王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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「いやー! ほんまにご迷惑おかけしました! 大月獅童、復活です!」
「ウン、無事で良かったよ……」
「これゾウも昏倒するんだよな?」

放課後になると、グデンとしていたはずの獅童くんはケロッと復活してみせた。引き取らせにきた仁川先生曰く、今日一日は静かで助かったらしい。翌日の使用も検討されている。治外法権高校め。

しかし、流石に暴れすぎだ。
ぼーっとしてる状態で言っても仕方がないので言わなかったが、止めているだけのなんでもない相手にまで怪我を負わせるなんて。
旧校舎内に引っ込んで作業しようとする獅童くんを呼び止めた。

「大月くん」
「獅童です!」
「……

こいこいと手招きする。水瀬はそっと離れ、獅童くんは素直に近づいてきた。
その頬をペチン、と挟む。

「あのね、大月くん。君の性質は否定するつもりはないよ。俺には素直な姿ばかり見せてくれるけど、少し荒々しいのが本質なんだろうね」
「……ハイ」
「でもね、集団生活を送るために、君はその本質を抑えなきゃいけない。わかる?」

多分、特殊な育ちなのだろうと思う。コミュ障アイは嫌われたくなくて相手をよく観察するので、獅童くんが普通とはまるきりちがった常識で育ったのは察している。
今も納得した顔をしながら不満そうにしているのも、育ちによるところだろう。

けれどそれは、集団に対して通用はしない。

「例えば俺が……誰かに、育ててた花を踏み潰されたとする。その誰かは急いでて、花は踏み潰すもので当たり前だとする。俺は諦めなきゃいけないかな?」
「そっ、そんなんダメや! そんな奴、俺がぶん殴って……」
「暴力を振るって勝てなかったら? 君を呼べる状況でなかったら?」
「……でも!」
「落ち着きなー」

ほっぺをもちもちと揉む。無理やり口をつぐまされた獅童くんはしかし、一生懸命何かを考えている様子だった。

「それをね、守るのが集団のルールなんだ。誰かの大切なものを無碍にしてはいけない、だから自分の大切なものも守られる」

俺は自業自得という響きより、悪因悪果とか因果応報とかの方が好きだ。
悪い要因があれば悪い実がなる。本当に農家かは怪しいが、植物をよく知る獅童くんならよく分かるだろう。

「君が強いとか、そういうのは関係ない。ルールを守っている他者を傷つける事は、いつか君が守りきれない何かをひどく傷つけることになる。そして俺は、ルールを守る他者が傷つくのも見過ごせないよ」

要するにそういうことである。
俺は悪いことをしてない人が傷付くのが好きではないし、甘ったれた理想論なのはよくわかっているが、手が届くならどうにかしようとしてしまう。

「……君からしたら甘ったれた話だね。失望した?」

獅童くんは慌てて首を振った。俺がほっぺを挟んでいるので動きにくそうである。手を離してやっても、距離が近いまま動こうとしない。何か思うところがあるのだろう。

「俺こそ……すんません。都会もんに負けちゃいかんと思っとって……」
「うん、不安だったんだね。でも、こっちで出来た友達や、気にかけてくれる人は大切にしな」
「……はい」

獅童くんからすれば、慌てているうちに知らない場所に放り込まれた感じなのだろう。それこそ野生動物のように周囲を警戒しても仕方がない。

元々人たらしの才能はあるのだ。
今日グデンとしていた獅童くんを世話してた俺の親衛隊の子も、仕方ないなと怒りながら少し楽しそうだったし。

「怒っちゃってごめんね、! とはいえ俺も君の意思を強制するつもりはオワワワワワ」

名前を読んだ瞬間、びんぞこ眼鏡からボロ、と大粒の雫が溢れ出る。えっ泣これ俺のせい、だよねごめんほんと怖かったよね!?

「ご、ごめっ、怖かったよね~大丈夫!? もう怒ってないよ~怖くないよ~!!」
「違うくて、すんませ、自分が情けのうて俺」
「いやいや! そりゃそうだよ、俺先輩なんだもん。怖いよ怒られたら! 前言撤回するつもりはないけどもっと言い方あったね、ごめん~!!」

離れてた水瀬がウワ、みたいな顔をする。やめろ。遠くからなーかせた、みたいなヤジを送るな。せーんせーにいってやろじゃない。俺が自首します。
アワアワしていると、獅童くんが俺の膝上に乗り上げきゅむ、と丸まった。

「ちょい失礼します」
「そんな冷静な感じでする行動!?!?」

ただでさえ小柄な獅童くんが縮まっていると、なんだか本当に小型犬のように見えてくるから不思議だ。
膝の上で胸元に顔を埋めて丸まられると、こうなんだろう。母性? 母性なのかな? 母性湧いたら終わりな気がするから庇護欲でいいか。庇護欲が湧いてくる。

「え、なんでそんなおもろいことなった?」
「水瀬! いや俺もわからんけど……」
「オッ坊ちゃんがめちゃくちゃ睨んできてる。眼光するど。その眼鏡から放てる殺気ではないだろ」

目が見えないのに眼光とは。と思ったがなんとなく分かる。放たれる殺気が存在しない目の色を錯覚させてくる。
隣に座った水瀬に助けを求めるも、水瀬は獅童くんに触るつもりがないらしい。

「……ま、一応植物の世話しといてやるから。坊ちゃんの気が済むまで抱っこちゃんしてやったら?」
「抱っこちゃんて……」

肌寒いからか、獅童くんの子供体温がぬくぬくと体を温める。眠たくなってきた。

「寝るなよ」
「あ、ハイ」

ダメらしい。背中をぽんぽんと叩いていると、胸元から寝息が聞こえてきた。本当に何がしたいんだ……

(人肌恋しいのかな)

よく考えると、ずっと家族と一緒だったのから急に引き離されて慌てて上京してきたのだ。気を張り続けてホームシックとかになるのも仕方ない。

安らかな寝息を立てる獅童くんをあやしながら、俺は和やかな夕方の木漏れ日に目を細め、あくびを一つこぼした。
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