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13、やられたことはきっちりやり返す
しおりを挟むそれから数日が経ち、以前とはまるで違う別人のようなフローラに、周囲の使用人たちは徐々に態度が変わり始めた。何かを悟ったのか、使用人たちはフローラに冷たく接することがなくなった。
だが、先輩使用人だけは怒りに満ちていたようだ。
「マギーはどこ? 昼食に使うじゃがいもに皮がついていたわ。きちんと剥いていなかったのよ。お仕置きをしなきゃいけないわね」
最近の異様なくらいのフローラに執着する先輩使用人に対し、周囲は怪訝に思っていた。
そもそもフローラは昨夜、一晩で裁縫を仕上げるように言われ、徹夜していたのだ。
「いくら何でも八つ当たりが過ぎないかしら?」
と周囲がひそひそ言う仲、ひとりの使用人が陰からこっそりと言った。
「マギーなら外の水路でさぼっていましたわ」
先輩使用人は怒りに満ちた形相ですぐさま水路へ向かった。
高い柵に沿って薔薇の花が植えられ、屋敷が覆われている。庭の手入れが行き届いていないせいか、雑草が生え伸びている。その柵の外側に水路がある。
屋敷の背後には森があり、人通りの少ない場所である。
フローラはフードを被ってそこにいた。
先輩使用人はにやりと笑うと、フローラを背後から突き飛ばし、水路に落下させた。
「きゃああっ! 何をするの? 誰か、助けてえっ!」
水路に落ちたのはフローラではなくマギー、つまり今の令嬢である偽フローラのほうだった。
先輩使用人は驚愕し、その場を動けなくなった。
だが、助けを呼びに行くと自分が突き落としたことがバレてしまう。
先輩使用人は何とか誰にも悟られないように隠れようとした。
しかし、フローラはそうなることがわかっていて、彼女のあとを尾行していた。
「まあ、先輩! なんということですか?」
とフローラはわざと大声で叫んだ。
すると、前もって知らせておいた侍従や使用人たちが集まってきた。
「は、早くお嬢さまをお助けしろ!」
「そこの使用人を捕らえろ! お嬢さまを殺そうとした奴だ!」
先輩使用人は捕らえられたが、必死に抵抗した。
「違うわ! 人違いなの。まさか、お嬢さまだとは思わなかったのよ!」
「誰を突き落とすつもりだったんだ? 間違いだとしても許されることではないぞ」
徹底的に責められる先輩を、フローラは他の者たちに紛れて見つめた。
すべて、フローラが仕組んだこと。
実はマギーが隠れて違法煙草を吸っていることを知っていた。
マギーは森に覆われた屋敷の外の水路で、自分だとバレないように毎日フードを被ってこっそり吸っていたのである。
マギーとフローラは髪と瞳の色が同じ。
先輩使用人はマギーをフローラと勘違いしたのだろう。
彼女ならマギーに必ず嫌がらせをするだろうと思っていた。
それを利用したのだった。
先輩使用人は持ち金すべてを没収され、ぼろ衣を着せられて屋敷を追い出された。
本来であれば令嬢殺害未遂で逮捕される案件だろうが、伯爵がそれを揉み消したのだった。
使用人を差し出せば、娘である令嬢が違法煙草を吸っていたこともバレる。
そうなると公爵家との婚姻が破談になる。
それだけは避けたかったのだろう。
まずは、先輩を着の身着のままで追い出せた。
邪魔者がいなくなったので、これで動きやすくなる。
本当はもっと痛めつけたかった。
フローラがされたことに比べたら軽いものだ。
しかし、先輩など雑魚に過ぎないから。
これでいい。
本当の相手はあなたよ、マギー。
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