13 / 105
誰の意思か
しおりを挟む
「お父様」
「なんて顔してんだ」
アストリッドの中に風の谷に戻るという選択肢はなく、一日でも早く谷を出ていくつもりだった。だが、まさか父親まで谷を出ることになるなど想像したことすらなく、アストリッドのほうが戸惑っていた。
大きな手に優しく髪を撫でられながら目を伏せる。
「お前はどうするか決めたのか?」
「……まだ、決めていません」
「迷ってんのか?」
「エルヴァングは──」
「お前が戻ったところで席はねぇぞ」
民は歓迎してくれるだろうが、笑顔で戻れる気がしない。
既にレアナとヴァリムが玉座に座っているだろう現状に、元王妃として立ち向かうのは難しい。
エルヴァングに戻ったところで政治の仕方一つ知らないのだから。
「ラフナディールには行かねぇのか?」
「……知らない国です」
「エルヴァングもそうだったろうが。親の俺がやめとけって言ったのも無視して嫁いでったのは、どこの誰だ?」
返す言葉もない。
風の谷では代々、長老が結婚相手を決めることになっている。
それはフェイリス家も例外ではなく、アストリッドの許嫁も決められそうになったが、ヴァルグが断っていた。
『悪いが、親でもねぇ人間がうちの娘の未来を決めてくれんな』
そう言っていたのだが、それが良かったのかなんなのか、アストリッドは谷を出る結婚を選んだ。
親としては複雑ではあったものの、自らの意思で自らの道を歩んでいたことは誇りに思っていた。
それは今も変わらない。
「お前の人生だ。誰が何を言おうとお前が決めりゃいい。お前の人生はお前のもんで、そこには誰の責任も発生しねぇ。お前が自分で自分のケツを拭く未来だけがある」
「良くも悪くも、ですね」
ヴァルグの口癖だ。
「そうだ。人生に起こる選択肢は常に二択だ。良いか悪いか。やるかやらねぇか。生きるか死ぬか」
「そうですね」
「選ぶなら進むしかねぇ。立ち止まったところで何も変わらねぇ。世界はお前のために変わっちゃくれねぇんだぜ、リディ」
懐かしい呼び方に顔を上げると久しぶりに見るその自然な笑顔にアストリッドは何故だか涙が出そうになった。
「お前にはこの嬢ちゃんがついてんだろ?」
「イヴァです!」
元気の良い、明るい笑顔のイヴァにヴァルグも笑って頷きながら頭に手を乗せた。
「お前は一人じゃねぇんだ。前に進むのを怖がるな。お前が決めて、前に進めば、イヴァも一緒に歩いてくれる」
「ヴァルグ様のおっしゃるとおりです! イヴァはどこまででもお供しますよ! アストリッド様おわすとこにイヴァあり、ですからね!」
いつだってイヴァの存在はアストリッドに勇気をくれる。大きな声、明るい笑顔、真っ直ぐな眼差し、素直な言葉。自分にはもったいないぐらい優秀な侍女だ。
両手を伸ばしてイヴァを抱きしめると強く抱きしめ返してくれる。嬉しそうに、満面の笑顔で。
「わーい! アストリッド様にハグされちゃった!」
「ありがとう、イヴァ」
「ふふっ、イヴァはそのお言葉だけで元気百倍です!」
ヴァルグもイヴァがいるならと心配はしていなかった。イヴァがいなくても風の精霊が傍にいる。少なくとも孤独というわけではないのだ。
精霊の加護を受けている限り、なんの力も持たない女性よりは身の危険も少ない。
谷という孤立した場所で生まれ育った臆病な娘が十年間、外に出て色々見てきただろうが、それでもやはり臆病さは変わっていない。
守ってやりたいとは思うが、過保護にはなりたくないヴァルグは背中を押すと決めた。
「ザファルと話し合え。そんで、フィルングじゃなく、お前の意思で決めろ。死者の言葉に耳を貸す必要はねぇんだからな」
「はい」
フィルングはきっと、ヴァルグにも手紙を出していたのだろう。手紙は谷で風に乗せれば届くようになっていることを彼はよく知っていたから。
ヴァルグに届いた手紙には、フィルングらしい言葉が綴ってあったのかもしれない。だからラフナディールが選択肢にあることに文句は言わない。エルヴァングに嫁ぐと言ったあの日のように口うるさい父親にはならないのだろう。
