王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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監禁! 最後の文化祭

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喫茶アネラは今日も平和だ。相変わらず閑古鳥の鳴く午睡の夢みたいな場所に身を任せ、俺はカウンターでぐったりとうつ伏せていた。

「……おつかれ」
「こうちゃん……ハァ、ほんとに疲れた……」

ここ最近は昼休みになれば武藤様と付き合ってるということで色んな人にこねられ、ルール違反してテラスにいるからと嫌がらせが相次ぎ、自分のイメージを整えるのに苦労した。

文化祭が終われば卒業まっしぐらなんだから放っておいてほしい所存である。武藤様だって受験勉強とかするだろ。そんな毎日エピソードないって……

「おれは賛成してない」
「俺と武藤様じゃつりあわないって? なんてな……」
「そんなこと言ってない」

わかってるよこうちゃんはそんなこと言わないもんな。すっかり疲弊し切った俺を見かねたのか、こうちゃんがカフェオレを出してくれた。
あたたかなそれが食堂を通り、胃に落ちる。秋になるにつれ、少しずつ肌寒くなってきた。

こうちゃんも大柄な体にもこっとしたカーディガンを着込んでいて、俺もブレザーを羽織るようになった。カーディガンは寒いしブレザーを重ねると熱い上に動きにくいので、肌寒くなる頃はいつもこの格好にしている。

「会長は……すごい奴。宗ちゃんも、世界で一番かっこいい……」
「こうちゃんはやけに俺の好感度高いよな~」
「ほんとのこと」
「ありがとう~」

ムッとされてしまった。体育祭の一件かまた別の一件か、こうちゃんは俺への評価がやけに高い。過大評価じゃないかと思わんでもないが、俺よかこうちゃんの方が他人のことをよく見ているので否定もしにくい。

カウンターの端っこでは飲兵衛さんが飲んだくれていて、すっかり眠っている。酔っ払いの相手はあまりしたくないので眠れてるなら僥倖だ。

のんびりと笑っていれば、ガンッ!! と音がして肩が跳ねる。急になに!?!?

ビクッと跳ねた俺の隣にはカフェオレのおかわり。こうちゃんがコップを机に叩きつけた、のだと思う。脈絡が無さすぎる。

「……腹立つ」
「え?」
「宗ちゃんはおれのヒーローなのに」

雰囲気がガラリと変わった。
地の底から這うような声だった。

先ほどまで和やかで暖かだった店内は見る影もなく、周囲を見渡すのも許されないような緊張感の中でこうちゃんの瞳孔が暗い場所の猛獣みたいに爛々と光る。

「本気で付き合って、ないなら。会長じゃなくていい……宗ちゃんじゃなくていい。あそびなら、おれともして」
「こうちゃん……」
「宗ちゃんとの遊びは、おれのものだったのに」

ずるい、という言葉が怨嗟のように聞こえる。事実怨嗟なのだろう。鎖のように体に巻き付いて身動きが取れなくなって怖いのに、悲しい。武藤様を陥したくも、俺を傷つけたくもないのであろう言葉の選び方をするので。

本心のはずなのに決して本心ではないのだろうふうに、血を吐くように話すので。

純粋に悲しい、と思った。

「会長が、宗ちゃんのこと好きにならなかったらいい」

自分のエプロンを握りしめて俯くこうちゃんに、俺は二杯目のカフェラテに口をつけながら苦笑した。本人としてもこんな場所で言うつもりはなかったのだろう。

「あの人が俺のこと好きじゃなくても、俺はあの人が好きだからなぁ」

そして卒業すれば二度と関わりはしないのだろう。武藤瑛一という男に憧れて焦がされた人間として、枯れた人生でも送ってやるさ。

ここまで強い思いすら会わないうちに風化して、いつかただの思い出になって、それなりに幸せになるのかもしれない。
武藤様がいなかろうと幸せにはなる。それだけは諦めたくないので。

「消す気はない?」
「見せないし、渡さなければ、ちゃんと隠してれば無いのと一緒だ。あの人の負担にさえならなきゃいいんだから」
「……おれが言う」
「こうちゃんがァ? 嘘つけ! そんな酷いことできないくせに!」

そうやってカラカラと笑えば、じっとりと睨まれた。怖くなさすぎる。こうちゃんのこと、昔は怖かったけど今はそうでもない。意外と中身が素朴だからだろうか。なんか懐かしいんだよな。

「こうちゃんは優しい奴だよ。たまにびっくりするくらい不器用だけどな、美徳だと思う」
「……宗ちゃんの方が……」

ことりとコップを置いた。まろやかなミルクとコーヒーの深みがいい味を出している。
カウンター越し、こうちゃんを見上げて笑いかけると、目尻を赤く染めた彼が、大きな手のひらで俺の髪を一房掬った。

一瞬だけ触れ合った頬にチリッと痛みが走るよう。暑くて溶けてしまいそうだ。視線も、甘い声も胸焼けがする。

「宗ちゃん……おれ、」

カランコロン

「はぁーっちかれたーマジで話長いんよあの校長さぁ!」
「手短って言葉を知らないよね」

と、懐かしい声が聞こえてくる。何かを口にしかけたこうちゃんが俺の髪から手を離し、いらっしゃいませ、と声を上げる。

「あれっ宗ちん! おひさー!」
「なんだ最近見なかったぞサボりか~宗介」
「ワ絶対絡んでくると思ったお席あちらでーす!!」

百合学の中間服である赤いリボンに黒のジャンパースカート。それを各々着崩してやってきた二人に席を指し示す。

「……こうちゃん、何か言った?」

なんでもない顔をしようとしている友人に投げかければ一瞬体が硬直するのが見て取れた。

俺も耐えようもなく鈍感というわけではないので、流石に今の──熱のこもった触れ方をされて友情だけが俺たちの間にあるなんて勘違いはしない。

さっさと言ってしまった方がいい。叶わない想いは体を蝕む。俺なんかよりよほどいい人がいるだろう。
そうして当たり前に問いかけたものに、こうちゃんはまた後でも言わず、首を振った。

「…………なんでもない」

これから先に期待があるわけでもない、絶望的な声音をしながら、こうちゃんは手放す選択肢はとらなかった。
バカだなぁ、と思ってしまうが、それで言うなら俺だってバカなのだからまぁ、本人がなんでもないと言ったらなんでもないと信じてやらねばならないのだろう。

大人だからじゃない。好きな人当人にすら触れてほしくないものがあると知っているからだ。

「ま、思い出したら聞かせてよ」

テーブル席の方で楽しそうにこちらを呼んでいる花音さんたちに手を振りかえし、こうちゃんの頭を何度か撫でた。

「うん」

こうちゃんは眉を八の字に下げて笑う。なんだか見たことのある笑い方だと思った。

「振られる覚悟ができたら、聞く」
「それもうほぼ言ってんだよなぁ……」

指摘したら青ざめてしまったのでスルーしておくことにした。

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