王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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密着! 夏休み旅行!

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「僕も気になります! だって価値のわかってる高校生がただで手放すわけがありませんし……」

アニメのような状況に島田くんがキラキラと目を輝かせる。最近はこの子も生き生きとした顔をするようになった。
出会った当初、俺に体の関係を迫っていた時は熱に浮かされたような顔ばかりしていたので。

作り上げた偶像じゃなくて俺として見てもらえているような心地がして、こっちの方が嬉しい気がする。

「とぉぜん! ブイの恨みはブイで晴らす──それがブレーダーおれたちの流儀!」
「俺たちとか言っちゃった」
「兄貴、こういうの好きだったんだな」

東郷くんと市ヶ谷くんが呆れたような顔で立ち上がる俺を眺めているが、男はいくつになってもこういうのが大好きだ。

……えっ好きだよね? 俺まだ好きだしクルクルコミックは買ってるしホビーの怪物みたいになりがちなんだけど。

「師匠、急に立つな! 確かその高校生に勝負を挑んで勝ったんだろう?」
「勝負ッ? 兄貴の喧嘩か!?」
「喧嘩なんかしないよぉ~」

別に積極的に荒事に参加したいわけではない。何度も言うが俺は基本的にコミュ障だ。初対面がハイなだけのつまらない人間である、当時中学生なのだから、暴力なんて簡単に振るえない。

真道に注意されるがままに座り、くらっときた頭に水分補給。一応のぼせてはいるので。

「高校生が港の廃倉庫に溜まってたから、ブイで勝負挑んだんだよ~」
「は? 危な! なんしょんあんた弱いんやからすっこんどき!」

獅童くんの叫んだ通りである。俺も今となっては危ないなと思ったし、一人で行ったものだから暴力を振るわれれば勝ち目がなかったのだが……

夕方の廃倉庫、溜まり場になっていたそこに殴り込み相棒のブイを掲げ“勝負だ!”と叫んだ瞬間を思い出す。

「なんか状況が面白かったらしくて、ウキウキとそれぞれのブイを取り出したんだよねぇ」
「ホビアニかよ」
「ホビアニやんけ」
「田中先輩、初期の主人公を支えてくれる最初だけ強いポジションじゃないですか」

最初だけ強いとか言うな。ここで培った技が最終決戦で効いてきたらアツいだろうが。

とはいえ相手も歴戦のブレーダー。改造の度合いと使いこまれ、覚醒(使い込むことで形状が変わることだ!)し予測できない力を持つブイもあった。

ちなみに公式的に覚醒するブイと公式が想定していないが使い込むと動きが変わるブイがあるぞ! 今回はその後者である。

「スピンフィニッシュを狙ってたんだけど~先手を取られてねぇ~」
「スピンフィニッシュ? 何やそれ」
「僕が教えるよ! バトルの勝ち方には種類があってね、その種によって貰える点が違うんだ。スピンフィニッシュは一点。先に四点とった方が勝ちだよ」
「いよいよホビアニになってきたな」

三年組がすっかり興味をなくしており、ババ抜きから7並べに移行していた。確実にポーカーが似合う顔をしているのに誰もポーカーをしない。

「誰じゃハートの八止めた奴」
「俺じゃないぞ」
「急にカスの勝ち方をするじゃないですか真道くん」

真道って7並べで止めるタイプのやつなんだ。絶対やりたくないな。

──ともかく、『勝った方は負けた方のブイを全て没収する』というルールで高校生達を薙ぎ倒していき、ラスボスである限定ブイ“セレスティア”の使い手との対峙。

緊張の一瞬、激戦、ピンチと逆転。
そして認め合う実力──

「って流れかなぁ」
「ずっとホビアニなんよ、流れが」

ブイはちゃんとカンタに返しに行き、主犯はきちんと謝罪をしたのち自分のブイ道を極めると言ってこの街を出ていった。今はどこで何をしているのかはわからない。この町は結構そういう奴がいる。

