憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)

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裏切りと真実

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「はは。マオの担当だったヤツはそそっかしかったんだな。」

レオが笑って言うが、俺には笑い事じゃない。担当とかって…遣いは何体も居てレオと俺のは別個体って事なのか?と首を傾げる俺に、レオは続けた。


「でもね、俺には確信があったんだ。多分、マオは現世に降りたら彼奴の近くに生まれるだろうって。
 悔しいけど、マオと彼奴は本当に運命の相手同士らしいから。
だから敢えて彼奴の姿にしたんだ。それで、彼奴の目の前でマオが俺を選ぶのを見せつけて、マオ以上に傷つけてやりたかった」

 何て事だろう。やっと手に入れた新しい人生を、俺の為なんかに…。

「…レオ…。ごめんね…俺なんかの為に、また本来の自分の姿を置いて来ちゃったんだね…」

 俺が傷ついたのをずっと見ていたレオは、彼を復讐の対象にしてしまったのか。そして、その為にまた自分を犠牲にしたんだ、レオは。
 俺は謝る事しか出来なかった。俺が弱かったから、知らないところでレオにそんな事をさせてしまってたんだと思って。

 なのにレオは首を振った。

「違うよ。俺が勝手にそうしたんだ。
でも今は、少し後悔してる。」

「後悔?」

「この15年、マオは全然、楽しそうじゃなくて。
俺が先にちゃんと言ってやれば、誤解も解けて…きっと、マオは笑って15年過ごせてたのに」

 レオは少し肩を落としている。

「15年、過ごしてみて思ったんだ。同じ年月過ごすなら、復讐とかより、マオが幸せに過ごせてた方が良かったんじゃないかって。そしたら、たくさん笑顔も見れたよな…」

 俺が間違えたんだ、とレオは申し訳なさげに眉を下げた。

 レオの眉って下がるんだね…。知らなかったよ。

 でも…。

「誤解?」

 誤解って、何が誤解だって言うんだろ?

「マオが帰る1年前に、手違いでマオの戦死の報せが行ったんだ。
だから皆、マオは死んだと思い込んでたんだよね」
「へ?!」
「葬式も出されてた。
僕、ああいう状況だったから体は無かったけどその代わりみたいに、千里眼というか…そういう能力があったんだ。
だから、みんな見て知ってた」
「葬式…まで…?」

 絶句…。
 でも、思い当たる節もあった。

 戦場はカオスな場だ。砲弾で吹っ飛ばされたりすりゃ、手の指や片足やら、体の一部しか残らなかったりも珍しくはない。だから、何処かで似たような名前の戦死者が出て間違いがあったとか、吹っ飛ばされた足の一部だけを見た同じ隊の兵士とかが、勘違いしたとか…そういう事も、よくある話ではある。
 負傷兵や死者が大量に出ると収容された医療施設はごった返すし、個人の特定に日を要したりもする。
 実際、俺が足を吹っ飛ばされた時に助けてくれたのは付近に残っていた民間人だ。野戦病院のような医療施設に行っても満足な治療は望めないだろうと言われて暫くの間そこに世話になっている内に、所属部隊に届出をするのが大幅に遅れた。
 その後、きちんと部隊には戻ったけれど、すぐに除隊された。やっと戻ったというのに、妙に迅速に除隊されたと思ったものだけど、なるほど。
 あれはきっと、とうに死んだものとされていたからだったんだな。

 
「妹が混乱して彼奴に知らせに行ってさ。
彼奴、せっかく病気治したのに、また暫く寝込んでたよ。」

「…そう…。」

彼は、ちゃんと悲しんでくれたのか。
その時点ではまだ、心が離れてた訳ではないらしい、なんて思ってたら、レオがまた話を続けた。


「教会の近くに住んでたアレフ、覚えてる?」

「アレフ…?ああ、赤毛の、そばかすの元気なお兄ちゃん…。よく遊んでくれたよね。
あ、でも彼も俺と一緒に出征して…。」

「うん、そのアレフ。

ヤツが、俺らの妹と付き合ってたみたいでさ。」

「えっ?!
何も聞いて無かったよ?!」

 何その初耳情報。驚いて少し大きな声が出てしまった俺に、レオがクスッと笑った。

「そりゃ、ほら…あの頃のウチの両親ってさ、妹のモンペだったじゃん。
絶対どっかの金持ちに嫁がせるんだ、って息巻いてたから、雑貨屋の息子と付き合ってるなんて知れたらさあ…。」