「お父様」
「あ?」
「お元気で」
娘からの言葉に瞬きをしたヴァルグはニカッと笑って乱暴に柔らかな髪を撫でた。
「お前より長生きするだろうぜ、俺は」
「そうしてください」
長老を怒らせたからにはアストリッドも谷に居座るわけにはいかない。
谷から上がった先の分かれ道まで一緒に行って、立ち止まった。
「アストリッド様、どうかお元気で。フィルング陛下のことは残念でした」
「ありがとう、レセルド。父をよろしくお願いしますね」
「おいおい、俺が世話かける側かよ」
「お任せください。責任持ってお世話しますので」
「おい」
レセルドがいるなら大丈夫だ。幼い頃からヴァルグに憧れ、ひっつき虫のように後ろをついて歩いていた彼になら任せられる。
手を振った直後、目の前で起こった風とともに二人は一瞬で姿を消した。
この瞬間、彼らはエルヴァング内に立っているのだろう。
これからレアナやタウロスたちと対峙するのかはわからないが、アストリッドにできるのは今より少しでもマシになるよう祈ることだけ。
「イヴァ、あなたは帰らなくていいの? ご両親が心配するんじゃない?」
「私、両親よりアストリッド様が大事なんです。なので、帰りません」
「イヴァ……」
少し落ち着いた声にイヴァが眉を下げる。
「アストリッド様が投獄されてすぐ、一度、お城を抜け出して家族に会いに行ったんです。色々話して思ったのは、ああ、この人たちはダメだってことだけでした」
詳しく話すようなことではないと内容は省略し、結果だけを告げたイヴァをアストリッドはもう一度抱きしめた。
タウロスは神官として上手く生きていた。崇拝者が出るほどに。きっと、彼女の両親もそうだったのだろう。
だが、それは責めるべきことではない。自由であり、仕方のないこと。
タウロスよりも信頼される王妃になれなかった自分にも責任があるとアストリッドは思っている。
「ごめんなさいね、イヴァ」
アストリッドの謝罪にガバッと身体を離したイヴァが思いきり頬を膨らませる。
「まーた謝る! ありがとうが良いですって何百回も言ってるのに! あ、でもこれは私の問題なのでありがとうはいらないですし、ごめんなさいもいらないんです」
膨らんだ頬からブブブブブと音を立てて空気を抜く子供っぽい仕草にアストリッドが笑うとイヴァも同じように笑う。
「イヴァ、これから進む方へのあなたの意見を聞かせてくれる?」
「私はラフナディールに行くのをおすすめします」
まさかの即答に目を瞬かせているとザファルたちが坂を上がってくるのが見えた。
「どこかで家を借りるにもお金もないですし、ここら一帯ではアストリッド様の顔は広く知られています。処刑の話が広がっていれば身の危険を感じることが起こるかもしれません。冤罪であることを知っているのはエルヴァングの民だけですし。それなら衣食住と身辺の保証付きであるラフナディールに行って豪遊三昧がいいんじゃないかなって思います」
「イヴァったら……」
冗談混じりにザファルたちに聞こえるように言ったイヴァを誰一人怪訝な表情を見せることはしなかった。
黒馬を引きながら寄ってきたザファルを見上げ、会釈をする。
「あなたがラフナディールに来てくれると言うのなら、私は全力であなたを守ろう」
「私も、ですよ?」
「ああ、そなたのことも守ろう」
「えっへへっ! 私とアストリッド様は二人で一人なんですから!」
イヴァの言うことは正しく、イヴァはアストリッドの精神安定剤であり、ザファルもそれは理解してる。
「もし、あなたがラフナディールには行かないと言うのであれば、あなたがこれから暮らしていくために必要な資金だけ渡そう」
「そういうわけにはいきません。施しなど……」
ラフナディールに行くことが最善だと思っているイヴァもダメだとかぶりを振る。
「あなたを救うことが私の使命だ」
「フィルングからの願いはもう果たされました。ですから、どうか深くお気になさらず──」
