悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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『君と待つ光』

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例えば、不死を求める理由は何があるだろうか?
死にたくない、当たり前だ。それなら死にたくない理由は? あの子に告白していないから、見たいアニメの続きが放映されるから、生きる事自体が楽しいから。いろんな死にたくない理由は存在していて、しかし寿命は人間へと平等に降りかかった。

かつては長命種を短命種が嫉み、そうなろうとあらゆる手を尽くしてきた。
マーメイドの血肉を貪りエルフを凌辱し生きることだけを目的に短命種はその豊かな発展と力で無理やり他者を虐げてきて。

その中で、さまざまな儀式が存在していた。平和的なものから残虐なものまで。ルールの制定されていなかったかつては、不死を求めるための凡ゆる残虐性が認められてきていたのだ。

この遺跡もまた、その一端だったのだろう。

「ここは儀式の場だ。中途半端に力のある魔法使いが実行したからか、半端に魔法がかけられている。セリオン、目が見えなくても解読できるだろう? 何が掛けられていると思う」
「…………ねぇ、冗談でしょ」

仮にウロボロスとする男の真ん中には、ある本が置かれている。
血に濡れた、何かの皮をなめして作ったのであろう本だった。本というか冊子と言ったほうが正しいか? 少なくとも、分厚い魔術書のようには思えない。

「ただの、時間停止魔法だよ」

セリオンの言葉は正しい。
この死体には──正確に言えば屍鬼アンデッドには、時間停止魔法が掛けられている。血肉を食って回復する屍鬼の性質と、永遠に朽ちない魔法は相性がいいらしい。
おぞましきは、屍鬼がと覚えるほどの時間、死ぬ前の彼が何をさせられていたか、という話だ。

「フン。くだらんな、この程度の儀式で真理をたばかるとは、片腹痛い」
「そうだな。少なくとも……この露悪的なもので、何かわかった気になる方がおかしいよ」

だがこの遺跡ができた古い時代はそれが正しかったのだろう。
不死を求め、その純粋な気持ちで気持ちの悪い遺跡を作り上げた。儀式を行い人の尊厳を最後まで破壊し礎にした。到底許されるべき所業ではない。
この場所は破壊しなければならない。存在するはずの真理も、何もかも、でたらめだ。

「おい、貴様起きろ。屍鬼なら屍鬼らしく──」

アバロンが無遠慮に男の方に触れる。その瞬間彼は目を見開き、暫く停止した。

「アバロン? っうわ!」

次の瞬間どろりと鼻から粘性のある血液が流れ出し、蛇を模した男の体に混ざり合った。
目が見開かれ、体は完全に静止し、明らかに尋常ではない様子だった。
吐き終えたらしいカデンが恐る恐る近付いてくる。溢れる死臭にまた顔色を悪くしているから、無理するなと宥めてセリオンと共に視界を塞いだ。

おそらく、今のアバロンは思考を停止している。正確に言えば脳がショートし、回復できなくなっているのだろう。

(知識を与える、賢者の石片に触れた時と同じだ)

等価交換を打ち壊す錬金術の異端。ヴラド先輩と共謀して選んだらしい場所のフィールドワークで見つけたものだったが、その時も襲いくる情報量に耐えきれず。

(結局……超回復を利用して持ち帰ったんだったか。普通の人間が触れると死ぬな)

カデンとセリオンを更に下がらせた。自分も本らしきものに触れないよう気をつけながら、アバロンを座らせて横たえた。

「ね、ねぇ。全然状況分かんないんだけど……どうしたの。急にその人、喋んなくなったけど」
「役に立てず、申し訳ありません……っゔ」
「吐くならその辺に吐いてていいぜ。ただ、こっちには近付くな。触れると無条件で死ぬ呪物だ」

軽く氷を生成し額に当ててやれば一瞬で溶けた。よくもまぁこの状態で生きているものである。半分人を辞めたマッドサイエンティストで助かった。
だが、これで迂闊に儀式の中断を行うわけにもいかなくなる。
前回ショートした時は回復に相当掛かった。
本に関しては……おそらくこれで発狂した人間が自らウロボロスを再現し始めたのだろう。たいてい、こういうものは製作者の利己的な感情が深く込められているものだから。

(その点、アバロンは心配要らない。死にかけてはいるが自力で解読しようとしているし、影響されずに解析できる能力がある)

何しろそもそもこいつには影響されるような可愛らしい心がないため。
不老不死は議題としてなら興味はあるが自分がなるのはごめんだと言い切る異端人間である。
さらに、認めたくはないが天才だ。どうしようもなく。こんな儀式に無闇に感化させられるやつではない。

「だが解析できたところで何だ……。知識は必要だが、力無くしちゃどうしようもない。何かこいつの受け皿になれる巨きな力があれば──」

ふと。
心臓が騒めいた。

気がついたときには、巨きな扉の前に立っている。
腹が疼く。何かがトグロを巻いている。それが全身に及び、蛇のような闇が、ぐるりぐるりと。

「……兄さん? 何を」

次の瞬間、俺は扉に触れていた。
古代より伝わる呪文を唄う。扉に歌詞が書かれていたから、とちらずに歌えた。

扉が開かれる。
大きな扉が、俺のためだけに。

何か恐ろしいものがポッカリと口を開けている。そんな予感がして、俺は歩みを進めた。

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