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冷たい旦那様の告白 2
しおりを挟む潤みそうな目尻に力を入れて、スカートまでも握りしめて身体中に力を入れた。
「アルフェス殿下。ご迷惑をおかけしました。私が今夜来たのは、ウォルト様に隣国から、書物の贈り物が届いたからです。目録も作っていますので、どうぞご確認ください。ウォルト様が、アルフェス殿下にお届けすることになってますので……私は、これで下がります。失礼いたしました」
「あとで、ウォルトと来なさい。私は、少し仕事をしてから、夜会へ顔を出す」
「……はい」
厳しい表情のままのアルフェス殿下にお辞儀をして、そのまま去った。
馬車乗り場へと向かうと、何台もの馬車が並んでいる。辻馬車へと向かうと、夜会が始まったばかりなのに、参加者であろう私が来たことに御者が驚いていた。
「すぐに出発してください」
「いいのですか? 夜会は、始まったばかりでは……」
若い御者が首を傾げて言う。
「いいのです。このまま、ウォールヘイト伯爵家へお願いします」
「あんな遠くまで!?」
「はい」
驚くのは無理ない。乗り継いで行くなら、わかるけどここから辻馬車を手配していくことはそうないだろう。
「お金は……」
ほとんど持ってない。美しいドレスを身にまとっても、これはウォルト様のおかげなのだ。
指にはめた指輪を見れば、切ない感情があった。その指輪を吹っ切る様に抜いた。
「これで、どうですか? 結構な額になると思いますが……」
「それは……これだけあれば、お釣りがきますけど……本当にその指輪を頂いても?」
「かまいません。すぐに出発してください」
そう言って、受け取った指輪をかざして見ている御者の返答を待たずに馬車へと乗り込み、馬車はウォールヘイト伯爵家へと向かった。
♢
早くティアナの元へ行きたいと思いながら、アルフェス殿下を彼の執務室で待っていた。
やっと帰ってきたアルフェス殿下は疲れ気味で、ため息交じりで椅子に腰を下す。
「待たせたか?」
「ええ、簡潔にお願いします。挨拶も改めてティアナと夜会で致しますので……」
「そのティアナと先ほど控え室のそばで会った」
「ああ、控え室でも待てるように手配しておきましたから……何かありましたか?」
顎に手を当てて考え込んでいるアルフェス殿下に隣国からの贈り物を出すと、目を細めてじっと見られる。
「……ティアナと上手くいっているのか?」
「そうだと良いのですが……」
「怒ってないのか? 途中で隣国から急いで帰るほど怒っていただろう」
「仕事に支障はありませんけど。ティアナのことも……感情のままに閨を求めましたが……」
上手くいっているかどうかはわからない。でも、ティアナに復讐のようにぐちゃぐちゃにして傷つけるつもりで、彼女の身体を堪能した。憤りがあり激情を秘めたままでティアナの欲を吐きだしたのだ。でも、嫌いになれなくて、どうしてもティアナに惹かれている自分も無視できなくなっている。
それくらい、毎日ティアナが気になっていたところに、アルフェス殿下からのこの言葉だった。
「男ともめていたぞ」
「ティアナが!?」
「少し注意したが……」
セルシスフィート伯爵領に帰ってから、ずっとティアナといるが、そんな素振りはなかった。俺がいるから、男と逢引きができないのかもしれないが……あの男と遊んでいる噂は間違っているのではないか、と思い始めていた。
「だが、ティアナは、セルシスフィート伯爵領で遊んでいる風はなくて……むしろ、自分を隠しているようでした」
「ウォルトは、あの噂が噓だと思っているのか? 急いで帰って来たのにか? ……まぁ、所詮は噂だが……何度か男と夜会から消えていくのを、私の部下も見ていたと聞いたが……」
「……殿下。失礼しますよ」
そう言って、アルフェス殿下の執務室を飛び出した。ティアナに用意していた控え室に行くと、ティアナの姿はなかった。
誰かが部屋にいたような気配すらしない。
夜会会場で誰かといるのかも思うと、また苛つく想いで廊下に飛び出た。
