王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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寮の二十階というのには、二日目とはいえ全然慣れない。暮らしのスペースが広くなったのは普通にラッキーなのだが、元々十三階の1LDKを持て余していたのだからさして変わらない気がする。

ちん、と軽い音を立ててエレベーターが最上階の合図を送ってきた。

「どうも」
「ども~……」

今すれ違った人風紀委員長じゃなかった!?!?!?!?!? 思わず後ろをガン見するが、エレベーターはもういってしまった。仕事の早い機械である。これは俺の仕事が奪われる日も近いってね!

「ひょえー……やっぱ二十階って凄……」

武藤様以外は皆二人一部屋のはずだから、あのクラスの学校の有名人があと三人もいることになる。誰だろうか。こわ。俺邪魔すぎ。

「まぁ全然使うけど。たっだいま~!」

武藤様のいる部屋である。帰らないわけがない。寝泊まりしてた旧校舎はこの間暖房が壊れたし。

我が家(我が家!)の扉を開けると、リビングの方からいい匂いが漂ってきた。ダイニングキッチンだし誰かが料理でもしているのだろう。

「はぁ~疲れた疲れた。会長さま~? 帰ってきてたんだぁ」

知ってるくせに白々しくリビングに足を踏み入れると、なんかよくわかんないけど多分オリーブオイルとかのいい匂いがする。
テーブルの上には一人分、おしゃれそうな料理。アヒージョみたいな名前だった気がする。
お手伝いさんはいない。まさか。

「え、おいしそ! 会長さまがつくったの~?」

キッチンの方を振り向くと、武藤様が麗しい御尊顔を苦々しく歪めていた。えっなに!? 何かやらかした、俺!?

「……チッ。帰ってくるのかよ」
「俺の家ですけど……」
「お前の分はねぇ」
「あったらびっくりするけど……?」

そういえば同居における決まりごとみたいなのを作ってなかった気がする。別にこだわりとかないなら各々使ったら片すとかでいいと思うけど。

「会長さま、料理うまいね~。趣味なの?」

武藤様ファンクラブの会報には載ってなかったはずだが。趣味が料理、カッコ良すぎる。

「普通だろ」
「普通なの!?!?!?!?!?」

武藤様の眉間にさらに皺がよる。俺の声がデカすぎたのだ。申し訳ない。えっ普通なん? 帰ったらアヒージョとか作れてるのが普通なん? オリーブオイルクソ高いのに? でも武藤様の言うことに間違いはないしな……

「普通なんだぁ……へぇ、凄いね会長さまは……」
「上手くもねぇ皮肉言う暇あったら姿消せ」
「酷くなぁい!? あたり強! 俺なんかした!?」

武藤様がさらに眉間に皺を寄せ、鉄鍋を洗っているとは思えない顔をしている。親の仇の死体でも洗ってるみたいだ。え、俺そんな何かやらかしてる? 全然覚え無

──“ちなみに高校生活の醍醐味と言われている二年生の修学旅行だが、チャラ男の仮面を被りまくり明らかに引かれ嫌われるなど”──

ある~~~~。終わりです。

「……ま! せっかく同居生活なんだし、仲良くしよ~? 表面上でいいからさぁ」

コミュ障の一番苦手な言葉、表面上は仲良くするである。俺は一度優しくされたらずっと好きだ。ずっと仲良くなったと思ってる。心の中の優しくしてくれた人って枠にずっと入ってる。ぼっちなので。

だが武藤様はおそらくコミュ強。表面上は仲良くすると言うすべも心得ていることだろう。
表立って厳しくされたら俺のような心の弱い人間はすごく傷ついてもうなんか何もかも嫌になっちゃうから、お頼み申す。

「んでオレ様がお前に合わせてやんねぇといけないんだよ?」

道理である。何の反論もできない。

「ほら、オレが悲しいから?」
「勝手に悲しんでろ」
「ひどぉい!」

異議を申し立ててみるも、武藤様のような方が俺みたいな農民に目もくれるわけがなく。
仕方がない、俺も夕飯を作るか……

「ちょっとごめんねぇ」
「? んだよ……んだその芋」
「昨日のだけどぉ?」

冷蔵庫から芋を取り出し、武藤様の横でじゃっと水洗い。そのまま持参してきたラップに包む。

そしてレンジ。
まぁ七個くらい詰めれば入るだろ!

「朝から思ってたがな……ふかすなら四個までだ。壊してーのか?」
「えっ……でも詰めれば入、すみません……」

無理だった。
四個レンジに入れて出来上がるまで待つ。五分待ってまた取り出した頃には、武藤様はもう洗い終えてご飯を食べていた。

2回そういう動作を繰り返し、ラップを剥く。

「っぢ! あづ! はふ」

皮ごとかぶりつく。苦い、けどやはりうまい。さすが新じゃが。

ホクホクの中身を夢中になって貪れば、上顎が火傷して剥けた気配を感じる。食べ終わったらむいておこう。

「はふはふ、うまー!」
「芋そのまま……?」
「? なんかいったー? 会長さま」
「ンでもねぇ」

武藤様が何か言った気配を感じたのに聞き流してしまった。一生の不覚。
言っているうちにさっさと芋を食べ終わってしまう。どうやら俺は犬舌らしく、熱いものもパクパク食べれるのだ。熱いもんは熱いうちのがうまい!

「ごっそさまでした!」

ラップに手を合わせ、ゴミ袋に捨てる。皿はいらないのである。
さて、風呂にでも

「おい」

へ!?

「お前……芋だけか? 飯」
「え、うん……」
「……昨日もそれだろ」
「芋美味しいよ……?」

こちらに背を向けたまま、武藤様が質問してくる。昨日なこと覚えててくれたのかと喜ぶ前に怖いが先にくる圧だ。意図がわからず首を傾げながら答える。

「そォかよ」

興味なさげにそう吐き捨てられて、俺はますます首を傾げてしまった。
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