「……っす、素晴らしいです!! 田中様がまさかそんなことをなされていたなんて!! ブイブレードへの熱意、実力……尊敬します、同じブレーダーとして!!」

え? へへ、そうかなぁ~そうかも。
キラキラとした目の島田くんに押され、思わずヘヘッと頭を掻く。中学の頃は誰と遊ぶのも億劫で、みつるの世話もあったし、他のみんなみたいに山を越えてゲーセンに行ったり遅くまで遊べなかった。

だからたまたま手に届く娯楽がブイだっただけなのだが、褒められるとつい頬が染まる。

「おや田中宗介くん、頬が赤いですよ。貴方にも褒められて照れる脳があったんですねぇ」
「ウワふくかいちょ~! なに、可愛くなっちゃった?」
「……」
「無言て」

そしてまた真道が何らかを止めたらしい。イブキの血管が切れる寸前である。あわや乱闘寸前だな、この二人最も相性が悪いかもしれん。

「田中先輩って案外チョロいんですね」
「チョロかお人や」
「ちょれぇな兄貴は……」

二年! こら! 目上だぞこっちは!!
褒められたと思ったが、俺が必要以上に喜んだからか東郷くん達が引いていた。島田くんはまだニコニコしていた。この場に俺の味方は島田くんだけだ、かなしいぜ……

と、こんなふうにカードゲームでひとしきり遊び、消灯時間間際になって六人はゾロゾロと帰っていった。各々修学旅行の夜──俺の修学旅行は失敗いっぱいだったので概念だ──みたいなノリである。

布団を近付けて、各々で布団を被る。
旅館の布団は昨日も思ったが柔らかく寝心地が良く、何だかすぐに眠りに誘われるような心地がした。

パチリ、と音がして電気が消える。辺りが真っ暗になって、さっきまでが嘘みたいな静けさが室内を包んだ。
今日は何だか青春みたいな日だった。

「……師匠、まだ起きているか」

顰めた声が、眠っていたら起こさないようにと耳をくすぐる。俺はもそもそと布団の端っこに移動して、同じく端っこにいた真道と少し動けば触れるくらいの距離感に寝転ぶ。

「起きてる」

潜める必要もないのに潜めた声が何だかおかしい。

「どうしたよ。寝れない?」
「いや、眠れる。静かだが虫の音が聞こえてきて、快適で、ふわふわしてる……」

ふわふわ。随分幼い言葉遣いだ。
でもわかるよ、俺も同じだ。あくびで眠気を逃がさないと、一瞬で寝落ちちゃいそうだ。

「……きょうはたのしかった」
「うん」
「おれは、風紀委員長だから……あまり皆と、遊べないけど……今日は、遊べたな」
「遊べたね」

くすくすと笑いを漏らせば、真道もまた密かにくふくふと笑った。小さい子供を相手にしている気分だ。違うな、俺も小さい子供になってる感じ。

どっちも幼くて、だから笑い合えてるんだと思う。
学校に戻って仕舞えば、問題児の田中宗介と厳格な風紀委員長なのだから。
それにしたっておかしいけれど。

「真道ってさぁ」
「ん」
「何で風紀委員長なの」

似合わないなぁ、と笑うと、少しだけ息を呑んだ音がして、そうか、とへにゃっとした声が聞こえてきた。

「あのな、師匠、ひみつだぞ」

耳元に頭が寄せられたので耳を貸してやった。

「俺も、にあわないとおもってた!」

それが何だかすごく嬉しそうなので、真意を聞きそびれる。聞きそびれた、というか。自分の言葉に同意してもらえて、それが嬉しくて、言葉以上のことを考えていなかったというか。

似合わないよ、似合わないよなと言い合って、どちらが返事を返さなくなったかは覚えていない。

気がつけば朝の光が少しだけ差し込んでいて、早朝の冷たい空気に部屋が染まっていた。

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