王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
77 / 201
密着! 夏休み旅行!

1

しおりを挟む
もうすぐ夏休みね、とひまりさんがいつもの和やかな声で告げる。我らがバイト先、喫茶アネラは七月に突入していた。

「夏休み……」
「あら、宗介くんはイヤ?」

クーラーの効いた室内で空いたテーブルを片付けつつ反応した俺に、カウンターにいたひまりさんが可愛らしく首を傾げる。
新歓鬼ごっこから月日も経ち、もうすっかりみんな早めの夏休み気分。外を歩けば汗がだくだくと溢れる時期だ。

「ちょっと……旅行の予定があって。しかも憂鬱な……」
「えーっ旅行! 夏休みに~!?」
「いいなー宗介。うち、そういう行事あんま無いから」
「本当に! 私立の名門校だってのに~? やんなっちゃうよ」

相変わらず喫茶店に入り浸っている花音さんと萌さんが口々にキャイキャイ盛り上がる。
そんなこと言われたって、私立白百合女学院は毎月立食パーティーをやってるじゃないか。

しかも敷地内には湖畔とボート、教会だってあるし、見た目の美しさと歴史の深さは王道高校と比べるべくもない。

「古いだけやって!」
「王道高校は新し~じゃん、色々。教会なんて冷暖房ないんだよ」

庭園作りを趣味とするものとしては、一度は私立白百合女学院を見学してみたいと願うものだが……やっぱ無いものねだりになりがちよな、人間。

午睡の夢みたいなこの喫茶店は、今日も時間がゆっくりと流れている。いつも通り日の当たる席に座っている花音さんたちに、今日はアイスとクリームソーダの提供である。

「えっ! このアイスやば! アイスキャンディーにクマの耳ついてる! 中のオレンジこれ何~!?」
「クリームソーダのクリームの部分、クマちゃんの顔……なにこれかわい。ひまさんのセンスじゃないよね」

デコったスマホで写真を撮る萌さんと、思い至らず食べ始めてうまーと無邪気な笑顔を見せる花音さん。多分後で写真撮ってないと嘆くんだろうが、さっき萌さんが撮ってたからまぁ大丈夫だろう。

──そう。喫茶アネラ、夏季限定新メニュー。

「『ふろぉずん⭐︎くまちゃんキャンディ』と『きゅんきゅんめろんそーだ』になりまーす」
「なんその名前!!」

めちゃくちゃ恥ずかしい名前の氷菓子である。とても男子高校生が口にして良い名前とは思えない。でもメニュー表に載っちゃったので。

「てか今まで名前あったっけ」
「なかった。なんかその場で出てくるやつテンションで呼んでたくねー?」

それはそう。賄いにしようとしてたレトルトカレーとか出してるしな……。

「一応メニュー表には名前ありますよ。別に特殊な名前とかでは無いですけど」
「うん、ここアボガドサラダもトマトサラダもサラダ1とサラダ2で呼び分けてんもんね」
「原材料が名前の下に書かれてるところだけが愛嬌だったんに!! どしたの急に~!!」

散々な言われようである。俺は結構良いと思うんだけどな、ひまりさんのホワホワした実直さが現れてて……あんな可愛らしい顔してるのに結構豪快なところもいいよな。

「飲兵衛さんにも好評でしたし、恒常メニューの開発も視野に入れてるらしいですね」
って……っぱひまさんの意向じゃなくて?」
「……まぁ。それなんですが──」
「わしじゃ!」
「うわっ!?」「きゃっ!」

にょんっ! と勢いよく姿を見せたのは、エプロン姿に後ろ髪をまとめたイブキだった。さっきまで被っていた髪を落とさないための保護帽とビニール手袋は、ちょうど休憩に入るところなのか外している。

「かっかっか! 驚いたか。ちっくと前から厨房に入っちょったがじゃ!」

そう、喫茶アネラの唐突な“カワイイ”化。
それは全て、旧校舎の提供に感謝しているらしいイブキが従業員になり、意外な才能を発揮してのものだった。

イブキには良くない思い出しかないゆえにか、萌さんは警戒したようにイブキを睨みつける。花音さんはイケメンだと喜んでいるが。この人はフィーリングで生きてるから。

「そう警戒せんでえい。もうわしはこん人のもんじゃき。身も心捧げちょる」
「えっ」「え!!!!」
「言い方! まったく、誤解ですよ。ちょっと喧嘩して俺が勝っただけ! それも内容、殴り合いとかじゃないし……」
「うわそれ体育祭? 聞いてないんだけど」
「はぁ! もったいない! 今世紀最大の男前やったっちゅーに」

体育祭のことに関してはあまり話していない。確かに誰かに自慢はしたいし頑張ったが、花音さんたちのように同校以外にイブキガウンチャラと言っても知らんゲームの攻略みたいに訳の分からんことだろうし。

「うっそ、そーちんが男前とか思ったことなーい!!」
「気になってきたな。誰か撮ってないか聞いてみたろ」
「やーめーて。なんか意地でも知られたくなくなってきたぞ」

全くイブキはトラブルメーカーである。さっさと厨房に帰らせて、自分もカウンターの方に戻る。

カウンターではコーヒーを淹れていたこうちゃんがこいこいと手招きしてくる。

「一杯」
「くれんの? ラッキー!」

こうちゃんも懸念がなくなったからかなんなのか、最近はよく笑うようになっている。親衛隊が大変なことになっていた。

そういう訳で、新進気鋭の凝り性バイトがアネラには来たわけだが──実はもう一つ、俺には憂鬱なことがあった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...