「まだだ」
静かだが、どこか強い意思を感じるような言い方をしたザファルの金の瞳がアストリッドを捉える。
「あなたを幸せにすること──それが彼に託された最初にして最後の最大の願い。それを破るわけにはいかない」
フィルングは何故彼をそこまで信頼していたのか、アストリッドにはわからない。
国同士の交流があったわけではない。あくまでも個人間での交流だ。その中で彼はまるでフィルングを崇拝していたかのように約束を守ろうとしている。
『彼はとても面白い人間でね、私は彼に非常に興味がある。何時間話していても時間が足りないと感じる相手は君以外では初めてだ』
とても楽しそうに語るものだから、微笑ましく思いながらも少し嫉妬する部分もあった。
「だが、ヴァルグ殿が言ったように、あなたに決めてほしい。私やフィルング、イヴァの願いではなく、あなたの意思で」
風の力はとても便利だ。攻防に優れていて、なんでもできる。
しかし、お金までは運んできてくれない。新しい地で一から始めるにはイヴァに寄りかかりすぎることになる。
自分が何もできない人間であることを自覚した上で選択しなければならないと、それもフィルングが残した言葉とともに強く焼きついている。
「よろしくお願いします」
頭を下げたアストリッドの選択にザファルは小さく安堵の息を吐き出した。
どこからか吹いた風が髪を靡かせる。鈴のような風鳴りが──ピィン、と谷を横切り、それはまるで祝福の風のようで、優しく頭を撫でられているようでもあった。
「なんて顔してんだ」
アストリッドの中に風の谷に戻るという選択肢はなく、一日でも早く谷を出ていくつもりだった。だが、まさか父親まで谷を出ることになるなど想像したことすらなく、アストリッドのほうが戸惑っていた。
大きな手に優しく髪を撫でられながら目を伏せる。
「お前はどうするか決めたのか?」
「……まだ、決めていません」
「迷ってんのか?」
「エルヴァングは──」
「お前が戻ったところで席はねぇぞ」
民は歓迎してくれるだろうが、笑顔で戻れる気がしない。
既にレアナとヴァリムが玉座に座っているだろう現状に、元王妃として立ち向かうのは難しい。
エルヴァングに戻ったところで政治の仕方一つ知らないのだから。
「ラフナディールには行かねぇのか?」
「……知らない国です」
「エルヴァングもそうだったろうが。親の俺がやめとけって言ったのも無視して嫁いでったのは、どこの誰だ?」
返す言葉もない。
風の谷では代々、長老が結婚相手を決めることになっている。
それはフェイリス家も例外ではなく、アストリッドの許嫁も決められそうになったが、ヴァルグが断っていた。
『悪いが、親でもねぇ人間がうちの娘の未来を決めてくれんな』
そう言っていたのだが、それが良かったのかなんなのか、アストリッドは谷を出る結婚を選んだ。
親としては複雑ではあったものの、自らの意思で自らの道を歩んでいたことは誇りに思っていた。
それは今も変わらない。
「お前の人生だ。誰が何を言おうとお前が決めりゃいい。お前の人生はお前のもんで、そこには誰の責任も発生しねぇ。お前が自分で自分のケツを拭く未来だけがある」
「良くも悪くも、ですね」
ヴァルグの口癖だ。
「そうだ。人生に起こる選択肢は常に二択だ。良いか悪いか。やるかやらねぇか。生きるか死ぬか」
「そうですね」
「選ぶなら進むしかねぇ。立ち止まったところで何も変わらねぇ。世界はお前のために変わっちゃくれねぇんだぜ、リディ」
懐かしい呼び方に顔を上げると久しぶりに見るその自然な笑顔にアストリッドは何故だか涙が出そうになった。
「お前にはこの嬢ちゃんがついてんだろ?」
「イヴァです!」
元気の良い、明るい笑顔のイヴァにヴァルグも笑って頷きながら頭に手を乗せた。
「お前は一人じゃねぇんだ。前に進むのを怖がるな。お前が決めて、前に進めば、イヴァも一緒に歩いてくれる」
「ヴァルグ様のおっしゃるとおりです! イヴァはどこまででもお供しますよ! アストリッド様おわすとこにイヴァあり、ですからね!」