「ああ~…」


目に浮かぶ…逆上した両親が、無理矢理引き離して、別れさせるのが。


「だからこっそり内緒で付き合ってたんだけど、出征したじゃん。で、ヤツも戦死したじゃん。」

「…したね。」


そう、残念ながら、俺が足を吹っ飛ばれた時にアレフは首を吹っ飛ばされた。

思い出すのしんどい。
奇遇にも近くの部隊に配属されたから顔を合わせる事はよくあったけど、アレフは前線に駆り出される戦闘員で、俺は非戦闘員の炊事兵だった事があの日の命運を分けたんだと思う。
 今にして思えば結局、遅いか早いかってだけの事でしかなかったけど。

 そんな事を考えてたら、レオがまたしても衝撃の事実を口にした。

「で、ヤツの出征後に妹が妊娠してたの発覚してさ。
妹も、結構気丈な娘だったから、臨月間際迄、周囲に隠してて産んだんだわ」

「え…」


今度はマジで絶句だ。
あ、あの娘が…。
確かに根性は座ってた。

「それがさ…髪の色以外はアレフに全然似てなくて、何故か顔はマオに似ててさ。
妹とマオは兄弟だから不思議は無いんだけど、」

「…へえ。髪の色迄は気が付かなかったな」


俺は記憶を反芻してみたけど、子供を抱いていた事は思い出せたけど細かいところ迄は無理だった。

「まあ、親は怒ったけど、その両親も子供が生まれたあと、伝染病でポックリ死んじゃったから、妹は赤ん坊とふたりぼっちで残されて。

そうなると近隣の悪い連中が妹を狙って家の近所に来るようになったんだわ」
「え、父さん母さんそんな直ぐに死んじゃってたの?」
「うん。で、同じ病気で数年後には彼奴も死んだ」
「……そう、だったんだ」

俺が村を出てから、どうやら色んな事があったようだ。
流行病があったのは耳にしてたけど、こっちはそれどころじゃなかったからどの辺に被害が、とかはよくわかってなかった。

彼も…。


「話戻すけど、
それでも妹は赤ん坊抱えて頑張ってたんだよ。
けど、村の連中がさ、若い女が未婚で子供産んだから軽く見られてるんだ、とか 何時迄も独りでいるからだ、とか言い出して」
「ひどいな…。
好きでひとりで産んだ訳じゃないのに。戦争が悪いんじゃん。戦争が無ければ、妹は両親の反対押し切ってでもアレフと結婚してただろうに」

そういう気概のある娘だった。

「それな。

で、そこで、これ以上見てられないって思ったんだろうな。
彼奴が、結婚っていう事実だけでも作れば、そんな連中も黙らせられるんじゃないかって 妹に提案したんだ」
「…それって…」
「マオも死んで、もう連れ合いなんか作る気は無かったから、マオの血の繋がった妹と甥っ子だけでも守れたら、って…思ったらしい。

俗に言う、白い結婚ってやつになるのかな」

それを聞いた俺は、目眩がした。

違ったのか。

彼は俺を裏切ろうと思った訳じゃ無かった。

俺が死んだと思ってたから、俺の縁者だけでも助けようと…。


何でもっと、勇気を出して確かめなかったんだろう。

何で彼を信じないで、勝手に死んだりしたんだろう。


俺は両手で顔を覆って号泣した。後悔の涙がとめどなく流れる。


レオはそんな俺の背中を、ずっと撫でてくれていた。




ごめん、ごめん、ごめん



疑ってごめん、レイ…。





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