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密着! 夏休み旅行!
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もうすぐ夏休みね、とひまりさんがいつもの和やかな声で告げる。我らがバイト先、喫茶アネラは七月に突入していた。
「夏休み……」
「あら、宗介くんはイヤ?」
クーラーの効いた室内で空いたテーブルを片付けつつ反応した俺に、カウンターにいたひまりさんが可愛らしく首を傾げる。
新歓鬼ごっこから月日も経ち、もうすっかりみんな早めの夏休み気分。外を歩けば汗がだくだくと溢れる時期だ。
「ちょっと……旅行の予定があって。しかも憂鬱な……」
「えーっ旅行! 夏休みに~!?」
「いいなー宗介。うち、そういう行事あんま無いから」
「本当に! 私立の名門校だってのに~? やんなっちゃうよ」
相変わらず喫茶店に入り浸っている花音さんと萌さんが口々にキャイキャイ盛り上がる。
そんなこと言われたって、私立白百合女学院は毎月立食パーティーをやってるじゃないか。
しかも敷地内には湖畔とボート、教会だってあるし、見た目の美しさと歴史の深さは王道高校と比べるべくもない。
「古いだけやって!」
「王道高校は新し~じゃん、色々。教会なんて冷暖房ないんだよ」
庭園作りを趣味とするものとしては、一度は私立白百合女学院を見学してみたいと願うものだが……やっぱ無いものねだりになりがちよな、人間。
午睡の夢みたいなこの喫茶店は、今日も時間がゆっくりと流れている。いつも通り日の当たる席に座っている花音さんたちに、今日はアイスとクリームソーダの提供である。
「えっ! このアイスやば! アイスキャンディーにクマの耳ついてる! 中のオレンジこれ何~!?」
「クリームソーダのクリームの部分、クマちゃんの顔……なにこれかわい。ひまさんのセンスじゃないよね」
デコったスマホで写真を撮る萌さんと、思い至らず食べ始めてうまーと無邪気な笑顔を見せる花音さん。多分後で写真撮ってないと嘆くんだろうが、さっき萌さんが撮ってたからまぁ大丈夫だろう。
──そう。喫茶アネラ、夏季限定新メニュー。
「『ふろぉずん⭐︎くまちゃんキャンディ』と『きゅんきゅんめろんそーだ』になりまーす」
「なんその名前!!」
めちゃくちゃ恥ずかしい名前の氷菓子である。とても男子高校生が口にして良い名前とは思えない。でもメニュー表に載っちゃったので。
「てか今まで名前あったっけ」
「なかった。なんかその場で出てくるやつテンションで呼んでたくねー?」
それはそう。賄いにしようとしてたレトルトカレーとか出してるしな……。
「一応メニュー表には名前ありますよ。別に特殊な名前とかでは無いですけど」
「うん、ここアボガドサラダもトマトサラダもサラダ1とサラダ2で呼び分けてんもんね」
「原材料が名前の下に書かれてるところだけが愛嬌だったんに!! どしたの急に~!!」
散々な言われようである。俺は結構良いと思うんだけどな、ひまりさんのホワホワした実直さが現れてて……あんな可愛らしい顔してるのに結構豪快なところもいいよな。
「飲兵衛さんにも好評でしたし、恒常メニューの開発も視野に入れてるらしいですね」
「らしいって……っぱひまさんの意向じゃなくて?」
「……まぁ。それなんですが──」
「わしじゃ!」
「うわっ!?」「きゃっ!」
にょんっ! と勢いよく姿を見せたのは、エプロン姿に後ろ髪をまとめたイブキだった。さっきまで被っていた髪を落とさないための保護帽とビニール手袋は、ちょうど休憩に入るところなのか外している。
「かっかっか! 驚いたか。ちっくと前から厨房に入っちょったがじゃ!」
そう、喫茶アネラの唐突な“カワイイ”化。
それは全て、旧校舎の提供に感謝しているらしいイブキが従業員になり、意外な才能を発揮してのものだった。
イブキには良くない思い出しかないゆえにか、萌さんは警戒したようにイブキを睨みつける。花音さんはイケメンだと喜んでいるが。この人はフィーリングで生きてるから。
「そう警戒せんでえい。もうわしはこん人のもんじゃき。身も心捧げちょる」
「えっ」「え!!!!」
「言い方! まったく、誤解ですよ。ちょっと喧嘩して俺が勝っただけ! それも内容、殴り合いとかじゃないし……」
「うわそれ体育祭? 聞いてないんだけど」
「はぁ! もったいない! 今世紀最大の男前やったっちゅーに」
体育祭のことに関してはあまり話していない。確かに誰かに自慢はしたいし頑張ったが、花音さんたちのように同校以外にイブキガウンチャラと言っても知らんゲームの攻略みたいに訳の分からんことだろうし。
「うっそ、そーちんが男前とか思ったことなーい!!」
「気になってきたな。誰か撮ってないか聞いてみたろ」
「やーめーて。なんか意地でも知られたくなくなってきたぞ」
全くイブキはトラブルメーカーである。さっさと厨房に帰らせて、自分もカウンターの方に戻る。
カウンターではコーヒーを淹れていたこうちゃんがこいこいと手招きしてくる。
「一杯」
「くれんの? ラッキー!」