いつだってイヴァの存在はアストリッドに勇気をくれる。大きな声、明るい笑顔、真っ直ぐな眼差し、素直な言葉。自分にはもったいないぐらい優秀な侍女だ。
両手を伸ばしてイヴァを抱きしめると強く抱きしめ返してくれる。嬉しそうに、満面の笑顔で。
「わーい! アストリッド様にハグされちゃった!」
「ありがとう、イヴァ」
「ふふっ、イヴァはそのお言葉だけで元気百倍です!」
ヴァルグもイヴァがいるならと心配はしていなかった。イヴァがいなくても風の精霊が傍にいる。少なくとも孤独というわけではないのだ。
精霊の加護を受けている限り、なんの力も持たない女性よりは身の危険も少ない。
谷という孤立した場所で生まれ育った臆病な娘が十年間、外に出て色々見てきただろうが、それでもやはり臆病さは変わっていない。
守ってやりたいとは思うが、過保護にはなりたくないヴァルグは背中を押すと決めた。
「ザファルと話し合え。そんで、フィルングじゃなく、お前の意思で決めろ。死者の言葉に耳を貸す必要はねぇんだからな」
「はい」
フィルングはきっと、ヴァルグにも手紙を出していたのだろう。手紙は谷で風に乗せれば届くようになっていることを彼はよく知っていたから。
ヴァルグに届いた手紙には、フィルングらしい言葉が綴ってあったのかもしれない。だからラフナディールが選択肢にあることに文句は言わない。エルヴァングに嫁ぐと言ったあの日のように口うるさい父親にはならないのだろう。
「お父様」
「あ?」
「お元気で」
娘からの言葉に瞬きをしたヴァルグはニカッと笑って乱暴に柔らかな髪を撫でた。
「お前より長生きするだろうぜ、俺は」
「そうしてください」
長老を怒らせたからにはアストリッドも谷に居座るわけにはいかない。
谷から上がった先の分かれ道まで一緒に行って、立ち止まった。
「アストリッド様、どうかお元気で。フィルング陛下のことは残念でした」
「ありがとう、レセルド。父をよろしくお願いしますね」
「おいおい、俺が世話かける側かよ」
「お任せください。責任持ってお世話しますので」
「おい」
レセルドがいるなら大丈夫だ。幼い頃からヴァルグに憧れ、ひっつき虫のように後ろをついて歩いていた彼になら任せられる。
手を振った直後、目の前で起こった風とともに二人は一瞬で姿を消した。
この瞬間、彼らはエルヴァング内に立っているのだろう。
これからレアナやタウロスたちと対峙するのかはわからないが、アストリッドにできるのは今より少しでもマシになるよう祈ることだけ。
「イヴァ、あなたは帰らなくていいの? ご両親が心配するんじゃない?」
「私、両親よりアストリッド様が大事なんです。なので、帰りません」
「イヴァ……」
少し落ち着いた声にイヴァが眉を下げる。
「アストリッド様が投獄されてすぐ、一度、お城を抜け出して家族に会いに行ったんです。色々話して思ったのは、ああ、この人たちはダメだってことだけでした」
詳しく話すようなことではないと内容は省略し、結果だけを告げたイヴァをアストリッドはもう一度抱きしめた。
タウロスは神官として上手く生きていた。崇拝者が出るほどに。きっと、彼女の両親もそうだったのだろう。
だが、それは責めるべきことではない。自由であり、仕方のないこと。
タウロスよりも信頼される王妃になれなかった自分にも責任があるとアストリッドは思っている。
「ごめんなさいね、イヴァ」
アストリッドの謝罪にガバッと身体を離したイヴァが思いきり頬を膨らませる。
「まーた謝る! ありがとうが良いですって何百回も言ってるのに! あ、でもこれは私の問題なのでありがとうはいらないですし、ごめんなさいもいらないんです」
膨らんだ頬からブブブブブと音を立てて空気を抜く子供っぽい仕草にアストリッドが笑うとイヴァも同じように笑う。
「イヴァ、これから進む方へのあなたの意見を聞かせてくれる?」
「私はラフナディールに行くのをおすすめします」