すると、貴族の男が二人ほど歩いている。一人は負傷しているのか、腕を抑えながらだった。
「くそっ……ウォールヘイトのティアナめ!」
「諦めろ。今夜は伴侶と来るという噂だ。会場にもいないし、どこかに行っているんだろう」
「だからって、恥をかかされたままでいられるか! 貧乏伯爵家のくせに!!」
ティアナと揉めていた男だとすぐにわかった。
有り得ない。ティアナがこんな高慢で偏見を持っている貴族と浮気をするなど。ティアナには不自然そのものだった。
彼女は、健気で何も強請らなかった。自分で料理をして、ドレスもほとんど持ってなくて……令嬢ではありえないほど質素だった。
そうだ。不自然だったのだ。
父上から契約結婚を持ち掛けられて、支度金として多額の金を受け取っているはずだったのに、夜会でのドレスを贈ろうと思い、どんなドレスを持っているのかと思えば、衣装部屋には、ほとんどドレスはなかった。
気がつけば男に近付いていた。釣りあがった眉根の俺に男が「ひっ」と微かな悲鳴で息をのんだ。
拳を振り上げれば、男の顔を掠りそのまま壁に自分の拳がめり込んだ。
めり込んだ拳の力に、竜の血を引いているセルシスフィート伯爵家特有の縦長の瞳孔になっていることが自分でもわかった。
縦長の瞳孔を見た男が恐ろしいものを見るように、腰を抜かして座り込んだ。もう一人の男は恐怖で逃げていった。
「ティアナに何をした」
「な、何も……」
「噓をつくな。ティアナの話をしていただろう」
「本当に何もしてない! 今夜に限ってティアナは、誘いに乗ってこなかったんだ!!」
「……殺すぞ」
「ひっ……」
もう一度拳を上げる。その時に、
「ウォルト! やめろ!!」
アルフェス殿下が、威厳を放った声で止めてきた。
「先ほどの男か? なぜ、ここにいる」
「何の容疑もかかってないので、目が覚めて解放したようです」
アルフェス殿下が、近衛騎士に問い詰める。確かに、ティアナに気絶させられたなら、被害者はこの男なのだろう。でも、そんなことは俺には関係なかった。
「ウォルト。ティアナはどうした?」
「それをこの男に聞く。吐かせる方法はいくらでもある」
「ティアナの、居場所は知らない!! 何でも言うから助けて……」
とうとう男が、顔を恐怖から顔を覆い、今にも泣きそうな様子で叫んだ。
「ということだ。ウォルト。城を壊すな。少し落ち着け……」
アルフェス殿下が、肩に手をかけて落ち着けと促すが、感情が高ぶっているせいか、瞳孔は戻らないままで、男に聞いた。
「ティアナの居場所はどこだ?」
「し、知らない。本当だ。今夜は、誘いに乗らなかったんだ」
怯えた様子で言う男に、アルフェス殿下が怪訝な表情で聞く。
「その誘いというのは、何だ?」
「ゆ、有名だったんだよ。一夜を共にして、あとくされがない相手として……何も要求してこない都合のいい相手でっ……ひぃっ……」
それ以上聞くことが至極不愉快だった。ティアナの噂は聞いていた。俺と結婚してから、色んな相手と遊んでいると……だから、腹が立った。
何もかもが腹が立って……。
自分の身が助かりたいために、ぺらぺらと話すこの男も、何もかもが苛ついて、胸ぐらを掴んで持ち上げた。そのまま、力任せに投げ落とした。
「……ウォルト。気絶させてしまっては、何も聞けないぞ」
「うるさいっ……!!」
歯が軋むほど怒りが収まらない。
アルフェス殿下が投げおろした男に近づき、そっと意識の有無を確認していた。
「ティアナを探す……ティアナは、違う……」
初夜の後のシーツには、血がついていた。あれは、やはり純潔だったということ。
ティアナを抱いた後には、言いようのない感情があった。今ならわかる。罪悪感だ。
それと同時に愛しいと思える。
「お前たちも、ティアナを探せ。見つかれば、すぐにウォルトに報告しろ。この男は今夜は、城から出さないように。家名を出しても無視しろ。私の命令だ」
「「「はっ!!」」」
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