こうちゃんも懸念がなくなったからかなんなのか、最近はよく笑うようになっている。親衛隊が大変なことになっていた。
そういう訳で、新進気鋭の凝り性バイトがアネラには来たわけだが──実はもう一つ、俺には憂鬱なことがあった。
「夏休み……」
「あら、宗介くんはイヤ?」
クーラーの効いた室内で空いたテーブルを片付けつつ反応した俺に、カウンターにいたひまりさんが可愛らしく首を傾げる。
新歓鬼ごっこから月日も経ち、もうすっかりみんな早めの夏休み気分。外を歩けば汗がだくだくと溢れる時期だ。
「ちょっと……旅行の予定があって。しかも憂鬱な……」
「えーっ旅行! 夏休みに~!?」
「いいなー宗介。うち、そういう行事あんま無いから」
「本当に! 私立の名門校だってのに~? やんなっちゃうよ」
相変わらず喫茶店に入り浸っている花音さんと萌さんが口々にキャイキャイ盛り上がる。
そんなこと言われたって、私立白百合女学院は毎月立食パーティーをやってるじゃないか。
しかも敷地内には湖畔とボート、教会だってあるし、見た目の美しさと歴史の深さは王道高校と比べるべくもない。
「古いだけやって!」
「王道高校は新し~じゃん、色々。教会なんて冷暖房ないんだよ」
庭園作りを趣味とするものとしては、一度は私立白百合女学院を見学してみたいと願うものだが……やっぱ無いものねだりになりがちよな、人間。
午睡の夢みたいなこの喫茶店は、今日も時間がゆっくりと流れている。いつも通り日の当たる席に座っている花音さんたちに、今日はアイスとクリームソーダの提供である。
「えっ! このアイスやば! アイスキャンディーにクマの耳ついてる! 中のオレンジこれ何~!?」
「クリームソーダのクリームの部分、クマちゃんの顔……なにこれかわい。ひまさんのセンスじゃないよね」
デコったスマホで写真を撮る萌さんと、思い至らず食べ始めてうまーと無邪気な笑顔を見せる花音さん。多分後で写真撮ってないと嘆くんだろうが、さっき萌さんが撮ってたからまぁ大丈夫だろう。
──そう。喫茶アネラ、夏季限定新メニュー。
「『ふろぉずん⭐︎くまちゃんキャンディ』と『きゅんきゅんめろんそーだ』になりまーす」
「なんその名前!!」
めちゃくちゃ恥ずかしい名前の氷菓子である。とても男子高校生が口にして良い名前とは思えない。でもメニュー表に載っちゃったので。
「てか今まで名前あったっけ」
「なかった。なんかその場で出てくるやつテンションで呼んでたくねー?」
それはそう。賄いにしようとしてたレトルトカレーとか出してるしな……。
「一応メニュー表には名前ありますよ。別に特殊な名前とかでは無いですけど」
「うん、ここアボガドサラダもトマトサラダもサラダ1とサラダ2で呼び分けてんもんね」
「原材料が名前の下に書かれてるところだけが愛嬌だったんに!! どしたの急に~!!」
散々な言われようである。俺は結構良いと思うんだけどな、ひまりさんのホワホワした実直さが現れてて……あんな可愛らしい顔してるのに結構豪快なところもいいよな。
「飲兵衛さんにも好評でしたし、恒常メニューの開発も視野に入れてるらしいですね」
「らしいって……っぱひまさんの意向じゃなくて?」
「……まぁ。それなんですが──」
「わしじゃ!」
「うわっ!?」「きゃっ!」
にょんっ! と勢いよく姿を見せたのは、エプロン姿に後ろ髪をまとめたイブキだった。さっきまで被っていた髪を落とさないための保護帽とビニール手袋は、ちょうど休憩に入るところなのか外している。
「かっかっか! 驚いたか。ちっくと前から厨房に入っちょったがじゃ!」
そう、喫茶アネラの唐突な“カワイイ”化。
それは全て、旧校舎の提供に感謝しているらしいイブキが従業員になり、意外な才能を発揮してのものだった。
イブキには良くない思い出しかないゆえにか、萌さんは警戒したようにイブキを睨みつける。花音さんはイケメンだと喜んでいるが。この人はフィーリングで生きてるから。
「そう警戒せんでえい。もうわしはこん人のもんじゃき。身も心捧げちょる」
「えっ」「え!!!!」
「言い方! まったく、誤解ですよ。ちょっと喧嘩して俺が勝っただけ! それも内容、殴り合いとかじゃないし……」
「うわそれ体育祭? 聞いてないんだけど」
「はぁ! もったいない! 今世紀最大の男前やったっちゅーに」
体育祭のことに関してはあまり話していない。確かに誰かに自慢はしたいし頑張ったが、花音さんたちのように同校以外にイブキガウンチャラと言っても知らんゲームの攻略みたいに訳の分からんことだろうし。
「うっそ、そーちんが男前とか思ったことなーい!!」
「気になってきたな。誰か撮ってないか聞いてみたろ」
「やーめーて。なんか意地でも知られたくなくなってきたぞ」
全くイブキはトラブルメーカーである。さっさと厨房に帰らせて、自分もカウンターの方に戻る。
カウンターではコーヒーを淹れていたこうちゃんがこいこいと手招きしてくる。
「一杯」
「くれんの? ラッキー!」
こうちゃんも懸念がなくなったからかなんなのか、最近はよく笑うようになっている。親衛隊が大変なことになっていた。
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