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5、俺は罪深いことをしている【セオドア視点】
しおりを挟むなんということだろう。
寄りにもよって、使用人の娘に目を奪われてしまうとは。
セオドアはあのときあの庭で出会った女のことが忘れられずにいた。
古い衣服を身につけ、まったく着飾ってもいないのに、内面からあふれ出るオーラに圧倒された。
彼女が使用人なのか?
あれはどう見ても貴族の娘だ。
貧相な格好をしても、本物の貴族なら内面から滲み出るオーラを隠すことはできない。
もしや、どこかの令嬢なのかもしれない。
理由があって使用人をしなければならないとか。
そういう話はいくつか聞いたことがある。
没落した貴族が平民になっても、やはり貴族の頃の面影があるというものだ。
いや、しかし問題はそこではない。
「ああ、俺はなんということを……」
自分からフローラに求婚をしておきながら、別の女に心を奪われてしまったようだ。
「まさか、俺が……」
少し前、友人のひとりが平民の女に惚れ込み、貴族の娘と婚約破棄をしたという話を聞いたばかりだ。
それを知ったとき、他の友人たちと「あいつはおかしい。あり得ない」と話した。
婚約者を捨てて平民の女と一緒になった友人は「僕は真実の愛を見つけた」と話していた。
何が真実の愛だ?
あいつは頭がおかしくなったに違いない。
などと話していたものだ。
「俺も頭がおかしくなったのか……」
忘れようとしても思い出す。
あの女の顔を。
なぜか、酷く懐かしい気持ちになった。
そして、愛おしく感じた。
これが真実の愛なのか?
だとしても、それでフローラと婚約破棄などできない。
これから何度かフローラに会いに行くことになるだろう。
なるべく、あの使用人とは目を合わせないようにしよう。
時間が、忘れさせてくれる。
そう思っていた。
――セオドア、早く――
誰だろう、この声は。
懐かしい女の子の声。
そうだ。この可愛らしい声は、フローラ。
――ふふっ、怖がりなの? 大丈夫よ。私が手を引っ張ってあげる――
手を伸ばすとその先に、白く小さな手があった。
セオドアがその手を握ると、しっかり握りしめられた。
――ほら、もう少しよ。頑張って――
あれは、そうだ。
木登りをしていたのだ。
確か、木の上でお菓子を食べていたフローラを見て、可愛らしくて天使のように見えたのだった。
女の子がどうやって木登りをしたのか不思議だった。
「危ないよ」と声をかけた。
しかし、フローラは笑顔で「平気よ。慣れているから」と答えた。
セオドアは木登りが苦手だった。
しかし、フローラのとなりに座りたいと思った。
――そうよ、そこに足をかけて。滑らないでね――
フローラに手を引っ張られ、登りきると目の前に彼女がいた。
美しい金髪に、麗しい碧眼。
ひとめで恋に落ちた。
一緒にお菓子を食べて、たくさん話をした。
フローラは木登りをするような子だが、言葉遣いはきちんとしており、教養もあった。
書物もよく読むらしく、多くの知識を持っていた。
セオドアは思わず求婚したのだった。
そうしたら、フローラは驚いたが、笑顔で答えた。
――嬉しいわ。約束ね。私たち、大人になったら結婚しましょう――
フローラ……。
好きだ。
あの頃からずっと、君のことを忘れたことは一度もない。
君にもう一度会う日まで、しっかり教養を身につけ、誰が見ても恥ずかしくないほど立派な男になって君を迎えに行く。
そう、心に誓って生きてきた。
それなのに……。
セオドアの脳裏に使用人の女の顔が浮かび、彼は軽い悲鳴を上げて飛び起きた。
まだ夜も明けない。
静かな寝室で、彼は荒い呼吸を整えながら苦悩した。
「くそ……俺は最低な男だ!」
セオドアは自分を責め続け、ついに他人の力を借りることにした。
彼の友人に魔法師がいる。
もしかしたら、この煩悩を消し去ってくれる術があるかもしれない。
セオドアは彼にこのことを相談することにした。
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