まさかの即答に目を瞬かせているとザファルたちが坂を上がってくるのが見えた。
「どこかで家を借りるにもお金もないですし、ここら一帯ではアストリッド様の顔は広く知られています。処刑の話が広がっていれば身の危険を感じることが起こるかもしれません。冤罪であることを知っているのはエルヴァングの民だけですし。それなら衣食住と身辺の保証付きであるラフナディールに行って豪遊三昧がいいんじゃないかなって思います」
「イヴァったら……」
冗談混じりにザファルたちに聞こえるように言ったイヴァを誰一人怪訝な表情を見せることはしなかった。
黒馬を引きながら寄ってきたザファルを見上げ、会釈をする。
「あなたがラフナディールに来てくれると言うのなら、私は全力であなたを守ろう」
「私も、ですよ?」
「ああ、そなたのことも守ろう」
「えっへへっ! 私とアストリッド様は二人で一人なんですから!」
イヴァの言うことは正しく、イヴァはアストリッドの精神安定剤であり、ザファルもそれは理解してる。
「もし、あなたがラフナディールには行かないと言うのであれば、あなたがこれから暮らしていくために必要な資金だけ渡そう」
「そういうわけにはいきません。施しなど……」
ラフナディールに行くことが最善だと思っているイヴァもダメだとかぶりを振る。
「あなたを救うことが私の使命だ」
「フィルングからの願いはもう果たされました。ですから、どうか深くお気になさらず──」
「まだだ」
静かだが、どこか強い意思を感じるような言い方をしたザファルの金の瞳がアストリッドを捉える。
「あなたを幸せにすること──それが彼に託された最初にして最後の最大の願い。それを破るわけにはいかない」
フィルングは何故彼をそこまで信頼していたのか、アストリッドにはわからない。
国同士の交流があったわけではない。あくまでも個人間での交流だ。その中で彼はまるでフィルングを崇拝していたかのように約束を守ろうとしている。
『彼はとても面白い人間でね、私は彼に非常に興味がある。何時間話していても時間が足りないと感じる相手は君以外では初めてだ』
とても楽しそうに語るものだから、微笑ましく思いながらも少し嫉妬する部分もあった。
「だが、ヴァルグ殿が言ったように、あなたに決めてほしい。私やフィルング、イヴァの願いではなく、あなたの意思で」
風の力はとても便利だ。攻防に優れていて、なんでもできる。
しかし、お金までは運んできてくれない。新しい地で一から始めるにはイヴァに寄りかかりすぎることになる。
自分が何もできない人間であることを自覚した上で選択しなければならないと、それもフィルングが残した言葉とともに強く焼きついている。
「よろしくお願いします」
頭を下げたアストリッドの選択にザファルは小さく安堵の息を吐き出した。
どこからか吹いた風が髪を靡かせる。鈴のような風鳴りが──ピィン、と谷を横切り、それはまるで祝福の風のようで、優しく頭を撫でられているようでもあった。
15
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
婚約破棄されたので、自由に生きたら王太子が失脚しましたあ
鍛高譚
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢 ロザリー・フォン・アーデン は、王太子 エドワード・カミル・レグノード の婚約者として誰もが認める完璧な貴族令嬢だった。
しかしある日、王太子は突如 “聖女” を名乗る平民の少女 セシリア・ブランシュ に夢中になり、ロザリーに無情な婚約破棄を言い渡す。
「これは神の導きだ! 私の本当の運命の相手はセシリアなんだ!」
「ロザリー様、あなたは王太子妃にふさわしくありませんわ」
──ふたりの言葉を前に、ロザリーは静かに微笑んだ。
「……そうですか。では、私も自由に生きさせていただきますわね?」
だが、これがロザリーの “ざまぁ” 逆転劇の幕開けだった!
