラフナディールに限ったことではなく、広大な砂漠の中に存在する国は警備隊や役人の手が届きにくいというのはある」
「目も手も行き届かないってわかってて、って感じですか?」
「そういうことだろうな」

 犯罪者の気持ちがわからないのは誰しも同じ。
 ザファルは報告を受ける側であり、実際に取り締まることはないだけにどうするべきかと迷ってはいる。更に法律を厳しくすることも考えてはいるが、それでは国民が息苦しくなってしまうのではないかと考えると実行には至らない。
 法に触れるのではないかと行動ひとつに不安が出る環境は避けたいと考えているのだ。

「あなたはどう思う?」
「国のあちこちに投書箱を設置して意見を書いてもらうのはどうですか?」
「いいですね! エルヴァング方式ですよ!」
「私は反対です」
「アミーラさん?」

 七星が揃っている中、アミーラが真っ先に口を開いたことには七星の全員が驚いた。

「現状、陛下は以前よりも仕事をセーブされ、ファリド様との時間を優先されるようになりました。だからといって仕事が減るわけではありません。投書箱など設置したら陛下の仕事は更に増えていくばかり。負担になるようなことはやめるべきです」

 サラディーンやハイルはその意見に頷くが、イフラーシュだけは笑みを深めてアミーラの頬をつついた。

「良いこと言ってるって褒めてあげたいけど、実のところ、投書を読む仕事が自分たちに回ってくることを危惧してのことだろう?」
「……違うわよ」

 だからアミーラはイフラーシュが嫌いだった。どこにでもいて、なんでも見抜いてくるこの男の言動が癪に触る。
 指を掴んでテーブルに叩きつけ、腰に隠していたナイフを抜いてから手の甲に振り下ろすまで三秒もかからなかった。

「おっと」

 手を引き抜くことはせず、少し力を入れて下にズラすだけでナイフは指の間に落ちた。
 テーブルに突き刺さるほどの力を込めて振り下ろしたアミーラの本気にイヴァとアストリッドが何度も瞬きを繰り返す。

「惜しかったな、アミーラ。今度は手首を掴むべきだ」

 サラディーンの笑いながらのアドバイスを受けるアミーラがイフラーシュを目で殺さん勢いで睨みつけるもザファルから名前を呼ばれたことで七星全員の姿勢が正される。

「お前がイフラーシュの手をどうしようと構わんが、ここで成功していたらお前の首はなかったぞ」

 アストリッドとイヴァの前で私情による流血沙汰は許さんと目だけで送る圧力の前ではアミーラの睨みなど子猫の威嚇も同然。
 立ち上がって頭を下げたアミーラはそのままイヴァの後ろに立っていることにした。

「陛下、私からひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 手をあげながら許可を求めるサラディーンに頷くと視線はアストリッドへ向けられる。

「婚儀の予定などはあるのでしょうか?」
「さあな」
「夫人方がいなくなった今、不在状態はまずいのではありませんか?」
「どうだろうな」
「もちろん、アストリッド様のお気持ちも大事ですが、陛下がどうなさるおつもりなのか、我らにはそれも重要なのです」

 笑顔を見せていたはずのサラディーンの表情がスッと無へ変わり、視線はテーブルに落ちた。
 黙っていろ。ザファルの目がそう言っている。このあと、一言でも余計な発言をすれば自分はもう息をしていないかもしれないと予想し、口を閉じることにした。

「解散」

 ザファルからの唐突な宣言に四人は何も言わず部屋を出ていった。
 チラッと何度も視線だけでザファルと見ていたため、アミーラとサラディーンに向けたものもちゃんと見ていたアストリッドが苦笑する。

「皇妃の立場は私には重すぎます」
「なってくれとは言っていない。言うつもりもない」
「陛下、その言い方は冷たいです。もっと優しく言ってあげてください」

 眉と目を同時に下げながら口を挟んだイヴァに視線は向かず、ザファルの目はずっとアストリッドを見つめている。

「私はあなたに何も要求はしない。皇妃も、ファリドの母も、私の妻となることさえも望まない。あなたは私の傍にいてくれるだけでいい。だから、どうか周りの言葉は気にせず、あなたらしく生きてくれ」
「素晴らしく弱気な言葉だな、ザファル」

 バンッと勢いよく開いたドアから入ってきたマルダーンの姿にザファルは目を閉じながら頭を下げた。

「ノックという行為をお忘れですか?」
「忘れたも何もそんなもん覚えちゃいねぇよ」
「ドアの前で立ち止まり、叩くだけです」
「そうかそうか。お前は物知りだな。根性はないが」
「何用でしょうか?」

 この存在はザイードの次に嫌いだと噛み締めながらも冷静に問いかけると珍しく満面の笑みを浮かべた。

「皇帝の座を返せ」

 金を返せとでも言うように手を見せて要求する彼の言葉に、その場にいた全員が耳を疑った。
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