犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

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おかしな夫婦生活 4

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セルシスフィート伯爵邸。別邸で過ごしていたから、ほとんど入ることはなかったが、やはり豪華なものだった。

匠の装飾の光る立派な絨毯の敷かれた廊下をウォルト様のあとに続いて歩いている。
廊下に飾られた絵画に足を止めれば、有名な画家の物なのだろうと思える。

「どなたの絵ですか?」
「さぁ、金がなくなれば、売るだけのものだ」

何気に聞いてみれば、ウォルト様の返答は素っ気ないものだった。お金がありすぎて、換金したぐらいの感覚なのだろうか。

階段を上がり、日当たりのいい角部屋にウォルト様に連れて行かれれば、別邸よりも部屋が広い。大きな天蓋付きのベッドに枕は何個必要なのかと思えるほど置かれている。
広いカウチソファーに暖炉。バルコニーには、お茶も出来そうなテーブルセットまである。

「……ここは、続き部屋ではないのですね」
「主寝室は、いずれ改装するが……それまでは、ここで過ごして欲しい」

部屋では、荷物も運ばれておりルドルフの指示のもと荷ほどきがなされていた。

「それと、侍女をつける。誰がいいか選んでくれ」

そう言って、三人のメイドらしき女性が私とウォルト様の前へと並んだ。
若いメイドが三人。その笑顔の三人を見ると、見覚えのある顔が三人だった。

「この中から、選ぶのですか?」
「本人の希望もあるが……ティアナと歳も近い。この辺りが妥当だと思うが……」

まぁ、ウォルト様は、ずっとセルシスフィート伯爵邸にいなかったからわからないのも仕方ないのだろう。

「……侍女は、もう少し考えさせてください」
「いないと困るだろう?」
「今は、困っていませんから……」

この三人は、アリス様とよく出かけている三人。それは、私の味方になるのだろうか。

ただでさえ、セルシスフィート伯爵邸でも、ウォールヘイト伯爵家を嫌っている使用人もいるのに……。

そう考えると、とてもじゃないがこの中から侍女は選べない。
侍女には、それなりの信頼関係が欲しいのだ。

結婚の決まり事はウォルト様の要望通りにしているけど、本当に延長するかわからないままで、私の別邸から本邸への引っ越しは終わった。

そして、悩みはこれでつきなかった。
晩餐になれば、ドレスがいるのだ。まったく持ってないわけではないけど、これが毎夜なのだと思うと憂鬱になる。

それでも、ドレスで晩餐をするのは貴族の嗜みで、仕方なくドレスに着替えていた。
そして、ドレスに合う数少ないアクセサリーを宝石箱から選んでいた。

「ティアナ様。入ってもよろしいでしょうか?」

ネックレスをしながら、どうぞと言って招き入れたのはルドルフだ。

「晩餐の時間ですが、食堂がわからなければ、と思いまして……」

気が利くルドルフが迎えに来てくれたようで、ちょっとだけ胸を撫でおろした。

「ルドルフ……アリス様のお部屋はどこかしら?」
「何か御用でも?」
「少しお話でも、と思いまして……」

ドレスの支度が終わり立ち上がるが、ルドルフはアリス様の部屋を言いたくないのか考えている。

「ルドルフ。アリス様はいないの?」
「……晩餐にはお帰りになっていますけど……お部屋は、ウォルト様の続き部屋です」
「続き部屋……」
「ですが、ティアナ様との寝室は改装して新しく作りますので……」

結婚する気満々なのではないでしょうか。
それとも、アリス様を愛人にでもする気でしょうか。
わかるのは、アリス様は愛人の娘でも、セルシスフィート伯爵邸では特別だということ。

「お義父様は、アリス様がよほど可愛かったのね」
「あの……お聞きになってないのですか? アリス様は、セルシスフィート伯爵家の遠縁ですよ。ほぼ他人ぐらいの遠縁らしいですが、すでにアリス様は身内がいないので、追い出せないみたいです」
「だから、セルシスフィート伯爵家で大事にされているのね……」

アリス様は、セルシスフィート伯爵家の遠縁、私は犬猿の仲のウォールヘイト伯爵家の令嬢。
この邸で大事にする順位がなんとなくわかった。

やはり、ウォルト様はアリス様に引き取ってもらおう。

毎晩コースなど、私は望んでないのです。ウォルト様が何を考えているかわからないし……。

でも、アリス様がウォルト様の隣の部屋なら、どうやってこっそりと行こうかと悩んでいると、ウォルト様が部屋へとやって来た。

「ティアナ。食事だ。迎えに来た」

無愛想な様子でやって来たウォルト様のタキシード姿が身目麗しい。にこりともしない彼だけど、目は引くものはある。そのせいか、図らずも頬が紅潮してしまう。

「あの……アリス様は?」
「迎えに来るのは、妻だろう」
「はぁ」

でも、契約結婚なのですけどねと、言おうとしたがウォルト様が睨んでいるので言葉には出せないでいた。

「……ティアナは、俺が他の女といても何とも思わないのか?」
「何ともですか?」
「そうだ」

そう言われても、私とウォルト様の結婚は顔も合わさずに結ばれたし、そもそも、アリス様がいずれウォルト様と結婚すると決まっていた。

ウォルト様と一度も会わずに契約結婚が終われば、大金を持って離縁するつもりだったのだ。

首を傾げてきょとんとする私。憤りを滲ませたウォルト様が顔を額を抑えたままで私の腕を掴むと、そのまま部屋を出ていく。ルドルフに振り向けば、「すぐに晩餐です」とそっと頭を下げていた。

晩餐の用意された食堂では、アリス様が不貞腐れて待っていた。

「どうして、ティアナさんがいるのよ」
「今日から、本邸に住むからだ」
「どうせ、離縁するのに?」
「しない。アリスも、そのつもりでいてくれ」
「その人は、ウォールヘイト伯爵家の人よ。街ですっごく評判悪いのを知っているでしょう」

評判が悪いのは、知っている。まともな値段で小麦粉一つ売ってくれないのだから。

スクエアテーブルには、晩餐の用意は整っており、食器にナイフ、フォークにと並んでいる。

ウォルト様の席はアリス様の隣と決まっているのか、すでにアリス様が座っているせいで、私がウォルト様の向かいに座った。

「アリス。ここではティアナとの諍いは禁止だ。晩餐らしく大人しく食べなさい」

ウォルト様が冷ややかに言うと、むすっとしたアリス様にワインが注がれる。
彼女のお好きなワインなのか、それを慣れた様子で飲んでいた。

セルシスフィート伯爵家の執事は、初老の執事トラビス。白髪混じりの纏めた髪に、厳つい顔つきの彼は、アリス様のご機嫌も取れるのだと思えた。

今も、ウォルト様の後ろから、私には厳しい表情を見せている。
セルシスフィート伯爵邸に来てから、トラビスはずっとこうだから仕方ない。
でも、ここで暮らすなら、一抹の不安を覚えてしまう。

愛想のないウォルト様に、不貞腐れているアリス様。早くウォルト様を引き取って欲しい私。感じの悪い執事トラビス。

こんな雰囲気の悪い晩餐が毎日続くのかと思うと、嫌すぎる。

ズルいです。ロザムンド様。絶対にこれを予想して、一人でセルシスフィート伯爵邸を脱出しましたよね。

そうしてギスギスした晩餐は進んでいった。



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