犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

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冷たい旦那様が離してくれない 1

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別邸には、立派なお風呂もあり朝から湯浴みをしていた。昨夜は突然帰宅したウォルト様に朝まで抱かれて身体の違和感が拭えない。

空が白む頃にやっと寝てしまったから、朝からの湯浴みはありがたいと思いながらおぼつかない足で湯浴みを出た。

壁にもたれながら一階の広い居間にたどり着くと、セルシスフィート伯爵夫人が来ており、何やら不機嫌な様子のウォルト様と張りつめた空気で睨みあっている。

この中に入りたくない。でも、ふらついた足で華麗に逃げることができずに、二人を見たままで青ざめてしまう。

壁に小さく縋っている私にウォルト様が気付くと、機嫌がすこぶる悪い。

「あら……」
「あの……おはようございます。セルシスフィート伯爵夫人」
「ええ、おはよう。でも、名前で呼ぶようにと伝えたはずよ」
「間違えました。ロザムンド様」
「よろしい」

そう言って、じろりとウォルト様を見ている。

「結婚生活は上手くいっているようね」
「まだ一晩ですよ」

冷ややかな声音だけど、なぜか機嫌が悪く新聞を閉じたウォルト様。ロザムンド様は、睨むようにウォルト様を凝視している。

この空気の意味がわからないんだけど……。
湯浴み後だから、楽なシュミーズドレスで居間に降りて来たばっかりに。

ウォルト様とロザムンド様の前で湯浴み後の姿を見られるのは恥ずかしくて、頬が紅潮してしまい、早く着替えなくてはと焦ると、新聞をテーブルに置いたウォルト様が私の側に近づいてきて身体を支えた。
このタイミングで支えないで欲しい。

「すみません。あの……すぐに着替えてきますので……」
「ああ、着替えはあとでいいわ。私は、要件だけを伝えたら去りますから」
「何か急ぎの件がありますか?」

まさか、ウォルト様が帰宅したから、すぐにここから追い出す気では……そうなったら、跡継ぎが問題なのですけど。
こんな没落寸前のウォールヘイト伯爵家に縁談などなかった。だから、アルフェス殿下が用意してくださったセルシスフィート伯爵家との縁談を断ることが出来なかった。

そうでなければ、ウォールヘイト伯爵領の人間がセルシスフィート伯爵家との縁談を許すわけがない。

「ウォルトが帰宅しているなら、あなたたちは本邸に移りなさい。私は、領地の別荘にでも移ります」
「……別荘? あの……どういうことですか?」
「私は、もう疲れました」
「何にですか?」

私は、まだ何もしてないはず。
疲れ切ったようにため息を吐くロザムンド様の姿に困惑する。ウォルト様を見ると、不機嫌そうなままだ。

「愛人の娘の世話ですよ。ウォルトがいるなら、大丈夫でしょう」
「アリス様? 上手くやっているんじゃ……」
「はっ……! 私にだって矜持があるのですよ」

それは気付いています!! ロザムンド様は、プライドが高いですよね!? 
でも、突然本邸を捨てて別荘に移るなんて、初耳ですよ!!

先日の返事とは大違いです!!

「母上。勝手は困ります。怒りますよ」
「勝手なのは、私ではないわ。怒りたければ好きにしなさい。息子ごときに怒られても、何とも思いませんわ」

そう言って、ロザムンド様がツンとする。

「だからといって……」
「では、私は忙しくなるので、これで去るわ。ウォルト。ティアナ。御機嫌よう」
「ええっ!! ちょっ……!! まだ、話がっ……」

止める間も聞かずに、ロザムンド様が颯爽と別邸を去っていった。

何だろう……高笑いを我慢していたような笑い声が別邸の外から聞こえるのです。
そして、突然のことに、ウォルト様をキッとした顔で見上げた。

「ウォルト様!!」
「……いい。母上は言い出したら聞かない。朝食のあとに話しに行こう。とりあえず食事にしよう。お茶が冷めるぞ」

落ち着いたままで、ウォルト様が言う。怒っているなら、もっとこう、それなりの表現をして欲しい。結婚の決まりごとに要望しておけば良かった。

でも、ウォルト様の目の前のラウンドテーブルには、いい匂いのする朝食が並んでいて……。

「朝食が準備してある……」
「当たり前だ。今は、朝だぞ。朝食が準備してあるのは、当然だろう」

そう言うことではないのです。
没落寸前だったウォールヘイト伯爵家では、朝と昼は自分で準備していた。週に何度かは使用人に来てもらっていたけど……。

それは、セルシスフィート伯爵家に来てからも、同じだった。でも、焼き立てパンをもってきてくれるし、食材も言えば準備してくれる。
何不自由はなかったのだ。態度がよそよそしいだけで。

しかも、高そうな白い陶器のお皿は、青い花柄で綺麗だった。

「ティアナ。早く座りなさい」
「まだ、シュミーズドレスのままで着替えてなくてですね……」
「そのままでいい。お茶は何がいい?」
「……温かいお茶にレモンを一つください」
「……だそうだ。早く淹れろ」

若い執事のルドルフにウォルト様がそう言うと、つつがなくお茶が準備された。



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