メイクオフ後も愛してくれよ

Q矢(Q.➽)

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後日談 昔の事 (前編)

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「あ、あの人。こないだ社内報で回ってきた…」

「あ、社長の…」

「一緒にいるの、誰?」

 その噂の主が通る度、ざわめく周囲の社員達。特に女性社員は目敏い。
 俺も気になって、PCから目を上げて皆の視線の先を見る。そこには想定していた通り、先日社内報で回ってきた人物の顔が。
 どうやら一昨年営業に配属された新入社員が実は社長の御曹司だったという事が判明して、一躍噂になったのだ。それで広報から正式に、社長の後継者として修行中だとの発表があった。
 元々入社した時から少し目立つ社員ではあって、あの時から女子人気は高かったみたいで数人の女子社員がアタックしては玉砕したんだとか。
『すいません。恋人がいるので』
そう言ってにべもなく振られたと、あざと猛禽で有名な春川という総務の女子社員が言っていたのを思い出す。春川さんといえば、俺が入社した時も告白してきて3ヶ月くらい付き合ったのに、
『君って、何か見た目ほど…』
なんて曖昧に苦笑いしながら別れを告げてきた女だ。
 後から知ったんだが、2年先輩の春川さんは歳上なのにめちゃくちゃロリ系で可愛い顔をしているが、新人喰いで有名だったらしい。俺と付き合ってる間も別に2人と付き合っていたらしく、つまり3股かけられてたって事になる。まあ、社会人になって間もない頃にちょっと可愛い歳上の女子社員に迫られて浮かれた俺が悪いんだけどさ。そんな春川さんに迫られても笑顔でノーサンキューだったって言うから大物ルーキーが現れたなと思った記憶があるけど、振られた事が無いらしい春川さんは一時期かなり新人君の事を悪し様に言ってた。俺は春川ざまぁと思ったんだけどな。そんでこないだの社内報だ。春川さん、真っ青な顔して、悔しそうでもあって、ざまぁと思ったのは俺だけじゃない筈。

 そんな、現在社内トレンドランキング1位の新人君改め御曹司様は、今や社の廊下を歩いているだけでも噂の的なのだが…。その彼が、今日は見慣れない男性を伴って歩いていた。
 すらっと細身のスーツに綺麗な艶のある黒髪、見るからにしっとりとしていそうな色白の肌、顔は斜めからしか見えないけど、アンニュイな色香を感じる目元に、男だとわかっててもちょっとドキッとした。
 御曹司とは真逆のタイプだけど明らかに美形で、2人並んでいると強烈に目が引き寄せられる。 俺だけかと思って周囲の社員達の様子を伺ってみたら、皆も御曹司達に見蕩れていたから、やっぱり人目を引くのは間違いなさそうだ。
 良かった、俺だけじゃなかったと安心して、俺はもう一度2人に視線を戻した。
 他社の社員を案内でもしてるんだろうか、と思ったんだけど、それにしては親密に見える。

(ま、どうでも良いけど)

 所詮、俺には直接関わり合いの無い人達だ。






それから二週間くらいしての週末。俺は同棲して半年くらいになる彼女と会社帰りに落ち合って、食事して帰ろうという事になった。

待ち合わせ場所に少し早く着いてしまった俺は、道行く人とスマホを交互に眺めながら彼女を待っていた。因みに彼女が時間通りに待ち合わせに来た事は無く、早く着いてしまっただけ待ちの時間が長引くだけだ。まあ、慣れたけど。
一度クレームを付けたら、女の子には色々あるんだとか逆ギレされたから面倒臭くなってそれ以来言ってない。つか同棲してるけど、彼女のだらしなさが目についてきてて、ぶっちゃけもう別れたい。

ぼんやり人の流れを見ていたら、目の前を通り過ぎた2人連れに目を引かれた。見覚えがあったのもあるけど、単純に目が吸い寄せられた。
それは男性2人連れで、御曹司と一緒に居たのはこの間社内で一緒に居たあの男性だった。
何故か懐かしいような、その横顔。イケメンや美形より、美人って言葉がしっくりくるようなあんな男、周りに居た覚えなんか無いのに。
何故か衝動的に2人の後を追ってしまった。


人波の中でも目立つから、俺は2人を見失う事は無かった。5分も歩いて、2人は大通りからふと路地に入った。そんな細い通りに店でもあるのだろうか、と俺もそこを曲がったら、思いもよらない光景を見た。
喧騒から離れた薄暗いその路地で、御曹司とあの美人は抱き合ってキスをしていた。
思わず右手で口を覆ったけれど、気配が動いたのが伝わったのか、2人に気づかれた。

「あれ、アナタ、…販促の?」

振り返って俺を見た御曹司は、何故か他部署の一社員に過ぎない俺の顔を覚えていたようだった。
タイプが似ていると言われた事もあるけど、こうして間近で見ると悔しいけれど御曹司の方が俺よりも整ってるし精悍に見える。

「…いや、通りすがりで…。」

咄嗟に出た言い訳は、2人の向こう側が突き当たりになっているのが見えて無駄になる。

「先輩が、何のご用で?」

皮肉めいた表情と口調で御曹司が俺に言った時、彼の後ろからあの黒髪美人が近づいてきた。
初めて真正面から見るその人の顔に、俺は釘付けになった。

(綺麗、だ…。)

面食いの俺には友達にもイケメンが多いし、付き合ってきた彼女達だって皆可愛いかったし綺麗だった。
でも、こんなにも自然なのに綺麗な人間なんて、いなかった。

俺を見る、その憂いを感じる眼差し…。



「…あれ?和泉、君?」

「え…?」

思いがけず美人の唇から発されたその声に、俺のある記憶が鮮明に蘇った。




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