神託と称して王太子を操る “聖女” の正体は、なんと偽者!?
さらに王室財政を私物化する 汚職貴族との黒い繋がり も発覚!?
次々と暴かれる陰謀の数々に、王宮は大混乱。
そして、すべての証拠が王の手に渡ったとき──王太子 エドワードは王太子の地位を剥奪され、偽の聖女と共に国外追放 となる!
「ロザリー様を捨てた王太子は大馬鹿者だ!」
「やっぱり王妃にふさわしかったのはロザリー様だったのよ!」
社交界ではロザリーへの称賛が止まらない。
そしてそんな彼女のもとに、なんと隣国の 若き王クラウス・アレクサンドル から正式な求婚が──!?
「私はあなたの聡明さと誇り高き心に惹かれました。私の王妃になっていただけませんか?」
かつての婚約破棄が嘘のように、今度は 本物の愛と自由を手にするチャンス が巡ってくる。
しかし、ロザリーはすぐに頷かない。
「私はもう、誰かに振り回されるだけの人生は選びません」
王妃となる道を選ぶのか、それとも公爵家の令嬢として新たな未来を切り開くのか──?
引きこもり聖女は祈らない
鷹 綾
恋愛
内容紹介
聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。
人と話すことができず、部屋から出ることもできず、
彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。
「西の街道でがけ崩れが起きます」
「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」
祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。
その存在は次第に「役立たず」と見なされ、
王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。
──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。
天候不順、嵐、洪水、冷害。
新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。
誰もが気づかぬまま、
「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。
扉の向こうで静かに生きる少女と、
毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。
失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。
これは、
祈らない聖女が選んだ、
誰にも支配されない静かな結末の物語。
『引きこもり聖女は祈らない』
ざまぁは声高でなく、
救いは奇跡ではなく、
その扉の向こうに、確かにあった。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
婚約破棄されました(効率の悪い労働でした) ― 働いてない? 舞踏会は、充分重労働ですわ! ―
ふわふわ
恋愛
「働いていない?――いいえ、舞踏会も社交も重労働ですわ!」
前世で“働きすぎて壊れた”記憶を持ったまま、
異世界の公爵令嬢ルナ・ルクスとして転生したヒロイン。
生まれながらにして働く必要のない身分。
理想のスローライフが始まる――はずだった。
しかし現実は、
舞踏会、社交、芸術鑑賞、気配り、微笑み、評価、期待。
貴族社会は、想像以上の超・ブラック企業だった。
「ノブレス・オブリージュ?
それ、長時間無償労働の言い換えですわよね?」
働かないために、あえて“何もしない”を選ぶルナ。
倹約を拒み、金を回し、
孤児院さえも「未来への投資」と割り切って運営する。
やがて王都は混乱し、
なぜか彼女の領地だけが安定していく――。
称賛され、基準にされ、
善意を押し付けられ、
正義を振りかざされ、
人格まで語られる。
それでもルナは、動かない。
「期待されなくなった瞬間が、いちばん自由ですわ」
誰とも戦わず、誰も論破せず、
ただ“巻き込まれない”ことを貫いた先に待つのは、
何も起きない、静かで満たされた日常。
これは――
世界を救わない。
誰かに尽くさない。
それでも確かに幸せな、
働かない公爵令嬢の勝利の物語。
「何も起きない毎日こそ、私が選び取った結末ですわ」
「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」
だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。
「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。
エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。
いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。
けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。
「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」
優しいだけじゃない。
安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。
安心できる人が、唯一の人になるまで。
甘く切ない幼馴染ラブストーリー。
【完結】これは紛うことなき政略結婚である
七瀬菜々
恋愛
没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。
金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。
互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。
アンリエッタはそう思っていた。
けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?
*この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。
ーーーーーーーーーー
*主要な登場人物*
○アンリエッタ・ペリゴール
いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。
○クロード・ウェルズリー
一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。
○ニコル
アンリエッタの侍女。
アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。
○ミゲル
クロードの秘書。
優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる